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インド洋海戦
第18話 インド洋航空戦
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東洋艦隊の主力を発見した第二航空艦隊それに第三航空艦隊は、ただちに攻撃隊を発進させた。
「金剛」から零戦九機に九九艦爆が一八機。
「龍驤」をはじめとした他の七隻の小型空母から零戦九機に九七艦攻が同じく九機。
それらが飛行甲板を蹴ってインド洋の空へと駆け上がっていく。
零戦は増槽を、九九艦爆は二五番通常爆弾を、そして九七艦攻は九一式航空魚雷をそれぞれの腹に抱いていた。
第一次攻撃隊の半数近くを戦闘機が占めているのは、マーシャル沖海戦の戦訓を受けてのものだった。
同海戦において、当時の第一航空艦隊が放った第一次攻撃隊は五〇機前後とみられるF4Fの迎撃を受けた。
一方、九九艦爆や九七艦攻を護衛する零戦のほうは六三機だった。
零戦は数の優位を確保していたことで、なんとか九九艦爆や九七艦攻を守り切ることができた。
それでも、零戦の数が十分だったとはとても言えなかった。
むしろ、米空母の戦闘機の搭載比率の低さに救われた感さえ有った。
そして、もし英空母が攻撃をあきらめ、雷撃機を降ろす一方で防御のための戦闘機を増載していたとしたら、攻撃隊は極めて危険な状況下に置かれる。
だからこそ、攻撃隊には七二機もの零戦を九九艦爆や九七艦攻の用心棒として同道させたのだ。
進撃を続けていた攻撃隊の前に、敵戦闘機がその姿を現す。
鼻先の尖った液冷エンジンを搭載する機体だ。
それらは「インドミタブル」と「フォーミダブル」それに「ハーミーズ」から緊急発進した三六機のシーハリケーンだった。
そのシーハリケーンの搭乗員らは出撃前に、此度の戦いにおいて「赤城」や「加賀」それに「蒼龍」や「飛龍」といった有力空母が不参加であることを知らされていた。
だから、日本の攻撃隊の規模が、意外なまでに大きかったことに驚いていた。
それでも、英空母の戦闘機乗りは戦意旺盛だった。
東洋艦隊を守るべく、自分たちの四倍以上の数の日本側編隊に向けて、怖気づいた様子もなく突撃していった。
これを迎え撃ったのは二航艦の「千代田」戦闘機隊と「瑞穂」戦闘機隊、それに三航艦の「瑞鳳」戦闘機隊と「祥鳳」戦闘機隊の合わせて三六機の零戦からなる制空隊だった。
それら機体は本隊から離れ、シーハリケーンへとその機首を向ける。
一方、二航艦の「金剛」戦闘機隊と「千歳」戦闘機隊、それに三航艦の「龍驤」戦闘機隊と「龍鳳」戦闘機からなる直掩隊は九九艦爆や九七艦攻のそばを離れず、そのまま東洋艦隊を目指す。
三六機のシーハリケーンと同じく三六機の制空隊の零戦が激突する。
主翼からシャワーのような火箭を吐き出して突進してくるシーハリケーンに対し、零戦は持ち前の運動性能を生かしてこれを回避する。
先手を取られるのはF4Fとの戦闘で慣れている。
互いの編隊が交錯するのと同時、シーハリケーンそれに零戦はともに相手の背後を取るべく急旋回をかける。
絵に描いたような旋回格闘戦。
そして、それに勝利したのは零戦の側だった。
欧州での戦いにおいて、シーハリケーンのオリジナルとも言うべきハリケーンは一撃離脱を多用するドイツ戦闘機に対し、これを旋回格闘戦の土俵に持ち込んで散々に撃ち破ってきた。
バトル・オブ・ブリテンの勝利の原動力となったハリケーンの実力は本物だ。
たかが東洋の島国の戦闘機ごときに後れをとるはずがない。
そう考えて戦いに臨んだシーハリケーンの搭乗員たちだったが、しかし零戦の機動は彼らの予想を超えていた。
シーハリケーンはドイツ戦闘機に比べて小回りが効くが、零戦はさらにその遥かに上をいっていたのだ。
信じられない光景あるいは現実を目の当たりにしたシーハリケーンの搭乗員らはそのことでわずかだが反応が遅れる。
空での一瞬の隙は、それこそ死に直結する。
敵の動揺を見てとった零戦の搭乗員は、それこそ千載一遇の好機とばかりにシーハリケーンの内側へと回り込む。
そして、後方に機体を遷移すると同時に照準もまた済ませる。
零戦の両翼から二〇ミリ弾が吐き出され、それらがシーハリケーンに吸い込まれていく。
二〇ミリ弾の威力は破格だ。
それなりの数を撃ち込めば、四発重爆をも撃墜できる威力を持ったそれを、たいした防御力を持たない単発戦闘機がまともに食らってしまってはさすがにもたない。
もちろん、シーハリケーンも一方的にやられたわけではない。
八丁装備された七・七ミリ機銃から驟雨の如き銃弾を零戦を浴びせ、これを討ちとっている。
だが、インド洋の海に墜ちていくのは、そのほとんどがシーハリケーンで、零戦の数は極めて少ない。
このことで、最初はイーブンだった数は、しかし最初の一撃で零戦優位へと傾く。
そして、その差は時間の経過とともに拡大していく。
互角だったはずの戦力の均衡が崩れた場合は、特にそれが顕著だ。
零戦とシーハリケーンの勝負を決めた大きな要因だが、その一つは明らかに英搭乗員の慢心あるいは傲慢だった。
そのことに間違いは無い。
しかし、さらに大きかったのが機体性能の差だった。
シーハリケーンのオリジナルであるハリケーンは、一九三七年の時点においてすでに運用が開始されていた。
一方の零戦のほうは、それが一九四〇年となっている。
一世代は大げさでも、しかし半世代は確実に零戦のほうが新しいのだ。
それぞれ一長一短はあれども、それでも総合性能では明らかに零戦の側が優越している。
そして、その性能差を英搭乗員は覆すことが出来なかった。
それこそが最大の敗因だった。
「金剛」から零戦九機に九九艦爆が一八機。
「龍驤」をはじめとした他の七隻の小型空母から零戦九機に九七艦攻が同じく九機。
それらが飛行甲板を蹴ってインド洋の空へと駆け上がっていく。
零戦は増槽を、九九艦爆は二五番通常爆弾を、そして九七艦攻は九一式航空魚雷をそれぞれの腹に抱いていた。
第一次攻撃隊の半数近くを戦闘機が占めているのは、マーシャル沖海戦の戦訓を受けてのものだった。
同海戦において、当時の第一航空艦隊が放った第一次攻撃隊は五〇機前後とみられるF4Fの迎撃を受けた。
一方、九九艦爆や九七艦攻を護衛する零戦のほうは六三機だった。
零戦は数の優位を確保していたことで、なんとか九九艦爆や九七艦攻を守り切ることができた。
それでも、零戦の数が十分だったとはとても言えなかった。
むしろ、米空母の戦闘機の搭載比率の低さに救われた感さえ有った。
そして、もし英空母が攻撃をあきらめ、雷撃機を降ろす一方で防御のための戦闘機を増載していたとしたら、攻撃隊は極めて危険な状況下に置かれる。
だからこそ、攻撃隊には七二機もの零戦を九九艦爆や九七艦攻の用心棒として同道させたのだ。
進撃を続けていた攻撃隊の前に、敵戦闘機がその姿を現す。
鼻先の尖った液冷エンジンを搭載する機体だ。
それらは「インドミタブル」と「フォーミダブル」それに「ハーミーズ」から緊急発進した三六機のシーハリケーンだった。
そのシーハリケーンの搭乗員らは出撃前に、此度の戦いにおいて「赤城」や「加賀」それに「蒼龍」や「飛龍」といった有力空母が不参加であることを知らされていた。
だから、日本の攻撃隊の規模が、意外なまでに大きかったことに驚いていた。
それでも、英空母の戦闘機乗りは戦意旺盛だった。
東洋艦隊を守るべく、自分たちの四倍以上の数の日本側編隊に向けて、怖気づいた様子もなく突撃していった。
これを迎え撃ったのは二航艦の「千代田」戦闘機隊と「瑞穂」戦闘機隊、それに三航艦の「瑞鳳」戦闘機隊と「祥鳳」戦闘機隊の合わせて三六機の零戦からなる制空隊だった。
それら機体は本隊から離れ、シーハリケーンへとその機首を向ける。
一方、二航艦の「金剛」戦闘機隊と「千歳」戦闘機隊、それに三航艦の「龍驤」戦闘機隊と「龍鳳」戦闘機からなる直掩隊は九九艦爆や九七艦攻のそばを離れず、そのまま東洋艦隊を目指す。
三六機のシーハリケーンと同じく三六機の制空隊の零戦が激突する。
主翼からシャワーのような火箭を吐き出して突進してくるシーハリケーンに対し、零戦は持ち前の運動性能を生かしてこれを回避する。
先手を取られるのはF4Fとの戦闘で慣れている。
互いの編隊が交錯するのと同時、シーハリケーンそれに零戦はともに相手の背後を取るべく急旋回をかける。
絵に描いたような旋回格闘戦。
そして、それに勝利したのは零戦の側だった。
欧州での戦いにおいて、シーハリケーンのオリジナルとも言うべきハリケーンは一撃離脱を多用するドイツ戦闘機に対し、これを旋回格闘戦の土俵に持ち込んで散々に撃ち破ってきた。
バトル・オブ・ブリテンの勝利の原動力となったハリケーンの実力は本物だ。
たかが東洋の島国の戦闘機ごときに後れをとるはずがない。
そう考えて戦いに臨んだシーハリケーンの搭乗員たちだったが、しかし零戦の機動は彼らの予想を超えていた。
シーハリケーンはドイツ戦闘機に比べて小回りが効くが、零戦はさらにその遥かに上をいっていたのだ。
信じられない光景あるいは現実を目の当たりにしたシーハリケーンの搭乗員らはそのことでわずかだが反応が遅れる。
空での一瞬の隙は、それこそ死に直結する。
敵の動揺を見てとった零戦の搭乗員は、それこそ千載一遇の好機とばかりにシーハリケーンの内側へと回り込む。
そして、後方に機体を遷移すると同時に照準もまた済ませる。
零戦の両翼から二〇ミリ弾が吐き出され、それらがシーハリケーンに吸い込まれていく。
二〇ミリ弾の威力は破格だ。
それなりの数を撃ち込めば、四発重爆をも撃墜できる威力を持ったそれを、たいした防御力を持たない単発戦闘機がまともに食らってしまってはさすがにもたない。
もちろん、シーハリケーンも一方的にやられたわけではない。
八丁装備された七・七ミリ機銃から驟雨の如き銃弾を零戦を浴びせ、これを討ちとっている。
だが、インド洋の海に墜ちていくのは、そのほとんどがシーハリケーンで、零戦の数は極めて少ない。
このことで、最初はイーブンだった数は、しかし最初の一撃で零戦優位へと傾く。
そして、その差は時間の経過とともに拡大していく。
互角だったはずの戦力の均衡が崩れた場合は、特にそれが顕著だ。
零戦とシーハリケーンの勝負を決めた大きな要因だが、その一つは明らかに英搭乗員の慢心あるいは傲慢だった。
そのことに間違いは無い。
しかし、さらに大きかったのが機体性能の差だった。
シーハリケーンのオリジナルであるハリケーンは、一九三七年の時点においてすでに運用が開始されていた。
一方の零戦のほうは、それが一九四〇年となっている。
一世代は大げさでも、しかし半世代は確実に零戦のほうが新しいのだ。
それぞれ一長一短はあれども、それでも総合性能では明らかに零戦の側が優越している。
そして、その性能差を英搭乗員は覆すことが出来なかった。
それこそが最大の敗因だった。
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