実の妹が前世の嫁だったらしいのだが(困惑)

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第60章:魔法の世界にも常識ってあるよね。うん、何かごめん(暴挙)

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「ぐあああああああああ!!!……って、あれ?」

 反射的に悲鳴をあげてしまったが、すぐ違和感に気づく。

 熱くないのだ。炎の蛇が巻きついた制服のそですそ部分は炭化しているし、炎が生地きじって身体中に広がろうとしているのもたしかなのだが、俺の神経がその炎を熱く感じていない。

 いや、全く感じていないわけではないが、それが"痛み"にまで届かないというか。「なんか◯ッカイロでも当たってんのかなあ」くらいの感覚なのである。

 ひょっとして……ものは試しで、拘束された右腕を思いっきり引っ張ってみる。俺の自由をうばっていた炎の蛇はあっさりちぎれ、その破片が火の粉となって宙を舞った。

「なっ!?」

 指抜きグローブをした半竜人男が、驚愕のさけびをあげた。俺は残りの三肢――左腕、右脚、左脚にも落ちついて力を込めてみた。それぞれに絡みついた3本の蛇はやはり音もなく次々とちぎれていき、俺は完全にいましめから解放された。

 まだ制服の各部でくすぶっている残火のこりびを、掌でポンポン叩いては消していく。五体はいたって満足、やけどひとつ負っていなかった。

 ……こんな簡単に束縛から逃れられるなら、もっとはやく試してみればよかった。雰囲気に流されてさけんでしまった最前の行動が、急に恥ずかしくなってきたぞ。なんだよ「ぐああああ」って、少年漫画の読みすぎかよ。またひとつ、新たな黒歴史が爆誕しちまったじゃねえか。ぐああああ!

 それにしても奇妙だ。あれだけ長時間炎が身体に絡みついていて、全くダメージを受けていないとは。

「あんた、魔法の操作は器用だけど……もしかして威力の方はそこまでじゃないのか?」

 思わず問いかけてから、失言だったと気づく。鱗が浮き出た男の顔が、屈辱で青ざめているではないか。別にあおる意図はなかったのだが、言われた方からすればそりゃ煽られたようにしか思えんよなあ。

 もっとも放言した俺自身、それが言いがかりだという自覚はあった。火球が地面に着弾した瞬間には盛大な爆炎・爆音をあげていたし、着弾あとには今見ても深い穴が穿うがたれている。とても「威力が低い」と形容できる代物ではない。

 ということは、むしろ……俺が異様にカタい、ということになるのか?

「きさま、言わせておけば、キサマぁ!!」

 血を吐かんばかりの叫びをあげると、男は再び口を大きく開き"火玉かぎょく"の発射態勢に入った。

 緻密な計算のもとに組み立てられていた今までの攻撃とちがい、ただ激情にかられ発作的に放とうとしているだけのようだ。軌道もタイミングも見え透いている、これなら避けるのはたやすい。が。

 ひとつのアイディアが頭に浮かんだ。おのれの正気を疑いたくなるような、馬鹿げた思いつき。非常識にもほどがある! しかし、なぜか"いける"という確信があった。

 牙の先端が光る男の口の前でははやくも火球が完成されかけ、渦巻く熱気がこちらの皮膚でも感じとれるほどだ。その熱気の発生源めがけ、俺は駆け出していた。

 火球の向こうで半竜人男が、虚をつかれたように眼を見開いた。かわすでも防ぐでもなく、発動寸前の"火玉"に獲物の方から向かってくるとは思わなかっただろう。大口を開けたままでなければ、「馬鹿め、自ら死ににきたか!」くらいのことは言ったかもしれない。

 わかっていたことだが、俺が男のもとに到達するより"火玉かぎょく"が完成する方がはやかった。凶々しくかがやく球体が、俺めがけて高速で飛来する。

 火球は野球のボールより大きくサッカーボールより小さい、ちょうどその中間くらいの大きさだ。剣もどきを右手に握っていることで、動体視力も上がっている。俺は空いた左手を前方に伸ばし、5本の指を思いきり広げ――

 飛来する火球を、受け止めた。

「ば、馬鹿な!?」

 今度は男は声に出してうめいた。まあ気持ちはわかる。魔法を手でつかみ取るなど、自分でも傍若無人な所業だと思う。

 掌に意識を向けてみる。たしかに熱い。自販機から出てきたばかりのホットの缶コーヒーを手に取ったら、ちょうどこんな感じになるだろう。

 ……つまり、やはりその程度なのだ。掌に火ぶくれや焼けただれといった異変が生じた様子も、微塵もない。

 もう間違いない。俺の身体は炎に、いや魔法に対して、驚異的な抵抗力を備えている。無効化しているわけではないので魔法の攻撃を受ければ多少は神経を刺激されるが、ちょっとやそっとの威力ではそれがことはないようだ。

 前日の朝を思い出す。光琉ひかるが暴走し、俺の部屋の中で聖光が荒れ狂った時。あまりのまばゆさゆえに網膜もうまくこそ焼かれたものの、俺の身体にはその他一切の傷も痛みも生じなかった。室内の備品は吹き飛ばされ、壁の各所にひびが入るほどのエネルギーが渦巻いていたにも関わらず、だ。

 そして――そうだ、前世でメルティアと初めて言葉をかわす直前、大神殿内で魔人デモンと対峙した時。魔人が放った黒炎の波濤はとう、"焔浪えんろう"をサリスが身ひとつで真正面から突き抜け、魔人に短剣で斬りつけるという一幕があった。「金剛石さえ溶かす」おのれの黒炎を浴びてもダメージらしいダメージを負わず、平然と戦い続けるサリスを目の当たりにして、あの魔人は大層取り乱していた……

 この特異体質――魔法に対する異常な抵抗力は、前世のサリスから受け継いだ戦力アドヴァンテージなのだ。まだ記憶はおぼろげながら、そうとしか考えられなかった。

 確信に背中を押され、反撃を開始する。俺は"火玉かぎょく"をつかんだまま左腕を持ち上げ、オーバースローの要領で振り下ろした。放物線を描き、深紅の赫きは術者本人のもとへ戻っていく。

 魔法で生成された火球を腕力で投げ返すなど、これまた魔法の常道に反した暴挙である。この場に前世で黒魔導士だった奥杜おくもりがいたら、目をいて説教してきたかもしれんなあ。

 元々キャッチボールすらまともにしたことのない俺が利き腕ではない方で投じたのだから、返っていく火球はいわゆるヘロヘロ球だ。球威もスピードもありはしない。

 しかしおのれの"火玉"をつかまれたショックで自失状態だったのだろう、指抜きグローブ男はまるで避けるそぶりを見せなかった。ようやく我に帰ったらしくハッとした表情で顔をあげた時は、火球はもう目前にせまっていた。

「くっ……!」

 とっさに顔の前で両腕をクロスさせ、防御態勢にはいる。そこに"火玉かぎょく"が着弾し、爆炎が生じた。

 さすがに自分の魔法でダメージを負ってくれるほど、まぬけな相手ではないだろう(そこまでみくびってはいない)。だが数秒の隙をつくることはできた、それで十分だ。爆炎がおさまり視界が回復する頃には、俺は男に肉迫しそのふところにはいり込むことに成功した。

 頭頂部をかばうために両腕をあげた直後なので、男の腹部はがら空きだった。そこへモップのを打ちつける。手加減ぬき、本気の一太刀だ。

 衝撃がはしった。俺の右腕に。

って!」

 本物の竜人ドラゴニアにはおよばないまでも、鱗が浮き出た男の身体は最前とは比べものにならないほど頑強だった。樹齢をかさねた巨木でもなぐりつけたかのような手応てごたえ。俺の魔法防御が異常なら、相手は物理的な防御力が並はずれている。

「こざかしい。きさまの攻撃など、この竜人形態モードの前には無意味だ。蚊に刺されたかと思ったぞ!」

 居丈高いたけだかにさけびながら、爪の生えた右手を俺めがけて振り下ろしてきた。動作モーションが大きい、雑な攻撃だ。多少上半身を反らして難なくかわす。

 こちらの戦意をくじくために勝ち誇ってみせたのだろうが、男の放った言葉にむしろ俺は活路を見出した。「蚊に刺されたかと思った」と言った、つまり全く効いていないわけではないのだ! わずかだが俺の攻撃に痛痒を感じている。大体蚊に刺される感触って、結構嫌なもんじゃないか?

 だったらそれを蓄積させてやればいい。ダメージ1の攻撃を何十・何百発とくり返して、HP0まで削ってやる。

 手にした得物は折れたモップの柄というお世辞にも強力とはいえない代物だが、RPGでもレベルカンストさせれば初期装備でラスボス倒せることだってあるしな。何の根拠にもなってない気もするが……ここは前世の経験値レベリングを信じるしかない!
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