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序章:朝から妹がキスを迫ってくる(焦燥)
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朝から妹――光琉の叫び声が、俺の部屋に響きわたっている。
「なんで、なんでぇー!!?」
床に寝転がりながら、手足をバタバタあばれさせている。その姿は駄々をこねる赤ん坊そのものだ。とても今年で中学2年生、花も恥じらう14歳乙女の行動とは思えない。
「なんで、にいちゃんにキスしちゃいけないの!?」
「当たり前だっ!!」
モラルの壁を堂々と踏みこえようとする妹に、俺はありったけの声量でツッコんだ。くそ、これだけでもカロリー消費が洒落にならん。
「だって昔は、あんなにしょっちゅうやってたじゃない!」
「それは前世でのこと。今生では1度もそんなことはしたことありませんし、これからもしません!」
さっきから同じことを言いきかせているのだが、光琉は一向に聞く耳をもたない。
「だってだって、魔王城に突入する前に、将来を誓ってくれたじゃない」
うん、それ前世の話ね。
「帝国皇女との婚約を破棄してまで、あたしを選んでくれたでしょ!?」
だからそれ、前世だからね。21世紀地球の今生に帝国なんて存在しないからね? 比喩的に表現する場合は別として。
「キス以上のことだって……あの、えーと、もにょもにょ……いっぱい、やったのに……(かああ」
それも前世でのことだ……というか、自分で照れるくらいならそういうきわどい部分に触れるんじゃねえ! 無駄に気まずいだろうが。
俺はため息をつくと、床から駄々っ子(女子中学生)を起こして、その両肩に手を置いた。ザ・説得のポーズである。
「いいか光琉、フェイデア界で俺が勇者だったことも、お前が聖女だったことも、2人が恋人同士だったことも、全部俺たちが生まれる前のことなんだよ。今の俺たちは地球の日本に住む高校生と中学生で、しかも血が繋がった実の兄妹だ。前世と同じように、男女の仲になるわけにはいかないんだ」
俺は光琉の顔を正面から見つめながら、精一杯の誠意をこめて語りかけた。妹ならきっと俺の真意をわかってくれる、そう信じて。
光琉は霞みがかったような翡翠色の両眼でじっと俺を見ていたが、やがてポツリとつぶやいた。
「つまり、にいちゃん……」
「うん」
「もうあたしには飽きたの?」
「なんでそうなる!?」
なにも伝わっていなかった!
「あたしを前世でムサボリツクシたから、こっちの世界ではオハライバコってこと!? ひどい、ムカシノオンナはもう邪魔なんだね! モテアソブだけモテアソンデおいて、いらなくなったら捨てるんだね!」
「朝っぱらから人聞きの悪いことを大声でわめいてんじゃねえ! "ムカシノオンナ"の範疇に前世まで含められても、そこまで責任持てんわ。あとそういう言い回し、どこで覚えてくるの!?」
妹はまたぎゃーぎゃーさわぎだし、ふりだしに戻った。
今朝だけで似たようなやりとりを、もう何度もくり返している。まるで自分がタイムリープにハマったような錯覚におそわれるのだが、かたわらの目覚まし時計を見ると先ほどから着実に針は進んでいるようだ。
つまり無駄に時間を費やしているだけってことだよ、ただでさえいそがしい平日の朝っぱらから。ちくしょー!
「とにかく、キスくらいいいじゃん! あっちの世界で一緒にくらしてた時は、毎朝してたでしょ!? せっかく記憶が戻ったんだから、ちいさいこと気にするのはなしにしよーよ。ギブミーキース、ギブミーキース……」
「戦後か!」
際限ない妹へのツッコミで、朝食をとる前からすでに疲労困憊である。どうしてこんな羽目に陥っているのか……俺は途方に暮れながら嘆息した。
昨日までは、実の妹に迫られるなんてことは一切なかった。このバカバカしいが厄介極まりない騒動はこの朝、なぜか2人同時に生まれる前の記憶を取り戻したことからはじまったのである。
「なんで、なんでぇー!!?」
床に寝転がりながら、手足をバタバタあばれさせている。その姿は駄々をこねる赤ん坊そのものだ。とても今年で中学2年生、花も恥じらう14歳乙女の行動とは思えない。
「なんで、にいちゃんにキスしちゃいけないの!?」
「当たり前だっ!!」
モラルの壁を堂々と踏みこえようとする妹に、俺はありったけの声量でツッコんだ。くそ、これだけでもカロリー消費が洒落にならん。
「だって昔は、あんなにしょっちゅうやってたじゃない!」
「それは前世でのこと。今生では1度もそんなことはしたことありませんし、これからもしません!」
さっきから同じことを言いきかせているのだが、光琉は一向に聞く耳をもたない。
「だってだって、魔王城に突入する前に、将来を誓ってくれたじゃない」
うん、それ前世の話ね。
「帝国皇女との婚約を破棄してまで、あたしを選んでくれたでしょ!?」
だからそれ、前世だからね。21世紀地球の今生に帝国なんて存在しないからね? 比喩的に表現する場合は別として。
「キス以上のことだって……あの、えーと、もにょもにょ……いっぱい、やったのに……(かああ」
それも前世でのことだ……というか、自分で照れるくらいならそういうきわどい部分に触れるんじゃねえ! 無駄に気まずいだろうが。
俺はため息をつくと、床から駄々っ子(女子中学生)を起こして、その両肩に手を置いた。ザ・説得のポーズである。
「いいか光琉、フェイデア界で俺が勇者だったことも、お前が聖女だったことも、2人が恋人同士だったことも、全部俺たちが生まれる前のことなんだよ。今の俺たちは地球の日本に住む高校生と中学生で、しかも血が繋がった実の兄妹だ。前世と同じように、男女の仲になるわけにはいかないんだ」
俺は光琉の顔を正面から見つめながら、精一杯の誠意をこめて語りかけた。妹ならきっと俺の真意をわかってくれる、そう信じて。
光琉は霞みがかったような翡翠色の両眼でじっと俺を見ていたが、やがてポツリとつぶやいた。
「つまり、にいちゃん……」
「うん」
「もうあたしには飽きたの?」
「なんでそうなる!?」
なにも伝わっていなかった!
「あたしを前世でムサボリツクシたから、こっちの世界ではオハライバコってこと!? ひどい、ムカシノオンナはもう邪魔なんだね! モテアソブだけモテアソンデおいて、いらなくなったら捨てるんだね!」
「朝っぱらから人聞きの悪いことを大声でわめいてんじゃねえ! "ムカシノオンナ"の範疇に前世まで含められても、そこまで責任持てんわ。あとそういう言い回し、どこで覚えてくるの!?」
妹はまたぎゃーぎゃーさわぎだし、ふりだしに戻った。
今朝だけで似たようなやりとりを、もう何度もくり返している。まるで自分がタイムリープにハマったような錯覚におそわれるのだが、かたわらの目覚まし時計を見ると先ほどから着実に針は進んでいるようだ。
つまり無駄に時間を費やしているだけってことだよ、ただでさえいそがしい平日の朝っぱらから。ちくしょー!
「とにかく、キスくらいいいじゃん! あっちの世界で一緒にくらしてた時は、毎朝してたでしょ!? せっかく記憶が戻ったんだから、ちいさいこと気にするのはなしにしよーよ。ギブミーキース、ギブミーキース……」
「戦後か!」
際限ない妹へのツッコミで、朝食をとる前からすでに疲労困憊である。どうしてこんな羽目に陥っているのか……俺は途方に暮れながら嘆息した。
昨日までは、実の妹に迫られるなんてことは一切なかった。このバカバカしいが厄介極まりない騒動はこの朝、なぜか2人同時に生まれる前の記憶を取り戻したことからはじまったのである。
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