青の季節

rie1215

文字の大きさ
上 下
3 / 6

第3章―生きる自信も死ぬ勇気もなくー

しおりを挟む
ボクはキミを連れて またあの病院に来ていたんだ。
いやな予感がはずれてほしいと願って…
ボクのココロの中に ちょっとだけ…
ナニカが引っかかったような気がしてたから

「立花さん どうぞー」
「ここに座って 待っててな」
「うん」
尚緒は綾夏の頭をクシャってやって 診察室に入った。

「アルツハイマー症痴呆だね… キミはお兄さんだっけ?
この名前くらい聞いたことあるでしょ?少し説明しようか…」
「お願いします」
「この病気は主に女性に多く、物忘れの自覚が失われ、
神経病状が現れる例も少なくないんです
で、最終的に脳全体がおかされてしまいます」
「そしたらどうなるんですか?」

ボクはおそる おそる 医師に聞いてみた

「身体機能も低下して寝たきりになってしまいます…
だから 覚悟をしていた方がよろしいかと…」
「でも…何かあるでしょう?治療法とか…」
「残念だけど病状を回復ような治療法はないんだよ…
病状の進行を抑える為の脳循環改善薬や血管拡張剤を使用したりはするけど…」
「そうですか…」

(オレのせいだ オレのせいで綾夏は…っ!!)
診察室から出てきた尚緒にそっと綾夏は近づいた。
「どうしたの 尚緒兄ぃ…」
心配そうに尚緒の顔を覗き込んだ。
「……っ!!ごめんな 綾夏っ…」
「どっ… どうしたの?いきなり…」

知ってる…? キミは、自分の病気(こと)を――――――…

「…え? また… ですか……?」
「今度は別の場所に腫瘍が見つかってね…」
「……っ」

何て言っていいのか
その時は言葉も出なかった
生きる自信を失ってしまったから
死が近づいてるボクと
自分が誰だか分からなくなっていくキミと2人で
どうやって生きていけばいいのか
わからなかったんだ――――――…

重い鉄の扉を開けて屋上に出ると、洗濯物のシーツがはためいていた。

ボクは靴を脱ぎ遺書をそこに置いた
そう ボクはキミと一緒に死ぬ事を決めた…

「尚緒兄ぃ 何してるの?」
状況が把握出来てない綾夏は笑って言った。
「綾夏……」

その何も知らない笑顔は
命を絶とうとした このボクを引き止めた

「ごめん!ごめんな――――っ!!」
お湯みたいな涙が、瞳(め)からこぼれ出し、尚緒は泣き叫んだ。

少しずつ 少しずつ…
記憶を失っていくキミは
それでも ボクを看病してくれたんだ

そう 一度も
自分がアルツハイマーに侵されているなんて
気づくこともなく――――――――――――…


限られた時間がココロでしか見えない



”青の季節”







キミの病状は見えないところで
じっくりとじんわりと確実に進行していたんだ


to next→
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

怪異・おもらししないと出られない部屋

紫藤百零
大衆娯楽
「怪異・おもらししないと出られない部屋」に閉じ込められた3人の少女。 ギャルのマリン、部活少女湊、知的眼鏡の凪沙。 こんな条件飲めるわけがない! だけど、これ以外に脱出方法は見つからなくて……。 強固なルールに支配された領域で、我慢比べが始まる。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

生意気な女の子久しぶりのお仕置き

恩知らずなわんこ
現代文学
久しくお仕置きを受けていなかった女の子彩花はすっかり調子に乗っていた。そんな彩花はある事から久しぶりに厳しいお仕置きを受けてしまう。

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...