超克の艦隊

蒼 飛雲

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第三段作戦

第55話 重巡殺し

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 機関室に二五番を被弾したことで速力発揮が出来なくなった敵七番艦が後落した。
 そのことで単縦陣の殿は六番艦がこれを務めることになった。
 その敵六番艦に対して、第七戦隊の「熊野」と「鈴谷」それに「三隈」の九機の零式水偵が緩降下爆撃を仕掛ける。
 前を行く敵五番艦に対しては第四戦隊の「愛宕」と「高雄」、それに第五戦隊の「妙高」と「羽黒」の一二機がその狙いを付けつつあった。

 これら二一機だが、降下の途中で三機が対空砲火によって撃墜されてしまった。
 しかし、残る一八機は投弾に成功、敵六番艦に二発、敵五番艦には三発の命中弾を得た。
 敵六番艦と敵五番艦はともに最低でも一発を機関室に被弾、速力を著しく衰えさせた。
 敵五番艦と六番艦、それに七番艦が半身不随に陥ったことを確認した角田司令官は吠え立てるようにして命令する。

 「四戦隊、目標敵一番艦。五戦隊、目標敵二番艦。七戦隊、目標敵三番艦ならびに敵四番艦。距離一五〇〇〇メートルで砲撃を開始せよ」

 角田司令官が指示した砲戦距離は、今年二月に生起したスラバヤ沖海戦の戦訓を生かすためのものだった。
 同海戦で重巡「那智」と「羽黒」は二五〇〇〇メートルという遠距離で砲撃戦に臨んだ。
 しかし、命中率のほうはさっぱりで、多数の砲弾を無為に失う結果に終わってしまった。
 当然、この結果は帝国海軍内でも問題視され、多くの関係者が何らかの処分を受けることとなった。
 そして、このような腰の引けた戦いは、猛将として名高い角田司令官としても望むところではなかった。

 砲撃は日米ともにほとんど同時だった。
 砲戦距離を一五〇〇〇メートルとしていた日本側はともかく、米側の砲撃が遅れたのは五番艦と六番艦、それに七番艦の被弾による混乱から立ち直るのに相応の時間を要したからだ。
 さらに、米側にとって予想外だったのは彼我の距離が一五〇〇〇メートルを割ってなお日本の巡洋艦がその間合いを一気に詰めてきたことだった。
 その動きに対して、機関にダメージを被っている五番艦と六番艦、それに七番艦は対応することが出来ず、こちらは一時的とはいえ遊兵と化してしまう。
 そして、そこまで距離が縮まれば、双方ともに命中弾を得るのは容易だった。

 あとは数の勝負となった。
 日本側はダブルチームを組んで一隻の米重巡にあたった。
 つまりは二〇門対九門の戦いだ。
 「最上」と「三隈」のチームだけは一六門対九門となるが、それでも二倍近い優勢を確保している。

 一方、米側の二〇センチ砲は五五口径と砲身が長く、貫徹力に優れていた。
 さらに砲弾の性能や射撃指揮装置もまた明らかに日本のそれに対して優越している。
 それでも、ここまで距離が縮まり、さらに砲門の数が隔絶していればさすがに勝機は薄い。

 「愛宕」と「高雄」からの集中射を食らった一番艦の「ミネアポリス」は二〇センチ砲弾によって船体中を穴だらけにされた。
 一方「ミネアポリス」もただ黙ってやられることはなく、「愛宕」に対して必死の反撃に出ている。
 そして、数発の命中弾を得ていた。
 しかし、それが彼女の限界でもあった。

 「ミネアポリス」の弱体化を見て取った「愛宕」と「高雄」は同艦の懐深くに飛び込む。
 同時に合わせて一六本の九三式酸素魚雷を発射した。
 このうち命中したのは一本だけだった。
 しかし、それで十分だった。
 九一式航空魚雷の三倍近い重量を持つ九三式酸素魚雷を食らっては、すでに満身創痍だった「ミネアポリス」に助かる道は無かった。

 「妙高」と「羽黒」と撃ち合っていた「サンフランシスコ」、それに「熊野」と「鈴谷」と死闘を繰り広げていた「ポートランド」もまた「ミネアポリス」と同様の運命をたどった。
 二〇センチ砲の連打を浴び、グロッキー状態になったところで同じように酸素魚雷によってとどめを刺されてしまったのだ。
 一方、「最上」それに「三隈」と対峙していた「ルイビル」のほうは他の三艦に比べて粘りを見せたものの、しかし二倍の差を覆すには至らなかった。
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