超克の艦隊

蒼 飛雲

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二正面艦隊決戦

第17話 大量索敵奏功

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 「第一艦隊より入電。すべての索敵機の発進が完了したとのことです」

 通信参謀の小野少佐からの報告に、第一航空艦隊司令長官の南雲中将は小さくうなずく。
 インド洋に進入すると同時、今次作戦における本格的な索敵が開始されたのだ。

 その索敵だが、本来であれば空母に搭載された艦上攻撃機がその任を担うことになっている。
 しかし、艦攻を索敵に出せば、その分だけ攻撃力が低下してしまう。
 そこで、艦攻に代わって巡洋艦に搭載されている水上偵察機を活用することにしたのだ。
 第七戦隊の重巡「熊野」と「鈴谷」それに「三隈」はそれぞれ三機、航空巡洋艦へと改装された「最上」は実に九機もの零式水偵を発進させた。
 それら機体が北西から南西に向けて索敵線を形成する。
 また、これらとは別に戦艦「大和」と重巡「利根」もまたそれぞれ二機の零式水偵を同じく索敵に放っている。


 第一艦隊
 戦艦「大和」「長門」「陸奥」
 重巡「熊野」「鈴谷」「最上」「三隈」
 軽巡「那珂」
 駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」
「萩風」「舞風」「野分」「嵐」

 第一航空艦隊
 「赤城」(零戦二四、九九艦爆一八、九七艦攻二一)
 「加賀」(零戦三六、九九艦爆一八、九七艦攻二一)
 「蒼龍」(零戦二四、九九艦爆一八、九七艦攻一五)
 「飛龍」(零戦二四、九九艦爆一八、九七艦攻一五)
 重巡「利根」
 軽巡「神通」
 駆逐艦「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」


 インド洋作戦における主力は水上打撃部隊の第一艦隊と、それに機動部隊の第一航空艦隊だ。
 このうち、第一艦隊のほうは第二戦隊と第九戦隊が欠けている。
 これら二個戦隊だが、両者はそのいずれもが本土防衛の任についていた。
 太平洋艦隊がその戦力を急速に回復させている中においては、さすがに本土をがら空きにするわけにもいかない。

 「東洋艦隊は我々の前に現れるだろうか」

 「英国はインドから送られてくる戦争資源にかなりの程度依存しています。もし、英国とインドとをつなぐ海上交通線を断ち切られた場合、英国の弱体化は避けられません。それに、情報戦に長けた英国であれば、連合艦隊がインド洋と豪州に戦力を分散していることはすでに承知しているはずです。これらのことから、東洋艦隊の待ち伏せは必至だと考えます」

 南雲長官のつぶやくような疑問に、草鹿参謀長が律儀に答える。
 もともと、彼らの上官である連合艦隊司令長官の山本大将は、米国に対して息をつかせぬ連撃をもって短期決戦早期和平を志向していた。
 だから、彼の目はもっぱら東へと向けられていた。
 ミッドウェーを占領し、そこを足場としてハワイを攻略するのが彼の目指す戦略だ。
 しかし、大将といえどもその政治力には限界がある。
 そして、今回の作戦はインド洋についてはドイツからの要請、そしてポートモレスビーの攻略については軍令部の意向が反映したものだ。
 さすがの山本長官も、同盟国や上位組織からの命令には逆らうことが出来なかったのだろう。

 「東洋艦隊について、新しい情報は入っているか」

 南雲長官は首席参謀の大石中佐に視線を向ける。

 「今のところ、特にこれといったものはありません」

 大石中佐の明快かつ端的な返答に了解の旨を伝えつつ、南雲長官は事前にレクチャーされた東洋艦隊の推定戦力をその記憶から引っ張り出す。
 東洋艦隊が擁する主力艦は空母が三隻に戦艦が四乃至五隻。
 これに二〇隻あまりの巡洋艦や駆逐艦が付き従うものと見込まれている。

 単純な数だけで見れば、戦艦は劣勢でそれ以外は優勢といったところだ。
 だが、こちらの戦艦は「大和」とそれに「長門」と「陸奥」だ。
 これら三艦であれば、多少の数的劣勢も容易に覆してくれることだろう。
 そのようなことを考えているうちに時間は過ぎ、やがて索敵に放った機体から敵情報告が相次いでなされる。

 「戦艦四隻ならびに空母一隻を基幹とした艦隊を発見」
 「空母二隻を主力とする機動部隊発見」

 東洋艦隊発見の報に、南雲長官は小さく唸る。
 同艦隊の発見位置が、自分たちが予想していたものよりもずいぶんと南側にあったからだ。

 「索敵機の大量投入が功を奏しましたな」

 草鹿参謀長の所感に、南雲長官も賛意の首肯を返す。
 今回は二二機にもおよぶ索敵機を投入した。
 これは、マーシャル沖海戦のそれよりも多い。
 南雲長官としては、索敵機の大盤振る舞いが過ぎるのではないかと考えていた。
 だが、もし索敵機の数を減らしていれば、その分だけ捜索網も狭くなっていたはずだ。
 そして、十中八九東洋艦隊はその捜索網から逃れていた。
 なにせ、東洋艦隊を発見したのは最も南の索敵線を受け持つ機体だったのだから。
 背中に嫌な汗が流れるのを自覚しつつ、南雲長官は攻撃命令を下す。

 「第一次攻撃隊を出撃させよ。同攻撃隊の発進が完了次第、すみやかに第二次攻撃隊も出す」

 攻撃命令が出されてほどなく、「赤城」と「加賀」それに「蒼龍」と「飛龍」がその舳先を風上へと向ける。
 第一次攻撃隊は「赤城」と「加賀」それに「蒼龍」からそれぞれ零戦一二機に九九艦爆が一八機。
 それに「飛龍」から九九艦爆一八機の合わせて一〇八機。
 第二次攻撃隊のほうは「赤城」から九七艦攻二一機に「加賀」から零戦一二機それに九七艦攻が二一機。
 「蒼龍」から九七艦攻一五機に「飛龍」から零戦一二機それに九七艦攻が一五機の合わせて九六機。

 これら二〇四機が一番槍となり、その鋭い穂先をもって東洋艦隊を貫くはずだった。
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