55 / 67
ハワイ最終決戦
第55話 大統領の決断
しおりを挟む
一一月七日に行われた大統領選挙において、ルーズベルト大統領は現職の強みを最大限に活かし、共和党のトマス・E・デューイを退けて念願の四選を果たした。
このことについて、特に驚きのようなものは無かった。
開戦以降、ルーズベルト大統領はその戦争指導において失態を重ねていたものの、それでもオアフ島や西海岸といった米国の領土を奪われることは無かったからだ。
本土に戦火が及ばない限り、その地力の差からいってルーズベルト大統領がデューイに後れを取ることはなかった。
だからといって、ルーズベルト大統領が安泰というわけでもなかった。
実際、デューイとの差はわずかであり、逆にルーズベルト大統領があと一つでも大きな失敗をやらかせば、間違いなく米国民は彼を見限る。
そして、その世論は間違いなくルーズベルト大統領にとっての致命傷となるはずだった。
そのような崖っぷちの上に立つルーズベルト大統領に対し、日本は決定的とも言える嫌がらせを仕掛けてきた。
「一月一五日をもってオアフ島攻略作戦を開始する。それまでに米政府は責任を持ってハワイの住民は避難させよ」
日付と併せ住民の避難を訴えるやり口。
それは、一昨年の独立記念日に日本軍がミッドウェーに侵攻すると言ってきたときと同じものだった。
そのときは日本軍は約束を違えることなくミッドウェーに押し寄せてきた。
そういった実績があるものだから、ルーズベルト大統領としてもこれを日本側のデマだと一蹴するわけにもいかなかった。
このことについて、ルーズベルト大統領は陸軍と海軍、それに海兵隊に対してオアフ島の絶対死守を命じた。
もちろん、オアフ島は放棄したほうが良いのではないかという声もあった。
日本海軍は三〇隻近い空母を擁している。
一方で、太平洋艦隊のほうはマリアナ沖海戦のダメージから回復しきれていない。
そうなってくると、オアフ島の航空機が頼みだが、しかしこれら戦力だけで連合艦隊を撃退することは現実的ではない。
軍事的整合性を考えれば、ある意味において戦いを避けることこそが最善の策かもしれなかった。
しかし、ルーズベルト大統領はその考えに与しなかった。
もし、ハワイを日本軍に奪われれば、米国民の多くは次に戦場になるのは西海岸だと考えるだろう。
そうなれば、同地に住む住民の間でパニックが起こることは必至だ。
そのことでルーズベルト大統領は共和党から突き上げを食らうことは間違いなく、さらに西海岸に地盤を持つ民主党議員から反旗を翻される恐れもあった。
政治的に考えれば、戦わずしてオアフ島を明け渡すという選択はルーズベルト大統領にとってはあり得ない話だった。
だから、ルーズベルト大統領は自身が出した絶対死守の命令に対して迷いはなかった。
一方、災難なのは軍人、中でも海軍の将兵たちだった。
陸軍や海兵隊に比べて海軍将兵の死傷率は文字通り一桁多く、その中でも太平洋艦隊はそれが顕著だった。
だから、米国の軍人らにとって「太平洋戦線は海軍将兵の墓場」というのは共通認識でもあった。
しかも、今回は圧倒的な劣勢を運命づけられた戦いだ。
彼らの士気が上がらないのもむべなるかなといったところだった。
それと、此度の戦いでは陸軍や海兵隊の将兵らも対岸の火事と見物を決め込むわけにはいかなかった。
日本軍がオアフ島の奪取を狙っている以上、陸軍や海兵隊も無関係ではいられないからだ。
ルーズベルト大統領のやり方は徹底していた。
大西洋艦隊から多数の護衛空母や駆逐艦を引き抜き、これを太平洋艦隊に配備するよう海軍上層部に要求したのだ。
もちろん、大西洋艦隊司令部はこの措置に反対した。
大西洋は米英をつなぐ唯一の大動脈であり、英国にとってはそれこそ命綱ともいうべき存在だったからだ。
もし、そこから戦力を引き抜けば、大西洋で猛威を振るうUボートに対抗することが困難になる。
昔と違って今のUボートはジグザグ魚雷や誘導魚雷を駆使し、さらには異様なほどに水中速力に長じた艦まで出現している。
一方、大西洋艦隊もまた護衛空母や対潜艦艇を大量に配備して海上交通線の維持にあたっているものの、しかし撃沈される商船や護衛艦艇は後を絶たない。
そのような状況で大西洋艦隊から護衛空母を引き抜けば、それこそ商船の被害はさらに累増するだろう。
そう訴える大西洋艦隊司令部に対し、だがしかしルーズベルト大統領のほうは頑として己の主張を曲げなかった。
「確かに英国は米国の支援無しにはドイツと戦うことはできない。だが、米国は違う。米国は一国だけでドイツそれに日本を打倒する力があるのだ。そして今、米国は戦争を失うかどうかといった瀬戸際に立たされている。もし、ここで一時的であれハワイを奪われてしまえば、それこそ日本との講和を声高に叫ぶ連中が湧いてくるだろう。もし、そうなってしまえば、米国はこの戦争を失うことになるかもしれん。それだけは、是が非でもこれを避けねばならない」
ルーズベルト大統領にとって優先すべきは米国の国益であって、他国のそれではない。
そして、米国の国益とは世界を支配せんとする全体主義国家をこの世から葬り去ることだ。
(それに、米国さえ健在であれば、いずれ世界はファシズムから解放される。そのためであれば、同盟国を切り捨てることになったとしても、それはそれで仕方がないことだ)
英国のチャーチル首相が耳にすれば、それこそ激怒しかねないことを考えつつ、ルーズベルト大統領はスタッフらに指示を出していく。
四選を果たした大統領に逆らえる者は、米国内には誰一人と存在しなかった。
このことについて、特に驚きのようなものは無かった。
開戦以降、ルーズベルト大統領はその戦争指導において失態を重ねていたものの、それでもオアフ島や西海岸といった米国の領土を奪われることは無かったからだ。
本土に戦火が及ばない限り、その地力の差からいってルーズベルト大統領がデューイに後れを取ることはなかった。
だからといって、ルーズベルト大統領が安泰というわけでもなかった。
実際、デューイとの差はわずかであり、逆にルーズベルト大統領があと一つでも大きな失敗をやらかせば、間違いなく米国民は彼を見限る。
そして、その世論は間違いなくルーズベルト大統領にとっての致命傷となるはずだった。
そのような崖っぷちの上に立つルーズベルト大統領に対し、日本は決定的とも言える嫌がらせを仕掛けてきた。
「一月一五日をもってオアフ島攻略作戦を開始する。それまでに米政府は責任を持ってハワイの住民は避難させよ」
日付と併せ住民の避難を訴えるやり口。
それは、一昨年の独立記念日に日本軍がミッドウェーに侵攻すると言ってきたときと同じものだった。
そのときは日本軍は約束を違えることなくミッドウェーに押し寄せてきた。
そういった実績があるものだから、ルーズベルト大統領としてもこれを日本側のデマだと一蹴するわけにもいかなかった。
このことについて、ルーズベルト大統領は陸軍と海軍、それに海兵隊に対してオアフ島の絶対死守を命じた。
もちろん、オアフ島は放棄したほうが良いのではないかという声もあった。
日本海軍は三〇隻近い空母を擁している。
一方で、太平洋艦隊のほうはマリアナ沖海戦のダメージから回復しきれていない。
そうなってくると、オアフ島の航空機が頼みだが、しかしこれら戦力だけで連合艦隊を撃退することは現実的ではない。
軍事的整合性を考えれば、ある意味において戦いを避けることこそが最善の策かもしれなかった。
しかし、ルーズベルト大統領はその考えに与しなかった。
もし、ハワイを日本軍に奪われれば、米国民の多くは次に戦場になるのは西海岸だと考えるだろう。
そうなれば、同地に住む住民の間でパニックが起こることは必至だ。
そのことでルーズベルト大統領は共和党から突き上げを食らうことは間違いなく、さらに西海岸に地盤を持つ民主党議員から反旗を翻される恐れもあった。
政治的に考えれば、戦わずしてオアフ島を明け渡すという選択はルーズベルト大統領にとってはあり得ない話だった。
だから、ルーズベルト大統領は自身が出した絶対死守の命令に対して迷いはなかった。
一方、災難なのは軍人、中でも海軍の将兵たちだった。
陸軍や海兵隊に比べて海軍将兵の死傷率は文字通り一桁多く、その中でも太平洋艦隊はそれが顕著だった。
だから、米国の軍人らにとって「太平洋戦線は海軍将兵の墓場」というのは共通認識でもあった。
しかも、今回は圧倒的な劣勢を運命づけられた戦いだ。
彼らの士気が上がらないのもむべなるかなといったところだった。
それと、此度の戦いでは陸軍や海兵隊の将兵らも対岸の火事と見物を決め込むわけにはいかなかった。
日本軍がオアフ島の奪取を狙っている以上、陸軍や海兵隊も無関係ではいられないからだ。
ルーズベルト大統領のやり方は徹底していた。
大西洋艦隊から多数の護衛空母や駆逐艦を引き抜き、これを太平洋艦隊に配備するよう海軍上層部に要求したのだ。
もちろん、大西洋艦隊司令部はこの措置に反対した。
大西洋は米英をつなぐ唯一の大動脈であり、英国にとってはそれこそ命綱ともいうべき存在だったからだ。
もし、そこから戦力を引き抜けば、大西洋で猛威を振るうUボートに対抗することが困難になる。
昔と違って今のUボートはジグザグ魚雷や誘導魚雷を駆使し、さらには異様なほどに水中速力に長じた艦まで出現している。
一方、大西洋艦隊もまた護衛空母や対潜艦艇を大量に配備して海上交通線の維持にあたっているものの、しかし撃沈される商船や護衛艦艇は後を絶たない。
そのような状況で大西洋艦隊から護衛空母を引き抜けば、それこそ商船の被害はさらに累増するだろう。
そう訴える大西洋艦隊司令部に対し、だがしかしルーズベルト大統領のほうは頑として己の主張を曲げなかった。
「確かに英国は米国の支援無しにはドイツと戦うことはできない。だが、米国は違う。米国は一国だけでドイツそれに日本を打倒する力があるのだ。そして今、米国は戦争を失うかどうかといった瀬戸際に立たされている。もし、ここで一時的であれハワイを奪われてしまえば、それこそ日本との講和を声高に叫ぶ連中が湧いてくるだろう。もし、そうなってしまえば、米国はこの戦争を失うことになるかもしれん。それだけは、是が非でもこれを避けねばならない」
ルーズベルト大統領にとって優先すべきは米国の国益であって、他国のそれではない。
そして、米国の国益とは世界を支配せんとする全体主義国家をこの世から葬り去ることだ。
(それに、米国さえ健在であれば、いずれ世界はファシズムから解放される。そのためであれば、同盟国を切り捨てることになったとしても、それはそれで仕方がないことだ)
英国のチャーチル首相が耳にすれば、それこそ激怒しかねないことを考えつつ、ルーズベルト大統領はスタッフらに指示を出していく。
四選を果たした大統領に逆らえる者は、米国内には誰一人と存在しなかった。
148
お気に入りに追加
227
あなたにおすすめの小説
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
【架空戦記】炎立つ真珠湾
糸冬
歴史・時代
一九四一年十二月八日。
日本海軍による真珠湾攻撃は成功裡に終わった。
さらなる戦果を求めて第二次攻撃を求める声に対し、南雲忠一司令は、歴史を覆す決断を下す。
「吉と出れば天啓、凶と出れば悪魔のささやき」と内心で呟きつつ……。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
超克の艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
「合衆国海軍ハ 六〇〇〇〇トン級戦艦ノ建造ヲ計画セリ」
米国駐在武官からもたらされた一報は帝国海軍に激震をもたらす。
新型戦艦の質的アドバンテージを失ったと判断した帝国海軍上層部はその設計を大幅に変更することを決意。
六四〇〇〇トンで建造されるはずだった「大和」は、しかしさらなる巨艦として誕生する。
だがしかし、米海軍の六〇〇〇〇トン級戦艦は誤報だったことが後に判明。
情報におけるミスが組織に致命的な結果をもたらすことを悟った帝国海軍はこれまでの態度を一変、貪欲に情報を収集・分析するようになる。
そして、その情報重視への転換は、帝国海軍の戦備ならびに戦術に大いなる変化をもたらす。
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
永艦の戦い
みたろ
歴史・時代
時に1936年。日本はロンドン海軍軍縮条約の失効を2年後を控え、対英米海軍が建造するであろう新型戦艦に対抗するために50cm砲の戦艦と45cm砲のW超巨大戦艦を作ろうとした。その設計を担当した話である。
(フィクションです。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる