怪奇綺譚

雪代

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正体見たり

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AM0:11
 また奴がいる。
 この先の小さな空地、そこでゆらゆらうごめく小さな人影。
 ここはアパートに続く小さな踏切だ。
 周りは草だらけ。歩行者専用の細い道で、遮断棒すらない。
 500メートルほど回り込めば国道の大きな踏切へ出れられるのだが、この程度のことで往復1キロも歩くのはまっぴらだ。
 しかしあれが不気味なことに変わりはない。
 バイト先の友人に話したら『くねくね』じゃないかと笑われた。なんでも、正体を知ると発狂するらしい。
 だから俺はなるべくそいつからは視線をずらしながら、速足で通り過ぎる。
 明日こそ、いなくなってくれればいいのだが。

PM23:45
 また彼女がいる。
 着物姿の女の人。
 遠目なので詳しい姿形は分からない。でもどうしても、その――足がないように見えるのだ。
 まさかとは思う。しかしどうしても、毎夜目で追ってしまうのだ。
 いいや、それどころではない。
 早くこのダンスをマスターしなければ、今度こそ部活をクビになってしまう。
 せっかくハンズフリーのイヤフォンまで買ったのだ、なんとしてでもやり遂げなければ。
 それにしてもどうも集中力を削がれてしまう。
 明日こそ、見なくて済めばいいのだが。

PM23:30
 またあの人がいる。
 コート姿の男の人。
 踏切の前で、いつもそわそわと身体を振っているのだ。
 こちらも旅館の女将をやって早20年。色々な人と出会ってきたつもりだが、やはりこの時間の薄暗い街灯の下と思うとそら恐ろしく感じてしまう。
 しかし今夜の着物は先代の形見の紺染物、きっと守ってくれるだろう。
 ついでに先代へ祈っておく。
 明日こそ、出会いませんように。

PM23:25
 またあの子がいる。
 小学生くらいの男の子だ。
 声をかけようとは何度もしたが、いつも逃げられてしまう。
 児童相談所に連絡したところで、パトロールを強化します、としか言われなかった。
 それにしても今日の娘は一段と帰りが遅い。
 ここの踏切は怖いから迎えに来て、なんて甘えておいて何をやっているのやら。
 しかしまあ仕方あるまい、花も生けてある踏切なのだから。
 おっと、携帯が。なんだって、もう家に帰ってる?お父さん今どこなのとはどういう了見だ。
 全く、今日こそ叱りつけてやらないとな。

PM23:24


いたい
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