上 下
2 / 16
推定乙女ゲームの世界に転生した、気がする

2

しおりを挟む
 

 彼の家に通い詰め、一日のうち実家にいるより師匠の家にいる時間の方が長くなってきた頃。というか、もうほぼ師匠の家に住んでいる。
 俺は十三歳になり貴族の学園に通うことになった。王立である。


 師匠に出会った頃の俺は九歳、そこからの日々は楽しくて楽しくて仕方なかった。
 魔力もどんどん増え、お腹が空く頻度が減った。その度俺にあーんして食べさせることを生き甲斐にしているらしい師匠はちょっと残念そうだった。


 背も伸び、顔つきも男らしさが増したように思う。小さい頃は女の子に間違えられることもあったので、ぱっと見ですぐ男に判別されるのは嬉しい。
 姉に言われるがまま(遊ばれていたともいう)長く伸ばしていた髪もばっさり切った!
 俺は猫っ毛で癖がつきやすいので、伸ばしていると特に雨の日はぴょんぴょんして大変だったのだ。
 なお、事あるごとに俺の髪を触りたがる師匠はこれもちょっと残念そうだった。



「テオ、俺のテオ。……本当に行くのか」

「や~~、俺もめちゃくちゃ行きたいわけじゃないですけど~」

「そもそもおまえに今更魔法の授業などいらないだろう」

「魔法は! 魔法はもちろんそうですけど。なんと言っても俺には師匠がいるので! 最近は魔法薬も教えてもらってるし。……でも、俺も一応貴族なので……」


 魔法薬を作るためにぐるぐると壺の中の液体をかき混ぜる俺の真横に座り、ぐっと腰を引き寄せる師匠。
 師匠ははじめっからスキンシップが多かった。気を許されているみたいで嬉しいので大体されるがままになっている。


「……はー、さっさと抜かせておけばよかった……」

「え? 何をです?」

「ん?」


 師匠は器用に片方の口の端を上げると、ただでさえ近い距離を更に詰め、俺のこめかみに唇を寄せる。
 この人多分俺に母性本能でも感じてるんだと思う。森で子どもを拾ったようなもんだしな。
 若干のくすぐったさを感じて師匠を横目で見ると、彼は唇を離し今度は俺の肩に額を擦り付けた。


「あは、師匠、そんな寂しがりやで三年間も耐えられるんですか?」

「無理だ」

「俺も結構寂しいですけどね! は~、寮生活なんて不安「は?」え?」


 がばっ、と擬音がつきそうなくらいのすごい勢いで俺の肩から顔をあげると、師匠は俺の顔をほぼ無理やり師匠の方に向かせ、信じられないとでも言いたげな眼差しを投げてきた。
 頬に添えられた師匠の長い指が不満げに動く。


「寮? 何を言っている。学園に通うことは百歩譲って許可を出したとしても通いだろう、ここから」

「え? 師匠こそ何をおっしゃるんですか。王都ですよ?」

「何か問題が?」

「いやいやいやいやいやいやいや!!!」



 王都から距離がかなりあるのだここは! まあまあ田舎だ! 通いなんてとんでもない! 物理的に帰って来れない距離である!

 首をぶんぶん横に振る俺に対して、師匠は形のいい眉を不愉快そうにぴくりと上げ、なんてことないように「……? 転移魔法で通えばいいだろう」とのたまった。



「え!? 俺、そんな長距離飛べないですよ!」

「出来る。出来るように教えてきた」

「いやいやいや! 冗談………………………え、本当ですか?」

「俺はおまえに、こんな冗談など言わない」



 そうして俺は師匠の家から学園に通うことになった。
 俺の実家ともとっくに話はつけてあったらしい。デキる男だ。イケメンはやっぱり違うな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄さん、僕貴方にだけSubになるDomなんです!

かぎのえみずる
BL
双子の兄を持つ章吾は、大人顔負けのDomとして生まれてきたはずなのに、兄にだけはSubになってしまう性質で。 幼少期に分かって以来兄を避けていたが、二十歳を超える頃、再会し二人の歯車がまた巡る Dom/Subユニバースボーイズラブです。 初めてDom/Subユニバース書いてみたので違和感あっても気にしないでください。 Dom/Subユニバースの用語説明なしです。

俺のスパダリはギャップがすごい 〜いつも爽やかスパダリが豹変すると… 〜

葉月
BL
彼女に振られた夜、何もかも平凡な『佐々木真司』は、何もかも完璧な『立花蓮』に、泥酔していたところを介抱してもらったと言う、最悪な状態で出会った。 真司は蓮に何かお礼がしたいと申し出ると、蓮は「私の手料理を一緒に食べていただけませんか?』と言われ… 平凡なサラリーマンもエリートサラリーマン。住む世界が違う二人が出会い。 二人の関係はどう変わっていくのか… 平凡サラリーマン×スパダリサラリーマンの、濃厚イチャラブストーリー♡ 本編(攻め、真司)終了後、受け蓮sideがスタートします。 エロ濃厚な部分は<エロス>と、記載しています。 本編は完結作品です٩(๑´꒳ `๑٩) 他にも何点か投稿しているので、もし宜しければ覗いてやってください(❃´◡`❃)

召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり
BL
気が付いたら異世界で、エルヴェという少年の身体に入っていたオレ。 神殿の神官見習いの身分はなかなかにハードだし、オレ付きの筈の護衛は素っ気ないけれど、チート能力で乗り切れるのか? ご都合主義、よくある話、軽めのゆるゆる設定です。なんちゃってファンタジー。他サイト様にも投稿しています。 男性だけの世界です。男性妊娠の表現があります。

眠れぬ夜の召喚先は王子のベッドの中でした……抱き枕の俺は、今日も彼に愛されてます。

櫻坂 真紀
BL
眠れぬ夜、突然眩しい光に吸い込まれた俺。 次に目を開けたら、そこは誰かのベッドの上で……っていうか、男の腕の中!? 俺を抱き締めていた彼は、この国の王子だと名乗る。 そんな彼の願いは……俺に、夜の相手をして欲しい、というもので──? 【全10話で完結です。R18のお話には※を付けてます。】

【R18】うさぎのオメガは銀狼のアルファの腕の中

夕日(夕日凪)
BL
レイラ・ハーネスは、しがないうさぎ獣人のオメガである。 ある日レイラが経営している花屋に気高き狼獣人の侯爵、そしてアルファであるリオネルが現れて……。 「毎日、花を届けて欲しいのだが」 そんな一言からはじまる、溺愛に満ちた恋のお話。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

異世界転移した男子高校生だけど、騎士団長と王子に溺愛されて板挟みになってます

彩月野生
BL
陰キャ男子高校生のシンヤは、寝て起きたら異世界の騎士団長の寝台に寝ていた。 騎士団長ブライアンに求婚され、強制的に妻にされてしまったが、ある日王太子が訪ねて来て、秘密の交流が始まり……騎士団長と王子の執着と溺愛にシンヤは翻弄される。ダークエルフの王にまで好かれて、嫉妬に狂った二人にさらにとろとろに愛されるように。 後に男性妊娠、出産展開がありますのでご注意を。 ※が性描写あり。 (誤字脱字報告には返信しておりませんご了承下さい)

【完結/R18】俺が不幸なのは陛下の溺愛が過ぎるせいです?

柚鷹けせら
BL
気付いた時には皆から嫌われて独りぼっちになっていた。 弟に突き飛ばされて死んだ、――と思った次の瞬間、俺は何故か陛下と呼ばれる男に抱き締められていた。 「ようやく戻って来たな」と満足そうな陛下。 いや、でも待って欲しい。……俺は誰だ?? 受けを溺愛するストーカー気質な攻めと、記憶が繋がっていない受けの、えっちが世界を救う短編です(全四回)。 ※特に内容は無いので頭を空っぽにして読んで頂ければ幸いです。 ※連載中作品のえちぃシーンを書く練習でした。その供養です。完結済み。

処理中です...