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一章
俺この漫画完クリしたわ
しおりを挟むなぜこうなった。
「シャノン、遠慮しなくていい」
「エッ……エンリョトイウカ……ヤッパリボクヒトリデダイジョウブ……」
「弟が兄に甘えるのは恥ずかしいことではない。俺の同級生も未だに兄とよく一緒に寝ていると言っていた」
それはその同級生(推定十七歳)がおかしいと思うが俺はなにか間違っているだろうか。
俺がものすごい速度で視線を彷徨わせてる間に、こころなしかいつもより若干イキイキしているリアムが男らしく服を脱ぎ始める。
動揺のあまりカタコトが止まらない。俺が招いた結果なことは重々承知しているが、しかし、この終着点は予想していなかった。
なぜこうなった!
遡ること数日前。
部屋に幽霊が出てから俺はひとりでいるのがやたらと怖くなってしまい、家庭教師の先生から授業を受けている時以外はもうしつこいくらい義兄のそばにいた。カルガモの親子くらいどこに行くにもくっついていっていた。
義兄といるとなんとなく安心した気持ちになれて最高なのである。
幽霊を見た気がするのが怖すぎてちびりそうです。なんてことはさすがに情けなくて言えないので、何かちょっと寂しくなってしまって……ホームシックが……みたいな風を装っている。
リアムもそれはそれは優しくて、彼が机に向かって作業している(何をしているのかは知らない)時にしれっと近くに椅子を持っていって勉強していても何も言わないし、なんなら勉強を見てくれた。
俺は使用人……というよりは女性にお風呂のお世話をしてもらうというのがどうしても耐えられず、我儘を言ってお風呂はひとりで入っていたので正直に言うとお風呂に入るのもまあまあ怖かったのだが、さすがにお風呂はビビりながらもひとりで入った。
一回お風呂に入るたびに五回くらいは背後に誰もいないか確認している。
そんな日々をしばらく送り幽霊怖いの気持ちも段々とおさまってきた頃、リアムが学園に行くことになった。
行くことになったというか、今までが長期休暇だったらしい。よく考えればリアムは高等学園に通っている歳だった。すっかり忘れていた。
学園頑張ってくださいね! と送り出した……出したかったのだが……。
「兄上……何時にお帰りになりますか……?」
「……詳細な時間は分からないが、帰れるようになったらすぐに帰ってくる」
なぜか俺は兄上と長時間離れるのが寂しくて寂しくて仕方なくなっていた。
俺の理性が気持ちについていかず、理性の俺がおい! 俺! リアムの袖から手を離せ! と思うのに、感情的な俺が離したら学園行っちゃうじゃないか!! と駄々をこねている。
リアムも困ったように眉尻を下げていた。
優しく肩をさすられ、申し訳なさが募る。
本当にごめんなさい。俺は俺を止めてるんですけど俺が言うことを聞かないんです。
何なんだこれは。カルガモの親子をしていた弊害なのか!? 俺、どうしたんだ!?
「……シャノンちゃん、リアムにそんなに懐いているのね?」
「リアムの方もシャノンくんに随分好感を持っているように見える。なんというか……」
今生の別れレベルの感情になりながら義兄を見送ると、父上と母上がやや困惑気味に話していた。
俺も今の俺にはかなり困惑しているが、これはリアムって家族に優しいめちゃくちゃ良い兄ですよ! アピをするチャンスなのでは!? と気づきがばりと顔を向ける。
「リアム兄上は突然来た僕にもとっても優しくしてくれる、すっごく素敵なお兄様です! 母上と父上も優しいから、さすがお二人の息子さんだなあと常々思ってます!」
表情筋をフルに使って満面の笑みを浮かべる。言い過ぎか? とも思ったが、紛れもない本音でもあるので思ったことをそのまま伝える。
父上と母上は少し驚いたように目を見開いた後、お互いに顔を見合わせる。
「シャノンちゃん……リアムは私たちのこと何か貴方に話してた?」
「母上達のこと? うーんと、僕がこの家の人たちはみんな優しいって話をしたら頷いていたことはありますが……」
母上が聞きづらそうに言葉を発するのを見てハッとする。
リアムが俺に両親について何を話していたか気になるって……これは家族の仲修正フラグでは!? いや、気まずそうなだけで修正ってほど拗れてないけど!
「母上も父上も、兄上とはあまりお話しないのですか?」
「うーんと……。夫も私も、シャノンちゃんへと同じようにリアムに接するのは難しいのよ。でも、もちろん息子として愛してるわ」
「それは兄上が嫡子だからですか? 後継者として育てるためにあまり甘やかせないというのは僕にもわかりますが……。でも、父上や母上がそのように何か気にかかっているご様子なのはどうして?」
これを逃すまいともう俺は押っせ押せである。ゴリ押しだ。
「シャノンくんは私たちのこともよく見ているね……。うん。きっと私たちは、リアムに子どもとしてよりも嫡子として接してきたことを少し後悔しているのかもしれない」
「あなた……」
おいおい!!
おいおいおいおい!!!
頭の中では「確定演出!!!」とファンファーレが鳴っているが眉を下げ、神妙そうな顔をする。
「それなら、兄上に父上達の思っていることをそのまま伝えたら良いのではないでしょうか! そもそも、兄上は元々父上や母上に対して悪い感情は持っていないと思いますよ!」
気まずそうな両親とは対照的に俺のボルテージは最高潮だ。
この勝負、もらったな。
「突然私たちにそんなこと言われても、リアムは困ると思「そんなことないですよ!!!!」そ、そうかしら?」
母上が若干面食らった表情になったのを見て、やりすぎたか? とちょっと反省する。
父上は少し思案する様子を見せた後、ふっと表情を柔らげ俺の頭を数度撫でた。
「君は優しいな。それに、言う通りかもしれないね。後悔してると思うなら、リアムにちゃんと話してみたほうがいいだろう」
「…………ええ、そうね。シャノンちゃん、急にこんな話をしてごめんなさいね。あの子、シャノンちゃんと話してると嬉しそうだから、つい色々考えてしまって……」
嬉しそうかは分からないがリアムは俺に優しいし、弟としてまあまあ可愛がられている自覚は少し、ある。
「僕は兄上が大好きなのでそう見えているなら嬉しいです!」
これ、ミッションコンプリートなのではないか!?
この先どうなるか分からないけど、シャノンが俺として生まれた甲斐があったんじゃないだろうか。
どことなく達成感に包まれ頬を緩めていると、「ところで」と声がかかった。
「シャノンちゃんは最近ずっとリアムにべったりだったわねぇ。なんだか妬けちゃうわ」
「え? あ、な、えーと最近ちょっとなんだか寂しくなってしまってて……えへっ」
「ああ、いや、仲が良いのはいいことだからいいんだ。リアムの学園が再開したからシャノンくんは余計寂しいだろと思ってな。さっきも離れがたそうだったし……。なあ、アリア」
急に俺のことに話が戻り、ちょっと慌てた。しかもアリアにバトンパスした。なぜだ。
「シャノン様は今まで、昼間はリアム様とずっとご一緒していましたから。その時でもご就寝やご入浴の際はお寂しそうでしたので、昼にリアム様と共に在れないとなりますと……」
……ん? え? アリア?
謎の暴露を食らい思わずアリアを二度見した。
え? お前、敵か?
俺は寂しかったのではなくひとりで寝たりお風呂に入るのがめちゃくちゃ怖かっただけなのだが、そんなことは言えず黙って引き攣った笑みを浮かべる。
「そうか。そしたら夜はリアムに添い寝でもして貰えばいい」
「そうねえ。シャノンちゃんはまだ小さいし、貴族の生活にも慣れてないでしょうから、シャノンちゃんが落ち着くならそれがいいわね」
「え?」
今、そういう話の流れだったか?
ていうか俺、小さいか?
「え? ん? いや、でも兄上に申し訳ないので……」
「リアムなら断らないと思うわよ。ほんとにあんなに楽しそうなリアム、久しぶりに見るもの。シャノンちゃんのこと好きなのねっ」
「シャノン様、ご入用もリアム様とご一緒されては?」
「あらぁ、それでもいいわね!」
アリア???????
やっぱり敵か???????
「え……えーと、兄上が許可してくださったら……えへへ……」
幼児でもないのにどうして兄と一緒に寝たりお風呂に入る流れになるのか本当に全く分からないが、さすがに俺に甘いリアムでもこれは断るだろう。
引き攣った笑みがさらに引き攣るのを感じながら、あんなに早く帰ってきてほしかったリアムの帰りを微妙な気持ちで待つ羽目になった。
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