青の季節

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青の季節 第1章ーはじまりは…ー

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ボクはその瞳に空の色を映した

時は止まったまま キミはボクを置き去りにした
あの日は輝いたままなのに…
両親が事故で死んで十何年
それ以来 親代わりで キミの面倒を見てきた
これからはずっと一緒だねと誓った。
けど……

「はい 尚緒兄ぃ お弁当」
廊下を駆けていく後姿。
「いつも サンキューな 綾夏」
「ほーらっ早くしないと仕事遅れるよ」
「じゃあ行ってくるな!お前も遅刻するなよっ」
尚緒は全速力で走り出した。
「行ってらっしゃーいっ」
大きく手を振って見送る綾夏。

そのまま 何も知らずに過ごしてきたんだ
だけど―――…
それはある日突然 ボクに降りそそいだ
「まさか自分が」と思う時って
こんな時なのかもしれない……

ボクは会社で受けた精密検査の結果を聞く為に
消毒臭い病院を訪れていた

「…ガン…です」
…って、

(…え?)

その時、ボクはとっさに医師の言葉が理解できなかったんだ
聞きちがいだろう…って思ったから

「胃ガンです…」
目の前が暗くなって息がつまる。
「…ガン…」
「まぁ見つけたのが早かったから 摘出すれば完治もするし
何も心配はいらないよ 手術もそんなに時間はかからないものだよ」
「……。」

「ただいま…」
「おかえり!どうだった?検査の結果」
―――綾夏は笑って言った。

―――――――――――――――…
「え―――…? 何…それ…」
綾夏は頭から血の毛が引いてあ然とした。
「大丈夫だって 先生も手術はすぐ終わるって言ってたからさ」
あ然とする綾夏をリビングに一人残してその場を後にした。
「尚緒兄ぃが…ガン…どうしよう…尚緒兄ぃが死んじゃう!
死んじゃうよ―――っ!!」

―――…
綾夏は声をあげて泣いた。
小さい子供みたいに、わんわん声をあげて。

その日から…
そう 少しずつ 何かが変わり始めたんだ

尚緒はベッドで手術室へと運ばれていた。
「尚緒兄ぃ!がんばって あたし…あたし…。」
「わかってる」
綾夏の頭をポンっとたたいて尚緒は手術室に消えて行った。

(どうか神さま… お父さん、お母さん 尚緒兄ぃをお救い下さい)

手術室の扉が閉まり、綾夏は懸命に祈っていた。

「尚緒兄ぃ…」
時計の音だけが空しく廊下に響いていた。
一体それくらいの時間が過ぎたのだろうか……
その時、手術室の重い扉が静かに開いた。

「尚緒兄ぃっ!!」
バッと勢いよくソファーから立ち上がり、あわてて後を追った。
その言葉に意識もうろうとしながら手を振る尚緒。
尚緒を乗せたベッドはそのまま病室へと運ばれて行き、
手術室から医師が疲れた表情をして出てきた。
「先生!尚緒兄ぃは…兄は平気なんですか!?」
「もう大丈夫だよ 安心しなさい 手術は成功したよ」
医師は微笑って言った。
「ありがとうございます!!」
笑顔に涙をうかべた綾夏は走って病室へと向かって行った。

どれくらい眠っていたのかは わからないけど
ボクは目が覚めたら 気づいたんだ
窓からまぶしい光が 差し込んでいたことを

「尚緒兄ぃ気づいた?」
「う……ん」
もうろうとした意識。
「手術成功したんだって!よかったねー」
「綾夏…ごめんな 迷惑かけちまって…」
「…え?」
不意のことに、一瞬とまどったけど、綾夏はいきなり
バカ明るい顔して尚緒の肩をパコっとたたいた。
「やっだぁー 何言ってんの?あたしの方が 尚緒兄ぃに面倒かけてばかりで
迷惑かけてるじゃん!そんなことより早く元気になってもらわないと!ねっ?」
元気一杯の綾夏に少し呆れて尚緒は笑った。
「あ そうだ、尚緒兄ぃ 何かいる物あったら言って あたし用意するから」
「悪いな」
尚緒は照れくさそうに微笑んだ。



ボクはまだ気付かない
窓からの光が 先の闇が 見えないくらい 眩しくて

悲しいことなんて 何ひとつも――――――――…


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