実の妹が前世の嫁だったらしいのだが(困惑)

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第23章:突然不良たちにからまれたと思ったら、その風貌が時代錯誤すぎた(愕然)

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 立ちはだかったのは1人ではなかった。7人、8人……全部で9人の、男子の集団だった。

 しかも全員、できればお近づきになりたくないようなで立ちをしている。男たちはうちの高校の生徒らしかったが、あきらかに校則を逸脱した服装ばかりだった。ダボダボの改造制服やカラフルなTシャツ、暴走族が着ているような特攻服に身を包んでいる者までいる。髪型も角刈りにパンチパーマにドレッドヘアー、とファンキーな方向に多種多様だった。中でもひと際目立ってのは、前髪を固めて前方にフランスパンのように長く突き出させた、今にも”治す”能力の○タンドをドラドラ繰り出してきそうなヘアスタイルの男である……念のため、あの髪型にはケチをつけないよう気をつけておくか。

 要するに、奥杜おくもりが目にしたら卒倒しそうな光景が、俺たちの前方に広がっているのだった。

 どうやら我が校の、いわゆる"不良集団"の皆さんらしいが……さすがにイメージが古過ぎないか!? 今時の高校に、ここまであからさまなヤンキー(死語)ファッションの不良って普通いる!? まるで90年代の週刊少年○ガジン誌面から抜け出してきたようなビジュアルの面々なんですけど。周囲の空間に"!?"マークが今にも浮かびそうである。

 まあ作者のセンスが前世紀で止まっているのは、今更言うまでもないことだが……問題は、そんなヤンキーさんたちの視線が明らかに俺と光琉ひかる、というか俺に注がれていることである。

「てめえが天代あましろ真人まさと、だな」

 集団の中央にいた、リーダー格と思しき長ラン男が俺に声をかけてきた。頭は金髪だったが、光琉のそれとは比べるべくもない野卑やひで毒々しい色合いをしていて、染色だということがひと目でわかる。

「……そうですが?」

 相手が同じ1年生に見えなかったので、一応敬語で返す。光琉にもっともらしく説教をしたばかりな手前、俺自身が年長者にぞんざいな言葉を使うわけにはいかない。

「これからちいとばかし、俺らにそのツラ貸してくれや」

「どういう要件か、聞かせてもらえますか。あなたたちとはこれまで面識がなかったと思いますが」

「てめえ、舐めた口きいてんじゃねえぞコラ!!」

 背後に立つ大柄なスキンヘッドの男が意味もなく大声を張り上げてくるのを、金髪リーダー(推定)が片手をあげて制した。

「うるせえよ、タコ。俺がこいつと話してんだ、すっこんでろ」

 吐き捨てるようにそう告げられ、スキンヘッドはやや狼狽うろたえながら引き下がった。自分の肩までほどの身長しかない金髪男に、相当の畏怖をいだいているらしい。「タコ」とののしられても、文句を言う素振りさえみせなかった。

 金髪男が、ふたたびこちらに向きなおる。

「俺ら、にお前をシメてこいって命令されちまってなあ。悪いが、お前に拒否権はねえんだわ」

 命令された? 一体誰に。口調からして、目の前にいる連中のボス格に当たる人物のようだが……ヤンキーの恨みを買うような真似をしたおぼえは、俺にはないぞ?

 そもそもこんな連中が校内にいることだって、たった今知ったばかりなのである。不良が暴れただの悪さをしただのといった噂は何度か聞いたことがあったが、ここまではっちゃけた集団だとは考えもしなかった。

「何あれ、からまれてんの?」

「かわいそうに、ただじゃすまねえよあの2人……」

 周囲からざわめきが聞こえ出した。騒ぎに気づいた下校中の生徒たちが、遠巻きにこちらの様子をうかがっているのだ。

 だがその中に、俺たちとヤンキー軍団の間に割って入ろうとするような義侠心に富んだ人物はいないようだ。まあ、それが賢明というものだろう。誰だって、こんな物騒な時代錯誤連中と関わりたくはあるまい。

「ちょっとあんたたち、そんなとこで道ふさがれたら邪魔なんですけど!」

 賢明なる傍観者たちとは対照的に、一切おくする色も見せず不良たちに啖呵をきってみせたのは、もちろん我が妹様だった。おそらく全員高等部の生徒たちであろう男たちに対して敬意のかけらもない態度だったが、さすがに今は注意する気にはなれなかった。

「用があるのか何なのか知らないけど、また今度にしてよね。あたしたち、これからデートなんだから!」

 しかし余計なことはなるべく言わないでほしいぞ!?

「おい聞いたか、デートだとよ」

「ヒューヒュー、うらやましいねえ!」

「かーいいスケじゃねえの、シャバ憎が色気づきやがって!!」

 現代においては絶滅危惧種と化したボキャブラリーを連発しながらはやし立ててくる、20世紀よりの使者たち。「ヒューヒュー」とか、未だに使う人いるんだなあ……

 大いに誤解を受けているようだったが、「彼女じゃなく妹だ」なんて言ったらますますややこしくなりそうなので、ここは"沈黙は金"のスタンスで行かせてもらう。

「あれ、でもよく見るとこのオンナ、中等部の制服だゼ?」

「背もちんまいし……やべえ、天代、てめえロリコンかよwww」

 パンチパーマが放ったこの最後のひと言が、妹の中の地雷を踏んだらしかった。

「ロ……!? 誰が断崖絶壁の幼児体型ですってええッッ!!??」

「誰もそこまで言ってねえよ、被害妄想で拡大解釈するな!!」

 とは、俺の反射的なツッコミ。

 そんなに気にしていたんだな、胸の発育のこと……今後は妹の前では極力その話題には触れないよう、一層注意するとしよう。

 プッツンして不良たちに突進して行きそうになる光琉を、俺は必死に押し留める。これは妹を守ると同時に、ヤンキーたちの身の安全を保証する行為でもあるのだ。なんせ光琉ときては怒りにまかせて、絶賛魔力を膨張させている最中なのである。

「悪いが嬢ちゃん、デートはまた今度だ。今日は俺らにゆずってくれや。男のケンカに女が茶々いれるもんじゃねえぜ」

 金髪リーダーが人の気も知らないで進み出てくると、凄みをきかせた眼で光琉を見下ろしてきた。”ケンカ”とはよく言えたものだ、集団で袋だたきにする気満々のくせに。

 それでも光琉は、一向にひるまない。

「ふん、何がケンカよ。出なおしてきなさい、あんたたちじゃ勇者さまの相手としてはヤクシャブソクにもほどがあるわ!」

「バッ……」

 あわてて妹の口をふさいだが、もう遅かった。"勇者"という致命的な単語は、不良たちの耳にたしかに届いたようだった。全員が一瞬、ぽかんとした顔になった後……哄笑が爆発した。

「ギャハハ! 今なんつった、"勇者さま"あっ!?」

「お前カノジョに、そんな風に呼ばせてんのかよ。いい年こいて○ラクエごっこかあ?」

 ヤンキーたちが言いたい放題に揶揄してくる。

「そんなに勇者になりたかったら、トラックに轢かれて異世界転生しろよwwあ、女神にチートもらうの忘れるなよww」

 ……その中でやたらそっち方面の文化に詳しそうなことを口にしているのは、例の○タンドを出しそうな、前髪を突出させたリーゼントヤンキーである。

 余談だが、リーゼントという言葉は「前髪を固めてボリュームを出す髪型」を指すと思われがちだが、実際は「両側頭部の髪をなでつけ、頭のうしろでぴったり合わせ固める髪型」のことを指すらしい。つまり前髪は何も関係のない言葉で、あの突き出た前髪部分には"ポンパドール"という別の名称があるのだそうだ。

 作者も最近知ったにわか知識なのであまり真に受けないでもらいたいのだが、便宜上目の前にいる前髪突出ヤンキーを、以後正確を期して"ポンパドール氏"と勝手に呼称することにしたい。まさか"東方○助"と呼ぶわけにもいかないだろうし(この連載を継続したいと思えばな!)。
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