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推定乙女ゲームの世界に転生した、気がする
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しおりを挟む俺はなんだかずっと、ここではない世界で生きていたことがある気がしていた。
ここ以外で生きた記憶を詳しく覚えているわけではない。詳しくどころかほぼ何も覚えていない。
ただなんだか、人生二周目のような気分で日々を過ごしていた。
そのせいか同世代の子どもとはなかなか話が合わず、ちょっぴり肩身の狭い思いを抱える羽目になる。
その度にそっと家を抜け出し近くの森で魔法を使い、一人で遊ぶ。
そう、この世界は魔法があるのだ! 俺はすぐ夢中になった。
そんなある日、いつものように森で魔法をぶっ放して遊んでいると目の前に急に知らない家が現れた。
普通にビビった。どんな不思議現象だよ。
驚きに固まっていると、その家からやたら綺麗な顔の男の人が出てきた。夜空のような黒髪に蘇芳色の瞳を持つ、不思議な雰囲気のひと。
彼も俺の存在に驚き、俺を拘束魔法でぐるぐるにした。ビビってる俺はされるがままである。
「なぜ、ここに入れる」
なぜと言われても、急に家が出てきたのだ。そんなのは俺が聞きたい。そのまま事実のみを告げる。
「……出てきた? …………。構築が甘かったか? いや……」
俺を放置プレイしたままぶつぶつと呟く。胸まで伸びている彼の綺麗な黒髪をぼーっと見つめていると、俺の腹がすごい勢いで鳴り出した。なんて空気の読めない腹なんだ。
魔法を使うための魔力が少なくなってくると、人はそれぞれそれ相応の代償……反動と言った方が正しいのだろうか。まあ、人によって様々な現象が起こる。
よくあるのは貧血っぽくなる症状だろうか。
俺はめちゃくちゃ腹が空いてしまう。
毎日のように家を抜け出しているおかげで死ぬほど腹が空くので、ご飯を食べる度に家族に成長期ヤバ……みたいな目で見られている。
空気の読めない腹の虫の音色を聞いた彼は考えごとをやめ、俺を見つめた。
俺のラベンダーがかった瞳と彼の朱の瞳が絡み合う。
なんだか目を逸らしたら負けな気がしてじっと視線を合わせる。相変わらず腹は鳴っている。うるさいぞ!!!
しばらくして、ふと彼の雰囲気が和らいだ。拘束魔法を解くと急に俺を小脇に抱えて家に入る。え? なんで?
困惑する俺だったが、彼はご飯をご馳走してくれた! ご飯をくれる人に悪い人はいない。
彼の鮮やかな拘束魔法の手腕を見た上で家に入れられた時は正直「俺、何かの生贄になるのでは」とちょっと思ったがそんなことはなかった。申し訳ない。
彼の心境の変化は分からないが、これを機に俺はどうやら気に入られたらしく、今後も家に遊びに来る権利どころか魔法の師匠になってくれることになった!
全然知らなかったが師匠……ディランさんはその道でとっても有名な人だったらしい。
俺は伯爵家に生まれ育ったが三男だったこともあり、将来も決められていなかったため魔法の道に進むことは反対されなかった。
それどころか師匠に捨てられるなとめちゃくちゃ念を押された。そんなすぐ破門になってたまるか。
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