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思いがけない告白
辛い期待と出会い side秦斗
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『秦斗君は成績優秀で運動神経もいいから、これからが楽しみだわ~。』
『ここまで完璧な子は初めて見た。いやぁ、将来有望だなぁ。』
『……秦斗は優しいから、素敵な人になれるわ。』
幼い頃からの期待、それは何よりも俺の足を引っ張っていた。
俺は……周りが言うような優しい人間じゃない。
誰にでも分け隔てないほうがこの世を有利に生きることができると知っているから、そうしているだけ。
だからだろう。俺が無理に愛想よく振舞っていても、誰も気付かない。
それどころか周りは更に“優しい”だの“かっこいい”だのとはやし立ててきた。
まるで【いつでも優しい】とレッテルを貼られてるかのように。
それが昔からの、一番の悩みだった。
誰も俺自身を見てくれやしない。見ているのは才能と利益、将来性でだけ。
周りは俺がそのことに気付いていないと思っているのだろうか。いつも笑っているから何を思ってもいいと考えているのだろうか。
……それは知る由もないけど、もううんざりしていた。
どうして誰も彼も、俺自身を見ようとしてくれないのだろうか――と。
どこに行っても何をしていても、期待がついてくる。みんな俺の使いどころを見定めている。
……そのせいで若干、人間不信になりかけだった。
けど、何か結果を出さないと。何か利益を与えないと。
そうしないと、“氷堂秦斗”の存在価値がなくなるようで怖かった。
静かで、計り知れない期待。
それを一心に受け続けてきた中、俺は中学に進学した。
……――それが、俺の人生を丸ごと変えてくれるものだった。
中学のメンバーは小学生の頃から何一つ変わっていないからなのか、教師陣は初対面だったのにも関わらず俺を頼りにしてきた。
『氷堂、悪いがこれを資料室まで持っていってくれないか? この後会議があって、手が離せそうになくってな……』
『分かりました、それくらいならやりますよ。』
『さすが氷堂! ありがとな!』
始業式から一か月ほど経ったある放課後、俺は担任からそう頼まれた。
一応体裁のため引き受けたけど……こういうのは学級委員や日直に頼むべきなんじゃないか?
思わず口を突いて出そうになった言葉は、わざわざ言わなかったけど。
俺は委員会に入っているわけでもない、ただの一生徒。そんな俺に頼んできた理由はおそらく、小学校から勝手についてきた信頼だ。
どうせ、俺のことを知るクラスメイトが言ったんだろう。
面倒だとは思わないけど、ちょっと理不尽じゃないか……。
なんて……どうしようもないことを考えながら、担任から渡された資料の山を持つ。
……思ってたよりも重たいな。
俺は力があるほうではない。いや、幼い頃からなぎなたや剣道はしていたから、他の人よりは力はあるだろうけど。
でも元々力が弱いらしく、これぐらいで重いと感じてしまうんだから力は備わっていないようだ。
ため息を吐きながら、仕方なく静かな廊下を歩く。
黄昏色に染まりつつあるこの空間は、落ち着くというかほっとできるものだ。
そう思うのは俺が、いつも作って生きているからなのだろうか。
……なんて、気にしたって仕方ない。俺が何をしたって、現状は変わらないんだから。
これからも無責任な期待を押し付けられて、都合のいい人形として生きる。
そうしなきゃ、生きている価値が消える。
『あ、あの……氷堂君、ちょっといいですか?』
『……え?』
そこまで考え込んでいた時、おもむろに声をかけられた。
別にスルーしても良かったけど、それじゃあ体裁が悪くなりそうで渋々振り返る。
と同時に視界に映ったのは、真面目そうな女子生徒だった。
顔の半分ほどの大きさの眼鏡をかけていて、大人しそうな子。
何の用だろうか……?と、不審に思わずにはいられない。
とりあえず尋ねてみるか、何で呼び止めたのか。
名前を知っているのは分かる。俺は良くも悪くも噂の種になりやすいから。
この学校でも“王子”なんて不釣り合いな二つ名が勝手に付いていて、正直飽き飽きしている。
これのどこが王子なんだろうか、中身は真っ黒だと言うのに。
見放されないように必死になっている、どうしようもない男なのに。
『どうしたの?』
『そ、その資料って、一人で持っていくの……?』
『ん? そうだけど、それがどうかしたの?』
何を言われるかと少し身構えたけど、聞こえたのは控えめに尋ねてくる声。
想像よりも遠慮がちだった彼女に、思わず拍子抜けする。もう少しグイグイ来るかと思っていたものだから。
けど、油断はできない。人は何を考えているか分からない。
そう怪しみながらもポーカーフェイスを崩さないように、偽りの笑みを浮かべる。
浅く広く。それが俺のモットー。人と深く関わりすぎては、その人の嫌なところが見えてしまう。
当然彼女だってしかり、だ。
……けれど彼女は、俺の予想よりも斜め上のことを口にした。
『あの、それ運ぶの手伝います!』
『…………え?』
『あ、余計なお世話ですよねっ……ごめんなさい!』
一瞬にして弱気に俯いた彼女に、驚きを隠せなかった。
もしかして、手伝おうとして俺を呼び止めた……?
まさか、そんなこと……と考えながらも、彼女の次の言葉でさらに驚くことになる。
『その資料、すごく重たそうだったので……でも、私じゃ力には……』
『……手伝っちゃってもらって、いいの?』
『え? ……あ、はい! もちろんです!』
あまりにも無邪気な彼女に、ふふっと笑いたくなった。
こういう面倒なことを、大抵の人は避けたがる。俺だって本当はそうで、できるだけ苦労しない道を選んできていた。
でも目の前の彼女は、自分から負担を抱えようとしている。
……きっとこの時から、俺は彼女に興味を抱いていたんだろう。
『それじゃあお願いしようかな。』
『はいっ! じゃあ、ここまで持っていきますね!』
え、そんなに?
彼女が抱えたのは、俺と同じくらいの量。
これ結構重たいのに……すごいな、この子は。
『ありがとう、助かるよ。』
彼女の気遣いをありがたく受け取ると、無意識に口角が上がっていた。
この笑顔はきっと、これまでの笑顔よりも自然と浮かべることができていた気がする。
『ここまで完璧な子は初めて見た。いやぁ、将来有望だなぁ。』
『……秦斗は優しいから、素敵な人になれるわ。』
幼い頃からの期待、それは何よりも俺の足を引っ張っていた。
俺は……周りが言うような優しい人間じゃない。
誰にでも分け隔てないほうがこの世を有利に生きることができると知っているから、そうしているだけ。
だからだろう。俺が無理に愛想よく振舞っていても、誰も気付かない。
それどころか周りは更に“優しい”だの“かっこいい”だのとはやし立ててきた。
まるで【いつでも優しい】とレッテルを貼られてるかのように。
それが昔からの、一番の悩みだった。
誰も俺自身を見てくれやしない。見ているのは才能と利益、将来性でだけ。
周りは俺がそのことに気付いていないと思っているのだろうか。いつも笑っているから何を思ってもいいと考えているのだろうか。
……それは知る由もないけど、もううんざりしていた。
どうして誰も彼も、俺自身を見ようとしてくれないのだろうか――と。
どこに行っても何をしていても、期待がついてくる。みんな俺の使いどころを見定めている。
……そのせいで若干、人間不信になりかけだった。
けど、何か結果を出さないと。何か利益を与えないと。
そうしないと、“氷堂秦斗”の存在価値がなくなるようで怖かった。
静かで、計り知れない期待。
それを一心に受け続けてきた中、俺は中学に進学した。
……――それが、俺の人生を丸ごと変えてくれるものだった。
中学のメンバーは小学生の頃から何一つ変わっていないからなのか、教師陣は初対面だったのにも関わらず俺を頼りにしてきた。
『氷堂、悪いがこれを資料室まで持っていってくれないか? この後会議があって、手が離せそうになくってな……』
『分かりました、それくらいならやりますよ。』
『さすが氷堂! ありがとな!』
始業式から一か月ほど経ったある放課後、俺は担任からそう頼まれた。
一応体裁のため引き受けたけど……こういうのは学級委員や日直に頼むべきなんじゃないか?
思わず口を突いて出そうになった言葉は、わざわざ言わなかったけど。
俺は委員会に入っているわけでもない、ただの一生徒。そんな俺に頼んできた理由はおそらく、小学校から勝手についてきた信頼だ。
どうせ、俺のことを知るクラスメイトが言ったんだろう。
面倒だとは思わないけど、ちょっと理不尽じゃないか……。
なんて……どうしようもないことを考えながら、担任から渡された資料の山を持つ。
……思ってたよりも重たいな。
俺は力があるほうではない。いや、幼い頃からなぎなたや剣道はしていたから、他の人よりは力はあるだろうけど。
でも元々力が弱いらしく、これぐらいで重いと感じてしまうんだから力は備わっていないようだ。
ため息を吐きながら、仕方なく静かな廊下を歩く。
黄昏色に染まりつつあるこの空間は、落ち着くというかほっとできるものだ。
そう思うのは俺が、いつも作って生きているからなのだろうか。
……なんて、気にしたって仕方ない。俺が何をしたって、現状は変わらないんだから。
これからも無責任な期待を押し付けられて、都合のいい人形として生きる。
そうしなきゃ、生きている価値が消える。
『あ、あの……氷堂君、ちょっといいですか?』
『……え?』
そこまで考え込んでいた時、おもむろに声をかけられた。
別にスルーしても良かったけど、それじゃあ体裁が悪くなりそうで渋々振り返る。
と同時に視界に映ったのは、真面目そうな女子生徒だった。
顔の半分ほどの大きさの眼鏡をかけていて、大人しそうな子。
何の用だろうか……?と、不審に思わずにはいられない。
とりあえず尋ねてみるか、何で呼び止めたのか。
名前を知っているのは分かる。俺は良くも悪くも噂の種になりやすいから。
この学校でも“王子”なんて不釣り合いな二つ名が勝手に付いていて、正直飽き飽きしている。
これのどこが王子なんだろうか、中身は真っ黒だと言うのに。
見放されないように必死になっている、どうしようもない男なのに。
『どうしたの?』
『そ、その資料って、一人で持っていくの……?』
『ん? そうだけど、それがどうかしたの?』
何を言われるかと少し身構えたけど、聞こえたのは控えめに尋ねてくる声。
想像よりも遠慮がちだった彼女に、思わず拍子抜けする。もう少しグイグイ来るかと思っていたものだから。
けど、油断はできない。人は何を考えているか分からない。
そう怪しみながらもポーカーフェイスを崩さないように、偽りの笑みを浮かべる。
浅く広く。それが俺のモットー。人と深く関わりすぎては、その人の嫌なところが見えてしまう。
当然彼女だってしかり、だ。
……けれど彼女は、俺の予想よりも斜め上のことを口にした。
『あの、それ運ぶの手伝います!』
『…………え?』
『あ、余計なお世話ですよねっ……ごめんなさい!』
一瞬にして弱気に俯いた彼女に、驚きを隠せなかった。
もしかして、手伝おうとして俺を呼び止めた……?
まさか、そんなこと……と考えながらも、彼女の次の言葉でさらに驚くことになる。
『その資料、すごく重たそうだったので……でも、私じゃ力には……』
『……手伝っちゃってもらって、いいの?』
『え? ……あ、はい! もちろんです!』
あまりにも無邪気な彼女に、ふふっと笑いたくなった。
こういう面倒なことを、大抵の人は避けたがる。俺だって本当はそうで、できるだけ苦労しない道を選んできていた。
でも目の前の彼女は、自分から負担を抱えようとしている。
……きっとこの時から、俺は彼女に興味を抱いていたんだろう。
『それじゃあお願いしようかな。』
『はいっ! じゃあ、ここまで持っていきますね!』
え、そんなに?
彼女が抱えたのは、俺と同じくらいの量。
これ結構重たいのに……すごいな、この子は。
『ありがとう、助かるよ。』
彼女の気遣いをありがたく受け取ると、無意識に口角が上がっていた。
この笑顔はきっと、これまでの笑顔よりも自然と浮かべることができていた気がする。
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