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自己嫌悪
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「あなたの嫌いなものは何ですか?」
何気ない質問だけどとても困る質問。
でも僕は即座にこう答える。
「僕は僕が嫌いです。」
4月。新しいクラス。
新しい先生と新しいクラスメイト。
自己紹介は必須。
「じゃあ、一番の人から自分の名前と部活と好きな何かと嫌いなこと。一人ずつ言っていこうか。」
先生にそう言われて誰も異論はなく自己紹介を始めた。
「じゃあ、次は君ね。」
僕の番が来た。席をたつ。
「佐々木蓮です。部活は弓道。好きなことは読書。嫌いなものは…」
言ってもいいのだろうか。引かれたりしないだろうか。でも僕にはこの答えしかないのだ。
「僕の嫌いなものは僕自身です。」
「え?」
「どういうこと?」
あぁ、やってしまった。教室が変な空気になった。先生も怪訝そうにしている。でも本当のことだから、しょうがない。
「…じゃあ、次の人。」
無理矢理先生は進める。
ごめんなさい、ちゃんと説明します。
「佐々木君、さっきのどういう意味?」
自己紹介が全員終わり先生が僕にそう聞いた。
僕は考えに考えてこう言った。
「…少しばかり時間をいただけませんか?」
どう話せば伝わるのだろうか。
僕は話始めた。
「僕が僕を嫌いなのはいくつか理由があります。1つは外見です。」
「外見?」
「はい。例えば顔。僕が比べるのは世の中のイケメンといわれる人たちです。そうすると僕は不細工に分類されます。」
「誰だってそう思うときはあるでしょ?」
「それだけじゃありません。僕は眼鏡をかけていますが似合っているわけでもないし外したところで何も変わりません。」
「そんなことないじゃない。」
「…ありがとうございます。でも鏡を見てるとつくづく思うんです。こいつ、気持ち悪い顔してるって。あぁ、カッコ悪いって思うんです。髪型も似合ってないなって。雑誌で見た通りの髪型なのに。」
先生は何も言わない。
「足だって腕だって太いように思えるし。筋肉なんて全然つかないし。自分の声も嫌いだし。名前も外見に会わない感じがして嫌だし。」
一度言葉を切る。
「だから僕は僕の外見が嫌いなんです。」
シンと静まり返った教室を見渡す。なんだこいつと見ている人もいれば耳を傾ける人もいる。
伝わるのだろうか。
「次は僕の思考です。」
「…思考?どういうこと?」
誰かが呟いた。
「例えば数学を勉強しているとき。ふと何で数字って存在するんだろうと思います。色々考えているうちに何で勉強をするのだろう、なんのためにしているのだろうと思います。」
「それは思ったことがある。」
誰かが言う。
「どんどん思考は黒く染まっていきます。何で自分は存在するんだろう、なんのために生きているんだろう、自分ってなんなんだろう。しまいには何で宇宙はあるのだろう、宇宙の外側はどうなっているのだろう、何で宇宙は生まれたんだろう。と、まぁこんな感じで勉強になりやしない。」
静けさが再び戻る。
「生きる意味はわからないけど死ぬ勇気はない。そう思ったときの結論は永久に眠り続けたい、でした。」
そう、生命とは残酷なものだ。今の僕からすればこの世に生まれたいとは思わない。でも産まれてしまえば死ぬことは容易には出来ない。
…生まれなかったら今ここで死んだらどうなるのだろうか。
「だから僕は僕の思考が嫌いなんです。」
僕の考えは可笑しいのだろうか。可笑しくても構わない。理解なんてされなくていい。
「…まだまだありますが最後にひとつ。僕の性格故の行動です。」
もう誰も口を挟まなかった。
「僕は何度か人を好いたことがあります。好き、とは少し違います。あぁ、この人可愛い、かっこいいと思います。気に入ったり憧れたり好きに近い感情も勿論抱きます。」
でも、と僕は続けた。
「大概、その思いは人に届く前に終わります。終わり方は様々です。こちら側が興味を無くす、転校や進級で会わなくなる、向こう側が僕を切り捨てる。…別の誰かとその人が結ばれる、とかですかね。」
「…誰だってあると思うよ。」
優しい声が聞こえた気がする。
「伝えることすらしなかった僕には後悔と安堵が残ります。伝えていたら何か変わったのだろうかと心でそう思い、相手や自分が傷つかなくて良かったと安心する。自分は惨めなやつだと思い込む…所詮僕は都合のいい人間なんです。」
自分が気になっていた人と仲が良かった人が付き合ったのを、卒業していった憧れの先輩を、受験で志望校に受かった同級生を思い出す。おめでとうと言った僕の顔はうまく笑えていたのだろうか。幸せを願えたのだろうか。今となってはもうわからない。
「だから僕は僕の性格故の行動が嫌いです。」
みんなが僕から目を背けている。同情しているのだろうか。哀れんでいるのか。
別にそんなものを僕は求めているんじゃない。
「僕が僕を嫌いな理由はそんなところです。」
でも、僕にはまだ伝えたいことがある。
「外見も思考も性格も嫌いです。そのくせ死ぬ勇気もない都合のいい人間。自分勝手でろくでなし。…それでも、そんな僕でも。」
…言わなきゃいけないことがある。
「たくさんの人が僕を少しの間だけでも親しくしてくれました。褒めてくれました。礼を言われました。一緒にいて楽しいと、心地いいと言ってくれました。」
みんなの視線が一斉に僕を向いたのがわかる。
「あぁ、こんな僕にもまだ存在価値があったのかと思いました。例えこの先、見捨てられることがあっても。」
僕が誰かを好いたように誰かもまた僕を好いたのだ。憧れ、気に入り、時に恋愛感情を抱き、時に嫉妬し、怒り、悲しむ。それは与えられるだけではない。自分も誰かに与えるのだ。僕はそれに気づけた。自分がどれだけ嫌いでも誰かが好いてくれる。逆もしかり。
「先生。だから僕は今、幸せです。」
何気ない質問だけどとても困る質問。
でも僕は即座にこう答える。
「僕は僕が嫌いです。」
4月。新しいクラス。
新しい先生と新しいクラスメイト。
自己紹介は必須。
「じゃあ、一番の人から自分の名前と部活と好きな何かと嫌いなこと。一人ずつ言っていこうか。」
先生にそう言われて誰も異論はなく自己紹介を始めた。
「じゃあ、次は君ね。」
僕の番が来た。席をたつ。
「佐々木蓮です。部活は弓道。好きなことは読書。嫌いなものは…」
言ってもいいのだろうか。引かれたりしないだろうか。でも僕にはこの答えしかないのだ。
「僕の嫌いなものは僕自身です。」
「え?」
「どういうこと?」
あぁ、やってしまった。教室が変な空気になった。先生も怪訝そうにしている。でも本当のことだから、しょうがない。
「…じゃあ、次の人。」
無理矢理先生は進める。
ごめんなさい、ちゃんと説明します。
「佐々木君、さっきのどういう意味?」
自己紹介が全員終わり先生が僕にそう聞いた。
僕は考えに考えてこう言った。
「…少しばかり時間をいただけませんか?」
どう話せば伝わるのだろうか。
僕は話始めた。
「僕が僕を嫌いなのはいくつか理由があります。1つは外見です。」
「外見?」
「はい。例えば顔。僕が比べるのは世の中のイケメンといわれる人たちです。そうすると僕は不細工に分類されます。」
「誰だってそう思うときはあるでしょ?」
「それだけじゃありません。僕は眼鏡をかけていますが似合っているわけでもないし外したところで何も変わりません。」
「そんなことないじゃない。」
「…ありがとうございます。でも鏡を見てるとつくづく思うんです。こいつ、気持ち悪い顔してるって。あぁ、カッコ悪いって思うんです。髪型も似合ってないなって。雑誌で見た通りの髪型なのに。」
先生は何も言わない。
「足だって腕だって太いように思えるし。筋肉なんて全然つかないし。自分の声も嫌いだし。名前も外見に会わない感じがして嫌だし。」
一度言葉を切る。
「だから僕は僕の外見が嫌いなんです。」
シンと静まり返った教室を見渡す。なんだこいつと見ている人もいれば耳を傾ける人もいる。
伝わるのだろうか。
「次は僕の思考です。」
「…思考?どういうこと?」
誰かが呟いた。
「例えば数学を勉強しているとき。ふと何で数字って存在するんだろうと思います。色々考えているうちに何で勉強をするのだろう、なんのためにしているのだろうと思います。」
「それは思ったことがある。」
誰かが言う。
「どんどん思考は黒く染まっていきます。何で自分は存在するんだろう、なんのために生きているんだろう、自分ってなんなんだろう。しまいには何で宇宙はあるのだろう、宇宙の外側はどうなっているのだろう、何で宇宙は生まれたんだろう。と、まぁこんな感じで勉強になりやしない。」
静けさが再び戻る。
「生きる意味はわからないけど死ぬ勇気はない。そう思ったときの結論は永久に眠り続けたい、でした。」
そう、生命とは残酷なものだ。今の僕からすればこの世に生まれたいとは思わない。でも産まれてしまえば死ぬことは容易には出来ない。
…生まれなかったら今ここで死んだらどうなるのだろうか。
「だから僕は僕の思考が嫌いなんです。」
僕の考えは可笑しいのだろうか。可笑しくても構わない。理解なんてされなくていい。
「…まだまだありますが最後にひとつ。僕の性格故の行動です。」
もう誰も口を挟まなかった。
「僕は何度か人を好いたことがあります。好き、とは少し違います。あぁ、この人可愛い、かっこいいと思います。気に入ったり憧れたり好きに近い感情も勿論抱きます。」
でも、と僕は続けた。
「大概、その思いは人に届く前に終わります。終わり方は様々です。こちら側が興味を無くす、転校や進級で会わなくなる、向こう側が僕を切り捨てる。…別の誰かとその人が結ばれる、とかですかね。」
「…誰だってあると思うよ。」
優しい声が聞こえた気がする。
「伝えることすらしなかった僕には後悔と安堵が残ります。伝えていたら何か変わったのだろうかと心でそう思い、相手や自分が傷つかなくて良かったと安心する。自分は惨めなやつだと思い込む…所詮僕は都合のいい人間なんです。」
自分が気になっていた人と仲が良かった人が付き合ったのを、卒業していった憧れの先輩を、受験で志望校に受かった同級生を思い出す。おめでとうと言った僕の顔はうまく笑えていたのだろうか。幸せを願えたのだろうか。今となってはもうわからない。
「だから僕は僕の性格故の行動が嫌いです。」
みんなが僕から目を背けている。同情しているのだろうか。哀れんでいるのか。
別にそんなものを僕は求めているんじゃない。
「僕が僕を嫌いな理由はそんなところです。」
でも、僕にはまだ伝えたいことがある。
「外見も思考も性格も嫌いです。そのくせ死ぬ勇気もない都合のいい人間。自分勝手でろくでなし。…それでも、そんな僕でも。」
…言わなきゃいけないことがある。
「たくさんの人が僕を少しの間だけでも親しくしてくれました。褒めてくれました。礼を言われました。一緒にいて楽しいと、心地いいと言ってくれました。」
みんなの視線が一斉に僕を向いたのがわかる。
「あぁ、こんな僕にもまだ存在価値があったのかと思いました。例えこの先、見捨てられることがあっても。」
僕が誰かを好いたように誰かもまた僕を好いたのだ。憧れ、気に入り、時に恋愛感情を抱き、時に嫉妬し、怒り、悲しむ。それは与えられるだけではない。自分も誰かに与えるのだ。僕はそれに気づけた。自分がどれだけ嫌いでも誰かが好いてくれる。逆もしかり。
「先生。だから僕は今、幸せです。」
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