34 / 47
桃の章
助かる方法 〜涼視点〜
しおりを挟む俺たちの方は丸く収まったが、まだ大きすぎる問題が残っている。
「僕、ヤバいことしちゃった。こんなものも持ち出して。いつもの僕なら絶対にしないのに。完全に頭に血が上ってた。冷静になって、すごく反省してる。」
桃が裁ち鋏を手に取って言った。落ち着いて自分のしてしまったことがわかって心から反省している様子だ。そんな桃を見て俺は安心した。
桃は鋏をおいて俺の手をとった。俺が自分で突っ込んでって血まみれになった手だ。
「涼に怪我させちゃって、本当にごめんなさい。でも、涼のおかげであの……、一宮君に怪我させなかった、ありがとう。」
「あぁ、どういたしまして。」
そう言いながら桃は俺の手を綺麗に拭って包帯を巻いてくれた。とても丁寧で気持ちが伝わってくる気がする。桃がやったとはいえ、いっぱい触られてちょっとドキドキする。桃のてふわふわで可愛い。傷が残ったら、桃と付き合えた記念だな、とか考えながら手当されるのを見ていた。
俺の手の手当を綺麗にやって、桃はすぐに立ち上がった。
「よし、じゃあ僕謝ってくる。」
「え、ちょっと待て! それはもう少しおいてからの方がいいんじゃないか?、一宮も襲われたばっかで怖がるだろ。」
咄嗟に桃の腕を掴んだ。こいつは行動が早すぎる。思い立ったらすぐだ。こういう思い切りの良さが今までの桃を成功させてきたのかもしれないが、今はそれが悪手でしか無かった。
「だからだよ! 危険な目に会わせて、怖がらせた。これじゃあずっと不安にさせるし、よく眠れないでしょ。だからすぐ謝るの。先延ばしにしたらそれだけ溝もできるし。それに、謝罪は早い方が気持ちも伝わる! あ、お詫びにお菓子も買って行かなくちゃ。」
桃の腕を掴んで引き止めようとするが止まりそうにない。
言葉では止められないから、俺は自分の部屋に帰れず、一宮との接触禁止の旨が送られたスマホを見せた。
「これを見ろ。たぶんあの二人は今一緒にいる。だから俺は部屋に戻れないし、桃も一宮とは会えない。一仁がめっちゃ怒ってるんだよ。」
「これ、一仁から送られてきたの?」
「あぁ。一宮のことももちろんだけど、俺たち、このままだとあいつに殺される。」
俺たち、というか桃がやったことはあの魔王の逆鱗に触れまくる行為で。なくなるのは俺たちの人権か、それとも命そのものか、、って状況なのに元凶であるこいつは呑気に言いやがる。
「殺されるって大袈裟だなぁ。確かに怒らせたと思うけど、一仁はそんなに過激じゃないよ。一応、ちゃんと優しかったし。というか、唯に謝りたいだけなのにどうして一仁がここまで出てくるの?」
桃は二人の関係が全然わかっていなかった。はぁ、桃の鈍さに頭を抱えるしかない。まったく、こいつは人間関係がてんでダメだ。
仕方ないから俺は桃に今までのこと、一仁が桃をどうしようとしてたかはできる限り優しめに変えて、説明した。すると桃はやっと今の状況の本当のやばさに気づいて、顔を真っ青にした。
「……えっと、もしかして僕、結構危ない状況?」
「あぁ、かなり前からずっと危なかったんだよ。でも桃だけが悪いわけじゃない、俺がはぐらかし続けてたから。」
「二人は、もう、番だった……?、、でも、友達って。い、一宮君、一仁の親友って言ってたのに。」
「そう言ってたかもしれないけどあの二人は番(厳密に言えばまだ)だ。なのに桃がずっと間に入って邪魔してたから……」
学生だし、まだ噛んでないみたいだからまだっちゃまだなんだけど、あの魔王から横取り出来るやつも居ないだろうし、一宮本人も逃げられないだろうから、もう番ってことでいいだろ。
「あ……、こ、殺される。」
桃は一層顔を青くしてブルブル震えている。
「僕はずっと一仁の邪魔をしてて、涼がずっと庇ってくれてたけど、一仁は僕を、、僕ずっと一仁は優しいって思ってたけど、本当はそこまで言う人だったんだ。僕本当に危なかった、」
「直接言われたわけじゃないけど、そんな感じのことを匂わせてたから、たぶん。威嚇、やばかったし。」
桃にこんな顔をさせないように今まで守ってきたのに、いや、守ったつもりだった。結局泣かせたし、今だって怯えてる。自分の要領の悪さに辟易する。でももうこうなってしまったし、次どうするか考えないと。
「一宮に謝るのと同時に、一仁に殺されないように何かしないと。謝るだけじゃだめだ。こう、俺たちがいて一仁に何かいいことがあると思わせる何かを、」
「地位もお金も番もなんでも持ってる最高位のα様だよ、僕が一仁にとって利益になることなんて何も……。もしかしたら、唯も許してくれないかも。番との仲を邪魔して、酷いこともいっぱい言った。本当に僕、最低なこといっぱいしちゃった、どうしよう……。」
桃、お前本当に今までどれだけのことをしてきたんだ。目の前にいるのは、俺の好きな子だけど憐れみを通り越して少し呆れる。
「……でも、一宮は、こういったら失礼かもだけど、謝ったらそれで許してくれそう。」
箱入りって感じで、頭ヨワソウ、だし。そもそも番じゃないし。
「そうかな、うん、そうかも。だって彼、すごく、優しいし。」
桃ってば人間関係下手くそな割に人の評価はちゃんとしてるんだよな。自分の考えがちょっと恥ずかしい。いや、こんなこと考えてないで早く一仁の方考えないと。
「一仁が喜ぶこととかなんか、、あいつ普段ほぼ真顔だからわかんないわ。授業で難しい問題答えられても、食堂で唐揚げおまけされてても、ずーっと同じ顔。あ、でもやっぱり一宮の前では割と笑ってるかも。」
「一宮君には、、」
俺がうんうん言いながら考えてたら桃もそれを聞いて何か閃いたか、眉間にしわ寄せて何か考えてるようだった。
「αとΩ、番、喜ぶこと……」
「桃、何か思いついた?」
「うん、ちょっとだけ。許してもらえるか分からないけど、、うん。僕ちょっと考えまとめて、準備するから。涼はもう帰って、じゃあね。」
何か思いつくやいなや桃はすぐに立ち上がって準備を始めた。思いついたらすぐ行動、これは桃のいいところ。
で、流れるまま俺は桃の部屋を追い出された。
「え、ちょっと待って! 俺今日部屋帰れないんだって! 桃の部屋泊めて!」
ドアをガチャガチャドンドンやって必死に桃に訴えた。もう遅いし、他の部屋行けないし、廊下で野宿とかいやだし。
桃はすぐ部屋に入れてくれた。良かった!
「あ、そうだった。ごめん。でも、僕一人で考えたいから、こっち来ないで。寝る時もそっちのベッド使って。」
そう言われて、俺は桃の同室の誰かのベッドに追いやられた。てっきり今日は桃と添い寝、と思っていたのに。俺は少し焦って桃に言った。
「おい、ちょっと待て。なんで俺が知らないやつのベッドで寝なきゃならないんだ。」
「えぇ、別に気にしなくていいよ。全然使ってないし。」
「桃のベッドで一緒に寝ればいいじゃん。俺たち付き合ってるんだし。」
「~~っ、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!、それに僕まだ別に涼のこと好きじゃないし!」
桃が顔を赤くして反論する。そんなに俺と一緒に寝るの嫌? 違うな、照れてるだけだ。
確かに今はこんなこと言ってる場合ではないけど、
俺、ずっと桃のこと守ったし、何回か心臓止まる思いしたし、ご褒美欲しい。今日はなんとしても一緒に寝る!
「誰のせいで俺が帰れなくなったと。お詫びとして一緒に寝て!」
「確かに涼が帰れないのは僕のせいだけど!、ていうか涼さっき僕にキスしたじゃん! あの時まだ僕いいよって言ってなかったのに!、あれでチャラでしょ!」
「じゃあキスでもいいよ、もう1回して。」
「なんでよ!、僕の唇はそんなに安くないんですけど! あの1回でもお釣りくるレベルなんですけど! 添い寝と同じ価値な訳ないから!」
「だったら一緒に寝ようぜ、何もしないから。とにかく、俺は絶対知らないやつのベッドでは寝ない!」
俺も桃も一歩も譲らない。もうこの言い合いは終わりが見えなくなってきていた。
「もー! そんなにあのベッドが嫌なら、じゃあもう床で寝れば!」
「なんでだよ!、俺に感謝の気持ちはないのかよ!」
「ないことないけどだからって一緒に寝ることにはならないでしょ!、あ、ほら、ファフ゜リース゜やってあげるから!」
「そういう問題じゃねー!」
長いことやいやい言い合って、結局隣の部屋から壁を蹴られて我に返って言い合いは終わった。
結果としては、俺は……
……一人で床で寝た。
ここで添い寝できないのが涼。絶対にするのが一仁。でも一仁も一緒に寝るだけ、手は出させて貰えない。
ちょっと暗くてしんどかったー、後ちょっとでおわる
51
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説


僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載

王冠にかける恋【完結】番外編更新中
毬谷
BL
完結済み・番外編更新中
◆
国立天風学園にはこんな噂があった。
『この学園に在籍する生徒は全員オメガである』
もちろん、根も歯もない噂だったが、学園になんら関わりのない国民たちはその噂を疑うことはなかった。
何故そんな噂が出回ったかというと、出入りの業者がこんなことを漏らしたからである。
『生徒たちは、全員首輪をしている』
◆
王制がある現代のとある国。
次期国王である第一王子・五鳳院景(ごおういんけい)も通う超エリート校・国立天風学園。
そこの生徒である笠間真加(かさままなか)は、ある日「ハル」という名前しかわからない謎の生徒と出会って……
◆
オメガバース学園もの
超ロイヤルアルファ×(比較的)普通の男子高校生オメガです。

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。
N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ
※オメガバース設定をお借りしています。
※素人作品です。温かな目でご覧ください。


上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる