改造空母機動艦隊

蒼 飛雲

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マリアナ沖海戦

第50話 イ号一型丙無線誘導弾

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 第三艦隊から第八艦隊までの一八隻の空母から発進した第二次攻撃隊は、米機動部隊を視認する前に数十機からなるF6Fヘルキャット戦闘機の迎撃を受けた。
 それらは、第一次攻撃隊の零戦との戦いで生き残った機体だった。

 これに対し、一二個中隊合わせて一四四機の零戦がそれらを迎え撃つ。
 残る六個中隊七二機の零戦は本隊から離れず、天山とともにそのまま敵機動部隊を目指す。
 F6Fは優秀な機体だったが、しかし二倍以上の数の零戦を相手にその防衛網を突破することは無理だった。
 そのことで、天山はただの一機も損なうことなく米機動部隊に取り付くことができた。

 「各機に達する。第五艦隊それに第七艦隊は北、第六艦隊ならびに第八艦隊は南に展開する機動部隊を攻撃せよ。中央の機動部隊は第三艦隊と第四艦隊がこれを叩く。攻撃法については各部隊の最先任指揮官にこれを委ねる」

 第二次攻撃隊総指揮官兼「飛龍」飛行隊長の友永少佐は太平洋艦隊の配置を確認するとともに、全軍に対してその攻撃目標を指示する。
 さらに、直率する第三艦隊それに第四艦隊の天山に対して命令を重ねる。

 「『飛龍』隊ならびに『天城』隊は小隊ごとに護衛艦艇を攻撃せよ。『蒼龍』隊は右前方、『雲龍』隊は左前方の空母を、『葛城』隊は右後方、『笠置』隊は左後方の空母を狙え。
 攻撃順は『飛龍』隊の次に『天城』隊、それに『蒼龍』『雲龍』『葛城』『笠置』が続くものとする」

 友永少佐の命令からほどなく、「飛龍」隊の一八機の天山が三機ずつに分かれ、甲二と呼称されている米機動部隊を包囲していく。
 目標とする甲二は四隻の空母を中心に、その周囲を二隻の中型艦と一二隻の小型艦がこれを取り囲んでいる。
 米軍お得意の輪形陣だ。

 その甲二に対し、友永少佐とその部下たちは高度八〇〇メートルを維持しながら接近する。
 そして、目標との距離が一〇〇〇〇メートルを切った時点で腹の下に抱えてきた決戦兵器を切り離す。

 イ号一型丙無線誘導弾と呼ばれるそれは、ドイツからもたらされたHs293の技術情報をもとに、帝国海軍が帝国陸軍と共同で開発した空対艦誘導弾だった。
 イ号一型無線誘導弾には三つのバージョンがあった。
 イ号一型甲無線誘導弾は陸軍の重爆で運用されることを前提とし、一四〇〇キロの本体に八〇〇キロ爆弾が埋め込まれている。
 イ号一型乙無線誘導弾のほうは陸軍の軽爆に搭載され、こちらは六八〇キロの本体に三〇〇キロ爆弾が搭載されている。
 そして、海軍が使用するイ号一型丙無線誘導弾のほうは陸攻や艦攻で運用されることから本体が九五〇キロで、その中に五〇〇キロ爆弾が収められていた。

 また、これらイ号一型無線誘導弾はそのいずれもが無線によって誘導されることから周波数チャンネルの制限を受けた。
 そのことで、同時発射が可能な数は一八にとどまる。
 帝国海軍の空母の多くが天山の定数を一八機としているのも、これと関係があった。

 友永少佐とその部下が発射した三発のイ号一型丙無線誘導弾は、輪形陣の外周に位置する軽巡「オークランド」目掛けて飛翔する。
 その「オークランド」は六基ある一二・七センチ連装両用砲を振りかざしてイ号一型丙無線誘導弾を撃墜しようと躍起になる。
 本来であれば、母機である天山を撃墜すればイ号一型丙無線誘導弾はコントロールを失い無力化されるのだが、しかし「オークランド」の将兵らはそのことにまで頭が回らない。

 一方、三発発射されたイ号一型丙無線誘導弾だが、こちらは二番機が発射したものが目標に届く前に海面に落下する。
 無線の送受信装置に異常があったのか、あるいは推進機構や姿勢制御装置にトラブルがあったのかは分からない。
 ただ、言えることはイ号一型丙無線誘導弾もまた新兵器にありがちな初期不良からは逃れることができなかったということだ。

 しかし、残る二発は「オークランド」の激しい対空砲火をかいくぐって見事に命中する。
 七〇〇〇トンに満たない「オークランド」が五〇〇キロ爆弾を内包する一トン近い弾体を、しかもそれを二発も食らってはそれこそたまったものではなかった。
 「オークランド」は猛煙を噴き上げ、他艦の妨げにならないよう這うような速度で輪形陣から離脱していく。

 その頃には他の五個小隊もまた戦果を挙げていた。
 少ない小隊でも一発、中には全弾命中させた小隊もあった。
 さらに、「天城」隊もまた「飛龍」隊に続いて小隊ごとに散開。
 こちらも六つの目標そのすべてに対してイ号一型丙無線誘導弾を命中させている。
 一四隻あった護衛艦艇のうちの一二隻までがイ号一型丙無線誘導弾によって落伍したことで、空母を守るはずだった輪形陣は完全に無力化された。

 そこへ「蒼龍」隊の一八機の天山が横並びとなってイ号一型丙無線誘導弾を次々に発射していく。
 飛翔の途中で五発が脱落し、さらに対空砲火で一発が撃ち墜とされる。
 しかし、残る一二発のうちの一〇発までが「フランクリン」に命中。
 そして、そのうちの半分近くが艦橋に命中していた。
 その艦橋には操舵や通信、それにレーダーといった艦の枢要な機能それに機器が集約されている。
 「蒼龍」隊の搭乗員はそのことを承知していたからこそ、わざと艦橋を狙ったのだ。

 さらに悪いことに「フランクリン」を含む「エセックス」級空母はそのいずれもが艦橋に煙突を併設していた。
 そのことで、艦橋に命中したイ号一型丙無線誘導弾の爆発によって生じた高熱や爆風が煙路を伝ってボイラーへと逆流する。
 艦の心臓部を痛めつけられた「フランクリン」はそのことで大きく速度を落とす。

 その頃には「蒼龍」隊に続いて攻撃を開始した「雲龍」隊と「葛城」隊、それに「笠置」隊も戦果を挙げている。
 いずれの隊もそれぞれ一〇発以上のイ号一型丙無線誘導弾を目標に命中させ、これらの無力化に成功していた。
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