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Ω先輩の章
返したい
しおりを挟むそういえば、関係ない話してて忘れそうだったけど、一仁に服を返すんだった。僕は着ていたカーディガンを脱いで、軽くたたんで一仁に返した。
「あのさ一仁、もう大丈夫だからこれ返す。貸してくれてありがとう。」
でも、一仁は受け取ってくれなかった。
「なんで?」
「教室の温度は大丈夫だったし。……それにこれ、一仁のだし。」
「唯ちょっと震えてない? 僕は必要ないから、唯がずっと持ってていいよ。」
「いや、これは寒いんじゃなくて、ちょっと視線が気になったっていうか、思い出しちゃっただけだから。寒い訳じゃないから、これ返すよ。」
そういうと、一仁は少し考えはじめた。気遣ってくれるのは嬉しいけど、これを持っている方が良くないから、出来れば返したい。
「それにはちょっとした力があって。他のαから話しかけられないようにする効果があるんだ。さっきの話を掘り返すようで悪いんだけど、唯は多くの人から見られてたらしいけど、ほとんど誰も話しかけて来なかったでしょ? 唯は可愛いのに。だから、ずっと唯に着てて欲しい。」
真面目な顔で一仁が言った。
αから話しかけられないようにする力がある?
「これが?」
僕はそんなこと信じられないというふうにカーディガンを見た。でも確かにたくさんの人に見られてたけど、誰も話しかけてこなかった。でも普通知らない人に話しかけないし、このカーディガンは関係ないんじゃ。流石に一仁が嘘ついてると思う。あれ、そういえば人の視線がいっぱいなのは気になったけど、いつものαの嫌な感じは分からなかった。やっぱりこれのおかげ……?
「う~ん……」
「そんなに嫌なの?」
一仁がちょっと悲しそうに聞いてきた。いけない。僕、一仁が嫌だからこれ返そうとしてるみたいになってる? まずい、ちゃんと理由を言わないと。あーでも、ちょっと恥ずかしいから言えないし。えっと、えっとー、
「あ、違くて。えっと、これ着てるとちょっと集中出来ないっていうか。」
「どういうこと?」
まだ一仁の顔は晴れない。もっとちゃんと言わないと。言えないところは言わないけど、一仁の誤解を晴らせるように。
「このカーディガンから、すごい一仁の匂いがして。嫌なんじゃないよ! ただ、一仁の匂いするなーって思ってたら、授業に集中出来なくて……」
ここまで言うと、一仁は笑顔になった。
「なら問題ないね。放課後までずっと着てて。」
誤解を解くことには成功したけど、カーディガンは返せなくなった。一仁に嫌な気持ちになって欲しくないけど、僕は何がなんでもこれを手放さなくちゃいけないんだ。何か他に理由は、
「でも、、」
「教室でも着ててね。ちゃんと着てるかどうかは分かるから。」
言われて僕はギクッとして、すぐに一仁から目を逸らした。分かるわけないと思って、途中で脱いでたけど、もしかしてバレてるのかな。そう思って恐る恐る一仁を見た。でも、こういう時ってだいたいバレてるよなー。
「昼前も脱いでたでしょ。」
やっぱり。でも、どうにかしないと午後も着ることになって、また璃来くんにからかわれる。
「えーと、どうだったかなぁ……。あ、でも、一仁が僕を見てくれてるなら、これいらないんじゃ。」
「そうかもしれないけど、着ててね。」
「えっと……」
結局カーディガンは返せなかった。僕が弱いばっかりに。でも、確かにこれを着ていたからか、震えもすぐに止まって、午後は普通に授業を受けることが出来た。
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