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マリアナ沖海戦
第48話 零戦vsF6F
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二機の彗星の誘導のもと、東へと進撃を続ける二四〇機の零戦。
その彼らは先行する彩雲から敵情についての報告を受けていた。
「F6Fと思しき複数の編隊が貴隊に接近中。規模は一〇機余りのものから四〇機程度のものまで様々。その総数は二〇〇機を超える。さらに後続が存在する可能性大」
敵の空母は自分たちに匹敵するF6Fをぶつけてきた。
さらに、彩雲搭乗員の予想通りであれば、迎撃戦闘機の総数は最終的には第一次攻撃隊のそれを上回ることになる。
ただ、零戦の搭乗員らに焦りは無かった。
敵戦闘機の的針や的速、それに高度といった追加情報が彩雲からもたらされるたびに高度を調整し、機首の向きを変えていく。
接敵した時、零戦隊の高度はF6Fのそれに比べて五〇〇メートルほど高い位置にあった。
彩雲からの指示によって、適切な高度の優位を確保することに成功したのだ。
その好機を零戦の搭乗員は逃さない。
上から被さるようにして肉薄、それぞれが目をつけたF6Fに照準を合わせていく。
二四〇機、合わせて九六〇丁もの二〇ミリ機銃が一斉に火を噴く。
そこから吐き出される大口径機銃弾のシャワーを浴びてはF6Fもたまったものではなかった。
もちろん、F6Fは単発艦上戦闘機としては破格の防御力を誇る。
七・七ミリ弾はもちろん、一二・七ミリ弾であっても相当な数を命中させない限り撃ち墜とすことは出来ない。
しかし二〇ミリ弾、それも二号機銃からのそれであれば話は別だ。
二〇ミリ弾は七・七ミリ弾や一二・七ミリ弾とは段違いの破壊力を持つ。
そのうえ、零戦五四型が装備する二号機銃は初期型が搭載していた一号機銃に比べて初速が速い。
そのことで弾道が低伸するから命中率が高いし、貫徹力もまた同様に高い。
そのうえ五四型はドイツからもたらされた優秀な射爆照準器を備えているから、命中率はさらに向上する。
加えて重力の恩恵が得られる上からの撃ち降ろしだ。
零戦側にとっては、あまりにも好条件が揃い過ぎていた。
二〇ミリ弾をしたたかに浴びたF6Fが炎と煙を引きながらマリアナの海へと吸い込まれていく。
中には、燃料タンクを撃ち抜かれたのか、大爆発を起こす機体もある。
もちろん、F6Fのほうもまたブローニング機銃の高性能に物を言わせて反撃の射弾を放っていた。
しかし、撃ち降ろしの二〇ミリ弾と、撃ち上げの一二・七ミリ弾ではあまりにもその威力が違い過ぎた。
ただの一撃で三割近い戦力を刈り取られたF6Fは、得意の連携を断たれて散り散りとなる。
一方、零戦のほうは深追いをしなかった。
彩雲から新たに報告のあった後続のF6Fを迎え撃つべく、高度を上げながら編隊を整えていく。
そして、接敵前に優位高度まで上昇することに成功した零戦は、遅れて空戦域に現れたF6Fに対して再び撃ち降ろしの射弾を浴びせる。
二〇ミリ弾の洗礼によって、二度目の地獄が繰り広げられた。
敵編隊のあらかたを始末した零戦はここで残敵掃討に移行する。
一八五〇馬力を発揮する誉エンジンを搭載する零戦五四型は、F6Fに比べて遥かに軽量な機体も相まって、加速や上昇力は一枚も二枚も上だった。
最高速度こそF6Fと同じ程度にとどまるが、しかし空中戦で大事なのはいち早く戦闘速度に移行できる加速力と、それと速やかに高度をリカバリーできる上昇性能だ。
この二点については、さしものF6Fも零戦には及ばない。
ただ、零戦とF6Fとの間でそれ以上に違ったのが旋回格闘性能だった。
これまでの零戦の中で最も旋回格闘性能に優れていたのは、実は最も古いはずの一一型それに二一型だった。
三二型や四三型は出力が向上した一方で、武装や防弾装備を充実させたことから機体重量が増し、そのことで運動性能はむしろ低下していた。
しかし、五四型は違う。
一一型や二一型の二倍近い出力を誇る誉発動機をその心臓としたことで、五四型は縦の戦いはもちろん、横の戦いもまた二一型を完全に凌いでいたのだ。
その運動性能を武器に、零戦はF6Fの猛進を躱しつつそれこそあっという間に背後を取っていく。
あとは急加速で肉薄し、そして高威力の二〇ミリ弾を叩き込んでいく。
数的劣勢が確定的になったF6Fを多数の零戦が追いかけ回す状況が、空戦域のあちらこちらで現出する。
この空中戦が始まるまで、F6Fのほうは「エセックス」級空母にそれぞれ三六機、「インデペンデンス」級空母にそれぞれ一二機の合わせて三一二機の直掩機を用意していた。
単純な数だけで言えば、第一次攻撃隊の三割増しだ。
レーダーが日本側の第一次攻撃隊を捉えた時点で、それらF6Fは勇躍出撃する。
そのF6Fの搭乗員はその誰もが日本の編隊は戦爆雷の連合編成だと思い込んでいた。
発見したのが二〇〇機を大きく超える規模の編隊だったのだから、そう考えて当然だ。
だから、航空管制官からの「先に接敵した機体が敵の護衛戦闘機を引き剥がし、あとから来た者は急降下爆撃機や雷撃機を始末せよ」という命令を妥当なものだと受け止めていた。
しかし、現実は彼らの想像を超えていた。
二〇〇機を超える編隊が、実はファイタースイープ部隊だったのだ。
思いもかけない日本側の行動に、迎撃戦闘機隊は完全に意表を突かれた。
一つの戦闘単位としてまとまっている強大な相手を前に、しかしF6F側の迎撃はそれこそ戦力の逐次投入のような形になってしまった。
このことで、数の優位はあっという間に失われ、今では完全に少数派へと成り下がっている。
そして、零戦の搭乗員は今回ばかりは執拗だった。
急降下爆撃機や雷撃機といった守るべき存在が無いものだから、燃料が続く限り深追いが可能だった。
そのことで、零戦の追撃を振り切れずに撃ち墜とされるF6Fが続出する。
マリアナ沖の空が零戦だけで埋め尽くされるのに、さほど時間はかからなかった。
その彼らは先行する彩雲から敵情についての報告を受けていた。
「F6Fと思しき複数の編隊が貴隊に接近中。規模は一〇機余りのものから四〇機程度のものまで様々。その総数は二〇〇機を超える。さらに後続が存在する可能性大」
敵の空母は自分たちに匹敵するF6Fをぶつけてきた。
さらに、彩雲搭乗員の予想通りであれば、迎撃戦闘機の総数は最終的には第一次攻撃隊のそれを上回ることになる。
ただ、零戦の搭乗員らに焦りは無かった。
敵戦闘機の的針や的速、それに高度といった追加情報が彩雲からもたらされるたびに高度を調整し、機首の向きを変えていく。
接敵した時、零戦隊の高度はF6Fのそれに比べて五〇〇メートルほど高い位置にあった。
彩雲からの指示によって、適切な高度の優位を確保することに成功したのだ。
その好機を零戦の搭乗員は逃さない。
上から被さるようにして肉薄、それぞれが目をつけたF6Fに照準を合わせていく。
二四〇機、合わせて九六〇丁もの二〇ミリ機銃が一斉に火を噴く。
そこから吐き出される大口径機銃弾のシャワーを浴びてはF6Fもたまったものではなかった。
もちろん、F6Fは単発艦上戦闘機としては破格の防御力を誇る。
七・七ミリ弾はもちろん、一二・七ミリ弾であっても相当な数を命中させない限り撃ち墜とすことは出来ない。
しかし二〇ミリ弾、それも二号機銃からのそれであれば話は別だ。
二〇ミリ弾は七・七ミリ弾や一二・七ミリ弾とは段違いの破壊力を持つ。
そのうえ、零戦五四型が装備する二号機銃は初期型が搭載していた一号機銃に比べて初速が速い。
そのことで弾道が低伸するから命中率が高いし、貫徹力もまた同様に高い。
そのうえ五四型はドイツからもたらされた優秀な射爆照準器を備えているから、命中率はさらに向上する。
加えて重力の恩恵が得られる上からの撃ち降ろしだ。
零戦側にとっては、あまりにも好条件が揃い過ぎていた。
二〇ミリ弾をしたたかに浴びたF6Fが炎と煙を引きながらマリアナの海へと吸い込まれていく。
中には、燃料タンクを撃ち抜かれたのか、大爆発を起こす機体もある。
もちろん、F6Fのほうもまたブローニング機銃の高性能に物を言わせて反撃の射弾を放っていた。
しかし、撃ち降ろしの二〇ミリ弾と、撃ち上げの一二・七ミリ弾ではあまりにもその威力が違い過ぎた。
ただの一撃で三割近い戦力を刈り取られたF6Fは、得意の連携を断たれて散り散りとなる。
一方、零戦のほうは深追いをしなかった。
彩雲から新たに報告のあった後続のF6Fを迎え撃つべく、高度を上げながら編隊を整えていく。
そして、接敵前に優位高度まで上昇することに成功した零戦は、遅れて空戦域に現れたF6Fに対して再び撃ち降ろしの射弾を浴びせる。
二〇ミリ弾の洗礼によって、二度目の地獄が繰り広げられた。
敵編隊のあらかたを始末した零戦はここで残敵掃討に移行する。
一八五〇馬力を発揮する誉エンジンを搭載する零戦五四型は、F6Fに比べて遥かに軽量な機体も相まって、加速や上昇力は一枚も二枚も上だった。
最高速度こそF6Fと同じ程度にとどまるが、しかし空中戦で大事なのはいち早く戦闘速度に移行できる加速力と、それと速やかに高度をリカバリーできる上昇性能だ。
この二点については、さしものF6Fも零戦には及ばない。
ただ、零戦とF6Fとの間でそれ以上に違ったのが旋回格闘性能だった。
これまでの零戦の中で最も旋回格闘性能に優れていたのは、実は最も古いはずの一一型それに二一型だった。
三二型や四三型は出力が向上した一方で、武装や防弾装備を充実させたことから機体重量が増し、そのことで運動性能はむしろ低下していた。
しかし、五四型は違う。
一一型や二一型の二倍近い出力を誇る誉発動機をその心臓としたことで、五四型は縦の戦いはもちろん、横の戦いもまた二一型を完全に凌いでいたのだ。
その運動性能を武器に、零戦はF6Fの猛進を躱しつつそれこそあっという間に背後を取っていく。
あとは急加速で肉薄し、そして高威力の二〇ミリ弾を叩き込んでいく。
数的劣勢が確定的になったF6Fを多数の零戦が追いかけ回す状況が、空戦域のあちらこちらで現出する。
この空中戦が始まるまで、F6Fのほうは「エセックス」級空母にそれぞれ三六機、「インデペンデンス」級空母にそれぞれ一二機の合わせて三一二機の直掩機を用意していた。
単純な数だけで言えば、第一次攻撃隊の三割増しだ。
レーダーが日本側の第一次攻撃隊を捉えた時点で、それらF6Fは勇躍出撃する。
そのF6Fの搭乗員はその誰もが日本の編隊は戦爆雷の連合編成だと思い込んでいた。
発見したのが二〇〇機を大きく超える規模の編隊だったのだから、そう考えて当然だ。
だから、航空管制官からの「先に接敵した機体が敵の護衛戦闘機を引き剥がし、あとから来た者は急降下爆撃機や雷撃機を始末せよ」という命令を妥当なものだと受け止めていた。
しかし、現実は彼らの想像を超えていた。
二〇〇機を超える編隊が、実はファイタースイープ部隊だったのだ。
思いもかけない日本側の行動に、迎撃戦闘機隊は完全に意表を突かれた。
一つの戦闘単位としてまとまっている強大な相手を前に、しかしF6F側の迎撃はそれこそ戦力の逐次投入のような形になってしまった。
このことで、数の優位はあっという間に失われ、今では完全に少数派へと成り下がっている。
そして、零戦の搭乗員は今回ばかりは執拗だった。
急降下爆撃機や雷撃機といった守るべき存在が無いものだから、燃料が続く限り深追いが可能だった。
そのことで、零戦の追撃を振り切れずに撃ち墜とされるF6Fが続出する。
マリアナ沖の空が零戦だけで埋め尽くされるのに、さほど時間はかからなかった。
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