超克の艦隊

蒼 飛雲

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二正面艦隊決戦

第23話 東洋艦隊壊滅

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 「大和」が「レゾリューション」それに「ラミリーズ」の始末をつけた頃には、後方にあった四隻の日英戦艦の戦いも終わっていた。
 「長門」と「ロイヤル・ソブリン」の撃ち合いは「長門」の勝利で終わった。
 勝負を分けた要因は、単純に艦としての基礎体力の差だった。
 四一センチ砲と、その対応防御を持つ「長門」に対し、「ロイヤル・ソブリン」のそれは三八センチ砲に対してのものでしかない。
 「長門」が放つ四一センチ砲弾の多くは「ロイヤル・ソブリン」の装甲を貫き、同艦に甚大なダメージを与えた。
 一方、「ロイヤル・ソブリン」の三八センチ砲弾は「長門」の装甲を貫くには至らず、致命の一撃を加えることはかなわなかった。
 「ロイヤル・ソブリン」にとって不運だったのは、それこそ相手が悪かったという一言に尽きるだろう。
 もし彼女が「伊勢」型戦艦かあるいは「扶桑」型戦艦を相手取っていたのであれば、かなりの確率で勝敗は逆転していたはずだ。

 「陸奥」と「リヴェンジ」の戦いもまた、「長門」と「ロイヤル・ソブリン」の戦いと似たような経過をたどった。
 「レゾリューション」と「ラミリーズ」それに「ロイヤル・ソブリン」と「リヴェンジ」は健闘こそしたものの、しかし格上を倒すには至らなかった。

 戦艦の戦いが終息した頃には、すでに補助艦艇の戦いも終わっている。
 軽巡「カレドン」と「ドラゴン」、それにオランダの軽巡「ヤコブ・ヴァン・ヘームスケルク」と七隻の英駆逐艦は迫りくる第一艦隊の巡洋艦や駆逐艦に対して、劣勢にもかかわらず果敢に反撃した。
 しかし、戦力差は圧倒的であり、現実は冷酷だった。

 第七戦隊の四隻の「最上」型重巡と干戈を交えたのは「カレドン」と「ドラゴン」、それに「ヤコブ・ヴァン・ヘームスケルク」の三隻の軽巡だった。
 これら三隻はいずれも艦型が小型で、「最上」型重巡の半分にも及ばない。
 その弱敵に対し、「熊野」と「鈴谷」それに「三隈」はそれぞれ一〇門、航空巡洋艦に改装された「最上」は六門の二〇センチ砲を振りかざして叩きのめしにかかった。
 そのうえ、三隻の軽巡の脚元を狙って酸素魚雷まで放っている。
 結局、命中魚雷を得ることは出来なかったものの、それでも問題は無かった。
 「熊野」と「鈴谷」はタイマンでそれぞれ「カレドン」と「ドラゴン」を、「三隈」と「最上」はタッグを組んで「ヤコブ・ヴァン・ヘームスケルク」を仕留めにかかる。

 真っ先に討ち取られたのは「ヤコブ・ヴァン・ヘームスケルク」だった。
 満載状態においてでさえ五〇〇〇トンに満たない小型軽巡が、しかも二倍の数の重巡と撃ち合っては勝機を見出すことなど不可能だ。
 短時間のうちに二〇センチ砲弾をしたたかに浴びた「ヤコブ・ヴァン・ヘームスケルク」は、それこそあっという間にインド洋の海底深くへとその身を沈めていった。

 「ヤコブ・ヴァン・ヘームスケルク」を撃沈したことで手の空いた「三隈」と「最上」はそれぞれ「熊野」と「鈴谷」に加勢する。
 一方、戦況不利と悟った「カレドン」と「ドラゴン」は逃げに転じる。
 しかし、「カレドン」と「ドラゴン」は軽巡としては最高速力が低く、両艦ともに三〇ノットに満たない。
 悠々と追いすがった「熊野」と「三隈」それに「鈴谷」と「最上」は互いの獲物を奪い合うかのごとく猛射を浴びせにかかる。
 まず「カレドン」が、次に「ドラゴン」が艦上構造物を破壊され、さらに船体を穴だらけにされて洋上の松明と化した。

 軽巡「那珂」それに一二隻の「陽炎」型駆逐艦は七隻の英駆逐艦に対して遠距離飽和雷撃を実施した。
 放たれた魚雷は実に一〇〇本に及んだ。
 しかし、遠めからの雷撃だったこともあり、命中したのはわずかに二本だけだった。
 だが、このことで英駆逐艦は五隻にまでその数を減らした。
 生き残った英駆逐艦に対して武装それに速度性能で勝る一二隻の「陽炎」型駆逐艦は包囲殲滅を企図。
 「那珂」とともに一二隻の「陽炎」型駆逐艦は、常に複数対一の状況を維持して一隻また一隻と英駆逐艦を亡き者にしていった。

 第一艦隊がB部隊と死闘を繰り広げていた頃、第一航空艦隊も遊んでいたわけではなかった。
 使用可能な九九艦爆それに九七艦攻を総動員して生き残った英機動部隊の残存艦艇を攻撃していた。
 狙われた六隻の英駆逐艦は必死の回避運動で攻撃を躱そうとする。
 しかし、相手が悪すぎた。
 一航戦それに二航戦の手練たちは英駆逐艦の対空砲火が低調なこともあり悠然と肉薄、爆弾や魚雷をそれこそ面白いように叩き込んでいった。
 この攻撃で六隻の英駆逐艦はそのすべてが撃沈された。
 東洋艦隊で生き残った艦はただの一隻も無かった。
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