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一章
ケイティって言ってたじゃん(言っていない)
しおりを挟むやっぱり俺おかしくないか!? どうしたんだ!?
自室に逃げ込んだ俺は頭を抱えていた。
誰かが俺を操っている……なんて厨二発言をするつもりはないけど、俺の、なんというかあまりにも素直すぎる部分が全面に出て大暴れしている気がする。
理性の効かない人間はヤバいぞ! せっかく漫画の展開回避のためにこれまでのシャノンを作り上げてきたのに、なんか、一歩間違えたら漫画通りになる気がする!!
「はっ……これが……強制力……!?」
「おーいシャノンちゃ~ん? 馬鹿なこと言ってないでこっち向いてくれよ」
その時、以前感じた足元の違和感がまた現れた。
どことなく聞き覚えのある声に全身がぴしりと固まり、俺が何か言葉を発する前に背後から回された手によって口元を塞がれる。
「……ん!? んーんー、んんん!!!」
「また大声出されたら敵わないからな~。シャノンちゃん、オレは不審者でもなければ幽霊でもない。なんならお前の味方だ。いいな?」
やたら圧のある声に、俺、やっぱり死ぬ? と内心思うがとりあえず高速で首を縦に振る。
勝ち目のない戦いは易々とするものではない。いのちだいじに。
「よーし、てわけでオレのこと分かるよなぁ? またしばらく会えなくなって寂しかったぜ」
「……………………あっ、ケイティ!!」
「はあ!? ちっっげ~~~よ!! バーカ!」
少し前に俺が死を感じた例の幽霊が目の前にいた。何が違うのか分からないが違うらしい。
「そういう意味じゃねえ! ていうか、オレにはテディって名前がちゃんとあんの!」
「テディ……」
可愛い名前である。そしてやはり最近の不審者は名前を名乗るらしい。
「あ? シャノンちゃん、今変なこと考えてないよな? オレは不審者じゃないってさっき言ったよな~? ん?」
「はい! 仰ってました!! そんな失礼なこと思っていません!」
やたらいい笑顔で顎を掴まれ上を向かされる。ビビって背中がピンと伸びた。
テディはにんまりと笑みを浮かべ楽しそうに言う。
「そうだよな? めっずらしい闇の精霊様が目の前にいるんだもんな? 嬉しいよな~」
「………………………………えっ!?」
「……待て、嘘だろ、シャノンちゃん。マジで分かってなかったの?」
猫のような笑みを一転させ目を丸くする。随分表情が豊かな男だ。リアムとは全然違……。
待て!!! 今リアムのことを考えると脳に深刻なバグが!!!
ひとり百面相をしている間に闇の精霊……テディは頭の痛そうな顔をしていた。
「…………分かった、オレが直々に説明してやる」
「……はあ、じゃあテディ……様は俺を気に入って、俺が小さい頃からずっと加護を与え続けてくれていたと」
「様とかいーよ。そう、ていうかお前がここに来る前に魔法が使えてたのもオレがひっそりサポートしてたからだからなあ? シャノンちゃんは確かに才能もセンスもあるけど、魔法を使ったことのない人間があんな突然魔力使ったら暴走起こして死ぬっつの」
……異世界あるあるパワーではなかったらしい。恥である。
漫画のシャノンも精霊の加護がついていたから魔力が使えて、貴族の家に引き取られるに至ったのだろうか?
精霊なんて単語はやっぱり出てきてなかったと思うけど……。その辺はご都合主義なのか?
ていうか……魔力暴走? 死ぬ
そんなに不安そうな顔をしていたのか、テディは「今はシャノンちゃんの体内に魔力が馴染んでるから暴走なんて早々起きないぜ。魔法を使うためにはまず魔力を身体に馴染ませる訓練が必要なの。お前の場合はオレがちょちょいのちょいでその工程すっとばしたけど」と付け加えてくれた。
……なるほど、じゃあ俺は平民が魔力持ちで珍しいとかいうレベルじゃないだろうな。
話を聞くに、自力で魔法を使えるようになるなんて特別な力がありますと言っているようなもんだ。ヤバい組織とかに目をつけられる前に引き取られてよかった。
「それでさぁ、精霊直々に加護を与えてる相手なんてすぐ精霊のこと見えるようになるのに、シャノンちゃんは全然オレに気づいてくんないからさ~」
「え~~と……。ごめん?」
「ああ、違う違う。最初はオレも何だこいつと思ってたんだけど、この前シャノンちゃんがオレを認識してくれたじゃん? その後、すぐまたオレのこと見えなくなっちゃってて。オレはあの後もずぅっとシャノンちゃんの横にいたのに! これはなんかおかしいと思って色々調べてたわけよ」
思ってたんだ……。何だこいつって……。
「まさかこんな弊害があると思わなかったわ。天使に言われて別々にしたけど、あんなお願い聞くべきじゃなかったかなあ~」
「……?」
ぶつぶつと言葉をこぼすテディ。
話が読めず首を傾げて彼を見つめる。
顎あたりまで伸びた漆黒の髪をハーフアップにしている、若干目つきが悪いように見えるが綺麗な顔をしている青年。
褐色の肌も相まってなんか南の国とかにいそうだ。
ぼけっとしている俺を視界に入れたテディは、にやりと片方の口角を上げてずいっと顔を寄せてきた。
「まあでも結局見る方法は分かったし、結果オーライ? こんな面白い人間独り占めできるんだからちょっとくらい感謝してもいいかもな」
「……え? 何? 何が?」
「闇ってさあ、光とセットなわけよ。光がなきゃ闇は生まれないし闇がなきゃ光は輝かない。表裏一体だから、闇の精霊の加護と光の精霊の加護は普通同じ人間に同時に与えられるわけ」
頭の中がハテナで埋まる。俺に光の精霊の加護はついていない。
「シャノンちゃんのせいじゃねえよ。本当はアイツもシャノンちゃんにつくつもりだったし……。ああ、その顔は分かってねぇな? あのな、闇・光属性の魔法っつのは他の属性と違って、それぞれの属性の精霊の加護が与えられないと使えないの。近くにいるだろ? 光属性持ってるやつ」
……いる。すっごいいる。
他でもない、リアムだ。
「え? どういうこと……、俺につくつもりだったって? ん?」
「おーおー、混乱してるリアムちゃん、かわいーな」
からかいを含んだ声色にムッとしてテディと距離を取るが、あっさりまた詰められる。
「まあ別にその辺は気にしなくていいぜ。オレたちも別々の人間に与えたことなんてなかったから知らなかったんだよなあ」
「……ねぇっ、なんなんだよ。もったいぶらないで欲しいんだけど!?」
「なんかなぁ、どうやらシャノンちゃんがオレの存在を認識にするためには光魔法が必要みたいで。シャノンちゃんが兄貴のそばにいると自然と闇が光を浴びるから、この前一瞬見えたのはお前の身体に纏ってた光魔法に反応したらしい」
「それは……。じゃあ、今テディが見えてるのも?」
リアムと接触したことで一瞬彼が見えるようになったなら、今回のこれもそう考えるのが自然だ。
そして、多分また見えなくなるんだろう。
「ご名答! でも大丈夫、一定量の光魔法をシャノンちゃんの身体が吸収すればちゃあんとオレのことを見れるようになるらしい。もちろんずっとな。加護を与えた相手に認識されないなんて不便だし、シャノンちゃんには規定量まで光魔法を浴びまくって欲しいわけ」
「……分かった。俺はどうすればいい? リアムになにか光属性の魔法を放ってもらう?」
「そんなことをしても意味がない。お前にやってもらいたいのはひとつだけ。なるべく兄貴のそばにいることだけだ」
………………えっ。
「えっ!!!!!」
「? 何か不都合でもあるか?」
「そっ傍にいる以外に何かない? なんか……なんか俺おかしいんだよ! リアムの近くにいると安心するけど、離れるとあり得ないくらい寂しいし! 感情がバグってるからあんまり近くにいたくないんだけど!」
「あ? あー……ああ~……」
微妙な顔になるテディに、これは何かあると直感で思う。
「まて……待て! 分かった! 闇が光を求めるあまり俺の中の闇がリアムにすり寄っちゃってんだろ! なるほど! なるほどな!!」
「ん~残念ながらそれは違うなあ」
「違うのかよおおおおおあああ!!」
字面だけ見るとめちゃくちゃイタい奴のセリフを口にしたのに速攻否定され、崩れ落ちた。
「まあまあ、今は時間がないから今度説明してやるよ。ただ別にお前のその感情はオレのせいで生まれてるわけじゃないぞ。たしかにちょ~っとした副作用的なのはあるが、紛れもなくシャノンちゃんの本音だけどなあ?」
「テディお前、俺のメンタルこれ以上ぼきぼきに折るのやめてくれない!?」
俺は正真正銘リアムに甘えたがりで、かつ義兄にちょっとときめいちゃってる悲しい奴ってこと!?
全然認めたくない。副作用が何なのか知らないが、それに一縷の望みをかけるしかない。
「……そろそろか。シャノンちゃん、早くオレのことちゃんと見えるようになってくれよ。愛し子とおしゃべりできなくてテディくん寂しいからさあ、頼むぜ?」
打ちひしがれている俺の隣に腰掛けると、俺の頭を雑に掻き回しテディが告げた。
髪の毛がぐしゃぐしゃになった気配がする。リアムならもっと優しく頭を撫でてくるのに……。
待て!!! だから!! リアムのことを考えるな! 俺!!
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