義兄のものをなんでも欲しがる義弟に転生したので清く正しく媚びていくことにしようと思う

一章

推し疑惑

　俺ことシャノンはある日とある貴族の家に引き取られる。

　父、母、長男の家族構成の家に放り込まれることになったシャノンはこの父と母にそれはもうめちゃくちゃ、めっっっっっっちゃくちゃ溺愛される。あまり良い意味ではない。それはそれはもう死ぬほど甘やかすのだ。それを世間では優しい虐待って言うんだぞ！
　


　捨て子だったシャノンは幼い頃から愛に飢えており、孤児院にいた頃から試し行動をしまくるまあまあの問題児であった。
　それ自体は環境的に仕方のない部分もあるだろうし悪ではないのだが、下手に魔力が多かったことも手伝い最終的には傲慢さが顔を出すクソガキ大魔王に成長を遂げてしまった。



　その上お貴族様の仲間入りというステータスが増えてしまう。クソガキがさらなるクソガキへの階段を登るのは目に見えてわかるだろう。


　試し行動に拍車がかかり、己を悲劇の主人公と思い込み『自分は可哀想で何もないのだから、恵まれている義兄は義弟にいろいろなものを譲るべきだ』などと主張するトンデモモンスターが爆誕する。




　――何もないワケないだろうが！！！！
　顔がめちゃくちゃ可愛い上にめちゃくちゃ魔力があるだろうが！！！！！！！！！！！




　そう、めちゃくちゃ魔力があるのだ！　そもそも魔力が高い孤児がいると噂になり、それを理由として引き取られるのだ。魔力なんてなんぼあってもいいですからね。


　しかし長男が愛されていなかったわけではない。嫡子として厳しく育てあげた長男に対し、魔力の高い子どもの保護を名目として家に迎え入れた、特には家の責任を負わせなくて良い次男。それを長男の反動でしぬほど甘やかしてしまうのだ。

　だんだんと悟る長男。つけあがるクソガキ。猫可愛がりして良い次男を優先するあまりどんどん深まる親子の溝。



　そしてついにシャノンはやらかす。長男の婚約者を奪ってしまうのだ。婚約者も表情筋の死んだ長男より甘え上手な次男の方が良いと言い出す。良くないだろ。


　もう続きはお分かりだろう。公衆の面前でやるのだ、婚約破棄宣言（独断）を。長男が次男を虐めているという捏造付きで。




　バカ！！！！！！！！！！！！！！！




　継承権すら奪われそうになった長男は祖父や信頼の置ける学友の力を借りつつ、悪意に立ち向かう。
　そして元婚約者や義弟を追い詰め、逆にざまぁして断罪する。もちろん次男の教育に失敗した親も同様に。



　……と、まあ、細かい部分は正直覚えていないがテンプレな物語だったと思う。こういう漫画があったはずなのだ。そして多分、俺はこの義弟に転生している。

　物心ついてからずっと違和感を感じていたあたり、急にシャノンに憑依したというよりは眠っていた記憶が蘇った感じだろう。俺は最初からずっとシャノンだった。



　そもそも前世云々に関してはこういう話読んだな、こういうジャンル流行ってたな～という記憶しかない。前世チートとか多分できない。異世界あるあるくらいなら役に立つかもしれない。



　……主人公の顔も名前も思い出せないのにシャノンのことだけやたらはっきりと覚えているあたり、もしかしたら俺はシャノンが好きだったのかもしれない。顔の可愛いクソガキが趣味だったのかな。やだな普通に。




　つまり俺は転生したと思っている。が、確信を持つのはお貴族様に引き取られてからだ。もしかしたら俺の頭がおかしくなっていて妄想を繰り広げているだけかもしれないし。本当に妄想癖のヤバい奴だったら一生教会で祈りながら過ごそう。