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インド洋海戦
第15話 戦力不足
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日本海海戦には及ばないものの、それでも大勝利だったこともありマーシャル沖海戦の結果はそれこそあっという間に国民の知るところとなった。
日本の津々浦々で提灯行列が行われ、人々は戦捷の喜びに浸っていた。
同海戦における戦果は戦艦が四隻に空母が二隻、それに駆逐艦が九隻だった。
捕虜の証言から、戦艦は「ウエストバージニア」と「メリーランド」それに「テネシー」ならびに「カリフォルニア」だということが分かっている。
米国でビッグファイブと呼ばれる五隻の最強戦艦のうちの、実に四隻までを一度の戦いで仕留めたのだ。
日本国民が熱狂するのも宜なるかなといったところであった。
一方、撃沈した空母のほうだが、こちらは「レキシントン」それに「ヨークタウン」だということが判明している。
この二隻は、最終的には米軍が撃沈処分したのだが、しかし帝国海軍報道部のほうはこれを日本側が沈めたことにして大々的に喧伝していた。
このような中、連合艦隊司令長官の山本大将が戦果報告を兼ねて、今後の方針のすり合わせのために軍令部を訪れていた。
「『榛名』と『霧島』に続き、『伊勢』と『日向』それに『山城』と『扶桑』の改造が決まったよ」
総長室に入ってきたばかりの山本長官に対し、挨拶もそこそこに永野軍令部総長が本題を切り出す。
本来、「榛名」は第一一〇号艦、「霧島」は第一一一号艦が進水してから空母への改造工事に着手されるはずだった。
しかし、マーシャル沖海戦によって状況が変わった。
戦艦は飛行機に抗し得ないことが再確認されたからだ。
そのことで、南方作戦が終了していないのにもかかわらず、「榛名」と「霧島」は本土に呼び戻され、さっそくとばかりに改造工事が開始された。
「榛名」と「霧島」が抜けた穴は、「長門」と「陸奥」が代わりにこれを務めることとなった。
この措置に対し、南方戦域を担当する第二艦隊司令部からは特に文句が出るようなことは無かった。
そして、永野総長はさらに四隻の戦艦を空母へと改造する決断をしてくれた。
永野総長の説明に、山本長官は相好を崩しつつ感謝の言葉を述べる。
しかし、「伊勢」と「日向」それに「山城」と「扶桑」を空母へと改造するにあたっては、鉄砲屋から相当な抵抗があったはずだ。
だが、眼前の永野総長はそれを抑え込んでくれたのだ。
飛行機屋の首魁を自認する山本長官としては感謝感激といったところだったが、しかしこのことで永野総長は帝国海軍の主流派である鉄砲屋を敵に回すことになる。
「なあに、心配は要らんよ。鉄砲屋もマーシャル沖海戦で何が有ったのかは十分に理解している。それと、飛行機で洋上行動中の戦艦を沈めることは不可能だと鉄砲屋は言っていたが、しかしそれはマレー沖海戦によって覆された。そして今回の一件だ。いくら頭の固い鉄砲屋といえども、戦艦が飛行機に抗することが出来ないという事実は認めざるを得ないはずだ。それに言い方は悪いが、あの四隻の戦艦は帝国海軍にとってはお荷物以外の何者でもなかった。しかし、空母に改造すれば本当の意味での戦力化と同時に厄介払いもかなう。これこそまさに一石二鳥というものだ」
永野総長のあけすけな言葉に、山本長官も苦笑を隠せない。
確かに「伊勢」と「日向」それに「山城」と「扶桑」の四隻の戦艦は山本長官の目から見ても、ただただ予算や人材、それに油をがぶ飲みする邪魔者でしかなかった。
だから、これら四隻がいなくなるだけでも正直言って大助かりだった。
それに加え、さらにこれら四隻が空母戦力の一助になるという。
山本長官にとってはこの上ない朗報だった。
その山本長官が喜んでいることを敏感に感じ取ったのだろう、永野総長がご機嫌顔で話を続ける。
「『金剛』の空母への改造工事が間もなく終わる。さらに『比叡』もまた工事を加速させたことであと二カ月乃至三カ月ほどでそれが完了する見込みだ。さらに来春には二隻の大型貨客船改造空母が竣工する見通しとなっている」
「金剛」は第一号艦、つまりは「大和」が進水すると同時に空母への改造工事が開始された。
一方、「比叡」のほうは第二号艦、いわゆる「武蔵」が進水すると同時に改造工事に着手されている。
このうち、「金剛」のほうは年明けにも慣熟訓練が開始できる見込みだった。
「問題は艦上機隊の搭乗員です。マーシャル沖海戦では実に一五〇人余りの搭乗員を失ってしまった。そのいずれもが一騎当千の熟練ばかりでした。この穴を埋めるのは、決して容易なことではありません」
笑みを消した山本長官が、今度はその表情に懸念の色を浮かべてマーシャル沖海戦で表出した最大の問題点を指摘する。
連合艦隊は太平洋艦隊を一方的に叩きのめしたのではなく、相応のダメージもまた被っていたのだ。
「どうするつもりだ」
第一航空戦隊司令官やあるいは航空本部長を務めた山本長官だからこそ、自分よりも対処法を知悉しているはず。
そう考えた永野総長は、装飾を省いて端的に尋ねる。
「『赤城』と『加賀』それに『蒼龍』や『飛龍』といった飛行甲板の大きな中大型空母はもっぱら練習空母として『鳳翔』とともに瀬戸内海で搭乗員の養成にあたらせます。南方作戦の支援については、こちらは小型空母に任せるつもりです」
山本長官の説明に永野総長は違和感を覚える。
帝国海軍の最有力空母を練習艦にするということは、逆に言えば米軍に立ち直る時間を与えるということでもある。
山本長官は米国との戦争にあたっては短期決戦早期和平こそをその旨としていたはずだ。
だからそのことを永野総長は問いただす。
「決して短期決戦早期和平をあきらめたわけではありません。しかし、それも十分な数の空母とそれに艦上機があってこそ叶うものです。しかし、現状では空母はともかく艦上機とそれを操る搭乗員のほうは明らかに不足している。だからこそ、まずはこれらを充実させる必要が有ります」
山本長官が言っているのは、戦力不足だから攻め込むことが出来ないということだ。
そして、永野総長はその判断を支持する。
現在の帝国海軍は、南方作戦を遂行するのに手一杯だったからだ。
日本の津々浦々で提灯行列が行われ、人々は戦捷の喜びに浸っていた。
同海戦における戦果は戦艦が四隻に空母が二隻、それに駆逐艦が九隻だった。
捕虜の証言から、戦艦は「ウエストバージニア」と「メリーランド」それに「テネシー」ならびに「カリフォルニア」だということが分かっている。
米国でビッグファイブと呼ばれる五隻の最強戦艦のうちの、実に四隻までを一度の戦いで仕留めたのだ。
日本国民が熱狂するのも宜なるかなといったところであった。
一方、撃沈した空母のほうだが、こちらは「レキシントン」それに「ヨークタウン」だということが判明している。
この二隻は、最終的には米軍が撃沈処分したのだが、しかし帝国海軍報道部のほうはこれを日本側が沈めたことにして大々的に喧伝していた。
このような中、連合艦隊司令長官の山本大将が戦果報告を兼ねて、今後の方針のすり合わせのために軍令部を訪れていた。
「『榛名』と『霧島』に続き、『伊勢』と『日向』それに『山城』と『扶桑』の改造が決まったよ」
総長室に入ってきたばかりの山本長官に対し、挨拶もそこそこに永野軍令部総長が本題を切り出す。
本来、「榛名」は第一一〇号艦、「霧島」は第一一一号艦が進水してから空母への改造工事に着手されるはずだった。
しかし、マーシャル沖海戦によって状況が変わった。
戦艦は飛行機に抗し得ないことが再確認されたからだ。
そのことで、南方作戦が終了していないのにもかかわらず、「榛名」と「霧島」は本土に呼び戻され、さっそくとばかりに改造工事が開始された。
「榛名」と「霧島」が抜けた穴は、「長門」と「陸奥」が代わりにこれを務めることとなった。
この措置に対し、南方戦域を担当する第二艦隊司令部からは特に文句が出るようなことは無かった。
そして、永野総長はさらに四隻の戦艦を空母へと改造する決断をしてくれた。
永野総長の説明に、山本長官は相好を崩しつつ感謝の言葉を述べる。
しかし、「伊勢」と「日向」それに「山城」と「扶桑」を空母へと改造するにあたっては、鉄砲屋から相当な抵抗があったはずだ。
だが、眼前の永野総長はそれを抑え込んでくれたのだ。
飛行機屋の首魁を自認する山本長官としては感謝感激といったところだったが、しかしこのことで永野総長は帝国海軍の主流派である鉄砲屋を敵に回すことになる。
「なあに、心配は要らんよ。鉄砲屋もマーシャル沖海戦で何が有ったのかは十分に理解している。それと、飛行機で洋上行動中の戦艦を沈めることは不可能だと鉄砲屋は言っていたが、しかしそれはマレー沖海戦によって覆された。そして今回の一件だ。いくら頭の固い鉄砲屋といえども、戦艦が飛行機に抗することが出来ないという事実は認めざるを得ないはずだ。それに言い方は悪いが、あの四隻の戦艦は帝国海軍にとってはお荷物以外の何者でもなかった。しかし、空母に改造すれば本当の意味での戦力化と同時に厄介払いもかなう。これこそまさに一石二鳥というものだ」
永野総長のあけすけな言葉に、山本長官も苦笑を隠せない。
確かに「伊勢」と「日向」それに「山城」と「扶桑」の四隻の戦艦は山本長官の目から見ても、ただただ予算や人材、それに油をがぶ飲みする邪魔者でしかなかった。
だから、これら四隻がいなくなるだけでも正直言って大助かりだった。
それに加え、さらにこれら四隻が空母戦力の一助になるという。
山本長官にとってはこの上ない朗報だった。
その山本長官が喜んでいることを敏感に感じ取ったのだろう、永野総長がご機嫌顔で話を続ける。
「『金剛』の空母への改造工事が間もなく終わる。さらに『比叡』もまた工事を加速させたことであと二カ月乃至三カ月ほどでそれが完了する見込みだ。さらに来春には二隻の大型貨客船改造空母が竣工する見通しとなっている」
「金剛」は第一号艦、つまりは「大和」が進水すると同時に空母への改造工事が開始された。
一方、「比叡」のほうは第二号艦、いわゆる「武蔵」が進水すると同時に改造工事に着手されている。
このうち、「金剛」のほうは年明けにも慣熟訓練が開始できる見込みだった。
「問題は艦上機隊の搭乗員です。マーシャル沖海戦では実に一五〇人余りの搭乗員を失ってしまった。そのいずれもが一騎当千の熟練ばかりでした。この穴を埋めるのは、決して容易なことではありません」
笑みを消した山本長官が、今度はその表情に懸念の色を浮かべてマーシャル沖海戦で表出した最大の問題点を指摘する。
連合艦隊は太平洋艦隊を一方的に叩きのめしたのではなく、相応のダメージもまた被っていたのだ。
「どうするつもりだ」
第一航空戦隊司令官やあるいは航空本部長を務めた山本長官だからこそ、自分よりも対処法を知悉しているはず。
そう考えた永野総長は、装飾を省いて端的に尋ねる。
「『赤城』と『加賀』それに『蒼龍』や『飛龍』といった飛行甲板の大きな中大型空母はもっぱら練習空母として『鳳翔』とともに瀬戸内海で搭乗員の養成にあたらせます。南方作戦の支援については、こちらは小型空母に任せるつもりです」
山本長官の説明に永野総長は違和感を覚える。
帝国海軍の最有力空母を練習艦にするということは、逆に言えば米軍に立ち直る時間を与えるということでもある。
山本長官は米国との戦争にあたっては短期決戦早期和平こそをその旨としていたはずだ。
だからそのことを永野総長は問いただす。
「決して短期決戦早期和平をあきらめたわけではありません。しかし、それも十分な数の空母とそれに艦上機があってこそ叶うものです。しかし、現状では空母はともかく艦上機とそれを操る搭乗員のほうは明らかに不足している。だからこそ、まずはこれらを充実させる必要が有ります」
山本長官が言っているのは、戦力不足だから攻め込むことが出来ないということだ。
そして、永野総長はその判断を支持する。
現在の帝国海軍は、南方作戦を遂行するのに手一杯だったからだ。
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