義兄のものをなんでも欲しがる義弟に転生したので清く正しく媚びていくことにしようと思う

縫(ぬい)

文字の大きさ
上 下
11 / 53
一章

俺この漫画完クリしたわ

しおりを挟む



 なぜこうなった。


「シャノン、遠慮しなくていい」

「エッ……エンリョトイウカ……ヤッパリボクヒトリデダイジョウブ……」

「弟が兄に甘えるのは恥ずかしいことではない。俺の同級生も未だに兄とよく一緒に寝ていると言っていた」

 それはその同級生(推定十七歳)がおかしいと思うが俺はなにか間違っているだろうか。

 俺がものすごい速度で視線を彷徨わせてる間に、こころなしかいつもより若干イキイキしているリアムが男らしく服を脱ぎ始める。
 動揺のあまりカタコトが止まらない。俺が招いた結果なことは重々承知しているが、しかし、この終着点は予想していなかった。
 なぜこうなった!






 遡ること数日前。
 部屋に幽霊が出てから俺はひとりでいるのがやたらと怖くなってしまい、家庭教師の先生から授業を受けている時以外はもうしつこいくらい義兄のそばにいた。カルガモの親子くらいどこに行くにもくっついていっていた。
 義兄といるとなんとなく安心した気持ちになれて最高なのである。

 幽霊を見た気がするのが怖すぎてちびりそうです。なんてことはさすがに情けなくて言えないので、何かちょっと寂しくなってしまって……ホームシックが……みたいな風を装っている。

 リアムもそれはそれは優しくて、彼が机に向かって作業している(何をしているのかは知らない)時にしれっと近くに椅子を持っていって勉強していても何も言わないし、なんなら勉強を見てくれた。



 俺は使用人……というよりは女性にお風呂のお世話をしてもらうというのがどうしても耐えられず、我儘を言ってお風呂はひとりで入っていたので正直に言うとお風呂に入るのもまあまあ怖かったのだが、さすがにお風呂はビビりながらもひとりで入った。
 一回お風呂に入るたびに五回くらいは背後に誰もいないか確認している。



 そんな日々をしばらく送り幽霊怖いの気持ちも段々とおさまってきた頃、リアムが学園に行くことになった。
 行くことになったというか、今までが長期休暇だったらしい。よく考えればリアムは高等学園に通っている歳だった。すっかり忘れていた。

 学園頑張ってくださいね! と送り出した……出したかったのだが……。




「兄上……何時にお帰りになりますか……?」

「……詳細な時間は分からないが、帰れるようになったらすぐに帰ってくる」

 なぜか俺は兄上と長時間離れるのが寂しくて寂しくて仕方なくなっていた。
 俺の理性が気持ちについていかず、理性の俺がおい! 俺! リアムの袖から手を離せ! と思うのに、感情的な俺が離したら学園行っちゃうじゃないか!! と駄々をこねている。

 リアムも困ったように眉尻を下げていた。
 優しく肩をさすられ、申し訳なさが募る。
 本当にごめんなさい。俺は俺を止めてるんですけど俺が言うことを聞かないんです。

 何なんだこれは。カルガモの親子をしていた弊害なのか!? 俺、どうしたんだ!?




「……シャノンちゃん、リアムにそんなに懐いているのね?」

「リアムの方もシャノンくんに随分好感を持っているように見える。なんというか……」

 今生の別れレベルの感情になりながら義兄を見送ると、父上と母上がやや困惑気味に話していた。
 俺も今の俺にはかなり困惑しているが、これはリアムって家族に優しいめちゃくちゃ良い兄ですよ! アピをするチャンスなのでは!? と気づきがばりと顔を向ける。


「リアム兄上は突然来た僕にもとっても優しくしてくれる、すっごく素敵なお兄様です! 母上と父上も優しいから、さすがお二人の息子さんだなあと常々思ってます!」

 表情筋をフルに使って満面の笑みを浮かべる。言い過ぎか? とも思ったが、紛れもない本音でもあるので思ったことをそのまま伝える。


 父上と母上は少し驚いたように目を見開いた後、お互いに顔を見合わせる。

「シャノンちゃん……リアムは私たちのこと何か貴方に話してた?」

「母上達のこと? うーんと、僕がこの家の人たちはみんな優しいって話をしたら頷いていたことはありますが……」

 母上が聞きづらそうに言葉を発するのを見てハッとする。
 リアムが俺に両親について何を話していたか気になるって……これは家族の仲修正フラグでは!? いや、気まずそうなだけで修正ってほど拗れてないけど!


「母上も父上も、兄上とはあまりお話しないのですか?」

「うーんと……。夫も私も、シャノンちゃんへと同じようにリアムに接するのは難しいのよ。でも、もちろん息子として愛してるわ」

「それは兄上が嫡子だからですか? 後継者として育てるためにあまり甘やかせないというのは僕にもわかりますが……。でも、父上や母上がそのように何か気にかかっているご様子なのはどうして?」


 これを逃すまいともう俺は押っせ押せである。ゴリ押しだ。


「シャノンくんは私たちのこともよく見ているね……。うん。きっと私たちは、リアムに子どもとしてよりも嫡子として接してきたことを少し後悔しているのかもしれない」

「あなた……」


 おいおい!!
 おいおいおいおい!!!
 頭の中では「確定演出!!!」とファンファーレが鳴っているが眉を下げ、神妙そうな顔をする。


「それなら、兄上に父上達の思っていることをそのまま伝えたら良いのではないでしょうか! そもそも、兄上は元々父上や母上に対して悪い感情は持っていないと思いますよ!」

 気まずそうな両親とは対照的に俺のボルテージは最高潮だ。
 この勝負、もらったな。

「突然私たちにそんなこと言われても、リアムは困ると思「そんなことないですよ!!!!」そ、そうかしら?」

 母上が若干面食らった表情になったのを見て、やりすぎたか? とちょっと反省する。
 父上は少し思案する様子を見せた後、ふっと表情を柔らげ俺の頭を数度撫でた。


「君は優しいな。それに、言う通りかもしれないね。後悔してると思うなら、リアムにちゃんと話してみたほうがいいだろう」

「…………ええ、そうね。シャノンちゃん、急にこんな話をしてごめんなさいね。あの子、シャノンちゃんと話してると嬉しそうだから、つい色々考えてしまって……」

 嬉しそうかは分からないがリアムは俺に優しいし、弟としてまあまあ可愛がられている自覚は少し、ある。

「僕は兄上が大好きなのでそう見えているなら嬉しいです!」


 これ、ミッションコンプリートなのではないか!?
 この先どうなるか分からないけど、シャノンが俺として生まれた甲斐があったんじゃないだろうか。



 どことなく達成感に包まれ頬を緩めていると、「ところで」と声がかかった。


「シャノンちゃんは最近ずっとリアムにべったりだったわねぇ。なんだか妬けちゃうわ」

「え? あ、な、えーと最近ちょっとなんだか寂しくなってしまってて……えへっ」

「ああ、いや、仲が良いのはいいことだからいいんだ。リアムの学園が再開したからシャノンくんは余計寂しいだろと思ってな。さっきも離れがたそうだったし……。なあ、アリア」


 急に俺のことに話が戻り、ちょっと慌てた。しかもアリアにバトンパスした。なぜだ。


「シャノン様は今まで、昼間はリアム様とずっとご一緒していましたから。その時でもご就寝やご入浴の際はお寂しそうでしたので、昼にリアム様と共に在れないとなりますと……」


 ……ん? え? アリア?

 謎の暴露を食らい思わずアリアを二度見した。

 え? お前、敵か?


 俺は寂しかったのではなくひとりで寝たりお風呂に入るのがめちゃくちゃ怖かっただけなのだが、そんなことは言えず黙って引き攣った笑みを浮かべる。


「そうか。そしたら夜はリアムに添い寝でもして貰えばいい」

「そうねえ。シャノンちゃんはまだ小さいし、貴族の生活にも慣れてないでしょうから、シャノンちゃんが落ち着くならそれがいいわね」

「え?」


 今、そういう話の流れだったか?
 ていうか俺、小さいか?


「え? ん? いや、でも兄上に申し訳ないので……」

「リアムなら断らないと思うわよ。ほんとにあんなに楽しそうなリアム、久しぶりに見るもの。シャノンちゃんのこと好きなのねっ」

「シャノン様、ご入用もリアム様とご一緒されては?」

「あらぁ、それでもいいわね!」


 アリア???????
 やっぱり敵か???????


「え……えーと、兄上が許可してくださったら……えへへ……」


 幼児でもないのにどうして兄と一緒に寝たりお風呂に入る流れになるのか本当に全く分からないが、さすがに俺に甘いリアムでもこれは断るだろう。

 引き攣った笑みがさらに引き攣るのを感じながら、あんなに早く帰ってきてほしかったリアムの帰りを微妙な気持ちで待つ羽目になった。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...