改造空母機動艦隊

蒼 飛雲

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ハワイ最終決戦

第54話 大統領にきつい一発を

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 マリアナ沖海戦が終わってしばらく後。
 連合艦隊司令長官の山本大将は海軍大臣の嶋田大将から呼び出しを受けて海軍省に出頭していた。

 「此度の戦いでは連合艦隊はよくやってくれた。ボクシングに例えれば、ロープ際に追い込まれていた我が軍が、逆に会心のカウンターを相手に食らわせてKOしたようなものだ。これで太平洋艦隊は最低でも半年は動けまい」

 入室してきた山本長官にソファを勧めつつ、嶋田大臣は感謝の言葉をかける。
 嶋田大臣にしては珍しく喜色満面、愛想良好といった態度だった

 「確かに、一機艦はマリアナ諸島に侵攻してきた太平洋艦隊を撃退した。そして、この戦いで一機艦は一二隻の空母と二隻の戦艦、それに一〇隻の巡洋艦と五二隻の駆逐艦を撃沈するという、まさに空前絶後の戦果を挙げた。このことは素直に喜ばしい。だが、これでさえもルーズベルトを失脚に追い込むにはパンチ不足だったようだ」

 大勝利の直後なのにもかかわらず、しかし山本長官に喜びの様子はなかった。
 むしろ憂いにも似た雰囲気させ漂わせている。

 「やはりデューイでは、ルーズベルトを相手取るには力不足か」

 嶋田大臣もまた、その表情に落胆の色を浮かべる
 共和党のトマス・E・デューイは大統領選挙におけるルーズベルトの対立候補だった。
 これまでルーズベルトが戦争指導において失態を重ねていることで、相対的にデューイの評価は上がっていた。
 それでも、最終的にはルーズベルトが大統領選挙に勝利するというのが帝国海軍上層部における見立てだった。

 「我が方としては日本やドイツに対して妥協の姿勢を崩さないルーズベルトよりも、デューイのほうがありがたいのだが、しかしなかなかうまくはいかん」

 共和党は、民主党に比べればどちらかというと内向的な性格を持ち合わせている。
 逆に民主党は外向きの傾向があり、ナチス・ドイツ打倒に執念を燃やすルーズベルトはその筆頭と言ってもいい存在だった。
 だから、戦争を早期に終結したい日本にとって、ルーズベルトはそれこそ厄介極まりない人物として映っていた。

 ぼやくような山本長官の言葉に、嶋田大臣は無言でただ首肯する。
 まだ、話の途中だと理解しているのだ。

 「そこでだ、四選を果たして上機嫌でいるはずのルーズベルトにきつい一発をお見舞いしてやろうと思う。今は連合艦隊司令部において、そのための戦策を練っているところだ」

 憂いから一転、露悪な笑みを見せる山本長官に、一方の嶋田大臣はその戦策とやらを尋ねる。

 「ハワイを獲る」

 短く、そして力強く断言する山本長官に、嶋田大臣は目でその先を促す。

 「幸いにして、マリアナ沖海戦で損害を被った艦艇はほとんど無かった。一方で米側のほうはほとんど壊滅状態だ。彼我の戦力差が隔絶した今こそが乾坤一擲、それこそ最後の勝負どころだと言ってもいい」

 勢い込んで話す山本長官だったが、その彼に対して嶋田大臣は疑問を抱く。
 そして、直裁にそのことを尋ねる。

 「戦闘艦艇、それに油槽船のほうは問題無いだろう。だが、飛行機のほうはどうする。搭乗員についてもだ。なるほど我が軍はマリアナ沖海戦では圧倒的な勝利を挙げた。しかし、一方で少なくない搭乗員を損耗した。それと、機材についても疑問がある。確かに零戦の最新型はF6Fとは戦えるだろう。だが、陸上機のほうはどうする。P38なら勝てるかもしれんが、しかしP47やP51が相手では少しばかりきついのではないか」

 お前の疑問はもっともだとばかりに大きくうなずきつつ、山本長官はそれに対する回答を開陳する。

 「搭乗員については内南洋と南方資源地帯、それに本土にいる熟練や中堅をかき集める。その彼らには離着艦訓練に臨む前に機種転換訓練を受けてもらうことにしている」

 山本長官が話す機種転換訓練という言葉に、嶋田大臣が反応を見せる。

 「お前が言う機種転換訓練の機材は紫電改のことだろう。しかしあれは局地戦闘機だったはずだ」

 紫電改は水上戦闘機の強風を陸上戦闘機化した紫電をさらにリファインしたもので、零戦五四型と同じ誉発動機をその心臓としている。
 ただ、零戦がもともとは一〇〇〇馬力級戦闘機として開発されたのに対し、紫電改のほうは二〇〇〇馬力級エンジンを搭載することを前提として開発されていたことから、機体の洗練度が違った。

 「『信濃』で離着艦テストをしたところ、特に大きな支障もなく艦上機として運用できることが分かった。ただ、それでも零戦に比べれば着艦速度は速いし、それに発艦に要する滑走距離も長い。だから、紫電改に関しては大型乃至中型空母のみに配備することとしている」

 言外に人材、機材ともに問題無しだと話す山本長官に、嶋田大臣は納得の表情を向ける。
 同時に最後の質問を口にする。

 「時期はいつにするのだ」

 このことを予想していたのだろう。
 山本長官が打てば響くかのごとく即答する。

 「年明けを予定している。だから、作戦に参加する乗組員にはそれまでに休暇を与えようと考えている」

 山本長官の説明に、嶋田大臣は安堵の表情を浮かべる。
 嶋田大臣は、山本長官の性格からしてクリスマスあたりを作戦開始日にするのではないかと危惧していたのだ。
 もちろん、そのような嫌味な真似をすれば、米国の日本に対する心証は最悪となり、その分だけ講和の機会が遠のく。

 「本音を言えば、俺としてはクリスマス当日に作戦を決行したかったのだが、それだとさすがに準備が間に合わないと各方面から言われたのでな。それで、仕方がないので年明けにしたわけだ」

 そう言って山本長官は苦笑する。
 その山本長官は軍政に精通している一方で、しかし真珠湾奇襲攻撃を立案するなどとかく米国民の感情を逆なでするようなことを思いつく御仁だった。
 そのことを思い出した嶋田大臣は、胸中で盛大に嘆息した。
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