ずっと隣に

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Ω先輩の章

最低な大人〜一仁視点〜

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 光君もいなくなって、部屋の中には俺と唯だけになった。ちょっと前まで、どうやって二人きりになろうと思案していたのに、不幸中の幸いと言うやつか。しかし、そんなに長くは居られない。申請書に書く時に、最初光君は1日で取ろうとしていたのを、発情期であることを含めて1週間にしようと提案したが、最終的には5日間になった。ペンを握っていたのは彼だったし、彼も焦っていてあまり俺の話を聞いてくれなかったからしょうがない。延長もできるみたいだから、唯が起きたら適宜やることにする。
 せっかく唯と2人同じ部屋で過ごせるんだからやりたいこと全部やろう。発情期と言っても、唯は今病人だから無理は出来ないけど。ご飯を作って食べさせたり、体を拭いたりお風呂に入れたり、寂しくないように一緒に寝たり。起き上がれないかもしれないから、トイレのお世話もしないと。ふふ、手とり足とり、全て俺がやろう。でもその為に、唯はまだ起きそうにないから、今のうちに色々と用意しないと。自分の着替えと、課題等と、あと最悪の場合を考えてアレも。
 発情期のはずなのに全く匂いのしなくなった唯。ベッドに横になって一ミリも目を開ける気配のない顔にそっとキスをして、一度部屋を去った。




 色々な物を持って部屋に帰ってきたが、唯は出ていった時のままで、まだ目を覚ましていなかった。ベッドに近づき、顔を軽く撫でても起きる気配がなかった。こんなに起きないのは本当に心配だ。 しかし、それと同時に少し苛立ってしまう。発情期なのに俺に頼らず薬を飲んで、俺の知らないところで倒れてる。唯が二次性に疎いのは多少は俺のせいで、今になっても俺の気持ちが唯に全く伝わってないのは俺の力不足だけど、自分の体のことなんだから、ちょっとは気にして、そして俺を頼れよ!、と思わずには居られない。あんな薬ひとつに踊らされるなんて、、本当に自分が情けない。そう思ったところで一人、話をしなくてはいけない人がいたのを思い出した。
 そうなれば、唯が寝てる今のうちに早く済ませてしまおうと、直ぐにスマホを取り出して電話をかけた。が、なかなか出ない。辛抱強くかけ続けたが、聞こえてくるのは留守電に切り替える音声のみ。仕事で忙しいのか、それとも他の用事か、分からないがこちらも緊急の用事だから、向こうの都合なんて無視して電話のコールを鳴らし続けた。そして、十分後くらいだろうか、私用の携帯ではなく、仕事場に直接かけてやろうかとも思った頃、やっと電話が繋がった。


 「もしもし、一仁です。冬嗣さんですか?」

 電話をかけた先は唯の父、冬嗣さんだ。やっと出た冬嗣さんに、声が大きくなってしまいそうだったが、すぐ側で唯が寝ているのを思い出し、落ち着いて声を出した。

 「そうだけど。一仁君、私今仕事中なんだけど…。平日だよ?、君も学校があるだろう。だからまた後でかけ直し」

 「唯が倒れたんです。」

 「……え、本当?」 

 やっと出た冬嗣さんは仕事中で忙しいのか直ぐに電話を切ろうとしてきた。しかし、悪いがこちらも仕事の都合なんて考えていられない。そして、冬嗣さんの気を引くために、いきなり唯が倒れたことを告げると、やっとあの人は話を聞いてくれる気になった。

 「はい。今朝、発情期っぽくて休ませたんですけど、その後部屋でひとりで倒れてて。ヒート以外は元気そうだったので、思い当たる原因が抑制剤くらいしかなくて。」

 「あぁ、発情期、抑制剤…。成程ね。今はどんな感じ?」

 「寝てます。結構揺らしても起きませんでした。何故か唯、薬を2錠飲んでたんですけど、それのせいかもしれないです。」

 「唯に持たせたやつなら1回に2錠飲んでも大丈夫だよ。ただ、体に合わなかったんだね。だから、時間が経って薬の効果が切れたら元通りだと思うよ。」

 すぐに状況を把握してくれるのは有難いが、なんだか対応が素っ気なく、あまり真剣に考えてくれている感じがしない。冬嗣さんが用意した薬を飲んで唯が倒れたこともあって、少し冬嗣さんに不信感を抱いた。

 「でも、体に合わないってだけで、こんな気絶する程なんですか?、あの薬用意したの冬嗣さんですよね?、ちゃんと安全なやつなんですか? 他の薬とかないんですか?」

 「もちろん、承認されてる安全なやつだよ。別のでもいいけど、ないんだよなぁ。初めは弱いやつとか、親もΩなら親と同じ種類のを使ったりするんだけど、唯に持たせたやつは既に一番効果も、副作用も弱いやつだからなぁ。」

 一先ず薬はちゃんとしたものだったみたいで安心したが、代わりの案がなんだか曖昧で、俺は堪らず聞いた。

 「じゃあ親と同じものは?、隼人さんが使ってるのと同じモノを試してください。」

 「それは無理。」

 唯の母親、隼人さんが発情期の時に使っているものならどうかと聞いてみたが、冬嗣さんはこれをすぐに否定した。

 「既にあれが隼人さんのと同じやつなんですか?」

 「いや、そうではなくて、同じやつなんてモノがないんだよ。あの子に抑制剤使ったことないから。」

 「はぁ!?、どうしてっ……」

 無理とか、ないとか、否定ばかりの冬嗣さんに苛立って、とっさに語気を強めてしまった。

 「それ、聞く?」

 しかし口に出してから、これは聞いてはいけないことだということに気がついた。スマホ越しなのに、冬嗣さんのオーラが伝わってきて体が強ばる。2人の過去は隼人さんから所々聞いただけだが、あまりいい出会いではなさそうだ。少なくとも隼人さん的には。だから冬嗣さんは力ずくでどうにかしたんだろう。薬のない隼人さんが今までの発情期をどう乗りきってきたのか、全く不思議に思わないことは無いが、ただ安易に想像出来る。番である冬嗣さんにどうされてきたか、そして、それを聞いてはいけないことが。
 俺は自分かわいさにすぐに引き下がった。きっとここで聞いても教えてくれたと思うが、今後何をされるか分からない。この先もずっと唯と一緒にいるためには、冬嗣さんを敵に回さない方が良い。

 「っ……、いいです。……じゃあこれから唯はどうしたらいいんですか?、発情期の度にあの薬を飲んで、唯に苦しい思いをさせるしかないって言うんですか?」

「いや?、あるじゃないか。αである君が、Ωである唯にしてあげられることが。Ωの発情期を楽にする方法、知らないわけないよね。」

「…は、それって、」

「うん、そういうこと。そもそも、薬が開発される前なんて、みんなそうしてきたんだし。人間が、理性で本能に抗うために開発したあんなもの、医者である私が言うのもアレかもしれないけど、私はいらないと思うんだよ。」

「……すみません。その、言ってはいるんですけど、まだ唯に許可を貰ってなくて…、できないんです。」

 冬嗣さんが暗に言っているのは、俺も望んでいるやり方だ。でも、唯に許してもらってからと、隼人さんと約束したことが、まだ達成出来てていないから、不甲斐なさに言葉がしりすぼみになる。出来ることなら俺だってそうしたい。しかしそれが無理だから、他の方法がないか聞いたのに、返ってきたのは信じられない言葉だった。

「うん?、別にセックスするのにΩの許可なんていらないよ?」

「……冬、嗣、さん?」

「確かに最初は抵抗とか拒絶されたりするかもしれないけど、追追唯は一仁君の番にするんでしょ? だったら大丈夫だよ。無理矢理に噛んだって、Ωの気持ちなんて最終的に勝手に着いてくるから。それに、αだったらそれくらいの強引さを見せてもいいと思うよ。強引に事を進めて、でも完璧にリードしてみせて、Ωに、この人について行っても大丈夫だって思わせて安心させる。そのくらいの気概じゃないと。」

「……でも、それは…、隼人さんが、やるなって、」

「それはあの子が勝手に言ってるだけだろう。少し親バカ気味だからね。唯が襲われた時からさらに過保護になっちゃって。でもいい加減子離れするべきだから、丁度いい。無理矢理引き離すくらいしないとずっと家で面倒見る勢いで、実は少し困っててね。」

 そう言われて、俺は何も言うことが出来なかった。声が喉の奥に張り付いたように出てこない。隼人さんがαを嫌いになるのも納得だ。こんなΩを蔑ろにするような、恐ろしい考えをしたαに、ランドセルを背負わなくなってすぐに出会ってしまったんだから。でも冬嗣さんを恐ろしいと思うのと同時に、自分自身も少し怖いと思ってしまった。だって、彼の言う通りになったら、今すぐに唯を俺のモノに出来たら……、そう思ってしまったから。俺がずっと黙っているのを同意と取ったのか、冬嗣さんは更に言葉を続けた。

「一仁君、私は君のことを結構気に入っているんだよ。君自身も優秀だし、何より唯を大切にしてくれているからね。だから、君になら大事な私たちの息子を任せてもいいと思ってるんだ。」

「……へ、」

 何とか喉の隙間から出た音だった。さっきまでの緊張感が一瞬でどっかいって、照れのような、嬉しさのような、どれとも言い難い気持ちで埋め尽くされる。これって、もういいってことだよな。俺以外唯の番なんて有り得ないし、両親にも認められてる。やっぱり今すぐ噛んでしまおう。……あ、でも、唯の気持ちはちゃんと聞かないと。

「でもまぁ、出来ないっていうのなら、私としては君でなくとも、他の人でもいいんだけれどね。でもその場合、あの子が駄々をこねるかもしれないからそこだけは気をつけないといけないんだけれど。あの子、αと言っても、君だけは許してる感じがするから。」

 しかし、冬嗣さんが続けて言った言葉に、今度は何も言葉が出なかった。俺以外が唯の番に? 想像なんて出来ない、したくないのに、嫌な想像が頭を埋めつくす。目の前がだんだん暗くなって、スマホを握る手の力が弱まる。

「まぁ、そういうことだから、私としてはどうなっても大丈夫だよということで。1日経ってもまだ唯の調子が戻らないようならまた明日連絡して。それじゃ、切るね。あ、唯にお大事にって言っておいて。」

 ブチッ

 最後はまくし立てるように言って直ぐに通話は切られた。俺は静かな部屋の中で呆然と立ち尽くした。そこそこの時間通話していたと思うが、唯はまだ目を開けない。開けたところでもうすぐ薬は切れて発情が再開する。
 また倒れるかもしれないけど薬を飲ませる?
 それとも薬を与えず放置する?
 どちらも辛いなら、無理矢理になっても俺が……
 無理矢理噛んでも気持ちは後から勝手に着いてくる。
 冬嗣さんは俺がやってもいいって言った。
 俺ができないなら他の人でもって……

 さっきまでの通話の内容がずっと頭の中でぐるぐるしている。
 俺はこの後、唯が目覚めたらどうすればいいのか分からなかった。


















 悪魔みてぇなおじさんがいるけど大丈夫、本編は無理矢理なしのハッピーエンドです♡

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感想 2

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みんなの感想(2件)

さくら夏目
2024.08.03 さくら夏目

こんにちははじめまして

桃が痛すぎますね(⁠-⁠_⁠-⁠;⁠)

人の話は聞いた方が良い

凶器持って襲うとかかなりヤバイ奴

唯も何だかな…一仁がちょっと不憫(笑)

更新楽しみにしてます

解除
ネコ猫
2024.07.19 ネコ猫

面白いので更新頑張って下さい
待ってます( *´꒳`* )

解除

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