実の妹が前世の嫁だったらしいのだが(困惑)

七三 一二十

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序章:朝から妹がキスを迫ってくる(焦燥)

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 朝から妹――光琉ひかるの叫び声が、俺の部屋にひびきわたっている。

「なんで、なんでぇー!!?」

 ゆかに寝転がりながら、手足をバタバタあばれさせている。その姿は駄々だだをこねる赤ん坊そのものだ。とても今年で中学2年生、花も恥じらう14歳乙女おとめの行動とは思えない。

「なんで、にいちゃんにキスしちゃいけないの!?」

「当たり前だっ!!」

 モラルの壁を堂々どうどうと踏みこえようとする妹に、俺はありったけの声量せいりょうでツッコんだ。くそ、これだけでもカロリー消費が洒落しゃれにならん。

「だって昔は、あんなにしょっちゅうやってたじゃない!」

「それは前世ぜんせでのこと。今生こんじょうでは1度もそんなことはしたことありませんし、これからもしません!」

 さっきから同じことを言いきかせているのだが、光琉は一向いっこうに聞く耳をもたない。

「だってだって、魔王まおう城に突入する前に、将来をちかってくれたじゃない」

 うん、それ前世の話ね。

帝国皇女ていこくこうじょとの婚約を破棄はきしてまで、あたしを選んでくれたでしょ!?」

 だからそれ、前世だからね。21世紀地球の今生に帝国なんて存在しないからね? 比喩ひゆ的に表現する場合は別として。

「キス以上のことだって……あの、えーと、もにょもにょ……いっぱい、やったのに……(かああ」

 それも前世でのことだ……というか、自分でれるくらいならそういうきわどい部分にれるんじゃねえ! 無駄むだに気まずいだろうが。

 俺はため息をつくと、床から駄々っ子(女子中学生)を起こして、その両肩に手を置いた。ザ・説得のポーズである。

「いいか光琉、フェイデア界で俺が勇者ゆうしゃだったことも、お前が聖女せいじょだったことも、2人が恋人同士だったことも、全部俺たちが生まれる前のことなんだよ。今の俺たちは地球の日本に住む高校生と中学生で、しかも血がつながった実の兄妹きょうだいだ。前世と同じように、男女の仲になるわけにはいかないんだ」

 俺は光琉の顔を正面から見つめながら、精一杯の誠意せいいをこめて語りかけた。妹ならきっと俺の真意きもちをわかってくれる、そう信じて。

 光琉はかすみがかったような翡翠色エメラルドグリーンの両眼でじっと俺を見ていたが、やがてポツリとつぶやいた。

「つまり、にいちゃん……」

「うん」

「もうあたしにはきたの?」

「なんでそうなる!?」

 なにも伝わっていなかった!

「あたしを前世でムサボリツクシたから、こっちの世界ではオハライバコってこと!? ひどい、ムカシノオンナはもう邪魔じゃまなんだね! モテアソブだけモテアソンデおいて、いらなくなったら捨てるんだね!」

「朝っぱらから人聞きの悪いことを大声でわめいてんじゃねえ! "ムカシノオンナ"の範疇はんちゅうに前世まで含められても、そこまで責任持てんわ。あとそういう言い回し、どこで覚えてくるの!?」

 妹はまたぎゃーぎゃーさわぎだし、ふりだしに戻った。

 今朝けさだけで似たようなやりとりを、もう何度もくり返している。まるで自分がタイムリープにハマったような錯覚におそわれるのだが、かたわらの目覚まし時計を見ると先ほどから着実に針は進んでいるようだ。

 つまり無駄に時間を費やしているだけってことだよ、ただでさえいそがしい平日の朝っぱらから。ちくしょー!

「とにかく、キスくらいいいじゃん! あっちの世界で一緒にくらしてた時は、毎朝してたでしょ!? せっかく記憶が戻ったんだから、ちいさいこと気にするのはなしにしよーよ。ギブミーキース、ギブミーキース……」

「戦後か!」

 際限ない妹へのツッコミで、朝食をとる前からすでに疲労困憊ひろうこんぱいである。どうしてこんな羽目におちいっているのか……俺は途方に暮れながら嘆息たんそくした。

 昨日までは、実の妹にせまられるなんてことは一切なかった。このバカバカしいが厄介やっかい極まりない騒動さわぎはこの朝、なぜか2ことからはじまったのである。
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