極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん

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勇気と優しさと甘い恋

変わりたいから

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「どうして阿辺と一緒にいたの? あいつ、結衣を貶めた最低男じゃん。」

「……えっと、たまたまかな~。」

「ふーん……ほんとに?」

「ほ、ほんとだよ!」

 自分たちの教室に帰ってきてから、紗代ちゃんに何度もそう聞かれる。

 紗代ちゃんがこうやって心配してくれるのはとっても嬉しい。阿辺君とのことも言ってるから、きっとたくさん心配してくれてるんだと思う。

 だから大丈夫だって伝えられるように、めいっぱいの笑顔を浮かべた。

「うんっ! 実はね、阿辺君謝ってくれたんだ。私にウソコクしたこと。」

「そうなの?」

「そうっ……! だから何かされたわけじゃないから大丈夫だよ!」

 でも、告白されたことは黙っておこう。

 直感的に言わないほうがいいと思ったし、わざわざ言うべきことでもない。

 それに告白はやっぱりデリケートな話だから、自分から話すのはきっとよくない。

 そして私の言葉を聞いた紗代ちゃんは、どこか遠い目をしながらぽつりと呟いた。

「……もし違ってたら悪いんだけどさー、阿辺にマジ告白された?」

「なっ……何で分かって……っ!」

 私何も言ってないよね……!?

 何の前振りもなく言われた図星に、さすがに慌てふためいてしまう。

 だってただ自分の無事を証明しただけで、阿辺君のことは何一つ言っていない。

 そこから告白までどう推理したのかは分からないけど、私は開いた口がしばらく塞がらなかった。

 けども紗代ちゃんは私を気にすることなく、やれやれといった様子で悪態を吐くように言った。

「阿辺の顔で分かったの。あいつ、結衣を見る目が変わりすぎてまさか……って思ってたんだ。だけど本当だったとはね、信じらんないわ。一体どんな神経して結衣に告ったんだか。」

「あはは……それは私にも分かんないかな……。」

 あの阿辺君が私に告白なんて、一時の気の迷いだろう。どうして気を迷ったのかは見当もつかない。

 でもはっきりと断ってきたから、後ろめたさはない。

 まぁ少なからず申し訳なさはあるけど……それでもあれが私の気持ちだから、引きずりたくない。

 自分の気持ちに嘘を吐きたくない。そもそも嘘を吐くのが苦手だから、無理な話ではあるんだけど。

 私は、未だに納得していないように「むむむ……」と唸っている紗代ちゃんに声をかけた。

「ね、紗代ちゃん。」

「ん? どしたの結衣、そんな改まっちゃって。」

 頭にはてなを浮かべているであろう紗代ちゃん。

 だからちょっとだけ言うのを迷ったけど、意を決して口を開いた。

「……わ、私を秦斗君と釣り合うようにプロデュースしてください!」



 ……その放課後、私は紗代ちゃんに連れられ学校近くのカフェにいた。

 ショッピングモールが至近距離にあるカフェで、紗代ちゃんは「はぁ……」とため息を吐きだす。

 紗代ちゃんが頼んだのはブラックコーヒーで、平気な顔で一口飲んでからゆっくりと言い始めた。

「急にプロデュースしてって言ってきた時は何事かと思ったけど……ほんとに何があったの? 結衣からそう言ってくるなんて珍しいじゃん。」

 気だるげに頬杖をついて、不思議そうな表情を浮かべながら話を切り出してきた紗代ちゃん。

 実は、プロデュースして!とお願いしたはいいものの何も説明ができていない。

 すぐにチャイムが鳴ってしまって話せなかったってのもあるんだけど、単に私がどう話せばいいのか分からなかっただけ。

 それで紗代ちゃんが、どうせならカフェに行こうって誘ってくれて……今に至る。

 秦斗君は今日は用事があるらしく、事前に帰れないってことは言われていた。

 だけど、私にとってはそっちのほうが都合がいい。

 恋をしていると自覚してしまったし、紗代ちゃんとゆっくり話もしたかった。

 だから今の時間を利用させてもらって、紗代ちゃんに全容を話す。

 相手が友達でいえどこんなカミングアウトは今までしたことがないから、変に緊張してしまう。

 こんな調子じゃ告白なんてできないよね……そう痛く感じながらも、覚悟を決めて固く閉ざしていた口を動かした。

「……私、ね……秦斗君のこと、好きなのっ……。」

「へぇ、やっとか。」

「……へ? や、やっと?」

「ありゃ、気付いてなかったパターン?」

 思っていた反応と違うものが返ってきて、言葉が途切れてしまう。

 私でも全然気付かなかったのに、もしかして紗代ちゃんは……。

「結衣が氷堂のこと好きなの、バレバレだったよ~? というかあたしでも分かるくらいなのに、結衣が気付いてなかっただなんて……鈍感だねー。」

「うっ……た、確かにそうかも……。」

 なんとなく気付いていた、だなんて今更言えない。紗代ちゃんが言ってることは筋が通りすぎてるから。

 薄々分かってたとはいえ認めなかった自分に非があるわけで、鈍感と言われても反論できない。

 でもここでへこたれるわけにはいかなくて、再度お願いした。

「私、秦斗君が好き。だから告白……したいんだけど、その前に秦斗君と釣り合うような人になりたいの。けど私一人じゃなんにもできないから、だからお願いします……!」

「なるほどね~。うん、理解した!」

 紗代ちゃんはうんうんと何度も頷いて、直後にふっと微笑む。

 だけど全然、穏やかな笑みじゃない。何か楽しんでるような、何かを企んでいるような……そんな笑み。

 い、一体何を考えてるんだろうっ……。

 何かを言える雰囲気じゃないと思って、ただ疑問に感じるしかできない。

 強いて言うなら、今の紗代ちゃんにはどこかブラックが混じっている。聞こうにも簡単には聞けない。

 そんな時、紗代ちゃんが大きな声で宣言するようにプランを決め始めた。

「そうと決まればやっぱ早いほうがいいよね~。結衣、いつ告るとか決めてる?」

「う、ううん……まだ、そこまでは……」

「そっかぁ、なら尚更早いほうがいいよねっ。明日とかどう?」

「明日っ……!?」

「うんっ。告白っていうもんはね、言っちゃえば早い者勝ちなの。氷堂はモテるし、例え結衣の仮彼氏ってことでも告る女子はごまんといるはず。だから、さっさと告ってさっさと付き合っちゃえばいいの!」

 そ、そうなんだ……そういうもの、なんだ……。

 紗代ちゃんが言うから間違ってはないんだろうけど、あまりの熱気に押されてしまう。

 でも、私もきっと分かってる。恋愛のごたごたは面倒で、白黒はっきりつけなきゃダメだって。

 ちゃんと、言わなきゃダメだって。

「……わ、かった。明日、告白する!」

「よーっし! だったら明日の予定立てちゃうぞーっ!」

「お願いします……!」

「ふふっ、お願いされたっ!」

 自信たっぷりなドヤ顔を見せた紗代ちゃんは、爆速で私の代わりに予定を決めてくれた。

 これで、秦斗君に見合うような可愛い女の子になれたらいいなっ……。
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