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幼少期〜伯爵家の実状について〜

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ある日、父に呼ばれて書斎へ行くと、トリル村の工場長のクリスが来客用のソファに座っていた。

「ごきげんよう、クリス」
「ミーティア様、お久しぶりです。今日は頼まれた生地をお持ちしました」
「できたのね!みせて、みせて!」

ミーティアは挨拶もそこそこに、クリスがソファの脇に置いていた反物が、広げられるのを待った。

「伯爵様、お嬢様のアイデアはとてもいいと思います、ですが……」

なるほど、クリスが言わんとしていることはわかった。横糸と縦糸を違う色糸で平織で織った場合、光の加減で赤だったり薄い青だったりと玉虫のような色合いが出来上がるのを見越して頼んだのだが、美しいには違いないが、ドレス用の生地となると難しいのかもしれない。

「そうね、ドレスだとちょっとむずかしいかもしれないわ」
ミーティアは素直にうなずいた。

「クリス、むりをいってごめんなさい」
ミーティアがちょっぴり悲しそうにそう告げると、クリスは大きな手を顔の前でぶんぶんと振った。

「ミーティア様、この度は素晴らしいアイデアを授けてくださって、ありがとうございます。ドレスとしては難しいですが、他に生かせないかと皆で考えておりますので、しばしお待ちいただけたらきっと良いご報告が出来ると思います」

クリスは綺麗に織りあがった反物を父に託すと、「ミーティア様のように、我々も知恵を出し合ってもっと良い物を作り出せるように頑張りますよ」と告げ、にこやかに去っていった。

ミーティアの考えを初めて形にしたもの……絹の反物は失敗だったが、ミーティアのアイデアに刺激を受けたのか、工場が活気づいて更に良い品物が織りあがるようになったそうだ。


******


ミーティアはしばらくの間、父と各地に視察に出掛けては、その地で生産されるものにアイデアを加えて試作を繰り返すようになっていった。

ある地では毛織物の織り方を工夫してはどうかと言い出し、またある地では農作物でこういったものを作ってみてはどうか、、、などなど。

当然、素人考えなので反発もなかったわけではないが、ミーティアが一生懸命なのが伝わるのだろう、領民たちも渋々ながらも受け入れてくれることが多かった。

そうして、一年が過ぎーーー。


「おとうさま!みてみて!」
「おお、これは……」

ミーティアが一番最初にトリル村で織ってもらった生地を後ろ身に使い、前身には美しい幾何学模様が織られたウエストコートがそこにはあった。

ウエストコートと言えば、上着と共生地のものがほとんどだったのだが、ミーティアの発案で夜会でも着られるようなものをクリスが街の仕立て屋と協力して作り上げてくれたのだ。

「早速、ギルに夜会に着てもらえるように頼んでみよう」

父であるニールの幼馴染であり、三大侯爵家の一つである、ヴァランタイン侯爵家当主、ギルバートに販促をお願いするのが常であり、これが効果抜群なのである。

父も決して劣ってはいないのだが、ギルバートはキラキラと輝く銀髪に薄い菫色の瞳を持ち、すっと鼻筋が通っていて、初めてミーティアが会った時、思わず口あんぐりだったほどの美丈夫であった。
口をだらしなく開けて呆けたミーティアを、キラキラしい笑顔で悩殺したのだ、罪なおっさんである。

ミーティアもミーティアで、まだ幼いということをいいことに、抱きついては抱っこをせがんだり甘え放題だった……中身はおばはんなだけに始末が悪い。



こうして、本当に牛歩並みの一歩ずつとはいえ、着実にミーティアの努力は実を結びつつあった。


ある村で目を付けたとうもろこしを、乾燥させて油で炒ってみたところ、これが見事に爆裂種であったらしく、ひところ街で大流行りだった。

そう、ポップコーンである。

映画館のお供にはかかせない、ライブビューイングでも必ず買っていたアレである。

出来上がった時、思わず涙ぐんでしまったほどに懐かしいものだった。

ポップコーンの次に着手したのは、言わずもがな、ポテトチップスだった。そちらのほうは伯爵家の厨房で母たちに頼んで作ってもらったのだが、料理長を始め、最初は微妙な顔つきだったのが、ミーティアが嬉しそうに頬張っているのを見て、自分たちも味見をしたらしく、すっかりハマってしまっていた。


そして領民たちにも広め、それが街へと伝わり、やがては王都からも買いにくる人々が現れた。

人が多くなれば街も活気づくし、周辺の街道沿いの村でも立ち寄る人々が増えていく。


そして商売のために他の領地からも人が入ってくれば、税収も上がるというものだ、ミーティアはこれは思ったよりも早くプラスになるかも、、、とにんまりと机に広げた帳簿を眺めていた。








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