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「んなわけねーだろ。お前の眼鏡どう見ても普通のめがねだし、あんなグロいのをお前がAR用のデバイス購入してまで視たがるとも思えん。」
「あ、はは、は……。」
「何なんだあれ?……俺まだ何にも説明してなかったのに、お前が〝グロいの〟って先に言ったんだからな。お前にも視えてる、ってことだよな?」
「え、えーと、」
どう話を反らすか思い巡らしていると、倖がやおらりんの掴んでいた手の中から眼鏡をむしり取ろうとしてきた。
「ちょっ、倖くん!」
慌てて眼鏡を上にあげ倖から遠ざける。すると倖は更に身を乗り出して手を伸ばしてきた。
取られてなるものかと思い切り後ろに手をのばし、ふと、眼前にある倖の顔に気づいた。倖はムッとした表情でりんに思い切り近づいて上へと伸び上がっている。眉間に皺を寄せて眼鏡だけを睨みつけていた。
近い。
近すぎる。
鼻が触れそう。
吐息が、かかる。
シャンプーの香りだろうか。
倖からいい匂いがフワリと香った。
りんの視線に気づいた倖が、りんを見た。
至近距離で倖と目が合い動揺したりんが、更に後ろへと仰け反る。そうしてそのままバランスを崩してゆっくりと後ろへと倒れ込んだ。
頭、打つ、かも、とギュッとりんは目をつむった。
「……っぶね、」
倒れ込んだ衝撃はあったが大してどこも痛くなかった。うっすらと目を開けてみれば、金色の髪がりんの頬をくすぐり、すぐ横に広がっているのが見えた。
頭も背中も痛みはそうない。
それもそのはずだ。
後頭部は倖の右手が。
背中には左手がまわっている。
りんは押し倒されたような体勢で倖にがっちりと抱きかかえられていた。
声を上げかけて、視界が歪んでいるのに気づき、わたわたとずれ落ちかかっている眼鏡を正しく装着した。
「あ、あぶっ、な」
思わず声に出して呻く。
危なかった。
眼鏡を両手で囲いながら、ほぅ、と安堵の吐息を漏らすと、顔をあげた倖と視線が合った。
両手でしっかりホールドされたままなので、やはりかなり近い距離で。
倖はしごく真面目な顔でりんを見ていたかと思うと、やおら顔を逸らし舌打ちをしてりんを起こしてくれた。
りんは慌てて眼鏡から手を離すと、自分の力で体勢を立て直し衣服の乱れを整える。そうして離れた倖をじっとりと見返した。
「……倖くん、眼鏡ずれたとこ見逃した、とか思ってますね?」
「何言ってんだ思ってねぇよ。」
「でも、まぁ、あの、……ありがとうございました。」
そう、ぼそぼそと呟いて礼を言った。顔が赤くなっている自覚があるので、自然と俯いてしまうのは仕方がない。
異性と至近距離で相対することなどこれまでなかった。そもそもそういったことに関しての免疫というものがないのだ。
「あ、はは、は……。」
「何なんだあれ?……俺まだ何にも説明してなかったのに、お前が〝グロいの〟って先に言ったんだからな。お前にも視えてる、ってことだよな?」
「え、えーと、」
どう話を反らすか思い巡らしていると、倖がやおらりんの掴んでいた手の中から眼鏡をむしり取ろうとしてきた。
「ちょっ、倖くん!」
慌てて眼鏡を上にあげ倖から遠ざける。すると倖は更に身を乗り出して手を伸ばしてきた。
取られてなるものかと思い切り後ろに手をのばし、ふと、眼前にある倖の顔に気づいた。倖はムッとした表情でりんに思い切り近づいて上へと伸び上がっている。眉間に皺を寄せて眼鏡だけを睨みつけていた。
近い。
近すぎる。
鼻が触れそう。
吐息が、かかる。
シャンプーの香りだろうか。
倖からいい匂いがフワリと香った。
りんの視線に気づいた倖が、りんを見た。
至近距離で倖と目が合い動揺したりんが、更に後ろへと仰け反る。そうしてそのままバランスを崩してゆっくりと後ろへと倒れ込んだ。
頭、打つ、かも、とギュッとりんは目をつむった。
「……っぶね、」
倒れ込んだ衝撃はあったが大してどこも痛くなかった。うっすらと目を開けてみれば、金色の髪がりんの頬をくすぐり、すぐ横に広がっているのが見えた。
頭も背中も痛みはそうない。
それもそのはずだ。
後頭部は倖の右手が。
背中には左手がまわっている。
りんは押し倒されたような体勢で倖にがっちりと抱きかかえられていた。
声を上げかけて、視界が歪んでいるのに気づき、わたわたとずれ落ちかかっている眼鏡を正しく装着した。
「あ、あぶっ、な」
思わず声に出して呻く。
危なかった。
眼鏡を両手で囲いながら、ほぅ、と安堵の吐息を漏らすと、顔をあげた倖と視線が合った。
両手でしっかりホールドされたままなので、やはりかなり近い距離で。
倖はしごく真面目な顔でりんを見ていたかと思うと、やおら顔を逸らし舌打ちをしてりんを起こしてくれた。
りんは慌てて眼鏡から手を離すと、自分の力で体勢を立て直し衣服の乱れを整える。そうして離れた倖をじっとりと見返した。
「……倖くん、眼鏡ずれたとこ見逃した、とか思ってますね?」
「何言ってんだ思ってねぇよ。」
「でも、まぁ、あの、……ありがとうございました。」
そう、ぼそぼそと呟いて礼を言った。顔が赤くなっている自覚があるので、自然と俯いてしまうのは仕方がない。
異性と至近距離で相対することなどこれまでなかった。そもそもそういったことに関しての免疫というものがないのだ。
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