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第30章:自称聖女のうちの妹は、実は結構な悪女かもしれない(動揺)②

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 そもそも普通、デートってどういうとこに行きゃいいものなんだ?

 迂闊にも俺は、ここに至るまでその点をまるで考えていなかった。

 何度も繰り返すのはしゃくだが、俺こと天代あましろ真人まさとは彼女いない歴=年齢の平均的な(願望)高校1年生である。これまでデートなんて経験はないし、特に興味も必要もなかったので雑誌やインターネットでデートスポットについて調べるといったこともしたためしはなかった。俺が漠然と持っている”気の利いたデート”のイメージと言えば、夜景の見える高層ビルのレストランでシャンペン片手にコース料理を楽しみながら、相手の女性に向かって「綺麗な夜景だね、でも君の方がもっと綺麗さ」とか歯の浮くようなセリフをほざく……自分で言ってて恥ずかしいわ! なんだ、この無駄にバブリーかつ貧相な想像は!?

 しょせん、俺の認識などその程度なのだ。よって、仮に光琉ひかるが今向かっている場所が陽キャどもがウェイウェイ騒いでいるような流行りのオシャレ空間だったとしても、たどり着いたところでどう振舞えばいいものだか見当もつかん。というか作者だって、そんな場所の知識は持っとらんだろう。

 やっぱこのデート回自体、無謀だったのではなかろうか。書く側にも主人公オレの側にも荷が重すぎる。「約束どおり妹とデートした。そして数年後――」てな感じで時間を飛ばしといた方が、ボロも出ることなく無難だったのでは……

「にいちゃん、着いたよ!」

 パックを手にしたままの光琉に呼ばれて、埒もない思考を中断する。やや声に険があるのは、結局俺にたこ焼きを食べさせることができなかったからだろうか。

 この時点で、光琉が手にしているパック内のたこ焼きは残数0になっていた。俺はひと口も食べていない。光琉が俺の口元めがけてたこ焼きを10回突き出し終えると自分の口に運び、爪楊枝で新たにたこ焼きを掬い上げラッシュを再開する……というルーティンを(おそらく無意識の内に)繰り返した結果、すべて妹の胃袋に落ちていったのである。「ああッ、いつの間にかたこ焼きがなくなってる! 知らない内に何者かが魔法で干渉でもかけてきたの!?」と妹は騒いでいたが、勿論そんなわけはなく本人が食い意地に屈しただけであることをここに銘記しておこう。

「まーた1人で何か考えこんじゃって……せっかくのデートなんだから、もっと集中してよ。楽しまなきゃ損じゃん!!」

「あ、ああ、悪かったよ。お前にしちゃ珍しく正論だ……って、ここって」

 俺たちが今いるのは、駅前アーケード街の中ほどである。目の前には4階建てのビルがあり、そこが光琉の目的地だった。LEDライトで発光した看板、吹き抜けとなっている入り口からは1階フロアに設置されたクレーンゲームや音ゲーの筐体が見え、機械音と人の声が混ざり合った喧噪が外の通りまで洩れている。

 ここは……ゲーセンだな。しかも俺たちにはおなじみの見慣れたゲーセンである。普段から光琉と連れ立って、休日などによく遊びに来ている場所だ。俺たち兄妹は最早この店の"常連"であると言っても過言ではあるまい、何の自慢にもならないが。
 
 「って、お前がデートで来たかった場所ってここかよ」

 「うん、ここの筐体で夕べのリベンジをしたかったの! 今ならにいちゃんに勝てる気がするわ!」

 それ、デートか? つーか本っ当に、普段とやること変わらんな! 「普段通り兄妹で遊ぶだけだ」とさっきから主張し続けている俺としては文句を言う筋合いもないが……勝手にテンパってたこっちが馬鹿みたいだろうが!

「大体、リベンジだったら家に帰ってから○ーファミでもできるだろ」

「まあ、いきなり自宅デートに誘うなんて……にいちゃんてば大・胆」

「てめえの生家でもあるし、どうせこの後一緒に帰るんだよ!!」

 さすがに頭痛が耐え難いものになって来たぞ……あと"自宅デート"とか言うな、家にいる時に妙に意識してしまいそうだから。

「まあ、冗談はおいとくとして」

「冗談の自覚あったんかい。どこからどこまで?」

「話のコシを折らない! こういうことは、2人で外に出てきて遊ぶからこそがあるのよ」

「だからってせっかくのデートで、いつも来ているような場所を選ばんでも……」

「いいじゃん、いつもの場所で。2人ともゲームは好きだし、それに、」

「それに?」

「あたしはにいちゃんと一緒にいられるなら、どんなとこだって楽しいわよ」

 ぐふっ! 不意打ちで殺し文句を放ってきやがった。なんだこいつ、天然で言っているのか? うちの妹は聖女を自称しているが、実は結構悪女の素質があるのではあるまいか。

 気心が知れていて、趣味が一致して、デートになっても贅沢な要望をしない。おまけに天使のような美少女ときた……こう並べ立ててみると、恋人としては理想的な気がしてくるなあ。血の繋がった実の妹、という一点を除けば。

 もっとも、今こうして俺に懐いているのも、前世の記憶が戻った直後の一時的な気の迷いだろう、と俺は踏んでいる。もう少し経てば頭も冷えて兄離れするだろうし、そのうち誰か他の男を好きになるかもしれない。仮に新しい彼氏ができたとしても、同じように甲斐甲斐しい彼女ぶりを発揮することだろう。

 ちょっと、いやかなりアホだけど、こんな良いは中々いないからな? と、俺はまだ見ぬ妹の彼氏に呼びかける。脳内で。光琉とそういう関係になれるなんて、貴様は三国一の(古い!)幸せ者だぞ。大事にせんと許さんからな。まったくうらやましい……うらやまけしからん……ぐぎぎ……

「ちょっと、にいちゃん、口から血が出てるよ!」

 光琉が驚いたような声をあげる。いつの間にか歯を強く噛みしめすぎて流血していたらしい。妹があわてて俺をビル脇の路地へと引っ張っていく。

「ひょっとして、さっきの喧嘩のダメージがまだ残ってたの!? やっぱりあの不良たち、許せない!」

「あ、いや、そうじゃなくて、これはだな……」

 妹の推察は紛れもなく誤解だったが、まさか「空想上のお前の彼氏に嫉妬して歯を噛みすぎた」と白状するわけにもいくまい。結局言葉を濁して、ヤンキーたちに濡れ衣を被ってもらうことにした。すまんな。

 路地に人目がないのを確認すると、光琉は再度、俺の顔に手をかかげて"慈光じこう"をかけてくれた。やっぱりこの回復魔法は便利だなあ。前世に引き続き、現世でも今朝から世話になりっぱなしだ。ギャグの後始末もバッチリという優れものである。

 「どうする? やっぱり今日は家に帰って、休んでいた方が……」

 「ここまで来て今更何言ってんだよ。ほら、中の筐体でプレイしたいんだろ? さっさと入ろうぜ」

 出血理由をごまかした後ろめたさもあったので、俺は咄嗟に光琉の手を取ってしまった。光琉は最初眼を丸くしていたが、すぐに心底嬉しそうに微笑んで俺の手を握り返してきた。

 俺の右手が妹の左手の柔らかさに包まれる。兄妹とはいえこんな風に改まって手を繋ぐことなんて普段はないから、何だか新鮮だった。今朝、"瞬燐しゅんりん"で学校へ向かう際にも繋いだは繋いだが、あの時はバタバタしていてとても感触を吟味する余裕などなかった。

 少し迷ったが、結局そのまま俺がリードする形でゲーセン店内へと入っていった。こんなバカップルみたいなことをしていたら、またぞろ周囲からの白眼視に苛まれることだろう。そうは思ったものの、何故だか繋いだ手をほどく気にはなれなかった。
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