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桃の章
大切な贈り物
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「んぅ~ うるさぃ」
「唯起きてー遅刻しちゃうよー」
「んぁ~、、、えっ!!」
目を開けて時計をみたらすごく余裕を持って目覚ましをセットしたはずなのに本当に遅刻寸前だ。
「光くんもっと早く起こしてよ!」
「僕だったさっき起きたのー!」
なんてことだ、2人とも寝起きが悪いなんて… 今後遅刻しないように気をつけないと。
「ネクタイ、難しい。」
「あはは、唯ネクタイぐちゃぐちゃー。でも僕、人の結べないからごめんね。」
中学は学ランで楽だったなと思ったり、でもほとんど着なかったなと思ったりしつつ時間がないので朝ごはんにチョコを1つつまんで部屋を出た。
寮を出たらたくさん人が歩いてて遅刻はまぬがれたっぽい。
寮と学校までの短いけどそこそこある道を光くんと歩いていると、前から一仁が来た。
「おはよう、唯。朝無事起きれたんだね、えらいよ。でもネクタイは難しかったかな。」
「おはよう、一仁。違うの、朝ちょっとだけ起きるのが遅くなっちゃって焦ってたから上手く結べなかったの。」
「ふふ、貸して直してあげる。」
そう言って一仁は僕のネクタイを結び直した。人がいっぱいいるし、首元もくすぐったいし、うぅ…
「はい」
「ありがと…、うわ綺麗になった。一仁は人のネクタイまでこんな綺麗にできるのか。」
「うん? 唯はネクタイ苦手そうだから上手くなるまで毎日やってあげるからね。」
む、僕が自分でできるようになるまでずっとこの恥ずかしい行為を続けるのか。待ってろ、すぐ上達するから。軽く一仁を睨みながら思う。
「ところで朝食堂に来なかった唯は朝ごはんを食べたの?」
ひぇ、なんでわかるの。
「部屋で食べたの。」
「何を?」
「……チョコをひとつ。」
「へぇ。ところでここにコンビニで買ったたまごサンドがあるんだけど、たべる?」
「……うん。」
「ふふ、はい、あーん。」
こんな人前で、子供扱いされて恥ずかしいことこの上ないが、背に腹はかえられないので仕方なくあーんされる。
「美味しい?」
「うん。」
「これに懲りたら明日から頑張って起きようね。」
………はい。
「……バカップルかよ」
あれやこれやを乗り越えて学校に着いた。入学式をする大講堂に行く前に教室で待機だ。僕のクラスの前で一仁と別れた。
僕の席は窓側で、お隣は璃来くんだった。
「おはよう、璃来くん。お隣さんだね。これからよろしく。」
「おはよー唯。こっちこそよろしく。」
「おはよー璃来。聞いてよ、唯ってば朝からちょー恥ずかしくて。」
光くんが僕の今朝の失態を楽しそうに璃来くんに話している。僕は思い出したくなくて一人外を見ながら移動の時間を待った。
暫くして担任の先生が入ってきた。
「みんなおはよう。今年1年Eクラスの担任になった坂本 康二です、よろしく。それで、早速だけどこれから入学式だからネックガードを配ります。既に持ってる人以外は国からの配布だから全員受け取ってね。」
「ネックガード?」
不思議に思って呟くと璃来くんが教えてくれた。
「ヒートってまぁだいたいみんな16歳くらいで来るでしょ、だから高校で配布するのが決まってんの。今からαがいっぱいのところに行くんだよ? 誘発とかされたら自衛してられないからね。」
「あーあなるほどぉ。ありがとう。」
母様はもちろんつけてないし、周りにΩなんてあんまりいなかったから見なかったけど確かに教室内に首にネックガードをつけてる人がいる。今から配られる無地の黒いのよりオシャレで全く気が付かなかった。僕もつけるのか、少し楽しみだ。先生が名簿順にあを呼び始めて、直ぐに僕の番が……来なかった。あれ? 僕含め呼ばれてない人が数人いた。でも僕以外みんな首に巻いてる。
「先生、僕の分ないんですか?」
「えっと、一宮くんか。もう既に持ってるってなってるけど、、」
「え?」
「あれ、間違えたかなー。ごめん、すぐに確認とるから」
そう言って先生は職員室にとんでいった。
とりあえず僕達はみんなが移動を始めてるから流れについて行った。
「唯はヒートまだなんだよね。今熱っぽい感じする?」
「ううん、すごく元気。」
「じゃあ大丈夫じゃない? もし何かあったら僕達が守るよ!」
光くんと璃来くんに挟まれながら講堂に向かった。
講堂前の廊下は人がいっぱいだった。校内の人気者を少しでも近くで見ようとしてる人達がいっぱいなんだって。早く入れよって璃来くんが文句言ってる、僕もそう思う。
その時、一仁がこっちに向かってきてるのに気づいた。
「唯! はー良かった間に合って。これ、今朝忘れてて、ちょっとまっててね。」
そう言って一仁は僕の後ろに回ってゴソゴソし始めた。
「「え」」
光くんと璃来くんが声を出した。周りもざわざわし始めた、けど僕には何が起きてるのかわからない。一仁が僕の首元にさわり、、、何かを付けた。
「え、これ、」
「ネックガード、唯のために作ったの。貰ってくれる?」
また人前で恥ずかしいことを、でも嬉しい。
「わざわざ僕のために? 僕何か貰うようなことないと思うんだけど、誕生日でもないし。ていうか誕生日なら一仁の方が…」
「じゃあ今年の僕の誕生日プレゼントは唯がそれを受け取ってくれることがいいな。」
一仁が少し眉を曲げて不安そうに見てくる。元々断る気はないけどこれは断れないな。
「え、あ、うん。貰う、ありがとう。でも僕も一仁にあげたいものあるから誕生日になったら受け取ってくれる?」
「うん、もちろん。楽しみにしてる。」
ぎゅっと抱き締められる。だから恥ずかしいって。
「じゃあね、また後で。」
そう言って一仁は講堂の中に消えていった。残された僕は周りの視線が痛い。そして光くんと璃来くんが顔を真っ赤にして固まってる。
「どうしたの2人とも、僕の方が恥ずかしかったんだけど、こんな人前で目立つことされて。」
「え、あ、うん。いや、ここまでのは見たことなくってちょっと。」
「うーわ、」
2人の反応がよく分からなくてなんだかムカつく。ネックガードも貰ったことだし、2人の手を引いて早く講堂の中に入っていった。
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