義兄のものをなんでも欲しがる義弟に転生したので清く正しく媚びていくことにしようと思う

縫(ぬい)

文字の大きさ
上 下
14 / 53
一章

ケイティって言ってたじゃん(言っていない)

しおりを挟む




 やっぱり俺おかしくないか!? どうしたんだ!?

 自室に逃げ込んだ俺は頭を抱えていた。
 誰かが俺を操っている……なんて厨二発言をするつもりはないけど、俺の、なんというかあまりにも素直すぎる部分が全面に出て大暴れしている気がする。

 理性の効かない人間はヤバいぞ! せっかく漫画の展開回避のためにこれまでのシャノンを作り上げてきたのに、なんか、一歩間違えたら漫画通りになる気がする!!




「はっ……これが……強制力……!?」

「おーいシャノンちゃ~ん? 馬鹿なこと言ってないでこっち向いてくれよ」

 その時、以前感じたがまた現れた。
 どことなく聞き覚えのある声に全身がぴしりと固まり、俺が何か言葉を発する前に背後から回された手によって口元を塞がれる。


「……ん!? んーんー、んんん!!!」

「また大声出されたら敵わないからな~。シャノンちゃん、オレは不審者でもなければ幽霊でもない。なんならお前の味方だ。いいな?」

 やたら圧のある声に、俺、やっぱり死ぬ? と内心思うがとりあえず高速で首を縦に振る。
 勝ち目のない戦いは易々とするものではない。いのちだいじに。


「よーし、てわけでオレのこと分かるよなぁ? またしばらく会えなくなって寂しかったぜ」

「……………………あっ、ケイティ!!」

「はあ!? ちっっげ~~~よ!! バーカ!」


 少し前に俺が死を感じた例の幽霊が目の前にいた。何が違うのか分からないが違うらしい。


「そういう意味じゃねえ! ていうか、オレにはテディって名前がちゃんとあんの!」

「テディ……」


 可愛い名前である。そしてやはり最近の不審者は名前を名乗るらしい。


「あ? シャノンちゃん、今変なこと考えてないよな? オレは不審者じゃないってさっき言ったよな~? ん?」

「はい! 仰ってました!! そんな失礼なこと思っていません!」

 やたらいい笑顔で顎を掴まれ上を向かされる。ビビって背中がピンと伸びた。
 テディはにんまりと笑みを浮かべ楽しそうに言う。


「そうだよな? めっずらしい闇の精霊様が目の前にいるんだもんな? 嬉しいよな~」

「………………………………えっ!?」

「……待て、嘘だろ、シャノンちゃん。マジで分かってなかったの?」


 猫のような笑みを一転させ目を丸くする。随分表情が豊かな男だ。リアムとは全然違……。
 待て!!! 今リアムのことを考えると脳に深刻なバグが!!! 

 ひとり百面相をしている間に闇の精霊……テディは頭の痛そうな顔をしていた。

「…………分かった、オレが直々に説明してやる」







「……はあ、じゃあテディ……様は俺を気に入って、俺が小さい頃からずっと加護を与え続けてくれていたと」

「様とかいーよ。そう、ていうかお前がここに来る前に魔法が使えてたのもオレがひっそりサポートしてたからだからなあ? シャノンちゃんは確かに才能もセンスもあるけど、魔法を使ったことのない人間があんな突然魔力使ったら暴走起こして死ぬっつの」


 ……異世界あるあるパワーではなかったらしい。恥である。

 漫画のシャノンも精霊の加護がついていたから魔力が使えて、貴族の家に引き取られるに至ったのだろうか?
 精霊なんて単語はやっぱり出てきてなかったと思うけど……。その辺はご都合主義なのか?


 ていうか……魔力暴走? 死ぬ

 そんなに不安そうな顔をしていたのか、テディは「今はシャノンちゃんの体内に魔力が馴染んでるから暴走なんて早々起きないぜ。魔法を使うためにはまず魔力を身体に馴染ませる訓練が必要なの。お前の場合はオレがちょちょいのちょいでその工程すっとばしたけど」と付け加えてくれた。


 ……なるほど、じゃあ俺は平民が魔力持ちで珍しいとかいうレベルじゃないだろうな。
 話を聞くに、自力で魔法を使えるようになるなんて特別な力がありますと言っているようなもんだ。ヤバい組織とかに目をつけられる前に引き取られてよかった。


「それでさぁ、精霊直々に加護を与えてる相手なんてすぐ精霊のこと見えるようになるのに、シャノンちゃんは全然オレに気づいてくんないからさ~」

「え~~と……。ごめん?」

「ああ、違う違う。最初はオレも何だこいつと思ってたんだけど、この前シャノンちゃんがオレを認識してくれたじゃん? その後、すぐまたオレのこと見えなくなっちゃってて。オレはあの後もずぅっとシャノンちゃんの横にいたのに! これはなんかおかしいと思って色々調べてたわけよ」


 思ってたんだ……。何だこいつって……。


「まさかこんな弊害があると思わなかったわ。天使に言われて別々にしたけど、あんなお願い聞くべきじゃなかったかなあ~」

「……?」


 ぶつぶつと言葉をこぼすテディ。
 話が読めず首を傾げて彼を見つめる。

 顎あたりまで伸びた漆黒の髪をハーフアップにしている、若干目つきが悪いように見えるが綺麗な顔をしている青年。
 褐色の肌も相まってなんか南の国とかにいそうだ。


 ぼけっとしている俺を視界に入れたテディは、にやりと片方の口角を上げてずいっと顔を寄せてきた。



「まあでも結局見る方法は分かったし、結果オーライ? こんな面白い人間独り占めできるんだからちょっとくらい感謝してもいいかもな」

「……え? 何? 何が?」

「闇ってさあ、光とセットなわけよ。光がなきゃ闇は生まれないし闇がなきゃ光は輝かない。表裏一体だから、闇の精霊の加護と光の精霊の加護は普通同じ人間に同時に与えられるわけ」


 頭の中がハテナで埋まる。俺に光の精霊の加護はついていない。


「シャノンちゃんのせいじゃねえよ。本当はアイツもシャノンちゃんにつくつもりだったし……。ああ、その顔は分かってねぇな? あのな、闇・光属性の魔法っつのは他の属性と違って、それぞれの属性の精霊の加護が与えられないと使えないの。近くにいるだろ? 光属性持ってるやつ」


 ……いる。すっごいいる。
 他でもない、リアムだ。


「え? どういうこと……、俺につくつもりだったって? ん?」

「おーおー、混乱してるリアムちゃん、かわいーな」

 からかいを含んだ声色にムッとしてテディと距離を取るが、あっさりまた詰められる。


「まあ別にその辺は気にしなくていいぜ。オレたちも別々の人間に与えたことなんてなかったから知らなかったんだよなあ」

「……ねぇっ、なんなんだよ。もったいぶらないで欲しいんだけど!?」

「なんかなぁ、どうやらシャノンちゃんがオレの存在を認識にするためには光魔法が必要みたいで。シャノンちゃんが兄貴のそばにいると自然と闇が光を浴びるから、この前一瞬見えたのはお前の身体に纏ってた光魔法に反応したらしい」

「それは……。じゃあ、今テディが見えてるのも?」


 リアムと接触したことで一瞬彼が見えるようになったなら、今回のこれもそう考えるのが自然だ。
 そして、多分また見えなくなるんだろう。


「ご名答! でも大丈夫、一定量の光魔法をシャノンちゃんの身体が吸収すればちゃあんとオレのことを見れるようになるらしい。もちろんずっとな。加護を与えた相手に認識されないなんて不便だし、シャノンちゃんには規定量まで光魔法を浴びまくって欲しいわけ」

「……分かった。俺はどうすればいい? リアムになにか光属性の魔法を放ってもらう?」

「そんなことをしても意味がない。お前にやってもらいたいのはひとつだけ。なるべく兄貴のそばにいることだけだ」




 ………………えっ。




「えっ!!!!!」

「? 何か不都合でもあるか?」

「そっ傍にいる以外に何かない? なんか……なんか俺おかしいんだよ! リアムの近くにいると安心するけど、離れるとあり得ないくらい寂しいし! 感情がバグってるからあんまり近くにいたくないんだけど!」

「あ? あー……ああ~……」


 微妙な顔になるテディに、これは何かあると直感で思う。


「まて……待て! 分かった! 闇が光を求めるあまり俺の中の闇がリアムにすり寄っちゃってんだろ! なるほど! なるほどな!!」

「ん~残念ながらそれは違うなあ」

「違うのかよおおおおおあああ!!」


 字面だけ見るとめちゃくちゃイタい奴のセリフを口にしたのに速攻否定され、崩れ落ちた。


「まあまあ、今は時間がないから今度説明してやるよ。ただ別にお前のその感情はオレのせいで生まれてるわけじゃないぞ。たしかにちょ~っとした副作用的なのはあるが、紛れもなくシャノンちゃんの本音だけどなあ?」

「テディお前、俺のメンタルこれ以上ぼきぼきに折るのやめてくれない!?」


 俺は正真正銘リアムに甘えたがりで、かつ義兄にちょっとときめいちゃってる悲しい奴ってこと!?

 全然認めたくない。副作用が何なのか知らないが、それに一縷の望みをかけるしかない。


「……そろそろか。シャノンちゃん、早くオレのことちゃんと見えるようになってくれよ。愛し子とおしゃべりできなくてテディくん寂しいからさあ、頼むぜ?」

 打ちひしがれている俺の隣に腰掛けると、俺の頭を雑に掻き回しテディが告げた。

 髪の毛がぐしゃぐしゃになった気配がする。リアムならもっと優しく頭を撫でてくるのに……。


 待て!!! だから!! リアムのことを考えるな! 俺!!
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

貴方だけは愛しません

玲凛
BL
王太子を愛し過ぎたが為に、罪を犯した侯爵家の次男アリステアは処刑された……最愛の人に憎まれ蔑まれて……そうしてアリステアは死んだ筈だったが、気がつくと何故か六歳の姿に戻っていた。そんな不可思議な現象を味わったアリステアだったが、これはやり直すチャンスだと思い決意する……もう二度とあの人を愛したりしないと。

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。 背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。 魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。 魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。 少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。 異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。 今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。 激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ

処理中です...