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第2章:感動の再会は走馬灯とともに(半死)
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「やっぱり、そっくりだあ……かっこいい……」
光琉はさけび終えるとそのままフリーズし、俺をぽけーっと見つめながら何やらブツブツつぶやいていたが、すぐに目的を思いだしたらしく再起動した。相変わらずせわしないやつだ。
「に、にいちゃん! それでね、あの……大変なんだよ! つまり、えーと……とにかく、大変なんだよ!」
ボキャブラリーを失いながら両手を大きく開いてパタパタ動かす我が妹。ことの重大さを伝えようというジェスチャーなのだろうが、正直羽をぱたつかせるペンギンにしかみえない。うざい、けど可愛いな、ちくしょう。
「うん、何も伝わってこない」と、普段ならバッサリ切り捨てるところだが……あいにくと今朝の俺には心あたりがあった。このタイミングで光琉があわてて俺を訪ねてくるということは、1つしか考えられない。
「ひょっとして……お前も思い出したのか?」
「え、お前"も"!?」
俺の言葉を聞いて光琉は再びフリーズし、ただでさえ大きい眼をますます見開いた。ちょうどぱたつかせていた両手を頭の上にあげた状態で固まったので、◯リコのマークみたいになっている。
「"も"ってことは……ひょっとしてにいちゃんも?」
「ああ……今朝になって、突然記憶が戻った」
簡潔すぎて事情を知らない人間には何のことやらわからないだろう俺の返答に、光琉は激しく反応した。わなわな震えながらもその顔には歓喜の表情がうかび、大きな瞳にはみるみる涙がたまってくる。腕を下ろして◯リコポーズをやめると、今度は胸の前で両手を組み合わせて「ザ・乙女」といった仕草になる。落差がひどい。
しかしこの反応、ううむ、どうやらもう間違いはなさそうだ。
「じゃあ、じゃあやっぱり……にいちゃんがサリス様なんだね」
「メルティア、か……」
目がさめてからの懸念が当たってしまった。光琉は聖女の転生体だったのだ。しかも俺とまったく同じタイミングで、前世の記憶を取り戻したらしい。
これで長年疑問だった、光琉の容姿についての謎がとけた。俺は黒髪・黒目という極めて純日本的な見た目だし、父も、今は亡き母もそうだった。そんなうちの家族の中で、光琉だけが金髪、碧眼という文字通り異色の容貌をしていた。そのことで幼いころは、周囲の子供によくからかわれたりもしていた。
しかし妹がメルティアの生まれ変わりなら、それにも納得がいく。聖女であり、女神の祝福を受け、さらにフェイデア界において魔王打倒に決定的な貢献をするという偉業を成しとげたメルティアの魂は極めて高い霊格を有しており、それは神域にまで達するものだと生前からいわれていた。転生後もその霊格が維持され続けているとしたら、魂の影響力が遺伝子の影響力をはるかに凌駕し、遺伝的にみたら不自然でさえある”聖女メルティアそっくりの容姿”を現世の光琉にももたらした、としても何ら不思議なことではないだろう。
非業の最期に引き裂かれた前世の恋人と(なんとまああっさりと)現世で再会できたのだ、本来なら喜ぶべきことなのだろうが……それが実の妹でしたってどうよ!? 正直、めちゃくちゃ反応にこまるんですけど!
この時の俺の頭は、”困惑”の二字に支配されていた。
「サリス様!」
今度は俺がフリーズ状態におちいっているのにも構わず、妹が感極まった涙声をあげながら駆けよってきた。そしてその身を宙におどらせ、俺の胸に飛びこんだ。
ただしその効果音は、「ふわり」ではなく「ドゴぉン!」だった。
「ぐおほおッ!?」
勢いのつきすぎた妹のタックルもとい抱擁を受け、俺は後方に吹き飛ばされ、壁に強く背中を打ちつけた。混乱していた上にいきなりのことだったので、受け身もとり損ねた。そのショックで前世の勇者時代、魔獣ベヒーモスとの戦いの最中に突進をくらい大ダメージを負った記憶がよみがえる。なにこれ、走馬灯?
「ああ、サリス様! 会いたかったよお、い、いえ、お、尾張市…?じゃなくて、お会いし、お会いしとうございました!! あたし、じゃない、わたくしです、メルティアでございますです」
呼吸困難におちいった俺に気づく様子もなく、胸の中でベヒーモスもとい妹が感動の再会に涙していた。
というかそのたどたどしい丁寧語は、前世のしゃべり方を真似しようとしてるのか? 確かに、前世の記憶にあるメルティアの言葉遣いはいつも丁寧なものだった。むろん、日本語とフェイデア界の共通言語との違いはあるが……無理するなよ、今のお前はそういうキャラじゃないんだから。酸素が欠乏して朦朧とする意識の中、俺は心中でつぶやいた。
「おひたし醤油……違う、お久しゅうございます。メルティアは再びめぐり会えるのを、えーと、地区清掃……じゃなくて、幾星霜夢みていたでございますことよ 」
「幾星霜って、今まで毎日顔を合わせてたじゃ……ごふっ!?」
思わず俺が言わずもがなのツッコミをこぼした途端、光琉が密着状態から容赦ないボディブローを繰りだしてきた。こ、このアマ、正確に鳩尾をねらいおってからに……
「そういう野暮は、この際言うもんじゃないよですわ」
聖女(元)が俺の顔を見上げてはにかみながらそう忠告してくる。いや、いくら可愛く言っても、行動が噛み合ってないからね!? 理不尽な不意打ちボディとか、聖女にあるまじき振る舞いだからね!? あといい加減、ゲシュタルト崩壊した丁寧語やめろ。
と、昨日までだったら躊躇なく怒鳴りつけていたところだが……こまったことに、今朝の俺は妹に対して怒りきれない自分を感じていた。
俺の顔を見上げた妹のはにかんだ表情を、俺はまじまじと見つめてしまった。
うん、やっぱり可愛い。
何度見ても可愛い。
これはまずいッ!
光琉はさけび終えるとそのままフリーズし、俺をぽけーっと見つめながら何やらブツブツつぶやいていたが、すぐに目的を思いだしたらしく再起動した。相変わらずせわしないやつだ。
「に、にいちゃん! それでね、あの……大変なんだよ! つまり、えーと……とにかく、大変なんだよ!」
ボキャブラリーを失いながら両手を大きく開いてパタパタ動かす我が妹。ことの重大さを伝えようというジェスチャーなのだろうが、正直羽をぱたつかせるペンギンにしかみえない。うざい、けど可愛いな、ちくしょう。
「うん、何も伝わってこない」と、普段ならバッサリ切り捨てるところだが……あいにくと今朝の俺には心あたりがあった。このタイミングで光琉があわてて俺を訪ねてくるということは、1つしか考えられない。
「ひょっとして……お前も思い出したのか?」
「え、お前"も"!?」
俺の言葉を聞いて光琉は再びフリーズし、ただでさえ大きい眼をますます見開いた。ちょうどぱたつかせていた両手を頭の上にあげた状態で固まったので、◯リコのマークみたいになっている。
「"も"ってことは……ひょっとしてにいちゃんも?」
「ああ……今朝になって、突然記憶が戻った」
簡潔すぎて事情を知らない人間には何のことやらわからないだろう俺の返答に、光琉は激しく反応した。わなわな震えながらもその顔には歓喜の表情がうかび、大きな瞳にはみるみる涙がたまってくる。腕を下ろして◯リコポーズをやめると、今度は胸の前で両手を組み合わせて「ザ・乙女」といった仕草になる。落差がひどい。
しかしこの反応、ううむ、どうやらもう間違いはなさそうだ。
「じゃあ、じゃあやっぱり……にいちゃんがサリス様なんだね」
「メルティア、か……」
目がさめてからの懸念が当たってしまった。光琉は聖女の転生体だったのだ。しかも俺とまったく同じタイミングで、前世の記憶を取り戻したらしい。
これで長年疑問だった、光琉の容姿についての謎がとけた。俺は黒髪・黒目という極めて純日本的な見た目だし、父も、今は亡き母もそうだった。そんなうちの家族の中で、光琉だけが金髪、碧眼という文字通り異色の容貌をしていた。そのことで幼いころは、周囲の子供によくからかわれたりもしていた。
しかし妹がメルティアの生まれ変わりなら、それにも納得がいく。聖女であり、女神の祝福を受け、さらにフェイデア界において魔王打倒に決定的な貢献をするという偉業を成しとげたメルティアの魂は極めて高い霊格を有しており、それは神域にまで達するものだと生前からいわれていた。転生後もその霊格が維持され続けているとしたら、魂の影響力が遺伝子の影響力をはるかに凌駕し、遺伝的にみたら不自然でさえある”聖女メルティアそっくりの容姿”を現世の光琉にももたらした、としても何ら不思議なことではないだろう。
非業の最期に引き裂かれた前世の恋人と(なんとまああっさりと)現世で再会できたのだ、本来なら喜ぶべきことなのだろうが……それが実の妹でしたってどうよ!? 正直、めちゃくちゃ反応にこまるんですけど!
この時の俺の頭は、”困惑”の二字に支配されていた。
「サリス様!」
今度は俺がフリーズ状態におちいっているのにも構わず、妹が感極まった涙声をあげながら駆けよってきた。そしてその身を宙におどらせ、俺の胸に飛びこんだ。
ただしその効果音は、「ふわり」ではなく「ドゴぉン!」だった。
「ぐおほおッ!?」
勢いのつきすぎた妹のタックルもとい抱擁を受け、俺は後方に吹き飛ばされ、壁に強く背中を打ちつけた。混乱していた上にいきなりのことだったので、受け身もとり損ねた。そのショックで前世の勇者時代、魔獣ベヒーモスとの戦いの最中に突進をくらい大ダメージを負った記憶がよみがえる。なにこれ、走馬灯?
「ああ、サリス様! 会いたかったよお、い、いえ、お、尾張市…?じゃなくて、お会いし、お会いしとうございました!! あたし、じゃない、わたくしです、メルティアでございますです」
呼吸困難におちいった俺に気づく様子もなく、胸の中でベヒーモスもとい妹が感動の再会に涙していた。
というかそのたどたどしい丁寧語は、前世のしゃべり方を真似しようとしてるのか? 確かに、前世の記憶にあるメルティアの言葉遣いはいつも丁寧なものだった。むろん、日本語とフェイデア界の共通言語との違いはあるが……無理するなよ、今のお前はそういうキャラじゃないんだから。酸素が欠乏して朦朧とする意識の中、俺は心中でつぶやいた。
「おひたし醤油……違う、お久しゅうございます。メルティアは再びめぐり会えるのを、えーと、地区清掃……じゃなくて、幾星霜夢みていたでございますことよ 」
「幾星霜って、今まで毎日顔を合わせてたじゃ……ごふっ!?」
思わず俺が言わずもがなのツッコミをこぼした途端、光琉が密着状態から容赦ないボディブローを繰りだしてきた。こ、このアマ、正確に鳩尾をねらいおってからに……
「そういう野暮は、この際言うもんじゃないよですわ」
聖女(元)が俺の顔を見上げてはにかみながらそう忠告してくる。いや、いくら可愛く言っても、行動が噛み合ってないからね!? 理不尽な不意打ちボディとか、聖女にあるまじき振る舞いだからね!? あといい加減、ゲシュタルト崩壊した丁寧語やめろ。
と、昨日までだったら躊躇なく怒鳴りつけていたところだが……こまったことに、今朝の俺は妹に対して怒りきれない自分を感じていた。
俺の顔を見上げた妹のはにかんだ表情を、俺はまじまじと見つめてしまった。
うん、やっぱり可愛い。
何度見ても可愛い。
これはまずいッ!
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