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ルイキの休日、行き先はまさかの魔神狩り?
ムメイさんはモブ以上にはなりたくない!#11
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「いいか?あくまで交代を装うんだぞ?」
「もうそれ五回目ですから!どれだけ念を押すんですか!」
塔の近くの森の中に転送魔法でやってきた俺たちは、ガシャガシャと鎧を鳴らしながら塔に向かって進んでいた。そもそもこんなところを徒歩で移動する鎧のおっさん二人組ってだけで怪しすぎる気もするけど、ツッコむのは野暮な気がするので黙っておくことにする。
ところで鎧姿の俺がなぜ今歩けているかというと、ムメイさんが重力魔法で鎧の重さをいじってくれたからであって、決してこの筋肉ムキムキおっさんパワーのおかげではない。情けないことに、重さだけで推定数十キロもある鎧+筋肉ムキムキおっさんボディーを長時間支えられるだけの体力は、残念ながら俺にはまだ備わっていなかった。塔に着く前から何度もへばり、そのたびに回復魔法をかけられてはクタクタになった体を超回復させて半強制的に動かしている。こうしてひたすらアメとムチを繰り返された俺の体が明日どうなるのかは今は深く考えないでおく。
ムメイさんはモブ以上にはなりたくない!#11
森の奥深くまで進むと、複雑な生え方の木が周囲を囲むようにして塔はそびえ立っていた。ムメイさんに促されるまま、木の陰から周囲の様子を伺う。
見張りは二人。俺たちと同じ形状の鎧を身に纏い、槍と盾を持っている。盾にはどこかの国のものらしきマークが書かれていた。……ということは国直属の騎士団か何か?
本当に交代命令が出たなんて理由で通してくれるのかな?簡単に通してくれそうには見えないけど。
「どうします?」
俺が訊ねるとムメイさんは小声で「呼ぶまでここで待ってろ」とだけ言い残して、塔に向かってズンズン歩いていった。
本当に大丈夫なのかなあ。
俺は内心ハラハラしながら様子を見守る。ムメイさんは塔の前に立っている二人の前までたどり着くと、何やら身振り手ぶりをしながら話しだした。……が、一分もしないうちに二人組に襲いかかり始めた。
あー、やっぱりそうなっちゃうんだ。口よりも先に手が出ちゃうか。
ムメイさん相手に健闘……はせず、鎧二人組は呆気なく地面にのびてしまった。ムメイさんは動かなくなった鎧二人組に近づいて何やら確認したり、魔法をかけたりを繰り返すと、ようやく俺のことを手招きしながら呼び出した。ムメイさんの側にはさっきの鎧の人たちが、兜を外された状態で倒れている。見るからにゴツくて手練れっぽいおじさんたち。そして大して話も聞いてもらえず、理不尽な暴力に敗れたおじさんたち。あなたたちはただ仕事を全うしていただけだというのにご愁傷様です。……明日は我が身かな。
ムメイさんは仁王立ちで倒れている二人を指差した。
「こいつら、話通じなくてめんどくせえから寝てもらった」
殴って無理やり気絶させたの間違いでは?
「誘眠魔法と併せて忘却魔法もかけてあるから、次起きた時にはただここで眠っていただけに感じるようになってるから安心しろ」
いやいやいや安心できないって。起きたら気絶してたなんて驚かないやつがいるか?そもそも二人もいてどっちも倒れてるって時点で、何かあったって勘づきそうなものだけどな。
考えていることが露骨に顔に出てしまっていたのか、ムメイさんは俺の顔を覗き込もうとした。兜と兜がぶつかってカーンと音を立てる。
「なにか不満でも?」
「いいえ」
ここで何もできない俺が言えることなど何もございません。
「そうかぁ?まあ気を取り直して……この塔なんだけどな、結構めんどくさいかもしれないぞ」
はー危ない危ない。どうにか切り抜けられたからよかった。……ていうか、え?この塔が結構めんどくさいかもしれない?そんなこと、入る前からわかるものなんだろうか。見ただけならちょっと変わった形の塔ダナーくらいにしか思わないけど。
ムメイさんは倒れている見張りの片方の腕を持ち上げてみせた。
「こいつらの鎧、魔力を外に漏らさないように特殊な加工がされてる」
へえ。外から見たらなんの変哲もないただの鎧なのに。
「特殊な加工をしなきゃいけない理由があるってことですよね」
ガシャガシャ。俺が訊ねると、ムメイさんはうんうんと頷いた。
「要は中に魔力を持ち込むとやべえってことだよ。万が一に備えて、魔力は空っぽの状態で塔に入った方が良いな」
ガシャガシャと音を立てながら、ムメイさんは塔とは逆方向に向かって歩き出した。そっちには鬱蒼とした森しかないけど、いったい何をするつもりたんだろう。
ムメイさんはわさわさと草むらをかき分けたかと思うと、その中から何かを取り出した。高々と掲げられたそれは、茶色くて長くて太くて立派な……。
てれれれってれ~!そのへんに落ちてるでけぇ木の棒~!
……ええ?木の棒?なんで?わざわざそんなものを探しに森に戻ったの?
ムメイさんは得意げに棒を振り回して見せる。動きだけならそれっぽいムメイさんが持ってると、何の変哲もないただの木の棒でもそれなりのものには……やっぱり見えないな。棒は棒だ。
「なーにがっかりしてんだよ。魔神狩りといえば武器が必要だろ?」
武器?これが?
手渡された木の棒を受け取る。これがいったいどんな武器になるというんだろう。
「今からこのただの木の棒を、どんな剣よりも硬くて強い武器にしてやるよ」
ムメイさんはガサガサと別の草むらから同じくらいの形状の木の棒を取り出すと、棒に向かって呪文を唱え始めた。
「チャージ+α p+d!」
ムメイさんの手から放たれた光が棒を包んだ。おお、なんかこの棒が変わった武器になるとか?!
俺は期待に満ちた目で様子を見守り続けていた。……が、光が集約されて現れたのは、先ほどと同じ形をしたただの木の棒でしかなかった。
ええ……?やっぱりただの木の棒じゃん。
ムメイさんは俺の手に握られていたただの棒と魔法のかかった棒を取り替えると、ただの棒に向かって同じように魔法をかけ始めた。
これが本当にどんな剣よりも硬くて強い武器だって?
木の棒のあちこちを確認してみても、特に変わったところはない。でも本当にこれが武器になったというなら。
俺は両手で木の棒を握りしめた。目標は目の前の木。鎧で動きづらいけど、大きく振りかぶって……えいやッ!
スイカ割りの棒の要領で振ってみると、木の太い幹の真ん中あたりに棒は当たった。この太さに対してこの棒の細さなら、この一撃だけで棒の方が木っ端微塵になる……はずだった。
ミシミシミシ……。木は音を立てながら縦に裂けた。えっ、すごい綺麗に真っ二つに裂けてる。本当に俺がこれをやったのか?しかも一振りで?
恐る恐る握りしめたままの棒を見る。
「うそ……」
手で握っていた棒は、折れるどころか傷一つ残っていなかった。信じられない。見た目はただの棒のままなのに、ただ振り下ろしただけで木を裂いてしまうほどの威力が秘められているなんて。
「バカ!」
ムメイさんに後ろからグーで兜を殴られた。手加減はしてくれてるんだろうけど、殴られた衝撃でぐわんぐわんと兜が揺れる。
「余計なことをするんじゃねえ!今の音を聞きつけた騎士団どもがやって来たらどうするつもりなんだよ」
ごもっともです。ここはまだ塔の近くなんでした。
「すいませんでした」
俺は深く頭を下げた。
ムメイさんの言う通りだ。見張りが塔の前の二人だけとは限らないし、リスクのあることはしないほうがいい。
「わかれば良いんだよ。でもさっきの一発で、もうこれがただの木の棒じゃないってわかっただろ?なんせ魔法で私の攻撃力と防御力をたっぷり分け与えた特別製だからな」
なるほど。そりゃあ、一撃で木を裂けるくらい強いわけだ。
「さて武器が手に入ったことだし、あとは変身魔法を解いてこれをつけるだけだな」
ムメイさんは俺たちにかけた変身魔法を解いた。俺たちの姿が一瞬でいつもの見慣れた使用人の服とメイド服に戻る。おっさん二人旅はどうにか免れたらしい。やっぱりいつもの世界観がいちばんだよな、うん。
「んー、アレはどこだ。アレアレ」
アレアレ言ってるムメイさんは、今度はゴソゴソとメイド服のスカートのポケットの中を探っているようだった。
アレって何だ。今度はそのアレとやらで何をするつもりなんだろ。
「あったあった」
ムメイさんはポケットから取り出したものを、そのまま俺の腕に付けた。
ガシャン。
右腕にはめられた銀色の輪。さらにチェーンで繋いであるもう一つの銀色の輪を、今度は自分の腕にはめてみせる。これは見覚えがあるぞ。刑事ドラマでよく見るあれだあれ。
「あの、それって手錠ですよね?」
タイホーッ!
繋がれた腕をぶらんと持ち上げる。同時にもう片方に繋がれたムメイさんの腕がだらりと持ち上がる。
「そうだけど?もちろん、ただの手錠じゃないけどな」
でしょうね。ただの手錠だったなら、この場でわざわざ繋ぐ意味がわからない。
「これはとあるツテから入手した魔法道具だ。最初にこのアイテムを取り付けたやつのスキルをつけた相手も共有することができる」
へえ。じゃあ今の俺のスキルをムメイさんも共有してる事になるのか。だとすると……
「でも俺のスキルって何なんですか?」
だってそうだろ?必然的にムメイさんは俺のスキルを知ってることになる。わざわざ俺をここまで連れてきた理由もたぶんそこにあるんだろう。あの塔の攻略に必要な何かが、俺のスキルにあるんだ。
「あー、えっと……それなんだけどさあ」
ムメイさんは気まずそうに俺から目を逸らした。
「知らない方が幸せってこともあるからさ。お前にとっては知らない方がマシかもよ」
知らない方がマシなスキルってなんなの……?もしかして俺って気づいてないだけで、とっくにそういう異能力に目覚めてたりするのかな?ムメイさん曰く「知らない方がマシ」だとしても。
「まあ、私からしたら羨ましいくらいのスキルだけどな!元気出せよ!」
励ましなのかそれは……?ていうか俺、なんで自分のスキルの内容もわからないままこんなにディスられてるの?
「あ!あとこれもかけとかないとな」
ムメイさんはまた右手をポケットの中につっこんだ。次から次へと今度はどんなアイテムが?てか明らかにそのポッケに入る量じゃないよな。ドラえもんかよ。
ムメイさんは器用に手探りで何かを探し出すと、ポケットの中からそれを取り出してみせた。
てれれれってれ~……って、なんだこれ?何も見えないけど?
ムメイさんはまるで大きな布でも被せるように、俺の頭に何かを被せてみせた。被せられてみてやっとわかったけど、これは……なんかのベール?
「何にも見えないんですけど、何ですかこれ」
俺が訊ねると、ムメイさんは器用に右手で自分の方にもベールのような何かを広げてかけながら言った。
「これは……確かどこかのダンジョンの宝物庫にあった布でな。被ると周りから見えなくなるんだ。便利だよな」
どこかのダンジョンの宝物庫にあった布?!それって明らかに勇者用に用意されてた超レアアイテムかなにかだよな?!
思わずムメイさんのことをガン見してしまった。顔はよく見ると美人……いや、かなり美人な方。服装やら髪型はそこら辺にいるいたって普通のメイドさん。
ていうかこの人、飛び抜けた能力やら魔法やら以外にも、普通のメイドさんが持ってるようなものじゃない、すごいやばいものを持ってるよな?今、手につけてるスキルを共有できる魔法道具も、とあるツテから入手したとか言ってたし。とあるツテって何だよ。「裏社会と繋がりがあります」とか言われてももう驚かないからな。
それにしてもこの人、本当に何者なんだ……?
ムメイさんは布をかぶせ終えると、さっきの棒を持って立ち上がった。腕を引っ張られ、俺も左手で棒を掴んで立ち上がる。
「ほら!準備も済んだことだし行こうぜ!」
ムメイさんは手錠をした方の俺の手を握りながら、塔に向かって歩き始めた。……え?なんで手?
ムメイさんは振り返らずに言った。
「手でも繋いでおかないとさ、この布小さいから少しでも体がはみ出たら他の人に姿が見えちゃうだろ」
「え?!じゃあ、布かぶってる間はずっと繋いだまま?!」
「なんか文句ある?」
ムメイさんは立ち止まると、俺の方へとズイッと詰め寄った。布を被ってるし、手錠をしてるから離れられないとはいえ、さすがに近い!
「ない……です」
「だよな?まあ、ちょっとの間だけだからさ。我慢してろよ」
言い終えるなり塔の方に向き直ると、ムメイさんは再び歩き始めた。なんで今さらラブコメフラグが立ち始めてるんだ?この世界はいったい何ジャンルなんだ……?
相変わらず気絶……スヤスヤと寝息を立てている鎧の男たちの側を通り抜けて、俺たちは塔の扉の前に立った。
この中に何があるのか。そして、魔神の目覚めが早まった原因がどこにあるのか。……それら全てはこの冒険が終わる頃には明らかになっていることだろう。
ムメイさんが扉に手をかけると、ギギギと重苦しい音を立てて扉が開いた。息を呑むような緊張感。その中へ、俺たちは足を踏み入れていく。
ーーいざ、西の果ての魔神の塔へ。
「もうそれ五回目ですから!どれだけ念を押すんですか!」
塔の近くの森の中に転送魔法でやってきた俺たちは、ガシャガシャと鎧を鳴らしながら塔に向かって進んでいた。そもそもこんなところを徒歩で移動する鎧のおっさん二人組ってだけで怪しすぎる気もするけど、ツッコむのは野暮な気がするので黙っておくことにする。
ところで鎧姿の俺がなぜ今歩けているかというと、ムメイさんが重力魔法で鎧の重さをいじってくれたからであって、決してこの筋肉ムキムキおっさんパワーのおかげではない。情けないことに、重さだけで推定数十キロもある鎧+筋肉ムキムキおっさんボディーを長時間支えられるだけの体力は、残念ながら俺にはまだ備わっていなかった。塔に着く前から何度もへばり、そのたびに回復魔法をかけられてはクタクタになった体を超回復させて半強制的に動かしている。こうしてひたすらアメとムチを繰り返された俺の体が明日どうなるのかは今は深く考えないでおく。
ムメイさんはモブ以上にはなりたくない!#11
森の奥深くまで進むと、複雑な生え方の木が周囲を囲むようにして塔はそびえ立っていた。ムメイさんに促されるまま、木の陰から周囲の様子を伺う。
見張りは二人。俺たちと同じ形状の鎧を身に纏い、槍と盾を持っている。盾にはどこかの国のものらしきマークが書かれていた。……ということは国直属の騎士団か何か?
本当に交代命令が出たなんて理由で通してくれるのかな?簡単に通してくれそうには見えないけど。
「どうします?」
俺が訊ねるとムメイさんは小声で「呼ぶまでここで待ってろ」とだけ言い残して、塔に向かってズンズン歩いていった。
本当に大丈夫なのかなあ。
俺は内心ハラハラしながら様子を見守る。ムメイさんは塔の前に立っている二人の前までたどり着くと、何やら身振り手ぶりをしながら話しだした。……が、一分もしないうちに二人組に襲いかかり始めた。
あー、やっぱりそうなっちゃうんだ。口よりも先に手が出ちゃうか。
ムメイさん相手に健闘……はせず、鎧二人組は呆気なく地面にのびてしまった。ムメイさんは動かなくなった鎧二人組に近づいて何やら確認したり、魔法をかけたりを繰り返すと、ようやく俺のことを手招きしながら呼び出した。ムメイさんの側にはさっきの鎧の人たちが、兜を外された状態で倒れている。見るからにゴツくて手練れっぽいおじさんたち。そして大して話も聞いてもらえず、理不尽な暴力に敗れたおじさんたち。あなたたちはただ仕事を全うしていただけだというのにご愁傷様です。……明日は我が身かな。
ムメイさんは仁王立ちで倒れている二人を指差した。
「こいつら、話通じなくてめんどくせえから寝てもらった」
殴って無理やり気絶させたの間違いでは?
「誘眠魔法と併せて忘却魔法もかけてあるから、次起きた時にはただここで眠っていただけに感じるようになってるから安心しろ」
いやいやいや安心できないって。起きたら気絶してたなんて驚かないやつがいるか?そもそも二人もいてどっちも倒れてるって時点で、何かあったって勘づきそうなものだけどな。
考えていることが露骨に顔に出てしまっていたのか、ムメイさんは俺の顔を覗き込もうとした。兜と兜がぶつかってカーンと音を立てる。
「なにか不満でも?」
「いいえ」
ここで何もできない俺が言えることなど何もございません。
「そうかぁ?まあ気を取り直して……この塔なんだけどな、結構めんどくさいかもしれないぞ」
はー危ない危ない。どうにか切り抜けられたからよかった。……ていうか、え?この塔が結構めんどくさいかもしれない?そんなこと、入る前からわかるものなんだろうか。見ただけならちょっと変わった形の塔ダナーくらいにしか思わないけど。
ムメイさんは倒れている見張りの片方の腕を持ち上げてみせた。
「こいつらの鎧、魔力を外に漏らさないように特殊な加工がされてる」
へえ。外から見たらなんの変哲もないただの鎧なのに。
「特殊な加工をしなきゃいけない理由があるってことですよね」
ガシャガシャ。俺が訊ねると、ムメイさんはうんうんと頷いた。
「要は中に魔力を持ち込むとやべえってことだよ。万が一に備えて、魔力は空っぽの状態で塔に入った方が良いな」
ガシャガシャと音を立てながら、ムメイさんは塔とは逆方向に向かって歩き出した。そっちには鬱蒼とした森しかないけど、いったい何をするつもりたんだろう。
ムメイさんはわさわさと草むらをかき分けたかと思うと、その中から何かを取り出した。高々と掲げられたそれは、茶色くて長くて太くて立派な……。
てれれれってれ~!そのへんに落ちてるでけぇ木の棒~!
……ええ?木の棒?なんで?わざわざそんなものを探しに森に戻ったの?
ムメイさんは得意げに棒を振り回して見せる。動きだけならそれっぽいムメイさんが持ってると、何の変哲もないただの木の棒でもそれなりのものには……やっぱり見えないな。棒は棒だ。
「なーにがっかりしてんだよ。魔神狩りといえば武器が必要だろ?」
武器?これが?
手渡された木の棒を受け取る。これがいったいどんな武器になるというんだろう。
「今からこのただの木の棒を、どんな剣よりも硬くて強い武器にしてやるよ」
ムメイさんはガサガサと別の草むらから同じくらいの形状の木の棒を取り出すと、棒に向かって呪文を唱え始めた。
「チャージ+α p+d!」
ムメイさんの手から放たれた光が棒を包んだ。おお、なんかこの棒が変わった武器になるとか?!
俺は期待に満ちた目で様子を見守り続けていた。……が、光が集約されて現れたのは、先ほどと同じ形をしたただの木の棒でしかなかった。
ええ……?やっぱりただの木の棒じゃん。
ムメイさんは俺の手に握られていたただの棒と魔法のかかった棒を取り替えると、ただの棒に向かって同じように魔法をかけ始めた。
これが本当にどんな剣よりも硬くて強い武器だって?
木の棒のあちこちを確認してみても、特に変わったところはない。でも本当にこれが武器になったというなら。
俺は両手で木の棒を握りしめた。目標は目の前の木。鎧で動きづらいけど、大きく振りかぶって……えいやッ!
スイカ割りの棒の要領で振ってみると、木の太い幹の真ん中あたりに棒は当たった。この太さに対してこの棒の細さなら、この一撃だけで棒の方が木っ端微塵になる……はずだった。
ミシミシミシ……。木は音を立てながら縦に裂けた。えっ、すごい綺麗に真っ二つに裂けてる。本当に俺がこれをやったのか?しかも一振りで?
恐る恐る握りしめたままの棒を見る。
「うそ……」
手で握っていた棒は、折れるどころか傷一つ残っていなかった。信じられない。見た目はただの棒のままなのに、ただ振り下ろしただけで木を裂いてしまうほどの威力が秘められているなんて。
「バカ!」
ムメイさんに後ろからグーで兜を殴られた。手加減はしてくれてるんだろうけど、殴られた衝撃でぐわんぐわんと兜が揺れる。
「余計なことをするんじゃねえ!今の音を聞きつけた騎士団どもがやって来たらどうするつもりなんだよ」
ごもっともです。ここはまだ塔の近くなんでした。
「すいませんでした」
俺は深く頭を下げた。
ムメイさんの言う通りだ。見張りが塔の前の二人だけとは限らないし、リスクのあることはしないほうがいい。
「わかれば良いんだよ。でもさっきの一発で、もうこれがただの木の棒じゃないってわかっただろ?なんせ魔法で私の攻撃力と防御力をたっぷり分け与えた特別製だからな」
なるほど。そりゃあ、一撃で木を裂けるくらい強いわけだ。
「さて武器が手に入ったことだし、あとは変身魔法を解いてこれをつけるだけだな」
ムメイさんは俺たちにかけた変身魔法を解いた。俺たちの姿が一瞬でいつもの見慣れた使用人の服とメイド服に戻る。おっさん二人旅はどうにか免れたらしい。やっぱりいつもの世界観がいちばんだよな、うん。
「んー、アレはどこだ。アレアレ」
アレアレ言ってるムメイさんは、今度はゴソゴソとメイド服のスカートのポケットの中を探っているようだった。
アレって何だ。今度はそのアレとやらで何をするつもりなんだろ。
「あったあった」
ムメイさんはポケットから取り出したものを、そのまま俺の腕に付けた。
ガシャン。
右腕にはめられた銀色の輪。さらにチェーンで繋いであるもう一つの銀色の輪を、今度は自分の腕にはめてみせる。これは見覚えがあるぞ。刑事ドラマでよく見るあれだあれ。
「あの、それって手錠ですよね?」
タイホーッ!
繋がれた腕をぶらんと持ち上げる。同時にもう片方に繋がれたムメイさんの腕がだらりと持ち上がる。
「そうだけど?もちろん、ただの手錠じゃないけどな」
でしょうね。ただの手錠だったなら、この場でわざわざ繋ぐ意味がわからない。
「これはとあるツテから入手した魔法道具だ。最初にこのアイテムを取り付けたやつのスキルをつけた相手も共有することができる」
へえ。じゃあ今の俺のスキルをムメイさんも共有してる事になるのか。だとすると……
「でも俺のスキルって何なんですか?」
だってそうだろ?必然的にムメイさんは俺のスキルを知ってることになる。わざわざ俺をここまで連れてきた理由もたぶんそこにあるんだろう。あの塔の攻略に必要な何かが、俺のスキルにあるんだ。
「あー、えっと……それなんだけどさあ」
ムメイさんは気まずそうに俺から目を逸らした。
「知らない方が幸せってこともあるからさ。お前にとっては知らない方がマシかもよ」
知らない方がマシなスキルってなんなの……?もしかして俺って気づいてないだけで、とっくにそういう異能力に目覚めてたりするのかな?ムメイさん曰く「知らない方がマシ」だとしても。
「まあ、私からしたら羨ましいくらいのスキルだけどな!元気出せよ!」
励ましなのかそれは……?ていうか俺、なんで自分のスキルの内容もわからないままこんなにディスられてるの?
「あ!あとこれもかけとかないとな」
ムメイさんはまた右手をポケットの中につっこんだ。次から次へと今度はどんなアイテムが?てか明らかにそのポッケに入る量じゃないよな。ドラえもんかよ。
ムメイさんは器用に手探りで何かを探し出すと、ポケットの中からそれを取り出してみせた。
てれれれってれ~……って、なんだこれ?何も見えないけど?
ムメイさんはまるで大きな布でも被せるように、俺の頭に何かを被せてみせた。被せられてみてやっとわかったけど、これは……なんかのベール?
「何にも見えないんですけど、何ですかこれ」
俺が訊ねると、ムメイさんは器用に右手で自分の方にもベールのような何かを広げてかけながら言った。
「これは……確かどこかのダンジョンの宝物庫にあった布でな。被ると周りから見えなくなるんだ。便利だよな」
どこかのダンジョンの宝物庫にあった布?!それって明らかに勇者用に用意されてた超レアアイテムかなにかだよな?!
思わずムメイさんのことをガン見してしまった。顔はよく見ると美人……いや、かなり美人な方。服装やら髪型はそこら辺にいるいたって普通のメイドさん。
ていうかこの人、飛び抜けた能力やら魔法やら以外にも、普通のメイドさんが持ってるようなものじゃない、すごいやばいものを持ってるよな?今、手につけてるスキルを共有できる魔法道具も、とあるツテから入手したとか言ってたし。とあるツテって何だよ。「裏社会と繋がりがあります」とか言われてももう驚かないからな。
それにしてもこの人、本当に何者なんだ……?
ムメイさんは布をかぶせ終えると、さっきの棒を持って立ち上がった。腕を引っ張られ、俺も左手で棒を掴んで立ち上がる。
「ほら!準備も済んだことだし行こうぜ!」
ムメイさんは手錠をした方の俺の手を握りながら、塔に向かって歩き始めた。……え?なんで手?
ムメイさんは振り返らずに言った。
「手でも繋いでおかないとさ、この布小さいから少しでも体がはみ出たら他の人に姿が見えちゃうだろ」
「え?!じゃあ、布かぶってる間はずっと繋いだまま?!」
「なんか文句ある?」
ムメイさんは立ち止まると、俺の方へとズイッと詰め寄った。布を被ってるし、手錠をしてるから離れられないとはいえ、さすがに近い!
「ない……です」
「だよな?まあ、ちょっとの間だけだからさ。我慢してろよ」
言い終えるなり塔の方に向き直ると、ムメイさんは再び歩き始めた。なんで今さらラブコメフラグが立ち始めてるんだ?この世界はいったい何ジャンルなんだ……?
相変わらず気絶……スヤスヤと寝息を立てている鎧の男たちの側を通り抜けて、俺たちは塔の扉の前に立った。
この中に何があるのか。そして、魔神の目覚めが早まった原因がどこにあるのか。……それら全てはこの冒険が終わる頃には明らかになっていることだろう。
ムメイさんが扉に手をかけると、ギギギと重苦しい音を立てて扉が開いた。息を呑むような緊張感。その中へ、俺たちは足を踏み入れていく。
ーーいざ、西の果ての魔神の塔へ。
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