続・年収200万円で100万円貯金、スローライフを目指す!

LaComiq

文字の大きさ
上 下
248 / 344

◆フリマアプリ #05

しおりを挟む




「何故あのような無茶をした」

「す……すみません」

「すみませんじゃすまないよ。見てるこっちはハラハラしたんだからね?」

「は、い……」

 謁見の間から場所は変わり、今は騎士団本部へと連れてこられていた。

 杉崎が魔導師たちを引き付けている間に海はアレクサンダーとクインシーに手を引かれてあの場から逃げ出した。本当はヴィンスの宿に戻ろうとしていたのだが、橋を下ろす許可が取れなかった。エヴラールが海を城下町に戻ることを許さなかったからだ。

 アレクサンダーがエヴラールに何度も橋を下ろすように掛け合ったが、杉崎の対応に手を焼いていてそれどころではないと帰されてしまった。その為、海は騎士団本部に身を寄せているのだが、ただいまクインシーとアレクサンダーに本部の食堂で説教されている。海の位置は三者面談の教師側と言えば分かるだろうか。腕を組んで海を睨んでいるアレクサンダーと、困り顔で笑うクインシー。

 これなら宿に帰りたかった。アレクサンダーたちが普段暮らしている本部が見れる!という淡い期待は見事に打ち砕かれてしまったのだから。

「カイ? ちゃんと聞いてる?」

「聞いてる! だからそんな怒らないで欲しいんだけど……」

「ならば何について叱られているのか言ってみろ」

「えっと、それは……」

「ほらやっぱり聞いてないー!」

「聞いてるってば! もう今後、あんな真似はするなってことじゃないの!?」

「あの女の件だけではない!!」

 ビリビリッと鼓膜が震えそうな程の怒鳴り声。隣に座っているクインシーも突然の大きな声に驚いて腰を浮かせていた。

「何故、城に来た!」

「俺にだってやる事があるんだよ! その為にはここにもう一度来なきゃ行けなかったんだ」

「お前がやることなどここにはない! 明日、橋を下ろしてもらうように話を通す! 二度と城には来るな!」

 アレクサンダーの言い方に沸々と怒りが湧いてきて、怒鳴り返そうと口を開いたが、この状況はまずいと思ったクインシーが慌てて止めに入ってきた事によって海の意見は言葉にならなかった。

「待って待って! 喧嘩しないでって! ほら、あっち見てみなよ!」

 クインシーが指差した方をアレクサンダーと共に見る。食堂の出入口に団員たちがコソコソしながらこちらの様子を伺っているのが見えた。

「アレクサンダーの声であいつら来ちゃったじゃん! カイが謁見の間に一人で来たっていうことにも驚いてるのに、アレクサンダーが怒鳴ってたらもっとびっくりするだろ!?」

「知るか! あいつらは追い返せ!」

「だからそんなに怒るのはやめなっての! そんなに怒ってたらカイだって聞くの嫌だよ!」

「こいつが勝手なことをしたからだろうが!」

「悪かったな!! 勝手なことして!」

 もう我慢できるか。海の意見を聞かずに一方的に怒鳴ってくるアレクサンダーに向けて叫び返して睨んだ。海のヘボい睨みではアレクサンダーはビクともしない。

「もういいよ。俺が悪うございました!!」

「ちょ、カイ!!」

 ガタッと椅子を跳ね飛ばす勢いで海は立ち上がり、二人に背を向けて歩き出した。

「カイ!! 話は終わっていない!」

「知らないよ! 俺の話は聞かないくせに、なんでアレクサンダーの言い分だけ聞かなきゃいけないんだよ!」

「聞いているだろう!」

「聞いてない! 言ったところですぐに否定して怒るだろ!」

 クインシーの制止の声も聞かずに海は駆け出した。
 これ以上、話をしていても無駄に怒りが湧くだけだ。

「アレクサンダーのバカ。バーカ、バーーーカ!!」

 本部の外に出て、表から裏に回って叫んだ。こんなこと本人に言ったらなんて返ってくることか。

「アレクサンダーがちゃんと聞いてくれないのが悪いんじゃないか」

 建物を背にして座り込み、足元にあった石ころを適当に投げる。ぶつぶつ文句を言いながら石を投げている姿は完全にいじけている子供の様。自分でも大人気ないと思ってはいるが、今から謝りに戻る気にもならなかった。

「ばーか……」

 暫くはここで頭を冷やした方がいいかもしれない。
 そう思って海はそこで石を投げ続けていた。



‎⋆ ・‎⋆ ・‎⋆ ・‎⋆



「カイ? ここにいるの?」

「クインシー?」

 石を投げ続けてどれくらい経ったか。ひょこりとクインシーが顔を出した。

「やっぱいた。こんな所でなにしてるの?」

「……頭でも冷やそうかと」

「そっか。カイも怒ってたもんね」

「まだ……アレクサンダーは怒ってる?」

「それはどうかな。自分で見てくるといいよ」

「…………会いたくない」

 まだアレクサンダーと会いたいと思わない。怒っているのであれば尚更。

「こんな所にいたら風邪ひくよ。中に戻ろう?」

「冷やしてるから丁度いいんだよ」

「頭どころか全身冷えちゃうよ」

 海の頭の上へと掛けられるもの。それはほんのりと温かかった。

「これじゃクインシーの方が風邪ひくじゃん」

「んー? なら早く戻ろう?」

「だからまだ戻りたくないって……」

「じゃあ、俺も戻らないでここにいる」

 自分の上着を海に掛け、クインシーは海の隣に腰を下ろした。

 それから何をするでもなく沈黙が流れる。

「カイはさ、ここに来て何がしたかったの?」

「説明して分かってくれるか……」

「言ってくれなきゃ分かんないなぁ」

 話したところで伝わるかは分からない。海にだって分かってないことがあるのだから。でも、一人で抱えているのも辛い。誰かに聞いて欲しい。出来れば、これからどうすればいいかを教えて欲しかった。

「聖女の呪いが付き纏ってるんだ」

「呪い?」

「うん。記憶を受け継いだ時はそんなこと無かったのに、最近になってよく聞くようになったんだ。過去の聖女たちがラザミアを呪う声が。許せないって気持ちが」

「……ずっと?」

「ずっと。謁見の間で彼女達の怒りを抑えるのは大変だった。国王と魔導師を前にした途端、恨み言が酷くなったんだ。常に声は聞こえていたけど、今日ほどじゃなかった。聖女の声に……殺されるかと思った」

 今思い返せばとても恐ろしかった。何人もの聖女が国王たちに向けて罵詈雑言を吐き散らかし、怒りの感情を露わにする。彼らには言葉が届いていないから、海が受け止めるしかなかった。神経をすり減らしながらの国王たちとの対話は本当にしんどかった。

「カイ」

 辛かった、と一言漏らすと、クインシーは海を横から抱きしめた。痛いほど強く抱きしめられたが、海はクインシーから離れようとはしなかった。今はそれくらい強い方がいい。痛みを感じるとここにいる実感が湧く。海はちゃんとこの場にいて生きているのだと。

「クインシー……俺……嫌だ、死にたくない」

 クインシーの背中に腕を回してしがみつくように抱きしめ返す。言い表せぬ恐怖と不安に泣き出しそうになる。こんな所で泣くわけにはいかない。まだ城に来たばかりで何もしていないのに、早々に音をあげている暇はないのだ。泣き顔を晒すことの無いようにクインシーの首元に頭を埋めて隠した。

「死なせないよ。カイは絶対に死なせない。そんなことアレクサンダーが許すと思う? 俺は絶対に許さないから。聖女の呪いだろうが、城下町の闇だろうがどうでもいい。カイを怖がらせるなら俺が許さない」

 包み込むように抱きしめられて徐々に不安が消えていった。もう大丈夫だと言おうとしたが、人の温もりが心地よすぎて離れるに離れられなかった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

簡単ズボラ飯

ユキヤナギ
エッセイ・ノンフィクション
カット野菜や水煮野菜、冷凍食材や缶詰などをフル活用した簡単ズボラ飯の数々。 料理は苦手だけど、たまには手作りのものが食べたい時や、あと一品おかずが欲しいなという時などにどうぞ。

婚約破棄されるのらしいで、今まで黙っていた事を伝えてあげたら、婚約破棄をやめたいと言われました

新野乃花(大舟)
恋愛
ロベルト第一王子は、婚約者であるルミアに対して婚約破棄を告げた。しかしその時、ルミアはそれまで黙っていた事をロベルトに告げることとした。それを聞いたロベルトは慌てふためき、婚約破棄をやめたいと言い始めるのだったが…。

たまのこぼれ話

アポロ
エッセイ・ノンフィクション
雑記です。架空の茶店でこぼれ話をするような。時々自分が謎すぎてびびることはありませんか。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

新生活はパスタとともに

矢木羽研
ライト文芸
『日曜の昼は後輩女子にパスタを作る』の続編(第2部)です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/668119599/55735191 先輩と後輩の関係性も進歩し、4月からの新生活に向けて動き出します。 前作よりちょっと材料や手間に凝ったパスタのレシピとともにお楽しみください。 カクヨムのアニバーサリーイベント(KAC2024)にて、毎回異なるお題に沿って書き下ろした連作短編です。

俺は彼女に養われたい

のあはむら
恋愛
働かずに楽して生きる――それが主人公・桐崎霧の昔からの夢。幼い頃から貧しい家庭で育った霧は、「将来はお金持ちの女性と結婚してヒモになる」という不純極まりない目標を胸に抱いていた。だが、その夢を実現するためには、まず金持ちの女性と出会わなければならない。 そこで霧が目をつけたのは、大金持ちしか通えない超名門校「桜華院学園」。家庭の経済状況では到底通えないはずだったが、死に物狂いで勉強を重ね、特待生として入学を勝ち取った。 ところが、いざ入学してみるとそこはセレブだらけの異世界。性格のクセが強く一筋縄ではいかない相手ばかりだ。おまけに霧を敵視する女子も出現し、霧の前途は波乱だらけ! 「ヒモになるのも楽じゃない……!」 果たして桐崎はお金持ち女子と付き合い、夢のヒモライフを手に入れられるのか? ※他のサイトでも掲載しています。

処理中です...