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桃の章

助かる方法 〜涼視点〜

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 俺たちの方は丸く収まったが、まだ大きすぎる問題が残っている。

「僕、ヤバいことしちゃった。こんなものも持ち出して。いつもの僕なら絶対にしないのに。完全に頭に血が上ってた。冷静になって、すごく反省してる。」

 桃が裁ち鋏を手に取って言った。落ち着いて自分のしてしまったことがわかって心から反省している様子だ。そんな桃を見て俺は安心した。
 桃は鋏をおいて俺の手をとった。俺が自分で突っ込んでって血まみれになった手だ。

「涼に怪我させちゃって、本当にごめんなさい。でも、涼のおかげであの……、一宮君に怪我させなかった、ありがとう。」

「あぁ、どういたしまして。」

 そう言いながら桃は俺の手を綺麗に拭って包帯を巻いてくれた。とても丁寧で気持ちが伝わってくる気がする。桃がやったとはいえ、いっぱい触られてちょっとドキドキする。桃のてふわふわで可愛い。傷が残ったら、桃と付き合えた記念だな、とか考えながら手当されるのを見ていた。
 俺の手の手当を綺麗にやって、桃はすぐに立ち上がった。

「よし、じゃあ僕謝ってくる。」

「え、ちょっと待て! それはもう少しおいてからの方がいいんじゃないか?、一宮も襲われたばっかで怖がるだろ。」

 咄嗟に桃の腕を掴んだ。こいつは行動が早すぎる。思い立ったらすぐだ。こういう思い切りの良さが今までの桃を成功させてきたのかもしれないが、今はそれが悪手でしか無かった。

「だからだよ! 危険な目に会わせて、怖がらせた。これじゃあずっと不安にさせるし、よく眠れないでしょ。だからすぐ謝るの。先延ばしにしたらそれだけ溝もできるし。それに、謝罪は早い方が気持ちも伝わる! あ、お詫びにお菓子も買って行かなくちゃ。」

 桃の腕を掴んで引き止めようとするが止まりそうにない。
 言葉では止められないから、俺は自分の部屋に帰れず、一宮との接触禁止の旨が送られたスマホを見せた。

「これを見ろ。たぶんあの二人は今一緒にいる。だから俺は部屋に戻れないし、桃も一宮とは会えない。一仁がめっちゃ怒ってるんだよ。」

「これ、一仁から送られてきたの?」

「あぁ。一宮のことももちろんだけど、俺たち、このままだとあいつに殺される。」

 俺たち、というか桃がやったことはあの魔王の逆鱗に触れまくる行為で。なくなるのは俺たちの人権か、それとも命そのものか、、って状況なのに元凶であるこいつは呑気に言いやがる。

「殺されるって大袈裟だなぁ。確かに怒らせたと思うけど、一仁はそんなに過激じゃないよ。一応、ちゃんと優しかったし。というか、唯に謝りたいだけなのにどうして一仁がここまで出てくるの?」

 桃は二人の関係が全然わかっていなかった。はぁ、桃の鈍さに頭を抱えるしかない。まったく、こいつは人間関係がてんでダメだ。
 仕方ないから俺は桃に今までのこと、一仁が桃をどうしようとしてたかはできる限り優しめに変えて、説明した。すると桃はやっと今の状況の本当のやばさに気づいて、顔を真っ青にした。




「……えっと、もしかして僕、結構危ない状況?」

「あぁ、かなり前からずっと危なかったんだよ。でも桃だけが悪いわけじゃない、俺がはぐらかし続けてたから。」

「二人は、もう、番だった……?、、でも、友達って。い、一宮君、一仁の親友って言ってたのに。」

「そう言ってたかもしれないけどあの二人は番(厳密に言えばまだ)だ。なのに桃がずっと間に入って邪魔してたから……」

 学生だし、まだ噛んでないみたいだからまだっちゃまだなんだけど、あの魔王から横取り出来るやつも居ないだろうし、一宮本人も逃げられないだろうから、もう番ってことでいいだろ。

「あ……、こ、殺される。」

 桃は一層顔を青くしてブルブル震えている。

「僕はずっと一仁の邪魔をしてて、涼がずっと庇ってくれてたけど、一仁は僕を、、僕ずっと一仁は優しいって思ってたけど、本当はそこまで言う人だったんだ。僕本当に危なかった、」

「直接言われたわけじゃないけど、そんな感じのことを匂わせてたから、たぶん。威嚇、やばかったし。」

 桃にこんな顔をさせないように今まで守ってきたのに、いや、守ったつもりだった。結局泣かせたし、今だって怯えてる。自分の要領の悪さに辟易する。でももうこうなってしまったし、次どうするか考えないと。

「一宮に謝るのと同時に、一仁に殺されないように何かしないと。謝るだけじゃだめだ。こう、俺たちがいて一仁に何かいいことがあると思わせる何かを、」

「地位もお金も番もなんでも持ってる最高位のα様だよ、僕が一仁にとって利益になることなんて何も……。もしかしたら、唯も許してくれないかも。番との仲を邪魔して、酷いこともいっぱい言った。本当に僕、最低なこといっぱいしちゃった、どうしよう……。」

 桃、お前本当に今までどれだけのことをしてきたんだ。目の前にいるのは、俺の好きな子だけど憐れみを通り越して少し呆れる。

「……でも、一宮は、こういったら失礼かもだけど、謝ったらそれで許してくれそう。」

 箱入りって感じで、頭ヨワソウ、だし。そもそも番じゃないし。

「そうかな、うん、そうかも。だって彼、すごく、優しいし。」

 桃ってば人間関係下手くそな割に人の評価はちゃんとしてるんだよな。自分の考えがちょっと恥ずかしい。いや、こんなこと考えてないで早く一仁の方考えないと。

「一仁が喜ぶこととかなんか、、あいつ普段ほぼ真顔だからわかんないわ。授業で難しい問題答えられても、食堂で唐揚げおまけされてても、ずーっと同じ顔。あ、でもやっぱり一宮の前では割と笑ってるかも。」

「一宮君には、、」

 俺がうんうん言いながら考えてたら桃もそれを聞いて何か閃いたか、眉間にしわ寄せて何か考えてるようだった。

「αとΩ、番、喜ぶこと……」

「桃、何か思いついた?」

「うん、ちょっとだけ。許してもらえるか分からないけど、、うん。僕ちょっと考えまとめて、準備するから。涼はもう帰って、じゃあね。」

 何か思いつくやいなや桃はすぐに立ち上がって準備を始めた。思いついたらすぐ行動、これは桃のいいところ。
 で、流れるまま俺は桃の部屋を追い出された。



「え、ちょっと待って! 俺今日部屋帰れないんだって! 桃の部屋泊めて!」

 ドアをガチャガチャドンドンやって必死に桃に訴えた。もう遅いし、他の部屋行けないし、廊下で野宿とかいやだし。
 桃はすぐ部屋に入れてくれた。良かった!

「あ、そうだった。ごめん。でも、僕一人で考えたいから、こっち来ないで。寝る時もそっちのベッド使って。」

 そう言われて、俺は桃の同室の誰かのベッドに追いやられた。てっきり今日は桃と添い寝、と思っていたのに。俺は少し焦って桃に言った。

「おい、ちょっと待て。なんで俺が知らないやつのベッドで寝なきゃならないんだ。」

「えぇ、別に気にしなくていいよ。全然使ってないし。」

「桃のベッドで一緒に寝ればいいじゃん。俺たち付き合ってるんだし。」

「~~っ、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!、それに僕まだ別に涼のこと好きじゃないし!」

 桃が顔を赤くして反論する。そんなに俺と一緒に寝るの嫌? 違うな、照れてるだけだ。
 確かに今はこんなこと言ってる場合ではないけど、
 俺、ずっと桃のこと守ったし、何回か心臓止まる思いしたし、ご褒美欲しい。今日はなんとしても一緒に寝る!

「誰のせいで俺が帰れなくなったと。お詫びとして一緒に寝て!」

「確かに涼が帰れないのは僕のせいだけど!、ていうか涼さっき僕にキスしたじゃん! あの時まだ僕いいよって言ってなかったのに!、あれでチャラでしょ!」

「じゃあキスでもいいよ、もう1回して。」

「なんでよ!、僕の唇はそんなに安くないんですけど! あの1回でもお釣りくるレベルなんですけど! 添い寝と同じ価値な訳ないから!」

「だったら一緒に寝ようぜ、何もしないから。とにかく、俺は絶対知らないやつのベッドでは寝ない!」

 俺も桃も一歩も譲らない。もうこの言い合いは終わりが見えなくなってきていた。

「もー! そんなにあのベッドが嫌なら、じゃあもう床で寝れば!」

「なんでだよ!、俺に感謝の気持ちはないのかよ!」

「ないことないけどだからって一緒に寝ることにはならないでしょ!、あ、ほら、ファフ゜リース゜やってあげるから!」

「そういう問題じゃねー!」

 長いことやいやい言い合って、結局隣の部屋から壁を蹴られて我に返って言い合いは終わった。
 結果としては、俺は……















 ……一人で床で寝た。













 ここで添い寝できないのが涼。絶対にするのが一仁。でも一仁も一緒に寝るだけ、手は出させて貰えない。


 ちょっと暗くてしんどかったー、後ちょっとでおわる
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