ずっと隣に

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桃の章

特別な僕 〜桃視点〜

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 一仁はやっと見つけた僕の王子様だ。


 僕は小さい頃から超可愛かった。今まで見たどんな子よりも可愛いってママもパパも僕をすごく可愛がってくれて、第二性は絶対Ωだねって。そんな両親が大好きだった。そして、大きくなったらαと結婚するんだってずっと信じてた。でも成長してバース判定の結果はβだった。僕は神様が特別に変えてくれたんだなって思った、だって確かにΩは社会的地位が低くて生きずらいこともあるから。でも逆に足枷になった。βはαと番には慣れないから嫁にも行けない、これじゃ親に恩返し出来ないって僕は苦しくなった。でも僕は諦めなかった。僕は持ち前の可愛さと要領の良さ、そしてどこまでも努力できるところで、いっぱい勉強して、自分のブランド成功させて、Ωだった予想の半分くらいは親の為に慣れてるんじゃないかなって思った。あとは理想のαが現れれば僕はβでも完璧だった。


 そして、高校になって現れたんだ、僕の運命が。それが一仁だった。初めは高校の入学式の時。式が始まる前にいつも通りみんな講堂前にたむろする。僕は、みんな早く入れよって思ってたんだけどその時に感じたんだ。甘くて体が震える様なフェロモンを。僕はβだから今までフェロモンを感じたことがなかったし、そもそも感じることは出来ないはずだった。でもその時はわかったんだ、フェロモンが。これは運命でしかない!って思った。神様がまた僕に特別なことをしてくれたんだって思った。でも肝心な誰のかは分からなかった。人が多かったしなんかいつもより騒がしかったから。結局僕の運命は誰かも分からないまましきが始まってしまった。でもしばらく経ったら僕の運命は壇上に上がってきた。僕はその時初めて名前を聞いた、鮫島一仁って言うんだって。壇上と距離があっても分かるフェロモン、そして一仁は壇上から僕を見た。彼も気づいてくれた。かっこよくてこの学年の首席、まさに僕にピッタリのαだった。


 僕と一仁はお互いが運命だってわかったはずなのに何故か一仁は他のΩにうつつを抜かしていた。名前は一宮唯。一宮なんて聞いたことがなかったし、当の本人は勉強もスポーツも料理もなにも出来ないポンコツだった。ならΩだから顔がいいのかと思ったら、確かに小綺麗な顔をしているけど髪が長くて野暮ったい、どう見ても僕よりいいとは思わなかった。話してみたら脳内もお花畑のお子ちゃま。こんなの社交界に出したら、どう考えたって一仁の不利益になることしかない。何故一仁が構うのか全く分からなかったけど、一つ理由があるとすれば二人は幼馴染らしいということだ。αは初めて見たものや気に入ったものに執着する習性があるから、強いて言えばそれかなと思った。それならもう二人を引き剥がして、一仁に僕を印象づけるしかないと思ってあいつに離れるように言い続けたんだけど、、一行に離れる様子がない。なんならアイツらがいちゃついてる噂しか聞かない。やっと現れた僕のαなのに僕に全然靡かない。僕は結構限界だったのかもしれない。














 天気は快晴、絶好の体育祭日和! 僕は一仁と同じチームであいつは違うチーム! 今日一日は一仁はずっと僕の隣!! 最高の日で僕も気分がいい、張り切っちゃう! でも邪魔されない様に釘さしておこっと。

 「ねぇ!」

 「あ、えっと、桃くん。何?」

 相変わらずアホっぽい。見てるとどんどんイライラしてくる。なんで光達はこんなのと一緒にいるんだか。

 「気安く僕の名前を呼ばないで。お前、何回も言ってるのに本当に話聞かないね。一仁はお前みたいなΩが一緒にいていい人じゃないの。いい加減遠慮してよ。今日の体育祭でボコボコにするから、僕たちが勝ったらこれから一生でしゃばらないでよね。」

 「別にでしゃばってなんて……、むしろ中学の時より一仁とは、」

 「気安く一仁の名前呼ぶなよ、僕は一仁にいいって言われたから呼んでるの。とにかく、ただ中学が一緒だったってだけで調子に乗らないでよね、ふんっ。あ、一仁だ。それじゃ。」

 僕たちのテントの方に一仁を見つけて走っていく。あいつも見てるし腕組んどこーっと。

「一仁、今日頑張ろうね。」

「やめて。」

 無理やり振り払われる前に、すぐ自分で解いた。いや、別に振りほどかれる訳ないんだけど、一応。一仁がちょっとびっくりた風にこっちを見てる。やっぱり僕にくっ付いてて欲しかったんだ。でも今はあいつに見せつける為だけだからごめんね、今日、暑いし。さりげなく腕を触ってみたら今日もあの時計をつけていた。今日は時計なんて要らないよね、邪魔だし。ま、まぁあの時計があいつからって決まった訳じゃないし。そんなに気にしすぎるのも良くないよね。
 すぐに一種目目の綱引きが始まる。僕はこれに出るからすぐ行かなくちゃいけない。

「一仁、桃行ってくるね、応援してね。」

「…………」

 相変わらず反応無いけど心の中では応援するって思ってるんだ、絶対。








 意気込んで望んだけどまぁ僕たちは負けた。でもこれチーム戦だから桃のせいじゃないね。

「ごめん負けちゃったー。」

「おかえりー」

 テントに戻ると一仁の横に涼がいた。やっぱり着いてきた。あれ、一仁がいつも以上に暗い気がする。

「一仁、何かあったの?」

「…………」

「あー、ちょっと振られただけ。そっとしといてあげて。」

 涼がそう言うと一仁がキッと涼を睨んだ。え、振られたって、それでそんなに落ち込むって、あいつにじゃない? あいつに振られたでしょ。やっと自分の立場を理解したんだ、あいつ。ここで僕が慰めればもう一仁の執着の対象は僕になる!

「一仁、桃が、桃がずっと傍にいるから。桃は一仁の運命だから。」

「黙って」

 あ、より機嫌悪くしちゃった。

 チッ

 しかも舌打ち付き!
 やっちゃった。振られた直後に猛アタックは良くなかった。もっとゆっくりでも良かったのに嬉しくって舞い上がっちゃった。

「ごめん。でも、桃っ」

「あー、次の種目始まるよ。翠組応援しようよ。」

 涼が話を遮った。正直助かったかも。一仁の機嫌はかなり悪いし、僕も焦って余計なことしか言わないかも。

「あ、うん。次は玉入れだね。」

 僕たちは大人しく玉入れを見始めた。なんか一仁が玉入れを集中して見てるなーって思ったらあいつが出てた。パッとしないのがぴょこぴょこ跳ねて玉を投げてるけどよく見ると全然入ってない。一仁は本当になんであんなのが好きだったのか。早く立ち直って僕だけを見て欲しい。















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