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第62章:前世の宿敵は関西弁とともに(戦慄)①
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「ひ、姫……いや、お嬢、なぜここに!?」
地面に這いつくばった半竜人男が、驚愕の声をあげる。どうやら竜崎星良が樹木の陰にいることを知らなかったらしい。
俺の方に意外感はなかった。俺と男の戦いを観察する者がいることには、とっくに気づいていた。もっとも、向こうにも隠すつもりなどなかったに違いない。気配を殺そうとも、その身体の内からあふれ出る強烈な魔力を抑えようともしていなかったのだから。
竜崎は男に叱責するような一瞥をくれるとすぐ俺に向き直り、持ち前の関西なまりで話しかけてくる。
「勇者サリス……今は天代真人はんか。こっちの世界でははじめまして、やな? いや、昨日の昼休みに一度会うてるか。フェンス越しに眼があっただけのことを、「会った」と形容できればの話やけど」
「その後、夕方の廃工場にも来てたよな?」
「何や、やっぱりバレとったか。勘の鋭さは変わっとらんようやな」
「ふたつあった気配のひとつが、昼のグラウンドで感じたそれとそっくりだったんでね」
だからこそ昨日の廃工場でも、そして今も、陰の観察者の正体が竜崎星良だろうと当たりをつけることができたわけだが。
それにしても、最前まで戦っていた男と同じく、いやそれ以上に、竜崎もまたサリスについて熟知しているようだ。感覚の鋭敏さといい魔法への抵抗力――魔耐性といい、俺の戦力を当人以上に把握してやがる。
「あの時代錯誤なヤンキー連中を俺にけしかけたのも、あんたの仕業か」
「そうや。あんたが本当に勇者サリスの生まれ変わりなのか、確証がほしかった。もし無関係の第三者やったら巻きこむのも申し訳ないしな、まずは下っ端でお試しといったところや」
しゃあしゃあと。
「つまり学園にその名を轟かせる女子ソフトのキャプテンが、裏では不良どもを束ねる「影の総番」だったってことか」
「その古くさい呼び方は気に入らんけど、まあ似たようなもんやな」
皮肉で言ったつもりだったのに、まさかの肯定が返ってきた。今どきホントにあるんだな、そういうの……
「それで俺が本物のサリスだと確信したら、今度は本気で殺そうとしてきたってわけだな。「影の総番」ってのは、土僕なんて物騒なもんまで飼ってるのか?」
自分の声がささくれ立つのが自分でもわかる。俺を害そうとするだけならまだ良い、だが昨日土僕に襲撃された際には光琉が致命傷を負っているのだ。"女神の加護"のおかげでことなきを得たとはいえ、到底水に流す気にはなれない。
だが竜崎星良の示した反応は、予想外のものだった。
「土僕? 殺そうとした? 一体何の話や」
きょとんとした表情。その様子から、白々しさは感じ取れない。そもそもこの状況で、先方にとぼける理由があるとも思えない。
ということは、公園で俺たちが土僕におそわれた件と、こいつらは無関係なのか? たしかにあの時の召喚士から感じた魔力の波動は、この2人とは異質なものだった。てっきりあいつも徒党のひとりだと踏んでいたのだが、竜崎の言葉を信用するなら俺の思い違いだったことになる。
他にも――竜崎たちとは別口で――俺や光琉を狙う奴ないしは奴らがいる、ということだろうか。昨夜奥杜から受けた電話を思い返せば、それも十分あり得そうな話ではあるが……くそ、またひとつ頭痛の種が増えやがった!
「ひょっとして昨日、うちら以外にもあんたらにちょっかい出したのがおるんか?」
「……あんたには関係ない。それよりもあんたら自身のことだ。俺が勇者サリスの生まれ変わりだとして、なぜ俺をつけ狙う? そもそもあんたら、一体何者だ。フェイデアでサリスと、どんな因縁があった」
俺が問いかけると、竜崎は不服そうに表情を曇らせる。
「何や、やっぱり前世の記憶があんま戻ってないんか。しょーきちとの会話が噛み合うてなかったから、ひょっとしたら思うとったけど……ショックやわあ」
大仰に肩をすくめてみせる。
「天代はん、いやサリスはん、ちいと薄情なんちゃう? 生まれる前にあんだけ激しくヤり合うた仲やないか。あの身体の熱りを、もう忘れてもうたん?」
「ま、紛らわしい表現を使うな!」
念のため断っておくが、前世の俺はメルティア一筋な男だった。たとえ記憶が所々抜け落ちていようと、そこだけは自信がある。他の女といかがわしい関係を結ぶことなど、断じてなかった……はずだ!
この場に光琉がいなくてよかった、と心底思った。今の竜崎の発言を聞いたら、どんな反応を示したか。想像するだけでおそろしいぞ!
「なら、無理にでも思い出してもらおか。これでどうや?」
竜崎は口を引き結ぶと両手をわずかに浮かせ、きつく握りしめた。
地面に這いつくばった半竜人男が、驚愕の声をあげる。どうやら竜崎星良が樹木の陰にいることを知らなかったらしい。
俺の方に意外感はなかった。俺と男の戦いを観察する者がいることには、とっくに気づいていた。もっとも、向こうにも隠すつもりなどなかったに違いない。気配を殺そうとも、その身体の内からあふれ出る強烈な魔力を抑えようともしていなかったのだから。
竜崎は男に叱責するような一瞥をくれるとすぐ俺に向き直り、持ち前の関西なまりで話しかけてくる。
「勇者サリス……今は天代真人はんか。こっちの世界でははじめまして、やな? いや、昨日の昼休みに一度会うてるか。フェンス越しに眼があっただけのことを、「会った」と形容できればの話やけど」
「その後、夕方の廃工場にも来てたよな?」
「何や、やっぱりバレとったか。勘の鋭さは変わっとらんようやな」
「ふたつあった気配のひとつが、昼のグラウンドで感じたそれとそっくりだったんでね」
だからこそ昨日の廃工場でも、そして今も、陰の観察者の正体が竜崎星良だろうと当たりをつけることができたわけだが。
それにしても、最前まで戦っていた男と同じく、いやそれ以上に、竜崎もまたサリスについて熟知しているようだ。感覚の鋭敏さといい魔法への抵抗力――魔耐性といい、俺の戦力を当人以上に把握してやがる。
「あの時代錯誤なヤンキー連中を俺にけしかけたのも、あんたの仕業か」
「そうや。あんたが本当に勇者サリスの生まれ変わりなのか、確証がほしかった。もし無関係の第三者やったら巻きこむのも申し訳ないしな、まずは下っ端でお試しといったところや」
しゃあしゃあと。
「つまり学園にその名を轟かせる女子ソフトのキャプテンが、裏では不良どもを束ねる「影の総番」だったってことか」
「その古くさい呼び方は気に入らんけど、まあ似たようなもんやな」
皮肉で言ったつもりだったのに、まさかの肯定が返ってきた。今どきホントにあるんだな、そういうの……
「それで俺が本物のサリスだと確信したら、今度は本気で殺そうとしてきたってわけだな。「影の総番」ってのは、土僕なんて物騒なもんまで飼ってるのか?」
自分の声がささくれ立つのが自分でもわかる。俺を害そうとするだけならまだ良い、だが昨日土僕に襲撃された際には光琉が致命傷を負っているのだ。"女神の加護"のおかげでことなきを得たとはいえ、到底水に流す気にはなれない。
だが竜崎星良の示した反応は、予想外のものだった。
「土僕? 殺そうとした? 一体何の話や」
きょとんとした表情。その様子から、白々しさは感じ取れない。そもそもこの状況で、先方にとぼける理由があるとも思えない。
ということは、公園で俺たちが土僕におそわれた件と、こいつらは無関係なのか? たしかにあの時の召喚士から感じた魔力の波動は、この2人とは異質なものだった。てっきりあいつも徒党のひとりだと踏んでいたのだが、竜崎の言葉を信用するなら俺の思い違いだったことになる。
他にも――竜崎たちとは別口で――俺や光琉を狙う奴ないしは奴らがいる、ということだろうか。昨夜奥杜から受けた電話を思い返せば、それも十分あり得そうな話ではあるが……くそ、またひとつ頭痛の種が増えやがった!
「ひょっとして昨日、うちら以外にもあんたらにちょっかい出したのがおるんか?」
「……あんたには関係ない。それよりもあんたら自身のことだ。俺が勇者サリスの生まれ変わりだとして、なぜ俺をつけ狙う? そもそもあんたら、一体何者だ。フェイデアでサリスと、どんな因縁があった」
俺が問いかけると、竜崎は不服そうに表情を曇らせる。
「何や、やっぱり前世の記憶があんま戻ってないんか。しょーきちとの会話が噛み合うてなかったから、ひょっとしたら思うとったけど……ショックやわあ」
大仰に肩をすくめてみせる。
「天代はん、いやサリスはん、ちいと薄情なんちゃう? 生まれる前にあんだけ激しくヤり合うた仲やないか。あの身体の熱りを、もう忘れてもうたん?」
「ま、紛らわしい表現を使うな!」
念のため断っておくが、前世の俺はメルティア一筋な男だった。たとえ記憶が所々抜け落ちていようと、そこだけは自信がある。他の女といかがわしい関係を結ぶことなど、断じてなかった……はずだ!
この場に光琉がいなくてよかった、と心底思った。今の竜崎の発言を聞いたら、どんな反応を示したか。想像するだけでおそろしいぞ!
「なら、無理にでも思い出してもらおか。これでどうや?」
竜崎は口を引き結ぶと両手をわずかに浮かせ、きつく握りしめた。
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