極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん

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勇気と優しさと甘い恋

甘すぎる告白

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 秦斗君と二人で、およそ二日ぶりに帰路につく。

 久しぶりに秦斗君と帰ることも相まってからなのか、脈拍がすごく速い。

 秦斗君に聞こえてしまいそうなくらい、ドキドキとうるさい。

 いつ、言い出せば……。

 道路の白線に視線を落としながら、ぼんやりそんな事を考える。

 だって、告白ってムードが大切だってどこかで見た。

 だけど今は、普通の日常の中。特別なことが起きているわけでもないし、雰囲気があるわけでもない。

 ……それに、やっぱり不安が拭えない。

 もし、断られてしまったら? この関係が崩れてしまったら?

 考えても仕方がないことなのに、そればかりが頭の中に残る。

 私に告白なんて……。

 そう、考え込んでしまいかけた時だった。

「結衣さん……っ!」

「え……、――っ!?」

 目の前にいきなり、大きな音を立てながら猛スピードで横断した車が通りすぎる。

 横断歩道の信号は……青。つまりあの車は、信号無視をしたことになる。

 ……でも私は、言葉が出てこなかった。

 車に驚いたって事もある。もちろんそのことについてはびっくりしたし、息ができなかった。
 
 けど、それ以上に……っ。

「……結衣さん、怪我はない?」

「あっ、う、うん……な、ない、よっ……。」

 ――この状況に、胸の高鳴りが抑えられない。

 秦斗君は咄嗟に私を引き寄せてくれたみたいで、簡単に言えばバックハグ状態。

 その場に立ちすくんだまま、秦斗君は私の腕を掴んでいる。

 でも次の瞬間、秦斗君はバックハグ状態をやめて。

「この辺りは危ないから、手繋いでいよう。」

「……う、うん。」

 私の右手に指を絡めて、まだ青のままの横断歩道を渡る。

 ……かっこいいよ、秦斗君。

 やっぱりだ。秦斗君はかっこよすぎる。

 どうしてこうも、スマートに私を助けてくれるんだろう。

 私は心の中にずっと支配している気持ちを表に出してしまわないように、唇をきゅっと結んだ。

 ……また、秦斗君のこと好きになっちゃったよ。



 結局何も言い出せないまま、私の家の前に着いてしまった。

「それじゃあ結衣さん、また明日。」

 秦斗君はいつものように、ささやかな笑みを浮かべて踵を返す。

 ど、どうしよう……秦斗君が帰っちゃう……。まだ何も言えてないのにっ……。

 紗代ちゃんたちから応援してもらったのに、背中押してもらったのに……っ!

 そんな焦りが襲ってきて、私はほとんど衝動的に名前を呼んでいた。

「秦斗君……!」

「ん? どうしたの……って、っ……。」

 衝動的に、秦斗君の制服の袖を掴む。

 引き止め、ちゃった……。

 もしかしたら秦斗君からしたら、迷惑になるかもしれない。嫌だって、思われるかもしれない。

 何か言わなきゃいけないのは、頭では理解しているのに。

「っ、う、うぅ……か、なとく……っ……」

 言葉よりも先に、涙が出てきてしまった。

 怖い。告白するなんて、私にはハードルが高すぎたんだ。

 泣いちゃダメって思えば思うほど、涙はかさを増してとめどなく溢れてくる。

「……結衣さん、泣かないで。」

 そんな困った状態の私を、秦斗君は優しく引き寄せて包み込んだ。

 秦斗君の腕の中に、何も言えないまま閉じ込められる。

 そのまま秦斗君は、長い指で私の頬に落ちた涙を拭った。

「どうしたの、結衣さん。何か不安なことでも、あった?」

「……っ、うん……あ、る。」

 あぁ、きっと彼にはかないっこない。

 私は隠すのをやめて、ぽつりと一つずつ話し始めた。

 返答を聞いた秦斗君は、優しく頭を撫でてくれる。

「それは、俺が解決できること? そうだったら教えてほしい。結衣さんの力になりたいから。」

 なだめるような声色に、涙腺が緩みそうになる。

 だけどぐっと我慢して、少し震えている唇を開けた。

 ……――秦斗君じゃないと、解決できないから。

「私、秦斗君のこと好きなのっ……。」

「……、好きって、どういう意味で?」

「こ、これからも秦斗君と、ずっと一緒にいたいって思うほうの、好き……っ。」

 私の言葉を怪しんでいた秦斗君。

 でもすぐ、私を痛いくらいに抱きしめた。

「それは……自惚れてもいいの?」

「えっ……? うぬぼれる?」

「うん。……結衣さんは俺のことが好きだって思っても、いいの?」

 耳元で小さく、心配そうに零された言葉。

 その中にいつになく“甘さ”が加わっていてドキッとしてしまう。

 背中に回された手は、離さないと言わんばかりに力がこもっていて。

 充分に身動きが取れないまま、ドキドキに耐えながら返事をした。

「……思って、いいよ。秦斗君のこと、大好きだからっ……。」

 かっこよくていつも助けてくれて、誰よりも輝いている秦斗君だから。

 だから、好きになったんだ。

「そっか……ふふ、すっごく嬉しい。結衣さんが俺を好きでいてくれるとか夢みたい。」

「ゆ、夢じゃないよっ……!」

「そうだね。こんなに可愛い彼女が、俺の腕の中にいてくれるんだもんね。」

「っ……。」

 さらっと言われた“彼女”という単語に、かぁぁっと顔に熱が集まる。

 う……そ、そういうのは心臓に悪いっ……。

 意地悪そうな表情を浮かべている秦斗君は、きっとそこまで思ってはいないんだろうけど。

「結衣さん。」

「は、はいっ……!」

「今から、俺の家行かない?」

「…………へっ!?」

 か、秦斗君のお家っ……!?

 急にそんなとんでもないことを言われて、一人あたふたと慌てる。

 けど秦斗君は、そんな私にくすっといじわるく微笑んだ。

「さすがに冗談だよ。もう暗くなるし、今日はお家でゆっくり休んで。」

 そう言いながら、私を解放してくれる。

 その事に安堵の息を吐き、呼吸を整えた。

 秦斗君もいじわる言うんだなぁ……。

 なんて感想を抱きながら、私は笑顔を浮かべて秦斗君にバイバイと伝えようとする。

 ……でも、口を開こうとした時。

「俺の家には、また今度呼ぶからね。」

 そう言ってから、頬に小さなリップ音が響いた。

 ……!?

 触れるキスをされ、すぐに離れた唇。

 途端、私は頬に両手を当てた。

「い、今何を……っ、かなと、くんっ……!」

「……これくらいは、ね。今はこれだけだから。」

 ふふっ、と妖艶に微笑んだ秦斗君。

 そんな彼でも、やっぱりかっこよくて。

「それじゃあまた明日ね、結衣さん。」

「うんっ……また、明日……っ。」

「……結衣さんは本当に可愛い。可愛くて困るんだけどなぁ。」

「か……可愛くなんて、ないよ……っ。」

「それ本気で言ってる? 結衣さんは誰よりも何よりも可愛いのに。」

 うぅっ、秦斗君が甘すぎる……っ。

 秦斗君ってこんな性格だっけ……?と思ってしまうほど、今の秦斗君は甘い。

 可愛いという単語を何度も言われ、もうバタンキュー状態。

 だから私も、少しの反抗心を込めて。

「……秦斗君だって、かっこいいよっ。かっこよすぎるから、告白するのも怖かったの……。」

 不安でいっぱいだったの、秦斗君がどこまでも優しくてかっこいいから。

「嫌われちゃったらって思うと、告白するの怖かった……っ。秦斗君との関係が壊れちゃうって、思っちゃってたからっ……!」

 なんとか、そんな自分の思いを伝える。

 それがまさかの、秦斗君の何かのスイッチを入れてしまったみたいで。

「……それが可愛いんだけど。ごめんね結衣さん、歯止め利かないみたい。」

「ふぇっ? 秦斗君……っ、待ってほしいですっ……!」

「待てないよ。こんなに可愛い彼女を目の前にして、逆にどうやったら我慢なんてできるの?」

「そ、それは分かんないけどっ……あの、えっと……」

 私が口ごもっている間に、またもや引き寄せられてしまい。

 顎をくいっと傾けられ、ちゅっ……といった音が響く。

「顔真っ赤だね、結衣さん。」

「……秦斗君のせい、だよ。」

「それもそっか。ふふっ、本当に可愛すぎてどうにかなりそう。」

 こっちだって、秦斗君がかっこよくてどうにかなっちゃいそうだよ……!

 という言葉をすんでのところで呑みこむ。だって、言ってしまったらまた……キスをされてしまうかと思うから。

 嫌じゃないけど、こう何度もされると恥ずかしいし……。

 そう思っている私に、秦斗君は優しい手つきで私の頬を撫でてから。

「誰よりも愛してる。これからもずっと守るから、俺の隣にいてほしい。」

「それは……私のほうこそ、です。」

「結衣さんらしい回答。そんなところも可愛いね。」

「……甘いよ、秦斗君……。」

「結衣さん限定でね。」

 王子様な彼は、もしかしたら隠れた独占欲を持っているのかもしれない。

 私でも分かってしまうんだから、きっと相当。

 これから私、どうなってしまうんだろう……。

 そう言った不安は、ないわけではないけど。

 ――誰よりも大好きな秦斗君となら、大丈夫だと確信している。

【FIN】
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