10 / 67
マーシャル沖海戦
第10話 九九艦爆隊急襲
しおりを挟む
甲二への攻撃は「蒼龍」艦爆隊長の江草少佐に丸投げし、第一次攻撃隊指揮官兼「加賀」艦爆隊長の高橋少佐は直率する部下たちを甲一と呼称される米機動部隊へと誘う。
第一次攻撃隊は途中、五〇機近いF4Fの迎撃を受けた。
しかし、零戦隊の奮闘もあって、撃墜された九九艦爆は一機も無かった。
F4Fの阻止線を突破してからしばし、高橋少佐の目に太平洋艦隊の姿が映り込んでくる。
三つの単縦陣を敷く水上打撃部隊の後方に、二つの輪形陣があった。
その中央には空母の姿が見える。
まごうことなき米機動部隊だ。
第一航空戦隊が狙うのは北に位置するそれだ。
「目標を指示する。『赤城』隊は前方の空母、『加賀』第一中隊ならびに第二中隊は後方の空母を叩く。『加賀』第三中隊は小隊ごとに輪形陣の前方に位置する駆逐艦を攻撃せよ」
高橋少佐の命令一下、四五機の九九艦爆がそれぞれの目標に向けて散開する。
真っ先に突撃を開始したのは「加賀」第三中隊だった。
小隊ごとに分かれたそれらは、輪形陣の前方を固める三隻の駆逐艦に狙いを定める。
意外だったのは、米駆逐艦の対空能力の高さだった。
駆逐艦はその排水量の限界から、戦艦や巡洋艦に比べて高角砲や機銃の装備数がどうしても見劣りする。
しかし、眼下の駆逐艦から繰り出される火弾や火箭の量は、日本側の予想の遥か上をいっていた。
あるいは、米駆逐艦は主砲に高角砲かあるいは両用砲を採用しているのかもしれない。
米駆逐艦の上空に遷移するまでに撃ち墜とされた機体は無かった。
しかし、急降下の途中で一機が機関砲弾の直撃を食らって爆砕され、さらに投弾後の離脱途中にさらに一機が機銃弾に絡め取られて撃墜された。
八発投下された二五番のうちで命中したのは三発だった。
その命中率は四割に満たない。
帝国海軍屈指の技量を誇る「加賀」艦爆隊にしては、いささかばかり不満が残る成績だ。
しかし、相手が的の小さい駆逐艦であることを考慮すれば、あるいはよくやったと言えるのかもしれない。
一方、被弾した米駆逐艦はそのすべてが行き脚を奪われていた。
戦艦に対しては威力不足が指摘される二五番だが、しかし装甲が皆無の駆逐艦がこれを食らえばただでは済まない。
洋上を這うように進むだけとなった三隻の駆逐艦。
後続の艦艇は衝突を回避するために舵を切らざるを得ない。
敵の隊列の乱れに付け込むかのように、「赤城」艦爆隊と「加賀」第一中隊それに第二中隊は目標とした空母の上空へと遷移する。
いかに大量の対空火器を搭載していようとも、回避運動の最中にあっては、高い命中率は望めない。
高橋少佐は崩壊しつつある輪形陣の後方から接敵、急降下に移行した。
眼下の空母から大量の火弾や火箭が撃ち上げられてくるが、高橋少佐は意に介さない。
照準環の中にある空母の姿が大きくなるにつれて、その正体がはっきりしてくる。
前方に小さな艦橋、その後方に巨大な煙突が有った。
「赤城」それに「加賀」と並んで世界のビッグフォーと呼ばれる「レキシントン」級で間違いない。
高橋少佐は高度四〇〇メートルで投弾、そのまま超低空飛行で離脱を図る。
あとに続く部下たちも次々に二五番を叩き込んでいく。
必死の回頭で難を逃れようとする「レキシントン」級空母の左舷や右舷の海面に巨大な水柱が立ち上る。
同時に、その飛行甲板にも相次いで爆煙がわき立つ。
敵の対空砲火の有効射程圏から逃れた高橋少佐は目標とした「レキシントン」級空母と、それに「赤城」隊が攻撃した空母を見やる。
両艦ともに多数の二五番を食らったのだろう。
飛行甲板のあちらこちらから煙を噴き上げている。
高橋少佐は後席の小泉中尉に戦果を打電するよう命じるとともに、周囲に集まってきた第一中隊それに第二中隊の機体を数える。
一七機あったはずの部下の機体は、しかし一三機にまでその数を減じていた。
敵の空母もまた、ただではやられなかったのだ。
「加賀」艦爆隊は第三中隊のそれを含めて六機を失った。
その喪失率は実に二割を超える。
(あまりにも犠牲が大きすぎる。このようなことを繰り返しては、帝国海軍の艦爆隊はあっという間にすり潰されてしまう)
初陣で敵空母を撃破するという大戦果を挙げた高揚感はすでにどこかに吹き飛んでいた。
高橋少佐は帰投を命じつつ、どうすれば味方の損害を減らすことが出来るのかということにその思考リソースを振り向けた。
第一次攻撃隊は途中、五〇機近いF4Fの迎撃を受けた。
しかし、零戦隊の奮闘もあって、撃墜された九九艦爆は一機も無かった。
F4Fの阻止線を突破してからしばし、高橋少佐の目に太平洋艦隊の姿が映り込んでくる。
三つの単縦陣を敷く水上打撃部隊の後方に、二つの輪形陣があった。
その中央には空母の姿が見える。
まごうことなき米機動部隊だ。
第一航空戦隊が狙うのは北に位置するそれだ。
「目標を指示する。『赤城』隊は前方の空母、『加賀』第一中隊ならびに第二中隊は後方の空母を叩く。『加賀』第三中隊は小隊ごとに輪形陣の前方に位置する駆逐艦を攻撃せよ」
高橋少佐の命令一下、四五機の九九艦爆がそれぞれの目標に向けて散開する。
真っ先に突撃を開始したのは「加賀」第三中隊だった。
小隊ごとに分かれたそれらは、輪形陣の前方を固める三隻の駆逐艦に狙いを定める。
意外だったのは、米駆逐艦の対空能力の高さだった。
駆逐艦はその排水量の限界から、戦艦や巡洋艦に比べて高角砲や機銃の装備数がどうしても見劣りする。
しかし、眼下の駆逐艦から繰り出される火弾や火箭の量は、日本側の予想の遥か上をいっていた。
あるいは、米駆逐艦は主砲に高角砲かあるいは両用砲を採用しているのかもしれない。
米駆逐艦の上空に遷移するまでに撃ち墜とされた機体は無かった。
しかし、急降下の途中で一機が機関砲弾の直撃を食らって爆砕され、さらに投弾後の離脱途中にさらに一機が機銃弾に絡め取られて撃墜された。
八発投下された二五番のうちで命中したのは三発だった。
その命中率は四割に満たない。
帝国海軍屈指の技量を誇る「加賀」艦爆隊にしては、いささかばかり不満が残る成績だ。
しかし、相手が的の小さい駆逐艦であることを考慮すれば、あるいはよくやったと言えるのかもしれない。
一方、被弾した米駆逐艦はそのすべてが行き脚を奪われていた。
戦艦に対しては威力不足が指摘される二五番だが、しかし装甲が皆無の駆逐艦がこれを食らえばただでは済まない。
洋上を這うように進むだけとなった三隻の駆逐艦。
後続の艦艇は衝突を回避するために舵を切らざるを得ない。
敵の隊列の乱れに付け込むかのように、「赤城」艦爆隊と「加賀」第一中隊それに第二中隊は目標とした空母の上空へと遷移する。
いかに大量の対空火器を搭載していようとも、回避運動の最中にあっては、高い命中率は望めない。
高橋少佐は崩壊しつつある輪形陣の後方から接敵、急降下に移行した。
眼下の空母から大量の火弾や火箭が撃ち上げられてくるが、高橋少佐は意に介さない。
照準環の中にある空母の姿が大きくなるにつれて、その正体がはっきりしてくる。
前方に小さな艦橋、その後方に巨大な煙突が有った。
「赤城」それに「加賀」と並んで世界のビッグフォーと呼ばれる「レキシントン」級で間違いない。
高橋少佐は高度四〇〇メートルで投弾、そのまま超低空飛行で離脱を図る。
あとに続く部下たちも次々に二五番を叩き込んでいく。
必死の回頭で難を逃れようとする「レキシントン」級空母の左舷や右舷の海面に巨大な水柱が立ち上る。
同時に、その飛行甲板にも相次いで爆煙がわき立つ。
敵の対空砲火の有効射程圏から逃れた高橋少佐は目標とした「レキシントン」級空母と、それに「赤城」隊が攻撃した空母を見やる。
両艦ともに多数の二五番を食らったのだろう。
飛行甲板のあちらこちらから煙を噴き上げている。
高橋少佐は後席の小泉中尉に戦果を打電するよう命じるとともに、周囲に集まってきた第一中隊それに第二中隊の機体を数える。
一七機あったはずの部下の機体は、しかし一三機にまでその数を減じていた。
敵の空母もまた、ただではやられなかったのだ。
「加賀」艦爆隊は第三中隊のそれを含めて六機を失った。
その喪失率は実に二割を超える。
(あまりにも犠牲が大きすぎる。このようなことを繰り返しては、帝国海軍の艦爆隊はあっという間にすり潰されてしまう)
初陣で敵空母を撃破するという大戦果を挙げた高揚感はすでにどこかに吹き飛んでいた。
高橋少佐は帰投を命じつつ、どうすれば味方の損害を減らすことが出来るのかということにその思考リソースを振り向けた。
142
お気に入りに追加
217
あなたにおすすめの小説
江戸時代改装計画
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。
「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」
頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。
ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。
(何故だ、どうしてこうなった……!!)
自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。
トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。
・アメリカ合衆国は満州国を承認
・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲
・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認
・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い
・アメリカ合衆国の軍備縮小
・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃
・アメリカ合衆国の移民法の撤廃
・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと
確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。
戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら
もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。
『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』
よろしい。ならば作りましょう!
史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。
そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。
しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。
え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw
お楽しみください。
架空戦記 旭日旗の元に
葉山宗次郎
歴史・時代
国力で遙かに勝るアメリカを相手にするべく日本は様々な手を打ってきた。各地で善戦してきたが、国力の差の前には敗退を重ねる。
そして決戦と挑んだマリアナ沖海戦に敗北。日本は終わりかと思われた。
だが、それでも起死回生のチャンスを、日本を存続させるために男達は奮闘する。
カクヨムでも投稿しています
第一機動部隊
桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。
祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
皇国の栄光
ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。
日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。
激動の昭和時代。
皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか?
それとも47の星が照らす夜だろうか?
趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。
こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです
蒼雷の艦隊
和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。
よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。
一九四二年、三月二日。
スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。
雷艦長、その名は「工藤俊作」。
身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。
これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。
これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。
暁のミッドウェー
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。
真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。
一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。
そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。
ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。
日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。
その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。
(※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる