【本編完結】推定乙女ゲームの世界に転生した、気がする

縫(ぬい)

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推定乙女ゲームの世界に転生した、気がする

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 師匠に聞いた話によると、数千年前まで魔族はその辺にうようよいたらしい。
 しかし魔族は寿命が長い分繁殖能力が極端に低く、段々と衰退の一途をたどることとなる。
 師匠は魔族と人間の間に生まれた子どもで、魔族では魔族同士以外で子をなすことが忌諱されていたこともあり、隠されて育ったそうだ。

 そして二百年前、元々魔族を脅威に感じていた人間が戦争を仕掛け、魔族を絶滅させた。

 師匠は魔族の領土ではないところで息を潜めて生きていたことと半分人間の血が入っていることから、そのあまりに一方的な侵略からは逃げ失せられたらしい。が、結果としては人間に捕らえられる。

 魔族とはいってもハーフである師匠は、人間側の魔力も魔族特有の魔力も持つ特異な存在だということが当時の権力者にバレ、ディランさんが魔族ということを国ぐるみで隠す代わりに国の道具として使役されることになってしまった。


「……ディランさん」

「そんな顔をするな、テオ。過去の話だ」

「でも……そんな扱いって……」

 思わぬ師匠の過去に喉に鉛が詰まったかのような苦しさを覚える。
 俺が勝手に傷ついても彼の過去が変わることはないし、こんな同情求めていないかもしれないけど、じわりと視界が歪んだ。

 師匠はそんな俺に宥めるような口付けを落とす。

「ん……ふ、師匠、すきです、ししょ……」

 啄むようなキスの合間に言葉を紡ぐ。
 唇を割ることはせず、ただひたすら優しいそれを甘受した。





「俺の生い立ちも過去も今更何とも思っていないが、おまえの感情が俺に向くなら悪くない」

 悪戯に笑う師匠に心臓がぎゅんとなって思わず胸を押さえる。


「…………えっと!! お話を聞いてると、魔族って長生きなんですよね。その、国との約束って破綻してませんか? 寿命の関係で人間じゃないことなんてすぐバレますよね」

「その通り。とりあえずはそんな馬鹿な約束事でも良かった。俺は死にたいわけじゃなかったから、従順なふりをして奴らを出し抜く隙を伺っていた」


 師匠はしばらくの間権力者たちの言う通りに動きつつ、暗に人間はたとえ束になっても師匠には絶対に敵わないということを見せつけたらしい。
 そこから数十年経った頃、わざと当初指摘しなかった国との約束事の粗やその他色々後ろ暗いことを突きつけ、人間と魔族のいわゆる不可侵条約を結びつけた。
 魔族と言っても師匠しかいないから、人間とディランさん個人の条約だけど。


「それでも奴らは理解できない存在が怖いから、俺を何度も殺そうとしていたがな。全部返り討ちにして少しをしたら静かになった。だから俺は、この森の奥で結界を張ってひとりで生きている」

「……ディランさんの名前を出すとみんな……というか、先生や殿下が驚いていたのって師匠が魔族だからだったんですね。これ、もしかしてかなり有名な話でしょうか。俺何も知らなかった……」


 ディランさんの弟子だと言った時のあの「マジ?」という反応は、人間と不可侵条約を結んでいるはずのディランさんが俺になぜか良くしてくれているという事実に驚いているからか。
 ディランさんのことを、魔法がめちゃくちゃ上手ななんか知らないけどすっごい人! とだけ思ってた俺って……。


「いや、子どもであっても国に直接関係する者は知っているだろうが、基本的に親世代しか知らないと思う。血気盛んな子どもにこのことを伝えたら、力試しで俺を討伐しようと躍起になる可能性も否定できないからな。子どもを守る意味でも、学園の上の方の学年にならないと魔族との歴史は習わないことになっていた気がするが」

 師匠の説明に分かったような分からないような気持ちになったが、とりあえず頷いておく。

 子どもじゃなくても師匠に特攻してくる人はいそうだけど……と思っていたのが顔に出ていたのか、「基本的に俺のテリトリーに入ってきた人間は自動的に外に送り返している」と頭を撫でながら教えてもらった。
 師匠、優しいな。



「……あれ? でも、俺は師匠と初対面の時……」

「ああ、あれは俺も驚いた」

 そうだ、俺は森でイキって魔法を使っている時に師匠に出会ったのだ。
 師匠の話を聞くに、俺がそもそも森から弾かれていないことがおかしいように思う。


「推測に過ぎないが……。テオ、おまえの魔力と俺の魔力の波長はおそらくかなり似通っている。魔力は人それぞれ違うから、理論上人と同じ魔力なんてものは存在しないはずだ。だから俺の魔力ではないものがここを通った時には自動的に森から送り出す陣を組んでいたのだが……」


 彼の視線が俺の目を真っ直ぐに射抜く。
 師匠の瞳の色がどろりと溶け、真っ赤なそれに見つめられるとなぜか身動きが取れなくなった。


「運命だと思った。死にたくはなかったから余生をひとりで静かに生きることを決めていたが、運命があるなら縋ってみようと。愛してるよ、テオ。――俺と番になればおまえは俺同等の寿命を手に入れることになる。悠久の時を、おまえと生きたい」


 なんだかしれっとすごいことを言われた気がしたけど、熱烈な愛の告白に頭が沸騰してあまり深く考えられない。


 俺の手に師匠の指が絡み、まるで逃がさないとでも言われているみたいに強く握られる。
 師匠の顔が近づき、唇をぺろりと舐められた。

 咀嚼しきれていないことだらけだけど、この人が俺のことを好きで、俺もこの人が好きならそれでいいんじゃないかなあ、と瞳を閉じながら密かに思った。
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