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誤謬戦艦「大和」
第2話 マル三計画
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「新型戦艦はその主砲塔を一基増載するとして、造修施設のほうはどうなる。一番艦を建造する予定の呉の船渠は問題無いだろう。しかし、二番艦を担当する長崎の民間造船所は果たしてそれが可能か?」
呉海軍工廠の船渠は新型戦艦を建造するために拡張工事が成されていた。
同船渠は長さが三一四メートル、幅が四五メートルあるから新型戦艦の建造はどうにか可能だ。
しかし、長崎の民間造船所はどこまで大きな艦を建造出来るか伏見宮総長には分からない。
だから、中村本部長に確認する。
「おそらく無理でしょう。長崎の民間造船所はどう頑張っても六〇〇〇〇トン級が精いっぱいで、七〇〇〇〇トンを大きく超える艦の建造は仮に施設を拡張したとしても対応できないものと思われます」
あっさりとダメ出しをする中村本部長に、伏見宮総長はわずかばかり落胆の色を見せながら、一方で高橋長官にその視線を向ける。
無言で何か良案はないかと催促しているのだ。
「方法は二つ考えられます。一つは超大型戦艦を呉で建造し、長崎のほうは従来の六四〇〇〇トン級戦艦を建造する。もう一つは呉で超大型戦艦を建造し、残る一隻のほうはマル四計画に先送りすることです。用兵側としましては、艦型の違う艦よりも同型艦を揃えていただく方がありがたいことは言うまでもありませんが」
マル三計画時点では超大型戦艦を建造出来るのは呉の船渠のみだ。
しかし、マル四計画時点では少しばかり話が違ってくる。
現在、帝国海軍は横須賀と佐世保において大型船渠の造成を進めていた。
これら船渠はそのいずれもが三〇〇メートルを超える大きさを持つ。
そのことから、超大型戦艦の建造が可能だ。
そして、これら二つの船渠は順調に工事が進めば昭和一五年に完成する予定だった。
そして、その頃には呉で建造予定の超大型戦艦も進水を果たしているはずだから、マル四計画で三隻の超大型戦艦の同時建造が可能となる。
伏見宮総長は高橋長官の提言を吟味する。
高橋長官の最初の提案であれば、昭和一七年に超大型戦艦とそれに六四〇〇〇トン級の大型戦艦の二隻を連合艦隊の編成に加えることが出来る。
そして、昭和二〇年にはさらに二隻の超大型戦艦が増勢される。
一方、別の提案のほうであれば昭和一七年に一隻の超大型戦艦、そして昭和二〇年にさらに三隻の超大型戦艦が追加される。
短期的に見れば前者、長い目で見れば後者にそのメリットを見出すことが出来る。
しかし、六四〇〇〇トン級戦艦のほうは米国の六〇〇〇〇トン級戦艦に比べてそれほど大きなアドバンテージを持つには至らないことがはっきりしている。
(数を揃えられないからこそ、中途半端は許されぬ)
そう考えた伏見宮元帥は永野大臣に向き直り、予算措置について見解を求める。
超大型戦艦を、しかも一度に三隻も建造するのであれば、その金額はべらぼうなものになるはずだ。
「総長が懸念される通り、このままではマル四計画の予算はかなりの程度膨れ上がることは間違いありません。一方で、マル三計画で戦艦を一隻しか建造しないというのであれば、こちらはかなり余裕ができます。
ですので、マル四計画では戦艦に予算と資材を集中し、逆に同計画に盛り込まれるはずの空母や巡洋艦といった他の艦艇についてはその一部をマル三計画に前倒しするのが至当かと存じます。それと、議会対策の面からマル三計画それにマル四計画はともに戦艦はこれを二隻ずつ建造するという形に収めたいと考えております」
永野大臣の言を受け、伏見宮総長は高橋長官それから中村本部長に視線を向ける。
二人の同意の首肯を確認すると同時に、伏見宮総長は中村本部長に超大型戦艦建造に伴う艦政本部長としての所感を尋ねる。
「我が国には大型艦が建造可能な施設として呉海軍工廠と横須賀海軍工廠、それに神戸ならびに長崎の民間造船所の合わせて四カ所があります。このうち呉は超大型戦艦、残る三カ所については空母を建造させるのが妥当でしょう。せっかくの大型造修施設を巡洋艦や駆逐艦の建造にあてるのはあまりにももったいない。それと神戸と長崎の民間造船所に空母建造という大型案件を与えることについてですが、こちらは造船会社の社員をはじめとした関係者の雇用確保という側面を持ちます」
それから、と言葉を継いで中村本部長が話を続ける。
「呉で超大型戦艦を建造する際には、横須賀ならびに佐世保から将来戦艦の建造に携わることになるであろう技術者や造船工を同地に派遣することを考えております。彼らを活用すれば、昼夜二交代による工事が可能になる。そうなれば、超大型戦艦の工期もかなりの程度その短縮が見込めます。うまくいけば昭和一六年内の戦力化も夢ではないでしょう。それと、呉で経験を積んだ者たちが横須賀や佐世保に戻った際には、間違いなく大きな力となってくれるはずです」
マル三計画において、永野大臣はおもに予算面から、中村本部長は造修施設や人材面から戦艦一隻それに空母三隻の建造を推している。
そして、高橋長官のほうは戦艦の艦型の統一を望んでいる。
それぞれ理由は違えども、しかし海軍トップの三人の足並みが揃っているのであれば、伏見宮総長としてもこれを軽んじることは出来ない。
「分かった。マル三計画は超大型戦艦を一隻、それに空母を三隻建造することで進めることとしよう。そして、マル四計画では超大型戦艦に注力、これを三隻建造するものとする」
宮様と呼ばれる、帝国海軍内における最高権力者である伏見宮総長が決断した。
もちろん、この決定を覆せる者は帝国海軍には誰一人としていない。
それと、米国の六〇〇〇〇トン級戦艦建造の情報が誤りであることに気づいた者もまた、この時点では誰一人としていなかった。
呉海軍工廠の船渠は新型戦艦を建造するために拡張工事が成されていた。
同船渠は長さが三一四メートル、幅が四五メートルあるから新型戦艦の建造はどうにか可能だ。
しかし、長崎の民間造船所はどこまで大きな艦を建造出来るか伏見宮総長には分からない。
だから、中村本部長に確認する。
「おそらく無理でしょう。長崎の民間造船所はどう頑張っても六〇〇〇〇トン級が精いっぱいで、七〇〇〇〇トンを大きく超える艦の建造は仮に施設を拡張したとしても対応できないものと思われます」
あっさりとダメ出しをする中村本部長に、伏見宮総長はわずかばかり落胆の色を見せながら、一方で高橋長官にその視線を向ける。
無言で何か良案はないかと催促しているのだ。
「方法は二つ考えられます。一つは超大型戦艦を呉で建造し、長崎のほうは従来の六四〇〇〇トン級戦艦を建造する。もう一つは呉で超大型戦艦を建造し、残る一隻のほうはマル四計画に先送りすることです。用兵側としましては、艦型の違う艦よりも同型艦を揃えていただく方がありがたいことは言うまでもありませんが」
マル三計画時点では超大型戦艦を建造出来るのは呉の船渠のみだ。
しかし、マル四計画時点では少しばかり話が違ってくる。
現在、帝国海軍は横須賀と佐世保において大型船渠の造成を進めていた。
これら船渠はそのいずれもが三〇〇メートルを超える大きさを持つ。
そのことから、超大型戦艦の建造が可能だ。
そして、これら二つの船渠は順調に工事が進めば昭和一五年に完成する予定だった。
そして、その頃には呉で建造予定の超大型戦艦も進水を果たしているはずだから、マル四計画で三隻の超大型戦艦の同時建造が可能となる。
伏見宮総長は高橋長官の提言を吟味する。
高橋長官の最初の提案であれば、昭和一七年に超大型戦艦とそれに六四〇〇〇トン級の大型戦艦の二隻を連合艦隊の編成に加えることが出来る。
そして、昭和二〇年にはさらに二隻の超大型戦艦が増勢される。
一方、別の提案のほうであれば昭和一七年に一隻の超大型戦艦、そして昭和二〇年にさらに三隻の超大型戦艦が追加される。
短期的に見れば前者、長い目で見れば後者にそのメリットを見出すことが出来る。
しかし、六四〇〇〇トン級戦艦のほうは米国の六〇〇〇〇トン級戦艦に比べてそれほど大きなアドバンテージを持つには至らないことがはっきりしている。
(数を揃えられないからこそ、中途半端は許されぬ)
そう考えた伏見宮元帥は永野大臣に向き直り、予算措置について見解を求める。
超大型戦艦を、しかも一度に三隻も建造するのであれば、その金額はべらぼうなものになるはずだ。
「総長が懸念される通り、このままではマル四計画の予算はかなりの程度膨れ上がることは間違いありません。一方で、マル三計画で戦艦を一隻しか建造しないというのであれば、こちらはかなり余裕ができます。
ですので、マル四計画では戦艦に予算と資材を集中し、逆に同計画に盛り込まれるはずの空母や巡洋艦といった他の艦艇についてはその一部をマル三計画に前倒しするのが至当かと存じます。それと、議会対策の面からマル三計画それにマル四計画はともに戦艦はこれを二隻ずつ建造するという形に収めたいと考えております」
永野大臣の言を受け、伏見宮総長は高橋長官それから中村本部長に視線を向ける。
二人の同意の首肯を確認すると同時に、伏見宮総長は中村本部長に超大型戦艦建造に伴う艦政本部長としての所感を尋ねる。
「我が国には大型艦が建造可能な施設として呉海軍工廠と横須賀海軍工廠、それに神戸ならびに長崎の民間造船所の合わせて四カ所があります。このうち呉は超大型戦艦、残る三カ所については空母を建造させるのが妥当でしょう。せっかくの大型造修施設を巡洋艦や駆逐艦の建造にあてるのはあまりにももったいない。それと神戸と長崎の民間造船所に空母建造という大型案件を与えることについてですが、こちらは造船会社の社員をはじめとした関係者の雇用確保という側面を持ちます」
それから、と言葉を継いで中村本部長が話を続ける。
「呉で超大型戦艦を建造する際には、横須賀ならびに佐世保から将来戦艦の建造に携わることになるであろう技術者や造船工を同地に派遣することを考えております。彼らを活用すれば、昼夜二交代による工事が可能になる。そうなれば、超大型戦艦の工期もかなりの程度その短縮が見込めます。うまくいけば昭和一六年内の戦力化も夢ではないでしょう。それと、呉で経験を積んだ者たちが横須賀や佐世保に戻った際には、間違いなく大きな力となってくれるはずです」
マル三計画において、永野大臣はおもに予算面から、中村本部長は造修施設や人材面から戦艦一隻それに空母三隻の建造を推している。
そして、高橋長官のほうは戦艦の艦型の統一を望んでいる。
それぞれ理由は違えども、しかし海軍トップの三人の足並みが揃っているのであれば、伏見宮総長としてもこれを軽んじることは出来ない。
「分かった。マル三計画は超大型戦艦を一隻、それに空母を三隻建造することで進めることとしよう。そして、マル四計画では超大型戦艦に注力、これを三隻建造するものとする」
宮様と呼ばれる、帝国海軍内における最高権力者である伏見宮総長が決断した。
もちろん、この決定を覆せる者は帝国海軍には誰一人としていない。
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