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一章

修正パッチ配布して欲しい

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 本当に本当にいかがわしくないですが、肌色が比較的多いので一応ワンクッション置きます。よろしくお願いします。

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 いくぞ、いくぞいくぞ! 俺!
 勢いよく扉を開け、半ばやけくそで「兄上! お背中お流しします!」と叫んだ。


 リアムは俺がもたもた服を脱いでいる間にさっさと髪を洗っていたらしく、いつもゆるく三つ編みにしている髪は解かれ、水に濡れて彼の肌に張り付いていた。


「俺より先に君の髪を洗おう。おいで」

 額にかかる前髪をかきあげて手招きしてくる義兄の色気の暴力がすごい。倒錯的な気分になってくる。
 俺、大丈夫だろうか。おかしな性癖に目覚めたりしないだろうか。

「し、失礼します……」

 おずおずとリアムの前の椅子に座る。俺の素肌にリアムの手が触れて、思わず飛び上がりそうになった。
 これは、ダメでは!? いけないことをしている気持ちになるんだが!?



 変に意識しまくりで心臓がバクバクの俺とは裏腹に、リアムは優しい手つきで髪を濡らしていく。

「前から思っていたが、シャノンの髪はサラサラだな。色も綺麗だ」

「そっ、そうですか? ちょっとくすんでるけど、おっ……僕はこの色好きなので嬉しいです! 兄上の髪色ともちょっとだけ系統同じかなーって……」

「……そうだな、俺も好きだ」


 髪色が!!
 髪色がね!!! 好みって意味ね!!!!


 やけに言葉の裏側が気になり少女漫画のヒロインの気持ちになってしまっている。完全に頭にフィルターがかかっている。
 落ち着け、俺は義弟、相手は義兄。しかも俺は元々ざまぁ漫画の悪役のスペックがある男だ。
 俺の結末を思い出してからもうすぐ一年。
 それからまあまあ緊張して生きていたから、やたら近い距離で美形に甘やかされてちょっと夢見ちゃってるわけだ。



「シャノン?」

「はいっ!!! なっ、なん、なんでしょう!?」

「いや、暫く黙っていたからどうかしたかと……。大丈夫か?」

「はい! 大丈夫です!! 元気です!! かっ、身体は自分で洗いますね!」

 でかい声を出してがばりと立ち上がり、義兄の背後に回り込んで背を向けた。
 素数を数えながら爆速で身体を洗う。


 もうお湯つからずに出ようかな……と思っていたところでリアムに名前を呼ばれたので、振り向く。


「……背中を洗ってくれるんじゃなかったのか?」


 手を取られながらそんなことを言われ、身体が一気に熱くなった。


 ねえ! なんか! 意地悪じゃない!?


 表情が読みにくい彼の顔からは何の意図でこの言葉を発したのか汲み取れず、もうこの罰ゲームをさっさと終わらせようと小さく頷く。

 泡をもこもこに立ち上げた後椅子に座ったリアムに向き直り、背中に触れた。


 あー、なんか……。
 リアムって精悍というよりは美形だし、小さい頃はそこらの女の子より美人だったろうな~っていう感じだけど、こうやってみると男性的な体つきだ。

 思わず俺のほっそい腕とか一ミリも割れてないお腹を見る。いや、俺の成長期はここからだし。


 背を洗っていると、何だか逆に動悸がおさまってた。人の背中を流すというのは精神統一作業なのかもしれない。


「兄上、くすぐったくないですか? ……お湯かけますね」

「大丈夫だ。……シャノンの手は小さ……あ、いや、悪い意味じゃない。すまない」

 若干慌てた声色になるリアムに口元が緩み笑みが零れた。

 お湯を流し、「終わりましたよ」と伝え……ようとして、足裏にぬるりとした感触が伝わる。


「あ」

「シャノン!」

 石鹸のぬめりで足が滑ったらしい。
 そう理解した時には滑った足は宙を蹴っていて、え、これ頭から転ぶ? と冷静に思った。


 来るべき衝撃に備えてぎゅっと目をつむる。
 ……が、感じると思った痛みの代わりに全身に人肌を感じた。


「……あれ?」

「大丈夫か!?」

 おそるおそる目を開けると、視界にリアムの顔がドアップで映る。
 どうやら反射的にリアムが抱きとめてくれたようだ……と状況を把握するが、ぎゅうと抱きしめられた全身に伝わる義兄の肌の感覚にみるみるうちに頭が沸騰して、まともな言葉を発せなくなった。


「危なかった。怪我はないかシャノ……シャノン?」


 先程の比でないくらい心臓が誤作動を起こしている。引くくらい顔が赤くなっているのが自分でもよくわかる。
 心配してくれているリアムには申し訳ないがもはや泣きそうになっている俺は元気なお返事などできず、頷くので精一杯だった。

 リアムもそんな俺を見て驚いているようで、小さく目を見張っていた。


 そうだよあ~! 急に兄に対してこんな……こんな真っ赤になる義弟、普通におかしいよな~!!!


 メンタルに深刻なバグが起きている俺はとりあえず湯船は諦めると決めた。そして、「念のため怪我をみてもらいます」となんとか告げてその場を後にした。
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