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桃の章

生死を分ける 〜桃視点〜

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「あの、かず、……鮫島様、」

 リビングを出た僕たちは寝室の方に来た。一仁は椅子に座って、僕は床の上で正座。まるで判決を待つ死刑囚の気分。一仁が冷たい目で僕を見下ろす。今までの僕を見る目とかわらない。なのに僕は気付かずに運命とか言って付きまとって、本当恥ずかしくて恐ろしい。
 僕はこの部屋に来た時のことを思い出した。

「唯が望んだからこの場を用意しただけだ。俺はもう二度と見たくないし、お前の謝罪なんて要らない。唯の話を聞いたらさっさと帰れ。」

 そう言われた。予想通り一仁は怒り心頭。ここで失敗したら確実にもう唯には会えない。僕は全力で頭を下げた。

「唯を傷つけてごめんなさい! 鮫島様にもずっと付きまとって、二人の邪魔をしてしまいました。二人が番だったのに気が付かなかったとはいえ、やりすぎてしまいました。本当にごめんなさい!」

「………」

「もう絶対にやりません。許してください!」

「…………」

 無言。やっぱり謝っても許されないみたい。でもそれは想定済み。僕が考えた、僕にしか出来ない自分の価値の示し方。僕は震える手でそれを手に取った。

「お詫びにこれを持ってきました。お、お納めください!、僕の作った服のカタログです!」

 出したのは僕が今まで作ってきた服が全て入ってるファイル。メインはネット販売で、ある程度厳選したものを売っているけど、これには僕が今までに考えたもの全てが載ってる。
 僕はこれで生きてきたし、やっぱり僕はこういう分野が得意だ。一仁が興味を示すものが唯しかないならそっちからアプローチする。αは自分のΩを着飾るのが好きだ。(脱がせるのも好きだ)。涼が散々怖いように言ってたけど、一仁も結局は一人のαだ。しかも相当番に入れ込んでる。だから、僕の得意な方法でやらせてもらう。今、目の前にいるのは僕を排除しようとしてる魔王じゃなくて、普通の僕のお客様! 僕は震える声を何とか振りしぼった。

「僕、Ω用の服を作ってて、番様のために買う、αの方に人気なんです。だから鮫島様にも、と思って持ってきました。外用もあるけど主にルームウェアで、人気なのは動物系かな。モコモコの猫とかすごく可愛いんですよ、耳としっぽ付きで。あとデザインだけじゃなくて、着心地や触り心地もこだわってて、色やサイズもそれぞれオーダーできるので、唯にも気に入って貰えると思います。鮫島様は何か好きな動物いますか?、クマとか、うさぎとか……。あ、別に動物じゃなくても、他にも色々あるんですよ。」

 一仁がカタログを手に取ってざっと目を通す。いつもこの瞬間は緊張する。自分の作ったものの中に他人が気に入るものがあるか、気にならないクリエイターはあまりいないと思う。こうして対面でいる時はその人の表情とか視線とかをよく見てしまう。今の一仁は視線はゆっくりだけど顔はずっと無表情でどう思ってるのか全然分からない。僕はビクビクしながら一仁の言葉を待った。

「ふーん…………、で?」


 ……で!?、
 これは駄目だったってこと?、嘘でしょ!? 世界のα様に人気のお洋服だよ?、気に入るのが1つもないなんて有り得ない……。このままじゃ僕の今までの頑張りが全て意味の無いものになってしまう。僕は命がかかっていることもあるが、こんなこと今までで初めてだったからかなり焦った。

「あの、ご、ごめんなさい。僕、鮫島様にあげられるものがこれくらいしかなくて。
 でも、もう一冊あるの、ちょっと見てみてくれませんか?」

 そう言って僕は念の為、一仁の趣味がアレだった場合にと思って持ってきたもう一冊別のカタログを手に取った。

「こっちは、その、少し露出の多いというか、いわゆるランジェリー的なやつなんだけど。唯に似合いそうとか、鮫島様の趣味がとか、そう思ってるわけじゃなくて。ただ、僕の作ってる服の中でも人気なカテゴリーだから、、一応、持ってきました。」

 このもう1冊の方はさっきの可愛いルームウェアたちとは違って、すごいエッチなやつ。いわゆるセクシーランジェリーってやつとか。決して僕がこういうのが好きとかでは無い。ただ、人気があるって分かったら作らずには居られなかった。
 一仁はまたパラパラとページをめくる。さっきと同じ感じで手応えが全く分からない。

「普通の下着も人気だけど、ちょっとコスプレっぽいのも意外と人気で、リクエストもあるからそれ受けてたらどんどん増えちゃって……。一仁が気に入るのも1つくらいはあるんじゃないかなー……。
 あ、でも圧倒的に人気なのはあれかな。この最後の方は全部そうなんだけど、ウェディングドレス風ランジェリー。形も露出度もそれぞれで、いっぱいあるからみんな好きなのを見つけてて……。かず、鮫島様と唯も番なんですよね?、ならこーゆーのがあっても、盛り上がるんじゃ、ないかなー……、なんて。」

 同級生にこんなものを作ってると知られてしまったことと、もう一仁には許してもらえないことが確定して、僕はもうどうにでもなれって思った。
 結構僕は諦めていたが、意外にも一仁がページをめくりながら聞いてきた。

「……これも色とサイズ選べるの?」

「え?、あ、はい。」

 全く期待してなかったから一瞬何を言われたかわからなかった。でもここでしくじったら本当に終わりだから僕は何とか答えた。

「少し、形を変えたりは?」

「う、うん、できるよ。一応どれでも全部オーダーメイドできるから。」

 一仁は表情を全く変えず、続けて聞いてきた。え、いけそう? さっきより興味津々だ。さっきのじゃなくてこっちの方が良かった? 僕の中の一仁の見方がかなり変わりそう。
 そういえばさっき唯見たときに首元にキスマーク着いてたな、2か所も。あと、Tシャツ明らかに大きかったからあれ一仁のだな。昨夜はお楽しみだったのかな。あぁ、結局一仁もαなんだ。でももうなんだっていい、助かるなら。

「ふーん……。あと、様付けは嫌だって前言ったよね。」

「あ、ごめんなさい。えっと、一仁、それで……」

 僕は一仁の顔色を伺うようにドキドキして尋ねた。

「まぁ、こんなに色々用意してくれたんだし、今回だけは見逃してあげるよ。」

 一仁のお許しの言葉を聞いて僕はその場で舞い上がるくらい安心した。良かった、僕まだこの学校にいられる。たぶん卒業出来る。今後の一仁と唯への身の振り方は一層気をつけないと。僕は手を床について深々と頭を下げた。

「ありがとうございます!」

「あ、でもこれは聞いておかないと。手を出したって何をしたの?」

 あ、やっぱり無理、正直に言ったら殺される。でも、嘘ついてもたぶんすぐバレる。どっちも死ぬ。苦渋の決断から、僕は正直に言うことに決めた。

「唯にむかって……、はさみを、振りかざしました……。」

「それであの怪我なんだ、危ないね。でも唯はあんなのと違って繊細だから、もっと大怪我だったかもね。でも唯は優しいから君がそんなことしたなんて一言も言わなかったな。」

 唯は僕がしたこと、一仁に言わないでいてくれたんだ。一仁にそれを言ったら確実に僕が死ぬから、なんて考えは唯には絶対なかっただろうけど、ただ僕の非行を黙っていてくれた唯の優しさに、僕は本当に申し訳なく思った。

「後は意地悪言った、だっけ? そんな曖昧じゃ駄目だよ。なんて言ったの?」

「あの……、鮫島様に近づくな、とか……、でしゃばるな、とか……、泥棒猫、とか……、」

「あははっ、そんなこと言ったの?、泥棒なのは君の方なのに。」

 仰る通りです。あの時はわかってなかったんです。今すごく恥ずかしいです。

「本当にごめんなさい。」

「それだけ?、他に何もしてない?」

「はい。最後以外は言葉だけですが、唯をたくさん傷つけてしまいました。反省してます。本当にごめんなさい。」

 僕は再度深々と頭を下げた。

「もう二度とやるなよ。唯は君と友達になれて嬉しいみたいだけど、必要以上に近づかないでね。後これ、貰っておくから。よろしくね。」

 そう言って一仁は僕のあげた2冊のファイルを掲げた。僕は何とか許してもらえたっぽい。もう唯のところに戻ってもいいかなと思って一仁を見たら、まだ何かあるようで、リビングの、二人がいる方に目を向けた。

「で、あいつは?」

 一仁が涼の方に目を向けた瞬間、その鋭い視線に気付いたのか遠くからバタバタと聞こえて、涼がやってきた。

「はい」

 涼はスライディングする勢いで僕の隣に正座した。

「君は、何かないの?」

 一仁が怒ってたのは唯に手を出した僕だけかと思ったら、涼にも怒ってるらしい。まさか自分が怒られると思っていなかった涼は驚きを隠せないみたい。僕もまさか涼まで言われると思ってなかったから助ける手が何も思いつかない。

「え、俺、一宮をちゃんと守ったよな?」

「行動が遅いよ。」

「でも、怪我はさせてないし」

「泣いていたけど?」

「あ、それは……、ごめん。」

「うん。で、君のパートナーが、僕の唯を泣かせたわけだけど、」

 僕のせいで涼がピンチだ。助けないと。さっきのウェディングドレス風ランジェリーが気に入ったみたいだからそれで何とか。

「か、一仁、」

「これからも一宮を守る。絶対に怪我させない。」

 僕が口を開いたのと同時に涼が一仁に言った。今の一瞬で考えた、一仁にとって何の価値もなさそうな提案だけど、言ってしまったから僕は黙って二人の言うことを聞いた。

「どうだろう、信用ないなぁ。」 

 ほらやっぱり、駄目だよこんなの。僕は絶対に無理だと思うのに、涼はさらに付け加えた。

「俺と桃の命にかえても一宮を守る。」

「僕は君たちの命なんてどうでもいいけどね。」

「ぐっ……、そ、そのくらいの覚悟で守るってことだよ。」

 勝手に僕の命までかけられているけど文句は言えない。こんな適当な約束が一仁に受け入れられるとは到底思わないけど。僕たちはじっと一仁の言葉を待った。

「ふぅん、まぁいいよ。番犬を飼うのもいいかもね。君はドーベルマンって感じじゃないから、コーギーかな。」

 涼も何とか一仁に許してもらえたっぽい、犬扱いだけど。でも、こんなのでいいの? 二人は同室だから僕の知らないうちに絆ができてるとか? 僕には全然分からないけど許して貰えたならいいや。
 ちょうど話が終わったところに鈍感お姫様が声をかけた。

「みんなー? 何のお話してるの?、ケーキ一緒に食べよー。」

「今行くー。」

 僕たちは4人でケーキを食べた。





















 桃の章おわり!
 やりたかったのは桃が唯の服係になることだったけど、これで一章作ろうと思って事件起こそうって思ったら桃をちょーやなやつにしちゃった。ごめんよー、だけどもう戻れないよーって思いながら書いた。
 次は新しい章。桃の章書くの詰まって次のことずっと考えてた。更新頑張るね。感想もありがとうございます。
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