明日の夢、泡沫の未来

七三 一二十

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 どこだ、ここは?

 どこかの建物の中ということはかろうじてわかったが、暗くて室内の様子はよく見えない。

 ぼんやりとした浮遊感、なのに脳髄の一点に妙な冴えがある。ああ、まただと理解する。おれはまた、を見ているんだな。

 さて、今度は何が起こるやら。割と呑気に構えていると、薄闇の中にぼんやりと人の姿が浮かび上がった。女だ。それも若い。うちの高校の制服をきている。

 ややあってそれは俺が所属する美術部の同級生、細川ほそかわ珠希たまきだと気づいた。黒髪を頭の後ろで束ねたポニーテール。眉毛が濃く、眼は吊り上がり、頬にはそばかすが浮かんでいる。美少女というほどではないがその容貌からは超然とした雰囲気が漂っていて、彼女の隠れファンは校内に結構多い。かく言う俺も白状すれば、彼女目当てで美術部に入ったのだ。

 細川は腰が抜けたかのように床にへたりこんでいた。普段は気が強い性格を象徴するような凛々しく尖っている眼が、今は大きく見開かれている。顔は薄闇の中でも見分けがつくほど蒼ざめ、唇は震えている。この夢には音が存在しないが、歯がカチカチと鳴る音が聞こえてくるようだ。間違いなく彼女は恐怖しているのだ。

 俺は慌てた。一体どうした!? 何が細川を、ここまで怯えさせているのか。

 疑問はすぐ氷解した。細川の後ろから、誰かがじりじりと迫っていた。暗くてその顔はよく見えないが、うちの高校の男子の制服を着ていた。背格好や雰囲気からも、女子とはまず考えられない。肩が上下しているのは、呼吸が激しいせいだろう。疲労しているのか、興奮しているのか。明らかに尋常な様子ではない。

 細川の口が動いた。何か言っているようだが、当然その声は聞こえない。誰かに助けを求めたのか?

 やがて男は細川の真後ろまできて立ち止まると、おもむろに左手を振り上げた。手に握っているものが、薄闇の中で光った。ナイフだ、と思った。細川は恐怖で固まっているのか、まるで動く様子はない。男は鋭利な刃物を持った左手を、細川めがけて振り下ろし……


 そこで目が覚めた。俺は自室のベッドの上にいた。カーテンの隙間からはすでに朝の陽光が差し込んでいる。傍らのデジタル時計を見ると、月曜日のAM6時50分。

 パジャマが汗で濡れている。今見た夢の感じ……間違いない、と思った。

 大変だ。近い未来うち、細川珠希は何者かに殺されてしまう!
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