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桃の章
みっともなく 〜涼視点〜
しおりを挟むとりあえず今は桃を落ち着かせなきゃだ。落ち着いて、謝らないと俺も桃もあの魔王に殺される。こんな状況で言うのも格好がつかないけど、とにかく今はこいつに伝えなきゃいけないことがある。
「そんなに一仁じゃなきゃ駄目? αならいっぱいいるよ、俺とか、どう?」
「は、何言ってるの、涼が一仁の代わりになれるわけないでしょ。一仁は桃の運命なんだから。」
軽く振られた。まぁ、今まで傍観してた俺が悪いんだけど。でも本当に桃は一仁を運命だと思ってるんだ。桃、頭は悪くないと思うのに、何故だ。
「その、桃の運命ってどういう意味?、桃はβだし、運命の番とかないって、桃自身もわかってるよね?」
「わかってる。でも一仁は特別だったの。桃、βだからαのフェロモンわかんない、けど一仁のだけ、桃感じれるんだもん。」
「え、本当に?」
それなら桃が運命だって言い張るのも無理ないかも。
「嘘じゃない。入学式の時、一仁のフェロモンずっと感じてた。わかったのはその時だけだけど、多分桃がβだって知って無意識に抑えられたんだ。」
あー、入学式の時。それって一仁がプロポーズした時の。あの時なら舞い上がってエグいフェロモン出ちゃって、桃にもわかっちゃったのかなー。それで桃はずっと勘違いして信じ続けたんだ。
「桃、はっきり言うけど、一仁はお前の運命じゃない。」
「そんな訳ない。運命だもん。」
「じゃあ、運命より、俺を選んで。」
「無理。」
即答キツイ。でももう、引き下がれない。なんでもいいからこいつを、桃を俺のものにしないと。
そっぽ向いて俺と目を合わせない桃の両腕を掴んで真っ直ぐに桃を見る。
「桃の運命より、桃を大事にします。」
「無理。」
「桃のこと、ずっと昔から好きでした。」
「知らない。」
「桃以外の人、見ません。桃だけしか要らないです。」
「あっそ。」
「桃のために命張れます!、今もほら、右手血だらけ!」
「それは!、涼が勝手に飛び込んで来たんじゃん!」
桃がこっちを向いた、、瞬間、俺は軽く桃に口付けた。桃はすごく驚いた様子だ。まん丸の目が俺を見て揺れている。
「俺と付き合ってください。」
「……本気で言ってるの。」
「超本気。大真面目。」
「でも無理。涼じゃ桃に釣り合わないから。」
「桃に釣り合うαになります。一仁を超える、とは言いきれないけどあいつレベルのαになります。」
「…………」
「付き合ってください。」
桃にこんなことを言う日が来るとは思ってなかった。心臓がバクバクいってる。右手が痛い。今はまだ桃のお眼鏡にかなわないかもしれないけど、釣りあえるようになる覚悟を見せる。
無言で見つめ合う中、先に折れたのは桃の方だった。
「~~ッ、言っておくけど桃、高いから。βだけど一級品だから。雑魚αじゃ釣り合わないんだからね。」
「わかってる。まじで頑張る。」
「他のやつ見たら、すぐ捨てるから。」
「それでいい、見ないから。」
強く桃を抱きしめて言った。桃も控えめに俺に体を預けてくれた。
桃がまだ俺を好きになった訳じゃない、勢いに押されて断る理由も見つからなかったから俺の酷い告白を受け入れてくれたのは分かってる。でも今だけはこうして俺に体を預けてくれることが嬉しい。
「っはー、本気で緊張した。桃に告白するつもりなかったのに。」
「そんなに?、好きだったっていうの本当なんだ、」
「あぁ、ずっと好きだったよ。」
「ずっと好きだったのに、言わないんだ?」
「俺が桃と釣り合うやつじゃないってわかってたから。」
「釣り合うやつになろうとはしなかったんだ?」
そう言いながら俺の顔を覗いた桃の顔はいたずらっ子のような笑みだった。
「んぐ、……ふっ、ごめん。」
「あははっ。いいよ、別に。」
そう言って2人で笑った。今までの距離感とそんなに変わっていなかった。
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