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魔術が存在する世界で
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……――この世には、“魔術”なるものが存在している。
よくある、魔力を使って技を出したり傷が治ったり。それらは全て魔術でできている。
魔術には火・水・風・土・日・光・闇属性がそれぞれある。単体で持っている人もいれば、複数持って器用に扱う人だっている。
また、光属性と闇属性は特に特別視されていて、持っている人がほんの一握りだけらしい。
しかも噂によると光属性と闇属性よりももっと強い属性もあるらしく、お偉いさんたちはその属性を今でも探しているらしい。
……なーんて、私には全部関係ない話だ。
なんてったって私、花摘初華は……“無属性”魔術しか持っていないんだから。
無属性魔術っていうのは、その名の通り何の属性もない魔術。大体の人はその無属性魔術から、いろいろな属性……例えば火属性だったり水属性だったりに変化する。
けど私はずっと、無属性のまま。
両親はどちらも日属性魔術持ちなのに……と思わずにはいられない。
そのせいで幼い頃からいじめられたり、あからさまに見下されることが多かった。
『両親は属性あるのに』
『無属性だなんて可哀想』
『そんなんじゃ一人前の魔術師にはなれないかもね』
散々言われてきた言葉には、もう慣れてしまった。
お父さんたちは結構優秀な魔術の使い手で、その子供の私も期待はされていた。
でも、両親が優秀だからって子供にまで遺伝するとは限らない。だから私からしたら、変に期待されるよりも完全に見下してくれたほうが楽なんだ。
……とは言っても、この世に生まれてきた時点で魔術を上手に扱えないとやっていけないのは事実。
どれだけ素行や成績がよくてもあまりにも魔術が使えなかったら減点だし、無属性なら確実に点を取らせてもらえない。同じ土俵にすら立てない可能性だってあるんだ。
だから中学校からは、この世界で数少ない魔術じゃなくて純粋な学業の成績重視の通信制のところに行こうとした……のに。
『……えっ!? 私、この高校に行きたいって言ったよね!?』
『ごめんな初華。それは俺も知ってるんだが、親父たちがすでに手配してしまっててな……』
『…………ほんとに?』
『……あぁ。』
私はずっと、その高校に行きたいとプレゼンまでして両親に訴えていた。
その甲斐あってか両親は分かってくれたんだけど……おじいちゃんたちには上手く伝わらなかったみたいで、勝手に魔術師専門学校への入学手続きを済ませていたそうな。
そんなの納得できるはずがなかった私は、電話で直接おじいちゃんを問い詰めた。
『ねぇおじいちゃん! お父さんから聞いたんだけど、魔術師専門学校に入学手続き勝手にしちゃったって本当なの……!?』
《おぉ、やっと初華にも伝わったのか。……そうだ、初華のためを思って手続きしておいたぞ!》
『どうして……っ! 私が無属性魔術しか持ってないの、知ってるよね……?』
《あぁ知ってるさ。だがな、そうやって魔術を避けていたらいざという時に魔術が使えないだろう?》
『ぐぬ……確かにそうかもしれないけど、無属性魔術を受け入れてくれる学校なんて……』
《あるぞ。》
『でも、入試とかもやってないし……』
《おじいちゃんのことを何だと思っておる。わしは政府の人間ぞ、ちょいちょいっと交渉すればなんとかなるもんだわい。》
『えぇ……。』
それってよくないことだよね……? 私そんな卑怯なことしたくないのに……おじいちゃんってば、何でそう勝手に行動に移しちゃうかなぁ……。
おじいちゃんの突飛な言動は昔からだからあんまり驚きはしないんだけど、今回ばかりは私もさすがに言いたい。
『……おじいちゃん、私そんな卑怯な手は使いたくないの。それに、無属性魔術なんて馬鹿にされるに決まって――』
《いや、初華には何が何でも行ってもらう。悪いが、これだけは譲れん。》
……何で。どうしてそこまで頑固に言うの。
私は、私が嫌な思いをしないための選択をしているのにどうしてこう言ってくるんだろうか。
《初華のためを思って言ってるんだ。》
おじいちゃんの気持ちが、全然分からない。
……そんなこんなで、私は無属性魔術しか持っていないのにも関わらず、魔術師専門学校に入ることになった。
あの後おじいちゃんとは何度も話し合ったけど、結果はダメダメ。結局何の収穫も得られず、おじいちゃんがただゴリ押してくるだけだった。
お父さんたちにも相談はしてみたけど、おじいちゃんに勝てる人はそういない。
だからもう、成す術なくおじいちゃんが勝手に決めた学校に入学するしかなくなったんだ。
本当は、嫌だ。こんなことになるなんて、想定してなかったのに。
無属性魔術は魔術を持っていないと言われても同然のようなもので、弱い攻撃と防御しかできない。
どうして私は、無属性魔術なんだろう……っ。
早い人は幼稚園生から属性がある魔術を扱いだして、小学校中学年になるとほとんどの人が属性あり魔術を扱えている。
その中に何の属性もない人間が紛れ込んでいたら、真っ先にいじめの標的になる。
しかも充分な魔術を使えないことに劣等感を覚え、優秀な魔術師たちの憂さ晴らしのためだけに雑に扱われ、友達一人もできない状況になってしまう。
そんな思いは、もうしたくないのに……。
入学式前夜、本当は緊張と恐怖であまり眠れずにいた。震えだって止まらなくて、学校から近いって理由で選ばれたマンションに一人暮らしすることにデメリットを感じた。
これからはずっとそばにいてくれた両親と、簡単には会えない。
ずっと一人で、この底知れない恐怖と戦っていかなくちゃいけないんだ。
「っ……もう、ほんとに……」
――怖い。私の気持ちはその単語で表せる。
魔術なんか、なくなっちゃえばいいのに。魔術で決められる世界なんか、私はごめんだ。
そう思ってきたのに、世界は無属性魔術の私の味方をしてはくれなかった。
よくある、魔力を使って技を出したり傷が治ったり。それらは全て魔術でできている。
魔術には火・水・風・土・日・光・闇属性がそれぞれある。単体で持っている人もいれば、複数持って器用に扱う人だっている。
また、光属性と闇属性は特に特別視されていて、持っている人がほんの一握りだけらしい。
しかも噂によると光属性と闇属性よりももっと強い属性もあるらしく、お偉いさんたちはその属性を今でも探しているらしい。
……なーんて、私には全部関係ない話だ。
なんてったって私、花摘初華は……“無属性”魔術しか持っていないんだから。
無属性魔術っていうのは、その名の通り何の属性もない魔術。大体の人はその無属性魔術から、いろいろな属性……例えば火属性だったり水属性だったりに変化する。
けど私はずっと、無属性のまま。
両親はどちらも日属性魔術持ちなのに……と思わずにはいられない。
そのせいで幼い頃からいじめられたり、あからさまに見下されることが多かった。
『両親は属性あるのに』
『無属性だなんて可哀想』
『そんなんじゃ一人前の魔術師にはなれないかもね』
散々言われてきた言葉には、もう慣れてしまった。
お父さんたちは結構優秀な魔術の使い手で、その子供の私も期待はされていた。
でも、両親が優秀だからって子供にまで遺伝するとは限らない。だから私からしたら、変に期待されるよりも完全に見下してくれたほうが楽なんだ。
……とは言っても、この世に生まれてきた時点で魔術を上手に扱えないとやっていけないのは事実。
どれだけ素行や成績がよくてもあまりにも魔術が使えなかったら減点だし、無属性なら確実に点を取らせてもらえない。同じ土俵にすら立てない可能性だってあるんだ。
だから中学校からは、この世界で数少ない魔術じゃなくて純粋な学業の成績重視の通信制のところに行こうとした……のに。
『……えっ!? 私、この高校に行きたいって言ったよね!?』
『ごめんな初華。それは俺も知ってるんだが、親父たちがすでに手配してしまっててな……』
『…………ほんとに?』
『……あぁ。』
私はずっと、その高校に行きたいとプレゼンまでして両親に訴えていた。
その甲斐あってか両親は分かってくれたんだけど……おじいちゃんたちには上手く伝わらなかったみたいで、勝手に魔術師専門学校への入学手続きを済ませていたそうな。
そんなの納得できるはずがなかった私は、電話で直接おじいちゃんを問い詰めた。
『ねぇおじいちゃん! お父さんから聞いたんだけど、魔術師専門学校に入学手続き勝手にしちゃったって本当なの……!?』
《おぉ、やっと初華にも伝わったのか。……そうだ、初華のためを思って手続きしておいたぞ!》
『どうして……っ! 私が無属性魔術しか持ってないの、知ってるよね……?』
《あぁ知ってるさ。だがな、そうやって魔術を避けていたらいざという時に魔術が使えないだろう?》
『ぐぬ……確かにそうかもしれないけど、無属性魔術を受け入れてくれる学校なんて……』
《あるぞ。》
『でも、入試とかもやってないし……』
《おじいちゃんのことを何だと思っておる。わしは政府の人間ぞ、ちょいちょいっと交渉すればなんとかなるもんだわい。》
『えぇ……。』
それってよくないことだよね……? 私そんな卑怯なことしたくないのに……おじいちゃんってば、何でそう勝手に行動に移しちゃうかなぁ……。
おじいちゃんの突飛な言動は昔からだからあんまり驚きはしないんだけど、今回ばかりは私もさすがに言いたい。
『……おじいちゃん、私そんな卑怯な手は使いたくないの。それに、無属性魔術なんて馬鹿にされるに決まって――』
《いや、初華には何が何でも行ってもらう。悪いが、これだけは譲れん。》
……何で。どうしてそこまで頑固に言うの。
私は、私が嫌な思いをしないための選択をしているのにどうしてこう言ってくるんだろうか。
《初華のためを思って言ってるんだ。》
おじいちゃんの気持ちが、全然分からない。
……そんなこんなで、私は無属性魔術しか持っていないのにも関わらず、魔術師専門学校に入ることになった。
あの後おじいちゃんとは何度も話し合ったけど、結果はダメダメ。結局何の収穫も得られず、おじいちゃんがただゴリ押してくるだけだった。
お父さんたちにも相談はしてみたけど、おじいちゃんに勝てる人はそういない。
だからもう、成す術なくおじいちゃんが勝手に決めた学校に入学するしかなくなったんだ。
本当は、嫌だ。こんなことになるなんて、想定してなかったのに。
無属性魔術は魔術を持っていないと言われても同然のようなもので、弱い攻撃と防御しかできない。
どうして私は、無属性魔術なんだろう……っ。
早い人は幼稚園生から属性がある魔術を扱いだして、小学校中学年になるとほとんどの人が属性あり魔術を扱えている。
その中に何の属性もない人間が紛れ込んでいたら、真っ先にいじめの標的になる。
しかも充分な魔術を使えないことに劣等感を覚え、優秀な魔術師たちの憂さ晴らしのためだけに雑に扱われ、友達一人もできない状況になってしまう。
そんな思いは、もうしたくないのに……。
入学式前夜、本当は緊張と恐怖であまり眠れずにいた。震えだって止まらなくて、学校から近いって理由で選ばれたマンションに一人暮らしすることにデメリットを感じた。
これからはずっとそばにいてくれた両親と、簡単には会えない。
ずっと一人で、この底知れない恐怖と戦っていかなくちゃいけないんだ。
「っ……もう、ほんとに……」
――怖い。私の気持ちはその単語で表せる。
魔術なんか、なくなっちゃえばいいのに。魔術で決められる世界なんか、私はごめんだ。
そう思ってきたのに、世界は無属性魔術の私の味方をしてはくれなかった。
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