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Ω先輩の章
安否確認〜一仁視点〜
しおりを挟む唯が倒れていると連絡を貰ってから、俺は直ぐにΩ寮に走った。寮の前には警備員がいて、走って行く俺を止めようとしていたが、無視して中に入った。階段を駆け上がって唯の部屋の前に着いて、躊躇いなく扉を開けた。
「唯!!」
部屋は電気が着いておらず、カーテンの隙間から光が差し込んでいるだけで、少し暗かった。机の上には今朝俺があげたパンと水、そして3錠無くなった薬のシートがあった。しかし、唯の姿は見えない。
「一仁!、こっち!」
唯を探して部屋の奥に進もうとしたら、横から光君の声がした。声が聞こえた方へ進むとすぐに、倒れている唯が目に入った。
「唯!!」
壁に寄りかかるように倒れているのを自分の方に近づける。口元と胸の動きから呼吸は正常なことを確かめる。しかし、顔がいつにも増して真っ白で汗もすごい。発情期では無い、何か異常事態なのは間違いない。
「これ、唯生きてる? 大丈夫なの?」
そんな滅多なこと言うなと思ったが、光君も目に涙を浮かべていて、彼が本気で唯のことを心配しているのがわかる。俺も、死にはしないだろうが、どうして唯がこんなことになっているのかがわからない。
「生きてるよ。でも分からないから、とりあえず保健室に連れていく。」
そう言って、唯を抱いて立ち上がる。部屋を出る前に唯が飲んだと思われる薬の残りをポケットにしまった。
「僕も行く。」
そう言った光君と3人で部屋を出た。
保健室に入り唯をベッドに寝かせ、先生に事情を話した。他に保健室を利用している生徒はおらず、部屋の中には俺たち4人だけだった。急いでいたからかなり揺らしてしまったはずなのに、唯は全く起きる気配がない。
「熱は無いね。抑制剤の副作用が強く出過ぎちゃったのかもしれないね。薬の効果が切れたら元気になると思うよ。」
眠る唯の隣に座って保健室の先生は軽く言った。
「でも先生、これ。」
俺は唯の部屋で見つけた薬を先生に見せた。これは俺が記憶する範囲では、1番効果が弱く、副作用もほぼないらしい薬だった。それに、唯の父親である冬嗣さんが、唯の体と相性が悪いモノを持たせるとは考えられない。
「この子が飲んだのこれなの?、初めてなのに3錠?、抑制剤でオーバードーズなんて珍しいね、コスパ悪ぅ。」
俺が見せた薬を見ながら先生が言った。こんな緊急事態に巫山戯る先生に、俺は嫌悪感が沸いた。
「飲んだのは2錠だと思います。1個部屋に転がってたので。あと、唯はそんなことする子じゃないです。」
「冗談だよ。効き目が弱くていっぱい飲んだ、とかかな。でも薬は用法用量を守って、病院で貰える抑制剤は全部1回1錠だよ。効き目が悪ければ強いのにしてもらう。それか、薬を飲まなくていいようにαと番になる、とか。まぁ、君たちに言っても意味無いけど♪」
先生は笑顔で言った。輪を作った片方の手にもう片方の人差し指を通す、最低なハンドサインを付けて。この様子に俺はますます嫌悪感が止まらない。高校生の内に番えたらどんなに幸せか。しかも、俺の気持ちを知ってか、最後は俺を真っ直ぐ見て言ってきた。
「それで、この子この後どうする? ここで休むか、寮に帰すか。」
「寮に帰します。」
この後のことを聞いてきた先生に俺は即答して、唯を抱いて来た道を戻った。俺は今後この保健室を利用しないことを決めた。
寮の前まで戻って来たが、俺にはこのまま唯を部屋に帰す気は全くなかった。
「唯はこのまま俺の部屋で看るから、光君は1人で帰って。」
そう伝えると、一瞬嫌な顔をされたが、すぐに心配そうな顔で俺の方を見た。さっきまで泣いていたのに、俺の気持ちを汲んでくれるらしい。光君はやっぱりいいΩだ。
「え、……あ、そうだよね。僕も唯のこと心配だけど……。ちゃんとみててね、元気になったら教えてよ。……あ、でも、同室いるよね、どうするの?」
「あぁ、出てってもらえばいいよ。あいつは他に行けるとこあるし。」
「えぇ、それ相手にも悪いし、唯も起きた時に気にするんじゃ…。」
「でもそうするしかない。」
大丈夫。俺の同室のあいつはもう俺の言うことを聞く従順なペットになったから。でも光君はあまり納得いかないらしい。俺の気持ちもわかるし、どうしたらいいか悩んでいるようだ。長くなりそうだから、無視して先に行くことにする。
「う~ん……。あ、いいのがあった! ちょっと来て。」
α館の方に向きを変えようとした時、光君は何かを思いついたらしい。そのまま袖を引かれて、Ω館の中に入っていった。
光君が少し時間がかかると言うから、唯は一旦部屋に寝かせた。光君に案内されて着いたのはΩ館の談話室からわきに曲がって廊下を進んだその先、普段は人も通らないような奥まったところだった。光君が足を止めたところには部屋が数個だけだった。しかし他の寮の部屋とは違って、番号を入力するための機械が着いていた。
「ここは?」
「ひーととくべつたいおうしつ?、だっけ。所謂しぇるたーってやつだよ。発情期が来たΩがαと過ごしたいってなったら、使えるとこ。」
そんな部屋があったとは。確かに、パートナーのいる生徒は多少はいて、彼らはこの2人1部屋の寮生活でどうするのだろうと思ったことはあるが。俺たちα側には知らされていなかったから驚きだ。
「申請しないと使えないんだけど、使うよね?」
「あぁ。」
遠慮なく使わせてもらう。
「えっと、どうやるんだっけ。この紙に名前と、使う日にち書くんだっけ?」
光君も使ったことがないから分からないみたいだ。早く部屋に入りたいから、俺も協力して何とか申請書を書き終えた。
「よし。申請はΩからじゃないとダメだから僕が行ってくるね。一仁は唯を連れてきて。」
そう言って光君は小走りで行ってしまった。成程、あくまでもこの部屋の使用権はΩ側にあるということだ。寮の建物を完全に区切って、でもパートナーとの接触はΩ側からのみ許可する。犯罪を防ぎつつ、青春の一要素である恋愛と第二性の性を邪魔しない、よく出来た仕組みだ。これを考えたのも藤宮先輩だろうか。今度話を聞いてみよう。
そんなことを考えているうちに唯の部屋まで来た。中に入って唯を抱える。数日籠るし、下着の替えがいるかと思ってそれも持っていく。自分の分は後ででいいとして、さっきの部屋まで戻った。
「ご飯は頼めば来るって。お風呂も付いてて、洗濯も、洗濯機があるけど頼めばシーツとか新しいのくれるって。」
光君が許可を取りに行って聞いてきた方法で扉を開け、唯を寝かせて、最後に今この部屋の軽い説明を光君にしてもらった。
「唯、大丈夫だよね?、先生も治るって言ってたし。何かあったらすぐに知らせてね。」
光君が心配そうな顔をして言った。ここまで十分に動いてくれた光君。さっきまでテキパキ動いていたのに、また目に涙が浮かんできそうだ。純粋に心から唯を心配しているんだろう。本当に彼はいいΩだ。お礼は十分にしないと。
「大丈夫だよ。色々ありがとう、助かったよ。唯が元気になったら、2人でお礼しに行くから。」
「うん、じゃあね。」
そう言って光君と別れた。
一仁視点続きますぅ
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