極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん

文字の大きさ
上 下
11 / 22
王子様との関係

周りの反応

しおりを挟む
「ねぇっ、昨日聞いたんだけど氷堂と湖宮さん、付き合いだしたんだって……っ!!」

「嘘っ……あたしたちの氷堂君なのに~~っっ!!」

「ミスマッチだよね、やっぱり。」

 ……うん、思ってた通りだ。

 私は今、とても肩身の狭い思いをしている。

 分かってはいたけど、まさかここまで注目されちゃうなんて……っ。

 見られてはヒソヒソ言われているこの状況に、うっと息が詰まりそうになる。

 氷堂君の言ってたことは間違ってなかった……ううん、それ以上に影響がありすぎる。

 ここから弁解したとしても、逆に誰も信じてくれないよね……。

「結衣さん、また放課後にね。迎えに行くから教室で待ってて。」

「う、うん……送ってくれてありがとうっ。」

 ビクビク怯えている私とは裏腹に、秦斗君はいつもと同じで落ち着いている。

 いつも騒がれてたりするから、耐性がついてるのかな……なんて。

 ぼーっとそう思っていたら、今度は浴びるようなマシンガントークが降ってきた。

「ちょっと結衣! さっきの何!! 何で氷堂と登校しちゃってんの!? そもそも氷堂と付き合ってるって嘘だよね? 嘘って言ってくれ結衣ーっ!!」

「あっ、わっ……さ、紗代ちゃんちょっと待ってっ!」

「無理待てないー! はい結衣連行!」

「えぇっ……!?」

 ほとんど強引に、紗代ちゃんに引かれて教室を出る。

 その間も私は、妙に注目を集めてしまっていた。

 ……理由は分かりきっている。氷堂君とのことだろう。

 私だって不可抗力だった……なんて、ただの言い訳に過ぎないよね。だってこれは私が選んだ道でもあるのだから。

 そんな私に紗代ちゃんは気を遣ってくれたのか、人気のない教室近くで腕を離す。

 そしてすぐ振り返ったかと思うと、苦い笑みで詰め寄ってきた。

「結衣、何があったか教えてもらうよ? 氷堂と今まで接点がなかった結衣が、何であいつといるの? あたし何も聞いてないよ?」

「……えっと、それは……」

『……そういや、金森にはこのこと言うなよ。』

 阿辺君の言葉が、ふっと頭に浮かんでくる。

 それに秦斗君との発端を話してしまえば、阿辺君とのウソコクのことも話さなくちゃならなくなる。

 だから口ごもってしまうと、紗代ちゃんは見逃すまいと言うように鋭い眼差しで見つめてきた。

「……どうして教えてくれないの? あたし、そんな頼りない?」

「そ、そういうわけじゃっ……」

「でも結衣は、あたしが頼りないから言ってくれないんだよね……。うん、嫌なら無理に言わなくていいしさ……はは。」

 さっきまでの勢いがなくなり、急にしおらしく俯いてしまった紗代ちゃん。

 ……私ってば、ダメだ。親友にこんな顔させちゃうなんて、ダメすぎる。

「さ、紗代ちゃんっ!」

 まっすぐ紗代ちゃんを捉えて、はっきり名前を呼ぶ。

 紗代ちゃんは頼りなくなんかない。むしろ頼りがいがあるんだよ。

 その気持ちが伝わるように、私は紗代ちゃんの手を両手でとった。

「私は紗代ちゃんのこと誰よりも頼りにしてるし信じてる! でも、だからこそ言えないっていうか……」

「それは、あたしが聞いたらダメなこと……?」

「……分かん、ない。」

 そう聞かれれば、私にはそうやって言うことしかできない。

 私は阿辺君に騙されていた。嘘を吐かれていた。

 だからあの、紗代ちゃんに言わないって約束はもう無効なのかもしれない。

 ……気にしなくても、いいのかな。

「私……ちゃんと、言ったほうがいいよね?」

 恐る恐る、ほんの少し震える唇で呟く。

 紗代ちゃんはそんな言葉に、真剣な眼差しでぽつりと零した。

「うん。あたし的には言ってくれたほうが、結衣に何かあった時とかすぐ助けられるもん。」

「……分かった。紗代ちゃん、私言う、言うよ。」

「え、でも無理してない?」

「してないっ。紗代ちゃんだから言えるの、だから……聞いて、くれる?」

 人がいないせいか、いつもよりも声が反響しやすい。

 私の言葉が辺りに響き渡り、ゆっくり紗代ちゃんを見上げる。

 すると紗代ちゃんは、さっきまでの悲しそうな表情とは打って変わり、にこーっと嬉しそうに口角を上げていた。

「んふふ、もちろん当たり前! 結衣が話してくれる気になったんだもんっ、早く教えて!」

「……うん!」

 紗代ちゃんに隠しごとするなんて、私にはやっぱりできそうにない。紗代ちゃんにだから、嘘も吐ききれなかった。

 言うならきっと、今しかない。

 一つ、大きな深呼吸をする。

 そのあとすぐ、私は紗代ちゃんに全てを告白した。



「……――ってことが、あったんだよね。」

 全部、時間をかけて全部言い切った。

 阿辺君にウソコクされたこと、氷堂君がそんな私を助けてくれたこと、そして氷堂君と仮のお付き合いをしていること。

 それらを話し終えたと同時に紗代ちゃんは、ぐいっと制服を腕まくりして拳を作った。

「結衣、あたしちょっと阿辺ぶっ飛ばしてくるねっ!」

「えっ!? い、いいよそんなことっ……!」

「大丈夫、騒ぎにならないくらいにするからっ。」

「そういう問題じゃないよ!」

 紗代ちゃんは人一倍正義感が強い。その紗代ちゃんの気持ちは、すっごくありがたい。

 でも私のせいで、紗代ちゃんが傷つくのは見たくないっ……!

「私は大丈夫だからっ。紗代ちゃんの気持ちはもちろん嬉しいけどね、そこまでしなくても平気だからっ! ねっ?」

「……まぁ、氷堂がいるから大丈夫か。」

 とにかく紗代ちゃんを安心させたくて、笑顔を浮かべて念を押す。

 紗代ちゃんはそれに意味深な言葉を返すも、私も心の中で同意した。

 秦斗君のことはほんのちょっとしか分からない。全部知ってるわけじゃない。

 けど私は、秦斗君に絶大な信頼を寄せていた。

 それはきっと、彼の人間性。

 昨日から始まった歪で曖昧な関係だけど、秦斗君は信用しても大丈夫な人。

 元から分かっていたけど、ちゃんとこうして再確認できた。ここまできたら疑うほうが失礼だ。

「それにしてもあの氷堂がね……案外やるじゃん、あいつ。」

 うんうんと一人で頷いていたかたわら、紗代ちゃんがそうぽつりと呟く。

 ……でもいろんな不安から解放された私には、全然届いていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。 山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。 そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。 するとその人は優しい声で言いました。 「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」 その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。 (この作品はほぼ毎日更新です)

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~

狭山ひびき@バカふり200万部突破
児童書・童話
妖精女王の逆鱗に触れた人間が妖精を見ることができなくなって久しい。 そんな中、妖精が見える「妖精に愛されし」少女エマは、仲良しの妖精アーサーとポリーとともに友人を探す旅の途中、行き倒れの青年貴族ユーインを拾う。彼は病に倒れた友人を助けるために、万能薬(パナセア)を探して旅をしているらしい。「友人のために」というユーインのことが放っておけなくなったエマは、「おいエマ、やめとけって!」というアーサーの制止を振り切り、ユーインの薬探しを手伝うことにする。昔から妖精が見えることを人から気味悪がられるエマは、ユーインにはそのことを告げなかったが、伝説の万能薬に代わる特別な妖精の秘薬があるのだ。その薬なら、ユーインの友人の病気も治せるかもしれない。エマは薬の手掛かりを持っている妖精女王に会いに行くことに決める。穏やかで優しく、そしてちょっと抜けているユーインに、次第に心惹かれていくエマ。けれども、妖精女王に会いに行った山で、ついにユーインにエマの妖精が見える体質のことを知られてしまう。 「……わたしは、妖精が見えるの」 気味悪がられることを覚悟で告げたエマに、ユーインは―― 心に傷を抱える妖精が見える少女エマと、心優しくもちょっとした秘密を抱えた青年貴族ユーイン、それからにぎやかな妖精たちのラブコメディです。

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

桃の木と王子様

色部耀
児童書・童話
一口食べれば一日健康に生きられる桃。そんな桃の木に関する昔話

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

恋したら、料理男子にかこまれました

若奈ちさ
児童書・童話
きみたちじゃなくて、好きなあの人に食べほしいのに! 調理部を創設したいという男子にかこまれて、わたし、どうしたらいいの!? 第15回絵本・児童書大賞 奨励賞受賞。 大幅改稿のうえ書籍化されました。一部非公開となります。

処理中です...