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第38章:いい加減作者の趣味を本編に持ちこみ過ぎるのやめんかい(抗議)
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林を抜け、3人で噴水広場へと出た。敵の只中におどり出た格好だが、どうせすでに包囲されている。樹々に邪魔されて身動きが取れず視界も不自由な林の中より、いくらかはマシと判断したのだ。
「どうやら最初から、狙いは俺たちだったようだな」
「近くに召喚士がいるね」
光琉が俺と背中合わせになり、周囲を警戒しながら言った。普段の能天気モードとは打って変わって、全身に緊張感と魔力をみなぎらせている。魔物と対峙した途端、臨戦態勢に自然と切り替わったらしい。やはり妹は"光の聖女"の生まれ変わりなのだ。
土僕の核となるのは霊人と同じく、意思を持たぬ精霊――霊媒である。召喚した霊媒を霊人化する前に土に溶けこませ、魔術で加工した身体を与えておのれの手駒とする。それが土僕を操る魔法"土操"の概要で、一種の召喚術なのだ。
余談だが、霊媒を死者の骸に封入すれば屍者が製造される。この術は"屍操"と呼ばれる。"土操"も"屍操"も主に魔族が使用する魔法で、フェイデアの人間界では邪法として禁止されていた。それでも中には、法に背いてでも使用する異端の魔導士はいたが……
「まさか土僕が出てくるなんて……ここまで強力な魔物には、今までだって滅多に遭遇したことがないのに」
つぶやく奥杜の声には、動揺の色があった。彼女の得意とする風魔法では土僕に致命傷をあたえられない、という焦りもあるだろう。その隙を見透かしたかのように、あたりを囲む土僕の一体がふいに襲いかかってくる。
奥杜は魔法で迎撃しようとしたが、虚をつかれたため精神集中が間に合わなかった。魔法が発動するよりはやく、土僕が彼女めがけて腕を振りおろす。魔物の手の先には、土が凝固した鋭い爪がある。元は土といえど、岩をも紙のように切り裂く凶器だ。
「"聖波"!」
光琉のさけび声が響くと同時に、白い光の奔流が走る。白光は奥杜を襲おうとする土僕を飲みこみ、その姿をかき消した。後には、地面に散乱した土片だけが残った。
「何ぼーっとしてんの、どんどん敵が来るわよ!」
右手の掌を前方にかざしながら、光琉が叱咤する。霊媒を核とする土僕は浄化の力に弱い。光魔法を操る光琉は、彼らにとって天敵とも言える存在なのだ。
妹の指摘したとおり、土僕たちが包囲の輪を縮めながら俺たちに迫ってくる。召喚士が複数を同時に操っているためか動きは緩慢だが、数が多く威圧感がすごい。
光琉の周囲にも、いつの間にか数体の土僕が寄ってきていた。
「聖波、聖波、もひとつ聖波ぁ!!」
妹は自分に迫りくる土僕たちに掌を向けなおすと、立て続けに"聖波"の魔法を放つ。白い光は次々と襲撃者たちに直撃しては、物言わぬ土塊へと変えていった。
「これだけの威力の浄化魔法を、術式も用いず連発するなんて……転生しても聖女の力は健在というわけね。こちらの立場がないわ、まったく」
奥杜が呆れたようにため息をつく。その髪が亜麻色に変質していた。彼女もすでに集中力を取りもどし、"風刃"を放って光琉の援護に回っているのだ。土僕に致命傷はあたえられなくても、牽制にはなる。
"聖波"は聖なる光に何の加工も施さず、ただ指向性をあたえて発するだけの最も初歩的な光魔法である。光琉にとっては手足を動かすのと変わらない感覚で放てる魔法だが、その浄化の効能は大抵の神聖魔法では及びもつかないほどのものだ。
魔法の純粋な威力においても発動速度においても、"光の聖女"はフェイデア界の中でも最高級の存在だった。くわえて、戦いには相性というものがある。土僕を相手にする場合、光魔法の方が風魔法よりはるかに有効なのは、否めない事実だろう。しかし……
「くっそお、数が多いなあこいつら。しつこいったら!」
光琉がぼやくとおり敵は多勢であり、しかも倒したそばから新たに地面から湧き出てくる。これではいくら光琉が強力な浄化魔法を連射できるといっても、きりがない。妹の至近まで土僕が迫り、肝を冷やす場面も何度かあった。
「せめて、剣さえあれば……」
俺も妹の援護にまわりたかったが、剣を持たなければこの場では足手まといにしかならない。魔法を発動するたびに、少しずつではあるが光琉の表情に疲労の色が蓄積していく。こんな状況で、ただ傍観しているしかできないとは!
おのれの無力さを呪ったが、それで事態が好転するわけでは、無論ない。
「剣ならあそこにあるじゃない」
そう言って奥杜が指さしたのは広場の一角を占める、子供たちが遊ぶための遊具が設置されたスペース――その中にある砂場だった。よく見ると砂場の上には、子供たちが置き忘れていったものだろう、おもちゃが散乱している。
それらの内に、ひとつ剣のおもちゃがあった。日本刀のような形状をしている。しかしプラスチックのチープな質感は、薄闇の中、遠くから見ても明らかだった。
「あのなあ、剣って言っても、あれはおもちゃじゃないか」
「この状況で贅沢は言えないでしょ」
「俺、そんなにわがままなこと言ってるかなあ!?」
とはいえ、先刻傘で前世の戦闘勘がよみがえった、という実例がある。それに比べればおもちゃの日本刀の方が、まだ剣に近いと言えるかもしれない……言えるか?
「よおし、わかった。にいちゃんがあの剣を取れるよう、砂場までのルートを切り拓けばいいんだね!」
短兵急な妹は俺の返事も待たずに結論をくだすと、遊具スペースへ向けて"聖波"を連発した。砂場までの間にひしめいていた土僕たちが光の波を浴び、次々と土へ還る。奥杜も"風刃"で、そのサポートをする。
悩んでいる暇はなさそうだった。俺は土僕たちが崩れ一時的に生じた空白地帯を、砂場まで駆け抜けた。砂場にたどり着くと、砂にまみれて無造作に転がっているおもちゃの刀を無造作に拾いあげる。
子供でも容易に振れる、軽くて華奢な代物だ。いくら何でもこれで、前世の勘がよみがえるなんてことは……あー、スイッチ入っちゃったよ。感覚が研ぎ澄まされる、空気の微細な動きで、敵の挙動が手に取るようにわかる。
極めてお手軽な仕様で、この際は助かるのだが……なんか割り切れねえなあ!?
再び砂場付近に群がってきたゴーレムたちが次々と俺に襲いかかってきたが、剣(一応)をにぎった俺にとってそれらの攻撃は物の数ではない。いささか情けない思いを抱えつつもすべて難なくかわし、光琉たちの元へと戻っていった。
「やったね、これでにいちゃんはもう敵無しだよ!」
光琉が喝采をあげるが、おもちゃの剣で無敵になる男子高校生ってのも相当アレだぞ?
「しかし、何だこのおもちゃの刀は。はじめて見るタイプだが」
「あら、知らないの?」
奥杜が心底意外そうな声をあげる。
「これは今、日曜朝に放送しているアニメに出てくる刀のおもちゃよ。子供たちの間で大人気なんだから」
「へえ、何てタイトル?」
「『妖滅の刀』」
「もう"◯滅"シリーズはいいよ!」
そろそろ本当に怒られるぞ!? というか、この世界のクリエイター連中に、プライドというものはないんかい。
「『妖滅の刀』は主人公の墨次郎がぬりかべに変えられた妹の熱子を人間に戻すために妖怪の親玉・杜撰と戦うバトルアニメで、」
「そのアニメスタッフたちは理性のブレーキがぶっ壊れてんのか!? 際どすぎる固有名詞の羅列やめろ……つーか妹がぬりかべって何!?」
「その刀は主人公の墨次郎が使う愛刀を模したグッズ、その名も……」
”○輪”を連想させる単語が出そうになったら風紀委員の口をふさがねばならない、とひそかに決意を固める。
「DX"獣の刀"よ!」
「なんで最後だけ『◯しおととら』に行った! 作者の趣味か、趣味なのか!!?」
少しは若い読者様方に寄り添わんかい! 登場人物の苦労も考えろ、風が吹き止まねえじゃねえかよ……
というか、何でうちの風紀委員がこんなに今時のアニメに詳しいのだろう。厳しい家でそういう趣味は禁止されていたんじゃなかったっけ?
俺がその点を指摘すると、
「こういうのは子供の頃に禁止されるほど、成長してから反動が来るものなのよ」
と、奥杜は胸を張って開き直ったのだった。うむ、色々拗らせているようである。
なお、風紀委員の胸部は妹と違い、歳相応の発育を遂げている。つまり堂々と胸を張るポーズをとられると、その、いささか眼のやり場に困ってしまうわけで。
「ちょっと、いつまでムダバナシをしてるのよ! そんなジョーキョーじゃないでしょ!?」
体型上のコンプレックスを刺激されたわけではあるまいが、光琉が俺たちを注意してくる。そしてその指摘は、(めずらしく)的を射たものだった。俺たちは依然多勢のゴーレムに囲まれ、事態は一向に改善していないのだ。
「とはいえ、こんなおもちゃの剣ではな……」
先ほどの不良たち程度ならともかく、本物のモンスターを相手にするとなると、このDX"獣の刀"ではとても太刀打ちできないだろう。いかに俺の"剣士の本能"が目覚めているといっても、おもちゃでダメージをあたえられるほど容易な相手ではない。
「何言ってんの、そのために私がいるんでしょうが」
前世のカーシャを思わせるややはすっぱな口調でそう言うと、奥杜はおもむろにおもちゃの刀に向かって、両手の指で印を結びだした。
「猛々しき千の獣 一枝に宿りて邪を穿つ
瞋恚と暴威 禍々しき破壊の螺旋
流るる血潮紅玉より赤く 死のかんばせ瑠璃より蒼し……」
印と同時に、奥杜は朗々と詠唱を始める。何やら黒歴史を思い起こさせる中二病全開の文言で、反射的に耳を塞ぎそうになるが、これも必要な儀式なのだろう。茶化しては悪いと思い、じっと耐える。
あれ、でも待てよ。たしか前世のカーシャは、魔法を発動させる時……
「愚者を屠り尽くせし後 狂える咆哮こそ勝利の凱歌とならん!」
疑問が明確な形をなす前に詠唱が終わった。奥杜の手の先に風が生じ、俺が持つおもちゃの刀へと絡みつき始めた。無論風を眼で見ることはできないが、俺の”魔覚”は魔風がどのように動いたかを正確にトレースしていた。風の勢いはどんどん強くなり、やがて刀身を中心として極小サイズの竜巻が現出する。
「付加魔法か!」
「ええ、攻撃強化魔法"風織"――破壊の風をこの剣にまとわせたわ。これであいつらとも十分戦えるでしょ」
奥杜が視線を向けた先では、1体の土僕が俺に向けてその爪を振りおろそうしていた。俺は瞬時に全身の関節を稼働させ、風の破壊力をまとったおもちゃの刀で、土僕の胸へと突きを繰り出した。
鈍い音が連鎖して、乱気流が土塊の身体を破砕する。土僕は胸部に大きな空洞を穿たれ、後方へと吹き飛んでいった。
「どうやら最初から、狙いは俺たちだったようだな」
「近くに召喚士がいるね」
光琉が俺と背中合わせになり、周囲を警戒しながら言った。普段の能天気モードとは打って変わって、全身に緊張感と魔力をみなぎらせている。魔物と対峙した途端、臨戦態勢に自然と切り替わったらしい。やはり妹は"光の聖女"の生まれ変わりなのだ。
土僕の核となるのは霊人と同じく、意思を持たぬ精霊――霊媒である。召喚した霊媒を霊人化する前に土に溶けこませ、魔術で加工した身体を与えておのれの手駒とする。それが土僕を操る魔法"土操"の概要で、一種の召喚術なのだ。
余談だが、霊媒を死者の骸に封入すれば屍者が製造される。この術は"屍操"と呼ばれる。"土操"も"屍操"も主に魔族が使用する魔法で、フェイデアの人間界では邪法として禁止されていた。それでも中には、法に背いてでも使用する異端の魔導士はいたが……
「まさか土僕が出てくるなんて……ここまで強力な魔物には、今までだって滅多に遭遇したことがないのに」
つぶやく奥杜の声には、動揺の色があった。彼女の得意とする風魔法では土僕に致命傷をあたえられない、という焦りもあるだろう。その隙を見透かしたかのように、あたりを囲む土僕の一体がふいに襲いかかってくる。
奥杜は魔法で迎撃しようとしたが、虚をつかれたため精神集中が間に合わなかった。魔法が発動するよりはやく、土僕が彼女めがけて腕を振りおろす。魔物の手の先には、土が凝固した鋭い爪がある。元は土といえど、岩をも紙のように切り裂く凶器だ。
「"聖波"!」
光琉のさけび声が響くと同時に、白い光の奔流が走る。白光は奥杜を襲おうとする土僕を飲みこみ、その姿をかき消した。後には、地面に散乱した土片だけが残った。
「何ぼーっとしてんの、どんどん敵が来るわよ!」
右手の掌を前方にかざしながら、光琉が叱咤する。霊媒を核とする土僕は浄化の力に弱い。光魔法を操る光琉は、彼らにとって天敵とも言える存在なのだ。
妹の指摘したとおり、土僕たちが包囲の輪を縮めながら俺たちに迫ってくる。召喚士が複数を同時に操っているためか動きは緩慢だが、数が多く威圧感がすごい。
光琉の周囲にも、いつの間にか数体の土僕が寄ってきていた。
「聖波、聖波、もひとつ聖波ぁ!!」
妹は自分に迫りくる土僕たちに掌を向けなおすと、立て続けに"聖波"の魔法を放つ。白い光は次々と襲撃者たちに直撃しては、物言わぬ土塊へと変えていった。
「これだけの威力の浄化魔法を、術式も用いず連発するなんて……転生しても聖女の力は健在というわけね。こちらの立場がないわ、まったく」
奥杜が呆れたようにため息をつく。その髪が亜麻色に変質していた。彼女もすでに集中力を取りもどし、"風刃"を放って光琉の援護に回っているのだ。土僕に致命傷はあたえられなくても、牽制にはなる。
"聖波"は聖なる光に何の加工も施さず、ただ指向性をあたえて発するだけの最も初歩的な光魔法である。光琉にとっては手足を動かすのと変わらない感覚で放てる魔法だが、その浄化の効能は大抵の神聖魔法では及びもつかないほどのものだ。
魔法の純粋な威力においても発動速度においても、"光の聖女"はフェイデア界の中でも最高級の存在だった。くわえて、戦いには相性というものがある。土僕を相手にする場合、光魔法の方が風魔法よりはるかに有効なのは、否めない事実だろう。しかし……
「くっそお、数が多いなあこいつら。しつこいったら!」
光琉がぼやくとおり敵は多勢であり、しかも倒したそばから新たに地面から湧き出てくる。これではいくら光琉が強力な浄化魔法を連射できるといっても、きりがない。妹の至近まで土僕が迫り、肝を冷やす場面も何度かあった。
「せめて、剣さえあれば……」
俺も妹の援護にまわりたかったが、剣を持たなければこの場では足手まといにしかならない。魔法を発動するたびに、少しずつではあるが光琉の表情に疲労の色が蓄積していく。こんな状況で、ただ傍観しているしかできないとは!
おのれの無力さを呪ったが、それで事態が好転するわけでは、無論ない。
「剣ならあそこにあるじゃない」
そう言って奥杜が指さしたのは広場の一角を占める、子供たちが遊ぶための遊具が設置されたスペース――その中にある砂場だった。よく見ると砂場の上には、子供たちが置き忘れていったものだろう、おもちゃが散乱している。
それらの内に、ひとつ剣のおもちゃがあった。日本刀のような形状をしている。しかしプラスチックのチープな質感は、薄闇の中、遠くから見ても明らかだった。
「あのなあ、剣って言っても、あれはおもちゃじゃないか」
「この状況で贅沢は言えないでしょ」
「俺、そんなにわがままなこと言ってるかなあ!?」
とはいえ、先刻傘で前世の戦闘勘がよみがえった、という実例がある。それに比べればおもちゃの日本刀の方が、まだ剣に近いと言えるかもしれない……言えるか?
「よおし、わかった。にいちゃんがあの剣を取れるよう、砂場までのルートを切り拓けばいいんだね!」
短兵急な妹は俺の返事も待たずに結論をくだすと、遊具スペースへ向けて"聖波"を連発した。砂場までの間にひしめいていた土僕たちが光の波を浴び、次々と土へ還る。奥杜も"風刃"で、そのサポートをする。
悩んでいる暇はなさそうだった。俺は土僕たちが崩れ一時的に生じた空白地帯を、砂場まで駆け抜けた。砂場にたどり着くと、砂にまみれて無造作に転がっているおもちゃの刀を無造作に拾いあげる。
子供でも容易に振れる、軽くて華奢な代物だ。いくら何でもこれで、前世の勘がよみがえるなんてことは……あー、スイッチ入っちゃったよ。感覚が研ぎ澄まされる、空気の微細な動きで、敵の挙動が手に取るようにわかる。
極めてお手軽な仕様で、この際は助かるのだが……なんか割り切れねえなあ!?
再び砂場付近に群がってきたゴーレムたちが次々と俺に襲いかかってきたが、剣(一応)をにぎった俺にとってそれらの攻撃は物の数ではない。いささか情けない思いを抱えつつもすべて難なくかわし、光琉たちの元へと戻っていった。
「やったね、これでにいちゃんはもう敵無しだよ!」
光琉が喝采をあげるが、おもちゃの剣で無敵になる男子高校生ってのも相当アレだぞ?
「しかし、何だこのおもちゃの刀は。はじめて見るタイプだが」
「あら、知らないの?」
奥杜が心底意外そうな声をあげる。
「これは今、日曜朝に放送しているアニメに出てくる刀のおもちゃよ。子供たちの間で大人気なんだから」
「へえ、何てタイトル?」
「『妖滅の刀』」
「もう"◯滅"シリーズはいいよ!」
そろそろ本当に怒られるぞ!? というか、この世界のクリエイター連中に、プライドというものはないんかい。
「『妖滅の刀』は主人公の墨次郎がぬりかべに変えられた妹の熱子を人間に戻すために妖怪の親玉・杜撰と戦うバトルアニメで、」
「そのアニメスタッフたちは理性のブレーキがぶっ壊れてんのか!? 際どすぎる固有名詞の羅列やめろ……つーか妹がぬりかべって何!?」
「その刀は主人公の墨次郎が使う愛刀を模したグッズ、その名も……」
”○輪”を連想させる単語が出そうになったら風紀委員の口をふさがねばならない、とひそかに決意を固める。
「DX"獣の刀"よ!」
「なんで最後だけ『◯しおととら』に行った! 作者の趣味か、趣味なのか!!?」
少しは若い読者様方に寄り添わんかい! 登場人物の苦労も考えろ、風が吹き止まねえじゃねえかよ……
というか、何でうちの風紀委員がこんなに今時のアニメに詳しいのだろう。厳しい家でそういう趣味は禁止されていたんじゃなかったっけ?
俺がその点を指摘すると、
「こういうのは子供の頃に禁止されるほど、成長してから反動が来るものなのよ」
と、奥杜は胸を張って開き直ったのだった。うむ、色々拗らせているようである。
なお、風紀委員の胸部は妹と違い、歳相応の発育を遂げている。つまり堂々と胸を張るポーズをとられると、その、いささか眼のやり場に困ってしまうわけで。
「ちょっと、いつまでムダバナシをしてるのよ! そんなジョーキョーじゃないでしょ!?」
体型上のコンプレックスを刺激されたわけではあるまいが、光琉が俺たちを注意してくる。そしてその指摘は、(めずらしく)的を射たものだった。俺たちは依然多勢のゴーレムに囲まれ、事態は一向に改善していないのだ。
「とはいえ、こんなおもちゃの剣ではな……」
先ほどの不良たち程度ならともかく、本物のモンスターを相手にするとなると、このDX"獣の刀"ではとても太刀打ちできないだろう。いかに俺の"剣士の本能"が目覚めているといっても、おもちゃでダメージをあたえられるほど容易な相手ではない。
「何言ってんの、そのために私がいるんでしょうが」
前世のカーシャを思わせるややはすっぱな口調でそう言うと、奥杜はおもむろにおもちゃの刀に向かって、両手の指で印を結びだした。
「猛々しき千の獣 一枝に宿りて邪を穿つ
瞋恚と暴威 禍々しき破壊の螺旋
流るる血潮紅玉より赤く 死のかんばせ瑠璃より蒼し……」
印と同時に、奥杜は朗々と詠唱を始める。何やら黒歴史を思い起こさせる中二病全開の文言で、反射的に耳を塞ぎそうになるが、これも必要な儀式なのだろう。茶化しては悪いと思い、じっと耐える。
あれ、でも待てよ。たしか前世のカーシャは、魔法を発動させる時……
「愚者を屠り尽くせし後 狂える咆哮こそ勝利の凱歌とならん!」
疑問が明確な形をなす前に詠唱が終わった。奥杜の手の先に風が生じ、俺が持つおもちゃの刀へと絡みつき始めた。無論風を眼で見ることはできないが、俺の”魔覚”は魔風がどのように動いたかを正確にトレースしていた。風の勢いはどんどん強くなり、やがて刀身を中心として極小サイズの竜巻が現出する。
「付加魔法か!」
「ええ、攻撃強化魔法"風織"――破壊の風をこの剣にまとわせたわ。これであいつらとも十分戦えるでしょ」
奥杜が視線を向けた先では、1体の土僕が俺に向けてその爪を振りおろそうしていた。俺は瞬時に全身の関節を稼働させ、風の破壊力をまとったおもちゃの刀で、土僕の胸へと突きを繰り出した。
鈍い音が連鎖して、乱気流が土塊の身体を破砕する。土僕は胸部に大きな空洞を穿たれ、後方へと吹き飛んでいった。
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