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王子様との関係
変わる日常
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家に帰り、玄関を閉める。
瞬間、私はへなへなとその場にしゃがみこんでしまった。
だって……未だに信じられない。
『これから俺たちは、表向きは恋人ってことでいいかな?』
仮とはいえ、氷堂君の恋人なんて……私に務まるんだろうか。
みんなから尊敬されていて、手が届かないような存在の氷堂君。
だけどもう、こうなってしまったからには仕方ないよね。巻き込んだのは私だし、腹をくくるしかない。
氷堂君が言っていたように、明日には話が広まっているだろう。
でも私の中には一つだけ疑問が残っていた。
『それじゃあこの子は、俺がもらうよ。』
……どうして氷堂君はあんな言葉を、迷いなく言ったんだろう。
それだけがどうにも腑に落ちなくて、うーんと考えてしまう。
気にしすぎかもしれないけど、どこか引っかかる気がしたんだ。
――ピロンッ
「ひゃっ……び、びっくりしたぁ……。」
答えのなさそうな問いを探していたら突然、スマホが通知を知らせるバイブレーションを鳴らした。
そのせいで妙に驚いてしまって、ちょっとばかり確認に手間取る。
けどなんとか通知欄を開いて、送り主を見つけた。
あ、氷堂君からだ……。
《氷堂》と書かれた名前を目にして、ほっと安堵の息を吐く。
何で私が氷堂君の連絡先を持っているかというと、理由はさっき交換したから。
友達だから連絡先を持っていたほうがいいだろうって話になって、流れでそのまま。
でも、この曖昧な関係っていつまで続くんだろう……。
卒業までなんて氷堂君に申し訳なさすぎるし、だったらいつまでって感じだ。
ううん、今考えてもダメだよね……とりあえず、氷堂君からのメッセージを確認しないと。
はっと我に返った私はスマホを操作して、送られてきた内容を確認する。
《よかったら明日からは一緒に登下校しない? そのほうが恋人っぽくみられるだろうし、湖宮さんが嫌な目にあったらそれこそダメだしさ》
登下校、一緒……。
男の子と一緒に登下校するなんて今までしたことなかったから、こういう時ってどうすべきなんだろう。
そもそも私は、友達と帰ったことすらない。
紗代ちゃんとも家は離れてるから登下校一緒にはできないから、このお誘いはとっても興味深いもの。
ちょっとだけ悩んでから、確実に文字を打っていく。
そして……送信ボタンを押した。
《分かった! いろいろ気にかけてくれてありがとう》
送ったのは当たり障りのない言葉。
こんなやりとりもしたことないからこれでいいのかって不安はあるけど、これが私の本音だから大丈夫なはずだ。
《こちらこそありがとう。それじゃあ此之下公園で待ち合わせしようか。家近い?》
《うん、大丈夫!》
《それなら良かった。じゃあまた明日ね》
トントン拍子に話が進み、最後には《ありがとう》と書かれた可愛らしいハムスターのスタンプが送られてきた。
氷堂君もこんなスタンプ、持ってるんだ……。
また新しい氷堂君の一面を見た気がして、なんだか嬉しくなって私も《よろしくね》と書いているうさぎのスタンプを返した。
そのスタンプが無事送られたことを確認してから、階段を上がって自分の部屋に向かう。
ブレザーを脱ぎながら私は、ぼんやりと今日起きたことを思い返した。
今日は本当に、いろんなことがありすぎた……。
ウソコクをされたことやそれを氷堂君に知られたこと、助けてくれた彼と仮のお付き合いを始めたこと。
……今考えれば、やっぱり胸が痛む。
阿辺君が私を嫌うのは分かる。地味だし冴えないし、阿辺君からしたら私は目障りなんだろう。
それでもあんなに言われちゃうと、完全に気にしないってことができない。
明日からどうなっちゃうんだろう……きっと無事では済まないんだろうなぁ、あはは。
王子様だと呼ばれている氷堂君と仮だとは言えお付き合いをしているなんて、氷堂君ファンの子たちからあーだこーだと言われてしまうに違いない。
……だけど、私は助けてくれた氷堂君に何かを言える立場じゃない。
どうかしたくてもどうもできない現実にため息を吐いてしまい、そんな自分を戒めるために頬を叩いて喝を入れた。
翌朝は意外にもすっきり起きることができて、自分でもちょっとびっくりした。
緊張とか不安とかで眠れないかも……なんて思ってたけど、考えすぎだったみたい。
でもいつもより早く起きてしまったようで、外はまだ薄暗かった。
「お母さん、おはよう。」
「あら結衣、今日は早いのね~。おはよう~。」
まだ眠たそうに瞬きを繰り返しているお母さんに、ふふっと笑みが零れる。
私もまだ眠たいけど二度寝したら起きれなくなっちゃうから、このまま準備しちゃおう。
寝起きでぼんやりしている頭でそう考えながら、朝食の準備をしているお母さんを手伝おうとキッチンに入る。
その時、トントンと階段を降りてくる音と同時にあくびを洩らす声が聞こえた。
「母さん、結衣……おはよ。」
「お兄ちゃんおはようっ。あ、寝癖ついてるよ?」
「マジか……ちょっと直してくるわ。」
「うんっ、行ってらっしゃい!」
まだ半分寝ていそうな声で挨拶してきたのは、4つ上の私のお兄ちゃんだ。
妹の私から見ても、お兄ちゃんはとってもかっこいい。しかも頭もいいし、スポーツだってお茶の子さいさい。
何かをやらせたら右に出る者はいないってくらい、お兄ちゃんは適応能力が高いんだ。
「結衣~、寝癖取れてるか~?」
「バッチリだよ!」
「よかった……可愛い妹にダサい兄って思われたくねーからな。」
「も、もうお兄ちゃんったら……」
また今日も可愛いって言って……妹だからなんだろうけど、なんだか複雑な気分になる。
友達にも私のことをいろいろ話してるみたいだし、お兄ちゃんはとにかくシスコンなんだ。
今だってこうやって抱き着いてくるし、どうしたものかなぁ……。
「相変わらずシスコンね~、宗大は。」
「仕方ないだろ~、結衣はこの世の何よりも可愛いんだぞ! マジで国宝級なんだぞ。こんっな可愛い妹を持ってシスコンにならないほうがおかしいだろ……!」
「それは分かるわ、宗大の言う通り結衣はすっごく可愛いもの。本当に私の娘なのかって不安になるくらいは出来がいいし、宗大の気持ちは痛いくらい分かってるつもりよ。」
「さすが俺の母さん。」
……お母さん、お兄ちゃんに同意しないで。どう反応すればいいのか分からなくなるから。
「お兄ちゃん……そ、そろそろ離して?」
「え、結衣反抗期!? 嫌だぁ~~っっ!! 結衣に嫌われたら俺生きてけない~~っ!!」
「そういうわけじゃないけど、このままだと何にもできないから……ね?」
「結衣に反抗期は来ないと思ってたのに~~!!」
あぁもう、お兄ちゃんってば……。
さらに強く抱きしめてきたお兄ちゃんに、こっそり私は思ってしまった。
シスコンって、ここまで来れば困りもの……かも。
瞬間、私はへなへなとその場にしゃがみこんでしまった。
だって……未だに信じられない。
『これから俺たちは、表向きは恋人ってことでいいかな?』
仮とはいえ、氷堂君の恋人なんて……私に務まるんだろうか。
みんなから尊敬されていて、手が届かないような存在の氷堂君。
だけどもう、こうなってしまったからには仕方ないよね。巻き込んだのは私だし、腹をくくるしかない。
氷堂君が言っていたように、明日には話が広まっているだろう。
でも私の中には一つだけ疑問が残っていた。
『それじゃあこの子は、俺がもらうよ。』
……どうして氷堂君はあんな言葉を、迷いなく言ったんだろう。
それだけがどうにも腑に落ちなくて、うーんと考えてしまう。
気にしすぎかもしれないけど、どこか引っかかる気がしたんだ。
――ピロンッ
「ひゃっ……び、びっくりしたぁ……。」
答えのなさそうな問いを探していたら突然、スマホが通知を知らせるバイブレーションを鳴らした。
そのせいで妙に驚いてしまって、ちょっとばかり確認に手間取る。
けどなんとか通知欄を開いて、送り主を見つけた。
あ、氷堂君からだ……。
《氷堂》と書かれた名前を目にして、ほっと安堵の息を吐く。
何で私が氷堂君の連絡先を持っているかというと、理由はさっき交換したから。
友達だから連絡先を持っていたほうがいいだろうって話になって、流れでそのまま。
でも、この曖昧な関係っていつまで続くんだろう……。
卒業までなんて氷堂君に申し訳なさすぎるし、だったらいつまでって感じだ。
ううん、今考えてもダメだよね……とりあえず、氷堂君からのメッセージを確認しないと。
はっと我に返った私はスマホを操作して、送られてきた内容を確認する。
《よかったら明日からは一緒に登下校しない? そのほうが恋人っぽくみられるだろうし、湖宮さんが嫌な目にあったらそれこそダメだしさ》
登下校、一緒……。
男の子と一緒に登下校するなんて今までしたことなかったから、こういう時ってどうすべきなんだろう。
そもそも私は、友達と帰ったことすらない。
紗代ちゃんとも家は離れてるから登下校一緒にはできないから、このお誘いはとっても興味深いもの。
ちょっとだけ悩んでから、確実に文字を打っていく。
そして……送信ボタンを押した。
《分かった! いろいろ気にかけてくれてありがとう》
送ったのは当たり障りのない言葉。
こんなやりとりもしたことないからこれでいいのかって不安はあるけど、これが私の本音だから大丈夫なはずだ。
《こちらこそありがとう。それじゃあ此之下公園で待ち合わせしようか。家近い?》
《うん、大丈夫!》
《それなら良かった。じゃあまた明日ね》
トントン拍子に話が進み、最後には《ありがとう》と書かれた可愛らしいハムスターのスタンプが送られてきた。
氷堂君もこんなスタンプ、持ってるんだ……。
また新しい氷堂君の一面を見た気がして、なんだか嬉しくなって私も《よろしくね》と書いているうさぎのスタンプを返した。
そのスタンプが無事送られたことを確認してから、階段を上がって自分の部屋に向かう。
ブレザーを脱ぎながら私は、ぼんやりと今日起きたことを思い返した。
今日は本当に、いろんなことがありすぎた……。
ウソコクをされたことやそれを氷堂君に知られたこと、助けてくれた彼と仮のお付き合いを始めたこと。
……今考えれば、やっぱり胸が痛む。
阿辺君が私を嫌うのは分かる。地味だし冴えないし、阿辺君からしたら私は目障りなんだろう。
それでもあんなに言われちゃうと、完全に気にしないってことができない。
明日からどうなっちゃうんだろう……きっと無事では済まないんだろうなぁ、あはは。
王子様だと呼ばれている氷堂君と仮だとは言えお付き合いをしているなんて、氷堂君ファンの子たちからあーだこーだと言われてしまうに違いない。
……だけど、私は助けてくれた氷堂君に何かを言える立場じゃない。
どうかしたくてもどうもできない現実にため息を吐いてしまい、そんな自分を戒めるために頬を叩いて喝を入れた。
翌朝は意外にもすっきり起きることができて、自分でもちょっとびっくりした。
緊張とか不安とかで眠れないかも……なんて思ってたけど、考えすぎだったみたい。
でもいつもより早く起きてしまったようで、外はまだ薄暗かった。
「お母さん、おはよう。」
「あら結衣、今日は早いのね~。おはよう~。」
まだ眠たそうに瞬きを繰り返しているお母さんに、ふふっと笑みが零れる。
私もまだ眠たいけど二度寝したら起きれなくなっちゃうから、このまま準備しちゃおう。
寝起きでぼんやりしている頭でそう考えながら、朝食の準備をしているお母さんを手伝おうとキッチンに入る。
その時、トントンと階段を降りてくる音と同時にあくびを洩らす声が聞こえた。
「母さん、結衣……おはよ。」
「お兄ちゃんおはようっ。あ、寝癖ついてるよ?」
「マジか……ちょっと直してくるわ。」
「うんっ、行ってらっしゃい!」
まだ半分寝ていそうな声で挨拶してきたのは、4つ上の私のお兄ちゃんだ。
妹の私から見ても、お兄ちゃんはとってもかっこいい。しかも頭もいいし、スポーツだってお茶の子さいさい。
何かをやらせたら右に出る者はいないってくらい、お兄ちゃんは適応能力が高いんだ。
「結衣~、寝癖取れてるか~?」
「バッチリだよ!」
「よかった……可愛い妹にダサい兄って思われたくねーからな。」
「も、もうお兄ちゃんったら……」
また今日も可愛いって言って……妹だからなんだろうけど、なんだか複雑な気分になる。
友達にも私のことをいろいろ話してるみたいだし、お兄ちゃんはとにかくシスコンなんだ。
今だってこうやって抱き着いてくるし、どうしたものかなぁ……。
「相変わらずシスコンね~、宗大は。」
「仕方ないだろ~、結衣はこの世の何よりも可愛いんだぞ! マジで国宝級なんだぞ。こんっな可愛い妹を持ってシスコンにならないほうがおかしいだろ……!」
「それは分かるわ、宗大の言う通り結衣はすっごく可愛いもの。本当に私の娘なのかって不安になるくらいは出来がいいし、宗大の気持ちは痛いくらい分かってるつもりよ。」
「さすが俺の母さん。」
……お母さん、お兄ちゃんに同意しないで。どう反応すればいいのか分からなくなるから。
「お兄ちゃん……そ、そろそろ離して?」
「え、結衣反抗期!? 嫌だぁ~~っっ!! 結衣に嫌われたら俺生きてけない~~っ!!」
「そういうわけじゃないけど、このままだと何にもできないから……ね?」
「結衣に反抗期は来ないと思ってたのに~~!!」
あぁもう、お兄ちゃんってば……。
さらに強く抱きしめてきたお兄ちゃんに、こっそり私は思ってしまった。
シスコンって、ここまで来れば困りもの……かも。
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