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小動物系ロリメイド、アン登場!

ムメイさんはモブ以上にはなりたくない!#4

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やっと俺にも春が来る~!!
俺は浮かれに浮かれまくっていた。
だって俺は異世界転生者なんだぞ?!男主人公の異世界転生もののラノベのイベントって言ったら、本来ならかわいい女の子となんか色々あってヒロインフラグが立つものなんだよ!むさくるしい男たちに拉致されて殺されかけたり、超人メイドに脅されて迫られたりなんて異世界転生もののラノベらしさのかけらもない!
突然異世界に転生したと思ったらチート級の能力に目覚めたり、かわいい女の子がヒロインとして登場したり……それこそ女の子にモテモテになってハーレム展開になったり!異世界転生もののラノベは、やっぱりこうでなくっちゃ!そんなこんなでやっとラノベらしいイベントが発生するわけです。
なんと!あの後お嬢さんから焼き芋をする許可が出たらしく、今から俺と小さくてかわいいロリメイドさんの二人で街まで買い物に行くことになったのです。

ムメイさんはモブ以上にはなりたくない!#4

女の子と二人きりでお買い物。そう、それはすなわちデートイベントと言っても過言ではない。買い物の内容は焼き芋用の芋という色気も何もないものだけれど。
「あの~」
え?お前、はじめてのおつかい事件の時に超人メイドと二人きりで街に来たろって?あんなのはデートとは言わん。ノーカンだノーカン。
「ルイキさん?」
「ふあっ?!どうしました?!」
「いえ。特に何もないんですけど、なんか考え事かなにかされてるようでしたから……」
アンさんはふわふわの三つ編みをいじりながら言った。あ、アンさんっていうのはあの小さなメイドさんのことね。三つ編みに素朴な顔立ちのゆるふわ森ガール系の。
いやー、危ない危ない。アンさんが目の前にいるのに完全に自分の世界に入ってしまってた。
注文してあった芋一箱を引き取りに街まで来たついでにおやつでも食べて帰ろうって話になって、アンさんお気に入りのお店にお邪魔させていただいていたところなんだった。アンさん曰く「お買い物に付き合ってくれたお礼に、ぜひともご馳走させてください!」だそうで。
そんなに気を遣わなくたっていいのになあ。でもアンさんおすすめの店主の奥さんが焼いてくれる絶品アップルパイはちょっと気になる気がする。だって、厨房から漂ってくるシロップでリンゴを煮詰めるあま~い香りだけでも、出来上がるパイが絶対に美味しいってわかるから。
パイが焼けるまで俺たちは対面のテーブル席で紅茶を啜りながら待っていた。アンさんはカップの中身がなくなるたびに、恭しく紅茶を淹れてくれる。その所作が彼女が屋敷のメイドだということを思い出させる。
普段の彼女は年相応……と言っても実際の年齢は知らないけど、とてとてと歩く姿や柔らかく笑う表情があどけない少女のようだし、その姿はメイドとして屋敷に雇われてなかったら、まだランドセルを背負って小学校に通っているくらいの歳の女の子を彷彿とさせる。そんな彼女も、紅茶を淹れる姿はめちゃくちゃ様になっているわけで。ただティーポットから紅茶を注いでいるだけなのに、その姿が上品で美しい。
けれど、さっきから彼女はどことなく落ち着きがないようだった。足をパタパタと忙しなく揺らしたり、何度も自分の三つ編みをもふもふしてみたり、俺の様子をちらちらと覗ったり。考え事をしてるのはアンさんの方なんじゃ……?
「あの!ルイキさん!ずっと言いたいこと……ううん、言わなくちゃいけないことがあったんです」
アンさんは前のめり気味に俺に迫った。テーブルに手をついた勢いで紅茶の入ったカップが揺れる。彼女の目は涙でたっぷりと潤んで今にもこぼれ落ちそうだった。
俺に言わなくちゃいけないこと?急にどうしたんだろう。まさか告白イベント……?いや、そういう空気ではないか。
アンさんは涙をハンカチで拭うと、深呼吸をして両手をぎゅっと握りしめた。
「ぼく、あなたの秘密を知ってるんです」
「秘密……?」
アンさんの口から告げられた一言に、俺は自分の耳を疑うことになる。
「ルイキさん、あなたも異世界転生者なのでしょう?」
「えっ……?」
なんで俺が異世界転生者って知ってるんだ?ていうか……
「アンさんも異世界転生者だったんですか?!」
「えっ?」
アンさんは困惑した表情を浮かべた。
「だって今、あなた"も"って言ったでしょう?ということはアンさん、あなたも異世界転生者なんでしょう?」
「あっ……えーっと……」
アンさんは目を逸らして狼狽えた。それから三つ編みを両手で握りしめながら俯いてしまった。
まさか自分が転生者ってことまではバラす気がなかった?
アンさんは目を泳がせ、何か言いたげに口をはくはくさせた。それから観念したように、握りしめていた三つ編みの中に顔を埋めた。そして、消え入りそうな声で言った。
「そうです……ぼくは異世界転生者なんです。たぶんだけど、あなたと同じ世界からやってきた……」
アンさんが異世界転生者……?しかも俺と同じ世界からやってきた……?
「アンさん、顔を上げてください」
俺がそう言うと、アンさんはゆっくりと顔を上げた。今にも泣き出しそうな顔でぷるぷると震えている。固く握りしめられたままのアンさんの両手を包み込むように、俺は手を握った。
「教えてくださりありがとうございます。俺、嬉しいです!同じ世界の出身者とこんなとこで会えるなんて思わなかった!」
忖度とかじゃなくて言葉通り、本心で嬉しかった。
だって突然知らない世界に放り出されて、心細くないわけがない。行くあても、衣食住の保証も、この世界で何をすれば良いのか何もかもわからなかった。今だってそんなのほとんどわからないままだけど。
でも同じような境遇の人が、ましてや、仲良くなった女の子がそうだったなんてわかって嬉しくないわけがないだろ。
「ほ、本当に……?」
「当たり前じゃないですか!この広い世界で同じ世界から来た人と出会えたんですよ?すごいことだと思いませんか?」
俺は目を真っ直ぐに見つめて言った。アンさんの瞳に映る俺の姿が揺れて、洪水のように涙がこぼれだした。
「うあ~ん!ずっと心細かったよぉ~!」
アンさんはまるで幼い子どものようにわあわあと泣いた。
そうだよな。アンさんだって、きっと今まで一人で頑張ってきたんだ。見知らぬ土地で、たった一人で。
「ルイキさんなんでそんなに優しいんですかぁ?!ぼくトロいしどんくさいから仕事も失敗ばっかで、どこに行っても疎まれてきたのに、ルイキさんは見捨てもせず手を差し伸べてくれるし!」
あうあう!アンさん、そんなに襟首引っ張って振り回さないで!頭がクラクラする!
ていうかそんなに褒め倒されると、こっちが照れるんだけど?
「え、え~……?だって最初から完璧にできる人なんかいないし、みんなで手伝ったほうが早く終わるし……」
「そういうところが優しいの~!」
あうあうあう!そんなに激しく揺さぶられたら酔う!酔うって!
アンさんはいったい、どれだけ大変な目にあってきたんだろ。そんなにわあわあ泣き出してしまうくらい、大変な思いをしてきたのかな。なんか褒めてあげたくなっちゃうな。
……あれ?ていうか、ここ室内だったよな?空にたくさん星が見えてきた気が?
「アンちゃん!お兄さん離してあげて!気を失っちゃう!」
「へ?」
店主さんの手で俺たちは引き剥がされたらしい。
揺れが収まってもまだ、くわんくわんとゆっくり揺れる振り子のように体が揺れているように感じる。
「うわわわわ!ごめんなさい!!」
甘いリンゴと焦がしたバターとパイが焼ける香ばしい香りに包まれて、頭もふわふわしてなんだか幸せな気持ち……のまま、俺は少しだけ気を失ったらしかった。



「~さん。……~キさん!」
んん?誰か俺のこと読んでる?ていうかあれ?俺はどうして寝てるんだっけ?……まあいいか。頭を乗せている柔らかくてふわふわした何かは気持ちいいし、甘いお菓子の香りに包まれて幸せな気分なんだ。もうちょっと寝るくらい許してもらえるだろう。寝返りを打った瞬間に、枕はもぞもぞと揺れた。
「ルイキさん?」
女の人の声と共に俺の上に影が落ちる。あれ?この声はアンさん?ていうか、もしかしてこれは枕じゃない……?
恐る恐る目を開くと、俺の顔を覗き込んでいるアンさんと目が合った。彼女はふわふわとした笑顔で微笑む。
「よかったあ。目が覚めたんですね。ルイキさん、気を失ってしまったので、二階で休ませていただいていたところで……」
「は?!え?!なに?!?」
目の前に飛び込む彼女の笑顔と、頭の下に敷かれたやわらかい太ももと、迫ってくるおっぱ……。
「いっっ!!!!?」
「ひゃっ!」
俺が驚いて起き上がった瞬間に、アンさんは勢いよく仰け反った。一歩間違えたらアンさんの額に思いっきり頭突きしてたかもしれなかったから、ぶつからなくてよかった……けど。今のアンさんの動きには違和感があった。
失礼ながら、いつもの様子を見た限りでは、アンさんがあの場で反射的に避けることが出来るとは到底思えなかった。というよりもあの動き、まるで、あのタイミングで俺が起き上がることをわかっていたみたいな……。
「今、なんでぼくが避けられたのか不思議に思ったんでしょう?」
俺は口をつぐんだ。
図星だった。
「そもそも、なぜぼくがルイキさんが異世界転生者であることを知っていたのか。不思議に思いませんでしたか?」
思わずごくりと唾を飲み込んだ。
そうだ。そうだった。この人は俺が異世界転生者であることを話してもいないのになぜか知っている。というか、ここは異世界なんだ。誰がどんな能力を持っているかわからない。転生前の世界の常識が通じない世界。もしかしたらアンさんだって、あの超人メイドみたいにおかしな能力を持っている人かもしれないんだ。
さっきまでのふわふわした雰囲気のアンさんと同じ人とは思えなかった。本当にアンさんは俺と同じ世界からやってきた異世界転生者なんだろうか。もしかして本当は俺が異世界転生者だと確認したかっただけで、やっぱりただの異世界転生者じゃないんじゃ……?
「……って意味深な言い方するとちょっと黒幕っぽいですよね」
アンさんはくすくすとおかしそうに笑った。
な、なんだ。冗談か。びっくりした。
「は~、焦らせないでくださいよ」
「でもね、ただの異世界転生者でもないです。それは本当」
アンさんはイタズラっぽい笑顔を浮かべた。
あのさあ、ニコニコと笑いながら言ってるけどさあ。なんなの!なんでサラッと言うのそういうこと!!俺を弄んで楽しんでるの?!
俺は改めてアンさんの方に向き直って座った。小さくて小動物みたいにかわいい、でもただのメイドさんではない。俺と同じ世界からやってきた異世界転生者。
「じゃあ、アンさんはなぜ知っていたんですか?俺が異世界転生者であること、あのタイミングで俺が起き上がること」
「それはね……」
アンさんは両手を合わせてやわらかく微笑んだ。
「夢で見たから。……ぼく、予知夢を見ることが出来るんです」
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