上 下
10 / 20
ルイキの休日、行き先はまさかの魔神狩り?

ムメイさんはモブ以上にはなりたくない!#10

しおりを挟む
うつらうつらと夢の中。どんなに平凡な日々だろうと、毎日肉体労働をしてれば体だってそれなりに疲れてくるわけで。カーテンから漏れた光がまぶた越しに映る。もう日は昇っている時間だということがわかる。でも今日はせっかくの休日だ。一日中寝てたって許されるに決まっている。
寝返りを打って、頭から布団をかぶる。まだ眠い。今日は一日、睡眠に勤しむんだ。太陽の光ごときにそれを邪魔されてたまるか。
「なんだ。もう昼になるのにまだ寝てるのか」
そうだよ。俺はまだまだ寝るんだよ……って、は?
俺は慌てて飛び起きた。重いまぶたをゴシゴシと擦って、声がした方へ目を向ける。俺のベッド横に腕を組んで立っていたのは……。
「ムメイさん?!?!な、なななな、なんでいるの?!」
俺の部屋になぜムメイさんがいる?!寝ぼけた頭で考えてみても、納得できる答えはちっとも思いつかなかった。
ムメイさんは俺がはくはくと口をさせている様子を呆れた顔で見下ろしている。
「なんでも何も、お前だって知ってるだろ?転送魔法で来た」
チャリで来たみたいに言うな。起きたらあんたが俺の部屋にいる理由なんか知らんわそんなの。
ムメイさんは俺の足元を通り過ぎると、カーテンを開いた。うっ、眩しい。きっと吸血鬼だったら一瞬で灰になってる。
部屋の中を舞う埃が太陽の光を反射してキラキラと輝く。ムメイさんは部屋の中を一瞥して顔を顰めると、窓の鍵に手を掛けた。窓が開かれた瞬間に、部屋に爽やかな風が入り込む。
「お前の部屋、埃っぽい。換気しろよ、換気。あと掃除な」
ムメイさんはまるで汚いものでも触ったかのように、窓の外で手を払った。
埃っぽくて悪かったな。あと勝手に人の部屋に入り込んでおいて文句を言うな。
あーあ。せっかくの二度寝モードだったのに、完全に目が冴えてしまった。太陽の光どころか、もっととんでもないのに睡眠妨害されたもんだ。
パジャマ姿のままベッドで胡座をかいて座っている俺の横に、ムメイさんは腕を組んだまま腰掛けた。
「お前今日休みだったよな?」
「休みですけど」
ふわあと大あくびする。目が冴えてるとはいえ、体はまだ睡眠を欲しているらしい。その体のだるささえも、次の瞬間には吹っ飛ぶことになるけど。
「魔神狩り行くからついて来い」
「……は?魔神狩り?」

ムメイさんはモブ以上にはなりたくない!#10

思わず聞き返してしまった。
「一狩り行こうぜ!」みたいなノリでなんてとんでもないことを言ってるの?この人は。
「そうだ。魔神狩りだ」
ムメイさんはポケットからごそごそと何かを取り出すと、何やら懐中時計のようなものを取り出した。
「これを見ろ」
早速、取り出した懐中時計のようなものを開いて俺に見せる。わあ、やっと異世界っぽいグッズが出てきたな。金色のコーティングに鎖がついていて、見た目はただの懐中時計のように見える。でもこうして映像が映し出されているってことは、ただの懐中時計ではないんだろうな。
懐中時計には時計の代わりに、どこかの塔らしき建物が写っていた。塔というか、螺旋形の大きな蕾のようにも見える。いかにも何か封じられてそう。
「なんか建物が見えますね。どこですかここ」
「西の果てにある塔の一つだ。ここに魔神が封印されている。何もなければ本来は数千年は余裕で封印されているが、ここ数週間でなぜかいきなりその期間が縮まってな。完全に封印が解ける前に早めに原因を究明して、排除しておきたい」
封じられている魔神が目覚めそう?なんかいきなり異世界転生もののラノベらしくなってきたな!数千年単位って言ったら、RPG系のゲームなら勇者がカンスト近くまでレベルを上げて、蘇生魔法が使えるヒーラーとかなんかでかいやつを出して攻撃する魔法使いとか、それなりのパーティーを組んで挑むレベルじゃないの?!
……だからこそ疑問に思う。
「でもなぜ魔神狩りに俺が必要なんですか?」
ムメイさんみたいな超人と、まだ何の能力にも目覚めてなくて簡単な魔法すらも使えない弱……正直認めたくないけど超弱い俺。ムメイさんみたいに強い人ならまだしも、どう考えても、俺みたいなのがいたら足でまといじゃん。
複雑な俺の心境などつゆ知らず、ムメイさんは顎に手を当てながらキョトンとした顔で言った。
「う~む……なんというか、行けばわかる?」
なんだ行けばわかるって!
この前の長ったらしい説明の時も思ったけど、もしかしなくてもこの人説明下手なのか?!「なんて説明したらいいのか……」とまだ首を傾げてるムメイさんの姿を見ていたら、頭の中でぐちゃぐちゃ考えてたのがアホらしくなってきた。
ちょうど異世界に来て、ただスローライフを送ってばかりじゃつまらないと思ってたとこだ。こんな弱いままの俺が魔神が封印されてるやばいとこに挑むなんて無謀かもしれないけど、最強のメイドと一緒ならどうにかなる気もする。それにやっと手の届くところにやってきた冒険にこの湧き立つようにワクワクした気持ちが隠せない。
「わかりました。俺でよければ!」
俺がそう言った瞬間にムメイさんは眉間の皺を緩ませて、自分の両手をきゅっと握った。
「そう言ってくれてよかった。手荒な真似をしないで済んだしな」
手荒な真似って何?!もし断ってたら俺、何されるところだったの?!
……さすがに怖くて聞き返せなかった。結局のところ、はじめてのおつかい事件同様に「はい」か「Yes」の二択だったんじゃないか。最初からそのつもりだったなら、俺の葛藤の時間を返して……!



さて。どちらにしろ、出かけるならこのパジャマ姿ではどこにも行けない。準備をさせてもらうことにしよう。
「ムメイさん。とりあえず身支度を済ませちゃうんで、少しお待ちいただいても……」
「それならいらないぞ」
ムメイさんは食い気味に答えると、魔法を唱え始めた。
「メイクオーバー+α tunmenks!」
呪文を唱え始めた瞬間に着ていたパジャマが、みるみるうちに鎧へと変わっていく。腕を上げただけで鉄と鉄がぶつかってガシャガシャと音を立てる。視界が兜で遮られて狭くなる。おお、これはすごいぞ。俺はなんだか楽しくなってきて、腕や足をパタパタと動かした。動かすたびにガシャガシャ音がする。
「何はしゃいんでるんだよ。ガシャガシャガシャガシャうるせえな」
どちらさま?
思わず俺はそう言いかけた。だって隣にいたのは口調がムメイさんだけど鎧を着たムキムキマッチョで、髭がモジャモジャのむさ苦しいおっさんだったから。ていうか声もおっさんみたいになってるし。
「とりあえず塔の前にいた奴らと同じ格好にしといた。中に入るときは、交代を命じられたという設定で話を進めるぞ」
「は、はあ」
うわっ。声低っ!俺もまだ自分の姿こそ確認してないけど、むさ苦しいおっさんになってるのかもしれないなあ。
はあ、おっさんに変身して魔神狩りしに行く休日っていったいなんなんだよ。もっと流行りの異世界転生もののファンタジーってさあ、イケメンとか美女が剣振り回したり魔法使ったりしながら冒険したりするものじゃないの?なんでおっさん二人で魔神狩りなの?誰が喜ぶの?
しかも鎧ってすごい蒸れるんだなあ。風通しは悪いし自分の体温でじっとりしてる。今は窓から入ってくる風が鎧の隙間から入り込んできてくれるからどうにかなってるけどさ。
ムメイさんはそんなことを考えている俺の気なんかお構いなしに、ベッドから立ち上がると俺の手を握った。ガシャンガシャンガシャン。一動作するごとにガシャンと音を立てる。
わかったよ。いつまでもこうしてるわけにもいかないしな。身支度は済んだし、あとは戸締りだけ……。
「さあ、着替えも済んだからそろそろ出かけよう。テレポート+α nsnhtnmjnn……」
「待っ……」
て、戸締まりが~!!
言い終えるよりも早く、俺はムメイさんの魔法にかかる。
魔法がかかる寸前、風でバタバタとはためくカーテンが見えた。電気がついていない真っ暗で誰もいない部屋、風ではためくカーテン、窓以外は全て閉められた鍵。今、俺の部屋を訪ねて来る人がいたとしたら、きっと俺は何者かに誘拐されたと思われることだろう。こんな時だけ、俺のモブ力が生かされて誰にも気づかれないことを願う。……って、モブ力ってなんだ。うるせえ。

こうして俺の貴重な休日は「おっさん二人が行く!魔神狩りの旅」に溶けていくことが決まったのです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

プリンセスクロッサー勇と王王姫纏いて魔王軍に挑む

兵郎桜花
ファンタジー
勇者になってもてたい少年イサミは王城を救ったことをきっかけに伝説の勇者と言われ姫とまぐわう運命を辿ると言われ魔王軍と戦うことになる。姫アステリアと隣国の王女クリム、幼馴染貴族のリンネや騎士学校の先輩エルハと婚約し彼女達王女の力を鎧として纏う。王になりたい少年王我は世界を支配することでよりよい世界を作ろうとする。そんな時殺戮を望む壊羅と戦うことになる。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

処理中です...